救急車内
「……」
虎太郎が意識を取り戻した。
「虎太郎!!」
「!!」
にこが叫ぶと、飛鳥達も嬉しそうにした。
「あれ…?」
「虎太郎~!!!!!」
と、にこが泣きながら虎太郎を抱きしめた。虎太郎はどういう状況か分かっておらず、きょろきょろ見渡していた。
「きゅうきゅうしゃ~…?」
「そう! 救急車よ!! 心配かけてぇ~!!!!!」
「にこ。虎太郎くん潰れるから(汗)」
「あんま無茶させたらアカンで」
と、にこが虎太郎を力強く抱きしめると、虎太郎が苦しそうにしたので、絵里と希が諫めた。
「そ、そうだった!! ごめん!!」
こころとここあも泣きじゃくりながら、虎太郎の無事を喜んでいると、飛鳥は口角を上げ、そのまま超能力で存在感を消して、自分には触れさせずにそのまま時間を過ごした。
そして病院に到着すると、こころ、ここあ、虎太郎が入院する事になった。
「本当にごめん」
「いえ、大丈夫です」
「まあ、家の事は相談してや」
「私も協力するわ」
「ありがとう」
にこは弟妹達の面倒を見る為に、病院で別れることになった。にこが飛鳥の腕を見つめた。
「本当にありがとう」
「妹さん達が無事で良かったです」
飛鳥が口角を上げた。
「でも…あんたもあんたよ!!! 無茶しすぎ!! もしあのまま死んじゃったら…」
「…すみません。ご心配をおかけしました」
にこが叫ぶと、飛鳥が俯いた。
「せやな。そういう所はちょっと反省せなな」
「こころちゃん達の事は心配だけど、飛鳥くんが死んだら元も子もないわ」
「はい」
希と絵里も無茶をしたことについては、毅然と諫めた。これがA達だったら、助けたのは自分だぞ。そんなのいらないから、礼をしろと言うだろう。
「でも…」
「!」
にこが大粒の涙を流して、泣き出した。
「あんたがいなかったら、今頃こころ達は…!!! 本当にありがとぉ…!!」
「矢澤さん…」
飛鳥が口角を下げると、にこに近づいた。
「私は大丈夫ですよ」
「!」
飛鳥がしゃがんでにこと目線を合わせる。
「それよりも、虎太郎さん達の事を見てあげてください。一命はとりとめたものの、油断は出来ません。我々も出来ることがあったら協力致しますので、一緒に頑張りましょう」
「うん…」
「せやで。にこっち」
「……!!」
希と絵里が口角を上げてにこに近づいて、希はにこを抱きしめた。
「一人で抱え込まんと、何でも言うてや。もううちらは…友達なんやから」
「そうよにこ。私達がついてるから」
「う…うわぁぁあああああああああああああああああああああああああん!!!!!」
と、にこは声を上げて泣いた。すると希はにこの頭を撫で、絵里と飛鳥は口角を上げた。
「矢澤さん」
「!」
にこが飛鳥を見た。
「私はここで失礼します。ご家族にはよろしくお伝えください」
「あっ…」
「せやな」
希が体を離し、絵里と共に飛鳥のもとに向かった。
「にこっち。また明日」
「またね」
にこが口角を上げた。
「ありがとう! また明日!!」
と、にこやかに返した。
「オレ達で力を合わせよう」
「は?」
「いきなり何を言ってるんですか?」
空き地で、Aから発せられた突然の共闘の申し出。BとCは唖然とした表情になった。いがみ合っていたライバルに突然共闘を持ちかけられれば当然の反応である。
「今のオレ達の状況は最悪だ。気味の悪い転入生、不審者、変態とレッテルを貼られた転入生。そしてさっきのビンタ。時間もそんなに経ってもないのにオレ達はこんな扱いを受けている」
「!」
