ある日の静岡県・内浦
「……」
そこには私服姿の飛鳥がいて、腕時計の時刻を気にしていた。
「あ、あのっ!!」
「!」
飛鳥が横を向くと、千歌が現れた。彼女もまた私服姿だった。
「高海さん」
「あのっ…遅くなってすみませんっ!」
「いや、約束の時間までかなりあるけど…」
飛鳥が千歌を見た。
実を言うと連絡交換をした飛鳥は早速千歌から相談を受けていた。折角だから直接会おうとなり、飛鳥が内浦にやってきたのだった。
「あ、あの…。態々来てくれてありがとうございます!」
「うん。大丈夫。どっか話せる所に行こうか」
「は、はい…」
飛鳥と千歌が移動するが、それを陰から誰かが見ていた。
「……」
そしてそれを飛鳥は見逃さなかった。
飛鳥「ここでいいかな」
千歌「は、はい…」
飛鳥と千歌は喫茶店の前まで来て、中に入っていった。
「好きなの注文していいよ。ご馳走するから」
「え、いいんですか!?」
「うん。出世払いだけど」
「……」
飛鳥の言葉に千歌はまずそうな顔を下。
「冗談だよ。ちゃんとご馳走するさ。ただし、味をしめない事と、感謝の気持ちを忘れない事。分かったね?」
「は、はい! ありがとうございます!」
飛鳥が口角を上げると、そのまま注文した。
「さて、注文が来る間にここに呼び出した用件を聞こうか。助けてってのは…」
「…それが」
千歌が現状を話した。
「…成程、前に話した事を踏まえて考えた結果スクールアイドルをやる事にしました。でも、色んな人に反対されたと」
「それで…どうしたらいいか分からなくて」
千歌の様子を見て、飛鳥が口角を下げる。
「まあ、確かに周りの人の言ってる事が正しいかもね」
「!?」
千歌が飛鳥を見ると、飛鳥が頭をかいた。
「話は前にも聞いたけどね。厳しいようだけど、君は人から信頼を失うような事をしたんだ。それは受け入れるしかないよ。周りの人がね、そう思ってもしょうがないし。何も結果を出してないんじゃ、信じようがない」
「……」
飛鳥の言葉に千歌が俯いた。
「でもね、大事なのはこれからどうするかだ。何か考えてる?」
「そ、それも…」
千歌が沈んだ顔をした。
「…スクールアイドル、まだ目指してる?」
「……」
千歌が涙目になる。
「高海さん。怒ってる訳じゃないけど、そうしてても何も解決しないよ」
「ごめんなさい…」
千歌を見守っている二人の女子生徒は困惑していた。1人はくせ毛のある灰色の髪の少女、もう一人は赤茶色のロングヘア―の少女だった。そして飛鳥は考える素振りを見せた。
「高海さん」
「はい…」
「もし君にやる気があるんだったら、オレから一つ提案があるよ」
「え?」
「ここに来る途中で知ったんだけど、コレ」
飛鳥が一枚のチラシを取り出した。
「これ…」
「遠泳大会だ。5㎞、10㎞、15㎞、20㎞と4つの部に分かれている。君の地元で来週やるんだろ? それに挑戦してみたらどうだい?」
「遠泳…」
千歌が困った顔をする。
「順位を競うんじゃないし、速く泳げって言ってる訳じゃないよ」
「!」
「最後まで泳ぎ切るんだ。途中で投げ出したりしない、最後までやれるって事を皆に証明する事。それが君の一番やるべき事だ」
「!!」
千歌の目が大きく開いた。
「まあ、強制はしないけど…。スクールアイドルをやりたいんだったら、証明出来ないとね」
千歌が口角を下げた。
「やっぱり…やめますか?」
「や、やる!!」
「!」
千歌が立ち上がった。
「やります!! 遠泳!!」
飛鳥が驚いた。
「高海さん」
「な、何ですか?」
「他にもお客さんいるから…静かにね」
「あっ! す、すいません!!/////」
廻のお客さんが自分を見ている事に気づいた千歌は顔を真っ赤にして座った。
「まあ、やる気があるのはいいけど…ちゃんと家族の人達にも言っておくんだよ。暇な時は旅館の手伝いがあるんでしょう?」
「は、はい…」
「よし、それじゃ決まりだ」
