人形指揮官・閑話集   作:セレンディ

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三大欲求

 人間には、三大欲求というものがある。食欲、睡眠欲、性欲。生物の、生きて繁殖して子孫を残すというサイクルに沿ったものだ。

 もちろん、人形にもこれらは存在する。ゲームの時は割と最後のについてはぼかされていたが、「リアル」となった今、三大欲求は人形にもちゃんと全て存在するのだ。まあ、あのマッドのことだ、どうせ『それら三大欲求が欠けた存在が、それは果たして人を模倣したAIと言えるのかな?』とか言い出して、ここぞとばかりに倫理委員会とかそういうのを利用しまくって躯体とかも揃えられる体制を作ったのだろう。二三割ぐらい、いや、五割ぐらいで、『人形に好きな人ができるかどうかはわからないけど、もしできた時に思いを遂げる手段を与えておきたかった』とかなのだろうが。第零戦役みたいなキツい任務を課す一方で、人形への愛情も強いらしいからなあ、ペルシカリア・ザ・マッド(見かけ上)。

 

 食欲の好例としては、コルトSAAによるコーラへの執着だろう。なんであそこまでコーラに執着があるのかがわからん。睡眠は言わずもがなG11。これは怠惰なだけという気もするが、それはさておき、なんでいきなりこんな話を、といえば、差出人不明な形で投書があったからだ。PXへの入荷要望、男性向けおよび女性向け写真集、漫画それぞれ双方で。補給物資には時折ゴムが入っている事は知っていたし、時折売れているのも知っていたが、これは近隣から雇っている作業員が購入しているものとばかり思っていた。ところが今回は基地内部の人員、なかでも人形しかいないような場所からの投書だ。人形には時折ランダムな個性が発現していることがあり、その中に性欲が強い、等があってもそれはそれで個性だろう。……言ってて思ったが、これGrHK45じゃなかろうな? ……まあいいか、風評被害にもなりかねんし……。

 まあともかく、それで発注した写真集及び漫画雑誌のそれぞれがこちら。

 

「……割と、というよりかなり過激なものでございますね……」

 

 それをパラパラと捲っているカリーニンがこちら。言動は落ち着いているが、顔が真っ赤だぞ。欲しいならPXで買ってきなさい。PXの長あなただけど。

 

「そう。発注する前にもサンプル見たんだけど、割とエグいんだよね、これ。しかも四冊ともだから、誰かがこういうのに手を出す皮切りにお試しで買ったやつが過激なやつだった、とかは無いんじゃないかしら」

 

 このご時世、自主規制とかそういうのとは無縁な時代である。場合によっては無政府地帯となった地域のサーバーが生きていることもあり、そういうところでは世界中のゲスの生き残り共が好き勝手に画像をアップロードしてダウンロードしてサーバー内部がえげつねえことになっているところもある。そもそも、ゾーニングをきちっとすることでもともと無修正だったのがこの辺りだしな。とはいえ……とはいえだ。写真集はともかく、漫画雑誌の方は、まんまじゃぱにーずなタッチであり、パラパラと捲ってみると、翻訳しきれなかったらしき日本語の擬音が見えるので、日本そのものは滅亡しても日本人は絶滅していないようだ。というか私も日系。

 

「誰が投書投げたのかは気にかかるけど、そのへんを追求しないのもエチケットでしょ。PXに並べておいて。必要なら部屋からの配達指定注文も受けるとか書いておけばいいわ」

「かしこまりました。指揮官様はいかがですか?」

「私はいいや」

「そうですか……」

 

 売れなかったからと言ってしゅんとするなこのゼニゲバめ。

 

 というか、私は転生してからこっち、まるで性欲というものが無いので、別の意味で困っているのだ。この歳で枯れきっているというのもそれはそれで遠慮したいし、人形のボディを見た時にそれなりに感情が動く事もあるので完全に無性欲というわけでもないのだろうけど、この手の写真集漫画雑誌などにはとんと食指が動かないのだ。別の意味で使わなさすぎて蜘蛛の巣張ってそうな下半身がこの間うっかり新品に交換されたがやはり性欲はそう出てこない。自分でも謎である。

 

 で。PXに成人向けコーナーが用意され(といっても未成年の子供が入ってくるような場所ではないので、目隠しなどはない)、それら写真集や雑誌が並べられた。念の為、まず男性向け女性向けで分類するようにカリーニンには言っておいたが。

 そして、ここからは他の誰にも秘密だが、PXの、というより指令室内の監視カメラは全てこの執務室からチェックできたりする。普段から意識して見ようと思わない限り見ないもので、一定期間保存されたカメラデータはそのまま誰にも見られることなく消去されるものだが、逆を言えば、見ようと思えば見れるのである。

 

 というわけで、せっかくなので今日の執務中はLive中継で見ながら執務しようと思う。なお、カリーニン達には見えないようにしている。

 早速一人目、指令室内勤務の掃除のおっちゃん。確か既婚者だったと思うが、まあ、こういう物も必要だろう。人形ならばともかく人間職員にはプライバシーがあるので(人形にもあるが私は人形からは訴えられない立場なので)目をそらす。しばらく経って再度ホロを覗いた時には、誰もいなかった。意図的に何が減っているかなども数えていない。これで良い。

