暫くして、理事長が絵里達のマンションに到着して、絵里と亜里沙は保護された。2人が理事長の車に乗せられるのを見送った。その時に亜里沙から何度も頭を下げられたという。
翌朝、飛鳥は笹原達にも事情を説明した。
「…という訳なんです」
「そ、そうですか…あぁ…」
「さ、笹原先生!!!」
笹原はショックで倒れそうだった。前々からそういう節があったとはいえ、そこまでするなんて…と、信じられない気持ちでいっぱいだった。隣にいる山内は本当に心配していた。
「一丈字。お前はよくやってくれた。本当に凄い奴だ」
「いえ、嫌な予感がしたので、見張っていて良かったです」
山田に褒められたが、飛鳥は複雑な気持ちでいっぱいだった。それもそうだ、知り合いが強姦されそうになっていたのだから、気が気じゃない。
「一時的ですが、絢瀬さんのご両親が帰国されるそうなので、あとは絢瀬さん達の判断にお任せしたいと思います」
「そうか…」
「それから…絢瀬さんのケアをお願いします。最後に彼女をみた段階では、落ち着きを取り戻していますが、かなりショックを受けているようなので…」
「…分かった」
山田も複雑な表情を浮かべる。
「ひっく…ひっく…」
「お姉ちゃん…大丈夫?」
絵里と亜里沙は保健室にいた。というのも、自宅にいるとまた転生者Bが襲い掛かってくる可能性が高い為、避難しているのだ。
「ごめんね…ごめんね…。えりーちか…おねーさんなのに…」
絵里が亜里沙に泣きじゃくっていた。正直、妹に頼るのは姉としてプライドが許さなかったが、それだけBが怖かったのだ。
「大丈夫だよ。確かにお姉ちゃんは亜里沙のお姉ちゃんだけど、無理しなくていいんだよ。怖いなら素直に怖いって言えばいいんだし…」
「うぇぇぇぇぇええええええええええええええん」
絵里が声を上げて泣くと、亜里沙も泣きそうになっていた。その時、保健室の外からノックする音がしたので、絵里と亜里沙が吃驚して震えていた。
「絵里ち。亜里沙ちゃん。うちや、入るで」
「希…?」
声が同級生で一番仲の良い東條希の声だと分かると、絵里は一安心した。そして扉を開けて中に入ってきた。希に続いてにこ、希、飛鳥が入ってくる。
すると希、にこ、笹原が入ってきた。飛鳥も一応同行してきたが、中には入ろうとしない。
「……!」
「絢瀬さん。大丈夫?」
「先生…」
担任である笹原が絵里の体調を心配していると、にこが飛鳥の方を向いた。
「アンタも来なさいよ」
「いえ、男性がトラウマになってもおかしくない状況ですので…」
「アンタはいいのよ! ほら、こっち来なさい!」
にこが飛鳥の手を引っ張って、中に入れた。
「絢瀬先輩、大丈夫ですか?」
「うん…」
「そうですか…」
苦笑いして強がる絵里を見て、飛鳥は困った顔をする。
『このように、奴らは今までヒロイン達に迷惑行為を繰り広げてきたのだ』
『となると…私も命を狙われますね』
『ああ…』
飛鳥と神様がテレパシーで会話をする。
『あの、神様…』
『なんじゃ?』
飛鳥が困った顔をする。
『アナタ方の復讐が果たされるまで、彼女達をこんな目に遭わせるのですか? さっさと追い出した方が…』
『そうじゃな。じゃが、これ以上被害者を増やさない為じゃ。もうこの物語で終わりにしたいんじゃ』
『……』
『お前さんが支えになればいいだけの話だし、いざっていう時にはちゃんと手を打っている』
『くれぐれも今後は怖い思いは極力させないでくださいね…。後で私も同類にさせられる可能性もありますし』
『ないない。それは絶対ない』
と、神様が根拠もないのにきっぱり否定したので、飛鳥は更に困った顔をしていた。
「それにしてもBって本当に地球のゴミよね! 死ねばいいのに!」
「死ねは言い過ぎやけど…せやなぁ、ホンマに偉い事になってもうたわ」
「……」
Bの話になり、絵里がまた震えだした。にこと希に至っては、Bに対する評価は最底辺になっている。飛鳥と神様としては思惑通りになっているのだが、彼女たちに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。そんな中、希が絵里に近づいた。
「絵里ち。気持ちは分かるけど、生徒会長やろ? な? 元気だし」
と、希は後ろから絵里を抱きしめた。この時絵里は小動物のように震えていた。
「それにしても、飛鳥くんにはホンマに頭が下がるわ。絵里ちを二度も助けてくれるんやから」
(…その前に、突き止めた事に関しては特に突っ込まないのかな)
希が飛鳥の方を向いて褒めてたが、飛鳥に至っては自分も怪しまれるんじゃないかと心配していた。
「あ、そ、そうでした! お姉ちゃんを助けてくれて、本当に…本当にありがとうございました!」
「いえ、お気になさらないでください」
亜里沙が頭を下げたので、飛鳥が苦笑いした。そして絵里の方を見た。
「…暫くは1人で出歩かない方が良さそうですね」
「そうね…」
「それは心配せんでええで。うちとにこっちに任しとき」
「分かりました。お願いします」
「……」
絵里も飛鳥を見つめる。
「そういう訳ですので絢瀬先輩、もう心配は要りませんよ。私は教室に戻りますね」
そう言って飛鳥が去ろうとすると、絵里が飛鳥の服の袖をつかんだ。
(何か…フラグ建ったっぽい?)
(建ったな)
飛鳥が絵里の方を振り向くと、絵里は俯いて飛鳥の服の袖を離さないままだった。
「どうしました?」
「…め」
絵里がか細い声で何か言ったので、飛鳥はもう一回聞くことにした。
「すみません。もう一度お願いします」
すると絵里は目に涙を浮かべて、飛鳥を見た。
「いっちゃだめ…!」
絵里はまた泣きそうになった。この状況ににこ達も驚いていた。すると笹原が困惑した表情を浮かべて飛鳥を見た。
「…一丈字くん、悪いんだけどもうちょっとだけ一緒にいてくれないかしら」
「私で宜しいんでしょうか…」
「いや、滅茶苦茶アンタじゃなきゃダメな感じじゃないの…」
と、にこが突っ込みを入れると亜里沙が頭を下げた。
「あの、お願いします! ちょっとだけでいいので、もうちょっとだけ一緒にいて貰えませんか?」
「ていうか男でしょ。黙って一緒にいてあげなさいよ」
飛鳥が困惑した表情を浮かべた。
「一緒にいる事は別に構いませんけど、私も男ですよ。その辺は大丈夫ですか?」
「成程。そういう気遣いは大事やな」
絵里が頷いた。
「分かりました」
「それなら話は決まりやな」
「ちなみにBは停学を言い渡したから安心して」
「ありがとうございます」
『楽には殺さんぞ』
『……』
神様の発言に、本当に大丈夫なのかと心配する飛鳥だった。
その頃、Bはというと…。
「畜生…どうしてこうなるんだよ!!!」
と、ものを壁に投げつけていた。朝、南や笹原から停学を言い渡された上に、こっぴどく怒られた。となれば、もうクラスや学校での自分の評判は滅茶苦茶である。これも全部一丈字のせいだと、Bの憎悪は増していった…。
つづく