2年2組の教室。飛鳥と絵里、そして転生者Bの話題でもちきりになっていた。
「ねえ、聞いた?」
「聞いた聞いた。一丈字くん…変態ストーカーのBから、生徒会長を守ったんだって?」
「ホントに凄いよねー…あの子」
そんな中、面白くなさそうに表情を歪めていたのは転生者Aだった。
(くそう…本来はオレが一丈字のポジションにいるべきなのに!!)
(はぁ…またこいつは…)
ヒフミトリオの一人、ミカがうんざりした顔でAを見つめる。運悪くAの隣の席になってしまい、何かしらAの顔を見てはうんざりしており、一日でも早く席替えをしてほしいと思っている。
「1年生も間一髪で助けるし、昼休憩も会長達を助けたんでしょ? 本当に凄いよね…」
「ていうか、一丈字くんって結構トラブルに巻き込まれるよね」
この言葉を聞いたAは席を立ちあがり、すかさずこう言った。
「そうだ! 全部あいつが悪いんだ! あいつが裏で何かしているんだよ!」
は? 何言ってんだコイツという顔でAを睨む。とんでもない言いがかりだ。
「あのさぁ…」
「?」
ヒフミトリオの一人、ヒデコがうんざりしたような顔でAに話しかけた。
「それってなに? 一丈字くんに対する嫉妬?」
「言っとくけどね。仮にそうだとしても、アンタの好感度上がんないよ? それに今の発言だって、一丈字くん可哀想って話だし」
「そうそう。でさ、隣で不機嫌そうにするのやめてくんない? そろそろ鬱陶しいんだけど」
「!!」
Aははっとなった。よくよく考えたら、ヒロインに嫌われる行動ばかりしているではないかと考えていた。ヒフミトリオだけではなく、他の女子生徒も同様の反応だった。
「あ、ああ…そ、そうだね。ゴメンゴメン。今度からは気を付けるね!」
と明るく言い放つが、信頼は完全に失墜していた。
(…くそっ!!!)
当然面白いはずもない。そう考えていると、飛鳥が通りかかり、穂乃果が飛鳥の顔を見るなり叫んだ。
「あ、飛鳥くん!」
「!?」
Aは心底憎む顔で飛鳥を見た。飛鳥はふと驚いたが、穂乃果に返事した。
「あ、高坂さん。こんにちは」
「聞いたよ! 絵里ちゃんの所にずっといたんだって!?」
(え!?)
Aは驚いていた。
(そ、そんな馬鹿な! この時点ではまだ廃校の話も出てないし、知り合いでもないんだぞ!!?)
そう、まだ第1話の時点にもなっていないのだ。
(お前達が無茶苦茶やってくれたお陰で、シナリオの流れもおかしくなったんじゃよ。こちらも好き勝手にやらせてもらう!)
(大丈夫かなぁ…)
飛鳥はもう心配事しかなかったが、冷静さを取り戻して会話を続けることにした。
「ええ。ですが、落ち着きを取り戻しました」
「良かったぁ…」
ことりが胸をなでおろした。
「南さん。昨晩はありがとうございました」
「う、ううん!! 気にしないで!!」
(な、なんだと!!?)
飛鳥とことりの会話にAが反応した。お前らそんなに関係が進んでいたのか!? と、驚きが隠せなかった。
「あ! それはそうと飛鳥くん! ストーカーを追い払ったんでしょ!?」
「えーと…」
するとAが立ち上がって、飛鳥に近づいた。
「どうしたんです?」
「ちょっとこっち来い」
そう言ってAが強引に飛鳥を連れて行った。
人込みのない所
「どうかしたんですか? 私の顔に何かついてるんですか?」
飛鳥が困惑しながらAに話を聞こうとしたが、瞬時に飛鳥の鳩尾に裏拳をお見舞いした。
「うッ…!!!」
「出しゃばってんじゃねーよ。オレの時といい、Bの件といい、何で邪魔ばかりする」
Aの目は殺意に満ちていた。
「グハッ!!」
殴られた拍子に飛鳥は吐血した。
「血を吐いてんじゃねーよ!! どうせチート能力があるんだろうが!!」
と、Aは飛鳥を殴り続けた。飛鳥はチート能力によって、感覚がマヒしていると感じていた。
「邪魔をするなんてそんな…」
「お前、何か能力があるんだろ」
「能力?」
「お前がμ’sを洗脳してるんだろ!」
(オレじゃなくて運営なんだけどね…)
運営が関わっていると言ってしまっても、信じて貰えない可能性があった為、飛鳥は何とも言えなかった。あったとしても、どんな注文をつけてくるか分かったものじゃない。正直話を聞くだけめんどくさいと飛鳥も感じていた。