「あ、それからまた相談が…」
「何?」
「その…スクールアイドル活動に向けて、曲を作ったんですけど…」
「ふむ」
「これです…」
千歌が歌詞を見せた。
「へー、中々いいじゃない。ちょっと修正した方が良い所もあるけど」
「あ、ありがとうございます…」
「作曲してくれる人がいないの?」
「は、はい…。ピアノをやっている子がいるんですけど、断られちゃいまして…」
赤い髪の少女は困惑した。
「成程ね」
「……」
千歌が俯いた。
「オレのセンスで良かったら作曲しようか?」
「え!?」
飛鳥の提案に千歌が驚いた。
「まあ…もしかしたら、そのピアノを弾いてる子が見るに見かねて、手直しをする可能性もあるけど。どう?」
「で、出来るんですか!?」
「まあ、どういう感じの曲か分かれば」
「ぜ、是非お願いします!」
千歌が一礼した。
「分かりました」
「あ、もしよかったら今からうちに来て頂けますか!?」
「え」
「!!!?//////」
二人の女子生徒が頬を染めた。
しばらくして、明日かは千歌に連れられて、千歌の家族が経営している旅館に案内された。
「結構立派な宿だね…」
「そ、そうですか…?」
「まあ、おうちが宿なら分からないとは思いますけど」
「あ、どうぞどうぞ」
千歌が飛鳥を連れて中に入る。
「ただいまー。ちょっとお客さん連れてきたからー」
「お邪魔します」
「おかえりー…って、うおおおっ!!!」
千歌よりも年上らしい女性が現れて、驚いた。
「あ、あんた!! 何男連れて来てんのよ!! か、彼氏!!?」
千歌が顔を真っ赤にした。
「ち、ちがーう!!!!////// ぜんっぜんちがうぅ!!!!/////」
首をブンブン横に振った。
「美渡―千歌―」
「!」
「お客様に失礼でしょう?」
更に女性が現れた。
「ゴ、ゴメン志満姉…」
「いらっしゃいませ。ご予約の方ですか?」
「あ、いえ。千歌さんとは仲良くさせて頂いている者です」
「ちょっと相談したい事があるから、家に来て貰ったの」
「何? まだスクールアイドルの事諦めてないの?」
「う、うん」
次姉・美渡の反応に千歌は尻込みし、美渡は呆れたように千歌を見た。
「前にも言ったでしょ! ここでスクールアイドルをやるのは無理だって! 第一浦の星女学院は」
「ゴホン!」
志満が美渡の足を踏んだ。
「千歌。ご案内してあげて」
「はーい。それじゃ行きましょう」
「お、お邪魔します…」
「あ、すみませんが…」
「?」
飛鳥が千歌の長姉・志満を見た。
「話が終わったら、恐れ入りますが談話室でお待ち頂けますか? あなた、音ノ木坂学院の人ですよね?」
飛鳥が気づいた。
「え? 志満姉知ってるの?」
「テレビで見た事あるの。用件が終わってからでいいので、宜しくお願いしますね」
「……」
「それだったらそっち優先してよ! 気になるから!」
志満が千歌を見た。
「美渡。悪いんだけど、応対お願いできるかしら?」
「はーい。その代り、後でアタシにも教えてね」
「分かったわ」
応接室
「さて、時間を割いてしまってごめんなさい。一丈字さん」
「いえ…。それで、私にお話って何でしょうか?」
志満が飛鳥を見た。
「アナタのこれまでの活躍はテレビなどで拝見させて頂きました。物凄いお方なのですね」
「いや、本当に勘弁してください。そんなんじゃありませんから」
飛鳥が困惑した。
「それはそうと志満姉、飛鳥さんにお話って何?」
「アナタの事よ」
「え」
志満が飛鳥を見た。
「一丈字さん。この度は妹がご迷惑をおかけして、申し訳ございません。お忙しいのに…」
「あ、いえ…それは別に構わないんですよ」
志満が頭を下げると、飛鳥が慌てた。
「それで…妹がスクールアイドル活動をやる事についてなんですけど」
「反対されているんですか?」
「いえ、反対ではないのですが…ちゃんとやれると思えないんです」
「それでしたら、来週に行われる遠泳大会に出場して、結果を出させます」