 二人目、おっと人形の登場だあ、このふわふわ髪の毛はUSPコンパクト。新商品コーナーを覗きに来て、成人向けコーナーに気づいたか? 見事な二度見を披露して、周囲を見回しつつ女性向けの方の写真集を手に取る。初心なやつである。耳まで真っ赤にしながらぱらぱらと捲り、その後漫画雑誌の方も覗いてさらに赤くなって、再度周囲をキョロキョロしてから一冊ずつ持っていった。まいどあり。

 三人目、グリズリー。淡々と買い物をしていくなかで、新商品としてあるそれらに目を留めた後、数秒考えて全部一冊ずつ取っていった。……あれ、男性向けも持っていくの? ……まあ、知らないのが普通なんだけど、そういえば私コイツラのプライベートはそこまで知らないな? 知ってるのは59式ぐらいか。後はM1895が、よく食事に誘う関係で部屋を見たりする。

 そしてお次はそのM1895、噂をすれば影というやつだろうか。酒と帽子を購入していく中、新商品に気づいて一通りぺらりぺらりと捲ってはみたものの、元の場所に戻して首を振りつつ離れていった。趣味に合わなかったのだろうか……?

 その後も人形やら基地の職員やらで入れ代わり立ち代わりだったのだが、だんだんと反応はパターン化してきていたので私も飽きており、そのうちホロ画面を閉じて普通に執務をこなしていた。

 

「んーっ」

 

 とりあえず今日やっておいたほうがいい、あるいは片付けておこう、という書類までを処理し終えて一息ついて、コーヒーを啜る。そもそも小規模指令室なので、後方支援がメインの指令室という配置、配属意図があったと聞いたのがつい先日。考えてみれば、私が自発的に増やした、採掘資源のやりくりを兼ねたよそへの輸送とか近隣住民との交流とか小型農園の運営と拡大とか、ふつーはやらないそうだ。通信のホロディスプレイ越しだが、色々と聞いたときの『お前何やってるの?』的な視線はちょっと冷たかった。まあ向こうの書類仕事もガッツリ増やしたからだろうが。その分資源も送っているので勘弁して欲しい。物々交換がメインなのであまり資金は増えていないため送っていない。

 それはさておき、食料品などが継続的な摂取が必要なのと同じく、オカズも継続的な新しいものの摂取が必要なもののはずなので、カリーニンにはある程度売上数と連動する形で今後も件の写真集や雑誌の後発、あるいはAV等を仕入れておくように指示しておくか……。

 ……一つぐらいじっくり読むか見るかしてみるか? じっくり見てみたらこのちっとも動かない性欲さんも動いてみてくれるかもしれない。

 

 

 後日。

 

「うわ、うわ、うわあ、お嬢、凄いよあれ、あんなのが入ってるすっご……」

 

 私の肩をべしべし叩きながら興奮してる59式。画面では女優の○○に男優がその一物ではなく握った○○を見事にぶっ刺しているAVで、ついでに喘ぎ声とか凄いので頭を抱えることしかできやしない。

 

「あのサイズが入るなんてどうなってるのかしら……」

「毎日毎日拡張してたんじゃなーい? いきなり入れると括約筋がちぎれて再生医療のお世話にならなきゃいけないし。ただ、広げすぎると日常生活でも栓が必要になるんだって」

 

「……あまり正気とは思えないわね……」

 

 こちらはポテチをぱくつきながら鑑賞中のグリズリーとFive-seveN。なぜ? なんであれ見ながらものが食えるの?

 あっちにはSPP-1とUSPコンパクトと意外にもCZ75が真っ赤な顔をしながら画面を見つめているし、ガリルは何が面白いのかわからんがゲタゲタ笑っている。L85A1はいつもの柔らかい笑みのままだが、あれは単にフリーズしているだけだな。シプカはなぜか私の足元に座って動かないし、PPS-43はつまらなさそうに眺めている。スプリングフィールドはなんかメモしてるし、ItBM59は頭をフリフリ、一方でAA-12とGrHK45は食い入るように画面を見つめているし、M1919A4はぽかーん。処刑人と法官はまさにカルチャーショック!な顔で固まっている。

 うん、よくわからんがこの基地の人形全員がここにいる。激しめのAVでも見れば私のぴくりと程度しか動かない性欲がどうにかなるかな、ぐらいの軽い気持ちだったのだが、画面を見ても特にむらむらだのそういう感覚はない。むしろ、周りで見ている人形たちが気になって仕方がない。何でコイツラここにきたんだ?

 

「どうしてこうなった……?」

 

 その後も隣の59式にはべしべしと肩を叩かれ続けた。その後、早々と離脱していたM1895には、

 

「ふむ……一つ疑問なんじゃが、儂や他の人形には手を出さぬのかの?」

「出さないわよっ!? つか私女よ、おんなっ!!」

 

 あんまりな物言いに絶叫した。

 忘れてた、大抵の人形は別に人権意識とかそういうのが無いので、AIの個性にも依るがあまり抵抗がないやつがいないこともない。一定数下衆みたいな指揮官がいるのも知ってはいるが。

 

「ほーう……まあいいんじゃが。儂の前にいたところじゃとな、割と毎晩、時折毎朝も追加でとっかえひっかえ」

「聞きたくない聞きたくない聞きたくなーい!! そんなエロゲーとか高くて薄い本みたいな話聞きたくなーい!!」

 

 くそ、私が人形に振り回されるってどういうことなんだ……

 ていうか、そんなやつが近隣の支部にいるってこと? やだなぁ……




収集がつかなくなってきたのでこの話はコレでおしまい。
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