「今すぐ元に戻せ! 何でヒロイン達はこんなにオレに冷たいんだよ!?」
(自分の行いが原因で、運営が重い腰を上げたんだよ…)
「とにかくお前がいると邪魔なんだよ! オレを取り合って喧嘩をしてほしいんだよ! チヤホヤしてほしいんだよ! ハーレムにしろよ!」
と、殴りながらぶーぶー言い放つ。飛鳥自身は攻撃はかわせるが、反撃する事は無かった。
「そ、そんな事言って大丈夫なんですか…?」
「何が大丈夫なんだよ! 殺すぞてめぇ!!」
Aが飛鳥の胸ぐらをつかむと…。
「いい加減にしろA!!!」
という声がした。山田先生を筆頭に、A組の面々が現れた。飛鳥が攻撃をしなかったのは、完全に味方をつける為である。
「な……!!」
「お前が言いたい事はよく分かった。どうやらお前…そういう趣味があったようだな。気持ちは分からなくはないが、学校のルールは守れ!」
山田だけでなく、穂乃果達にまで見つかってしまい、青ざめるA。
「そうだよ! ホントにいい加減にしてよ! 飛鳥くんは何も悪くないじゃん!!」
「あ!!」
ことりが悲鳴を上げて、両手を口に当てた。
「ど、どうしたんですか?」
「飛鳥くん、口から血が…」
「!!」
穂乃果達も飛鳥の吐血に気付いて、青ざめた。穂乃果とことりが飛鳥に駆け寄った。
「大丈夫!!?」
「気分悪くない!?」
「あ、大丈夫ですよ。元々体が弱くて…」
飛鳥が苦笑いすると、海未が前に出てAの前に出た。
「ち、違うんだ海未!! 悪いのはオレじゃない!! 悪いのは君に手を出そうとした一丈字で…」
すると海未が思い切りAの頬を叩いた。
「あなたは最低です!!!」
涙目で言い放った。
『これがラブライブ名シーンの一つ、「あなたは最低です!」だ』
『え、そ、そうなんですか…?』
『お前もされる可能性はあるぞ。道を踏み外せば…な』
『そ、そうですか…』
神様と飛鳥がテレパシーで会話していた。
「一丈字さんがそんな事する訳ないじゃないですか!! もう関わらないでください!!」
皆がシーンとした。
「大体、何がハーレムよ!!」
「こんな大変な時に何考えてんのよ!! バカじゃないの!?」
「そうだそうだ!」
ヒデコ、フミコ、ミカの順に怒鳴ると、女子たちが一斉にAを睨みつけた。
(絶対一丈字だ…。一丈字が何かしたに違いない…!!!)
(してねェよ…。そんな事してこっちに何のメリットがあるんだ)
絶対自分が何かしていると踏んでいるAに対し、飛鳥はあきれ果てていた。
「とにかくAは職員室に来い!」
「くっ…!!」
Aは渋々連行されていった。
ヒデコ「バーカ!! こってり絞られちゃえー!!」
フミコ「もうお願いだから学校辞めてよ!!」
ミカ「もうこっちも泣きたいよ…」
ヒデコ達は連行されるAに罵声を浴びせ続けた。
「ふぅ…」
飛鳥が一息ついた。
『どうだ。あいつの拳は』
『…いや、あんまり大したことなかったですね』
飛鳥と神様がまたテレパシーで会話をする。
『そりゃそうじゃ。チート能力を失くしたんじゃからな』
『……』
『今のアイツらは裸の王様だ。過去の栄光に縋りついている哀れな連中だ)
『…よっぽど恨みがあるみたいですね』
『そして止めは、これ以上という程ない恥ずかしい思いをさせてやる』
『……』
『50話までまだ時間はある。たっぷり玩具としてやるぞ』
『……(汗)』
飛鳥は困惑していた。そんなにフォーに手を焼いてたんだなと…。
『それはそうと飛鳥くん。本当に大丈夫!!?』
『ええ、これくらいどうって事ありませんよ…』
穂乃果が改めて飛鳥を心配していた。
『いやいや、口から吐血って結構大事なんだけど!!』
『もう傷害事件で訴えるべきよ!!』
と、飛鳥の周りには女子が囲んでいた。
「な、何故だ…。何故あいつにあんなに女子が…!!」
陰で見ていた転生者Cが驚いていた。
『やっぱりあいつは排除するべきだ…。このままだとオレの真姫も…』
「Cくん」
Cが振り向くと、山内がいた。
「何をしているんですか…?」
山内の後ろで、花陽・凛・真姫が怒った顔で睨んでいた。
「あ、こ、これはですね…」
「何でもいいけど、誰がオレの真姫よ。イミワカンナイ」
「きもいにゃ」
「……」
(あっちで、何かが起きているな…)
飛鳥はC達がいる方を見た。
つづく