悔しそうに話すAと同じく、BとCも同じ表情で拳を握りながらワナワナと体を震わせていた。そうだ。何で自分達がこんな扱いを受けなくてはいけないんだ? 様々な世界を救い、様々なヒロイン達を惚れ落としてきた完璧な自分達が、この世界では真逆の扱いを受けている現実を未だに受け入れられないでいた。
A「今までは全てが上手くいっていた。全てが順風満帆だった……しかしこの世界では今までとは決定的に違うイレギュラーがいる」
Aは憎悪に満ちた表情で顔を上げた。
「一丈字飛鳥だ」
Aが飛鳥の名前を出した途端、BとCも憎悪に満ちた表情で勢いよく顔を上げた。
「能力はともかく、容姿はオレ達に圧倒的に劣る。完全にμ’sにも興味が無い筈なのに何故μ'sのメンバーにあんなに優しくされているのかがあり得ないとずっと考えていた。そこである仮説がオレの脳裏に浮かんだ」
Aは黙って聞いているBとCに考えついた仮説を話し始めた。
「一丈字の能力は、ラブライブの世界のキャラクターを誘惑する能力なんじゃないかとな」
「…やっぱりか。実はオレももしかしたらと思っていた。一丈字にはそんな能力があるんじゃないかとな」
「彼がμ'sにあんなに好かれていることが可笑しいと思っていましたが、僕も同じ仮説を考えていましたよ」
Aの言葉にBとCはやっぱりかと納得した様子でAを見た。どうやら3人は同じ仮説を頭の中で考えついていたようであった。飛鳥からしてみたら、「そんな現実世界で役に立ちそうにない能力なんかある訳ないだろ」と言うだろうが…。
「恐らく一丈字は、誘惑する力に特化した能力を持っているんだろう。だからオレ達の能力がμ'sに効かずにあんなに冷たい態度を取られてしまっている。そう考えれば今まで疑問に思っていた全ての問題に辻褄が合うんだよ」
「一丈字め!」
「ふざけてますね…」
Aの言葉にBとCは表情を歪ませながら目の敵にしている一丈字を脳裏に浮かべていた。
これを本人が聞いたら呆れながらツッコミを入れるだろう。「なんでやねん」と。
「そこでだ……この状況を打破する為にオレが提案した作戦に乗らないか?」
「打開策だと?」
「どんな作戦ですか?」
Aの言葉にBとCは速攻で食いついた。この状況を打破する為なら何だってしてやると腹をくくった様子であった。
「いくら一丈字の能力が1つに特化している物でも……様々な世界を救いヒロイン達を侍らせてきたオレ達だ。そんなオレ達の能力を重ねがけすれば一丈字の能力を無効化できるんじゃないか?」
「能力の重ねがけ」
「3人の能力を合わせれば……確かに一丈字の能力を無効化できるかもしれませんね」
Aの言葉にBとCは成る程と頷いた。自分達の全能力を重ねがけすれば、一丈字の能力を超える力を出せるのではないかと。そうすればこの地獄のような日々を脱することが出来ると怪しく笑いながら3人は顔を見合わせた。
「まずは一丈字の能力を3人で協力して無力化する。そして最後に一丈字をこの世界から排除する。μ'sとのイチャラブハーレムライフを誰が手にするのかを争うのはそれからでも遅くはない……どうだ?」
「その作戦に乗った。今は一丈字を排除することが最優先だ」
「μ'sとのハーレム生活を手に入れる為です。異論はありません」
「決まりだな。明日から早速作戦を実行するぞ」
ここに今一丈字を排除する為の駄目転生者同盟が結成された。しかし、自分達の仮説が全く見当違いであり、神からは「色んな意味でお前達の姿はお笑いだったぜぇ?」と言われ、地獄を見る日も近くはない。
そしてまた飛鳥。家で神様と会話をしていた。
『しかしお前も欲がないな。あそこに残っていればヒーローだったものを』
『ご冗談を』
飛鳥が口角を上げた。
飛鳥『皆生きてる。それで十分じゃないですか』
この男もまた、良い意味で地獄を見る事になる。
つづく