「え?」
飛鳥の返答に志満は思わず驚いた。
「それで…来週の日曜日、千歌さんをお借りしたいのですが」
「それは構いませんが…宜しいのですか?」
「ええ」
志満が心配そうに見つめる。
「一丈字さん」
「何でしょうか」
「何故そこまでしてうちの妹を?」
飛鳥が口角を下げると、千歌も心配そうに飛鳥を見た。
「理由は主に二つあります」
「!」
「まず、千歌さんと話をして、スクールアイドルの素質は十分にあるという事が分かった事が一つ。それと、千歌さんとお話をしていて気になった事があります」
「何ですか?」
飛鳥が真剣な顔をした。
「浦の星女学院にも数名ほど…男子学生がいるそうですね」
志満の表情が曇った。
「…一丈字さん」
「……」
「…実は、その事について貴方にご相談があるんです。私、これでもこの地域の安全管理をする団体の一員でして」
「何でも仰ってください」
志満が困惑した表情で飛鳥を見た。
「実は…浦の星女学院は今年度で閉校する事になったんです」
「そうですか…」
「しかし、そんな時に何故か男子学生が転入する事になったんです。理事長が弱みを握らされてるのかどうかは分かりませんが、何でもお偉いさんだそうで…」
「で、その生徒達が好き勝手やっていると?」
「はい。特定の生徒に対して尾行したり、舐めまわすような視線で見たり、セクハラを繰り返したりしているんです」
志満の発言に飛鳥は片眉を上げた。
「警察には相談できなかったんですか?」
「…警察に話してしまえば、閉校が早まる可能性があるんです。今の浦の星の生徒達は沼津の高校に行く事になっているんですけど、最悪の場合…受け入れを拒否されて路頭に彷徨う事になってしまうんです。そうなる為、警察にも相談できませんし、退学にも出来ないんです」
『神様…こんなに事態が大きくなっているなら、神様の力で何とかした方が良いですってコレ』
『色々ややこしい事になる。君がフォー達をやっつけてくれ。その時に私がうまい具合に修正する』
飛鳥と神が会話をした。
「このままだと浦の星女学院が…」
志満は少し泣きそうになっていた。
「…その、志満姉もさっきの美渡姉も浦の星女学院の卒業生なんです」
「そうだったんだ」
「だから…これ以上悪さをされたままだったら、浦の星女学院が変な学校だって思われちゃうんです」
「……」
「そんなの嫌だよぉ…」
千歌が泣くと、飛鳥が真剣な顔をした。
「志満さん」
「?」
飛鳥が真剣な顔をした。
「お話は分かりました。お恥ずかしい話なのですが…先日、我々音ノ木坂学院でも同じような事がありました。そして近くにあるUTX学院という所でも似たような現象があり、そちらの対応も行わせて頂きました」
「そう…」
「今のお話を聞く限りだと、浦の星女学院もかなり危険な状態といえます。もしかすると…最悪の事態も予測されます」
志満が俯いた。
「私から一つご提案があります」
「何かしら?」
飛鳥が志満を見た。
「千歌さんを私に預けて頂けないでしょうか」
「!」
「!!」
志摩と美渡が驚いた。
「千歌を…音ノ木坂学院に?」
「いえ、そうじゃなくて…千歌さんのマネジメントをやらせて頂けないでしょうか」
千歌も驚いた。
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
美渡が現れた。
「別にそんな事しなくていいのよ!? 千歌の為にそこまで…」
飛鳥が美渡を見た。
「…すみませんが、千歌さんの為だけじゃないんです。考えすぎかもしれませんが…もしかすると、うちの生徒も狙われる可能性があるんです」
「はぁ?」
「…それは、どういう事ですか?」
「志満さんと千歌さんのお話を伺っていて…音ノ木坂で起きていた事とほぼ一緒なんですよ。その男子生徒が女子生徒にちょっかいをかけていた事や、近辺で迷惑行為を行っていた事など…。これ以上被害を出したくないので、彼女にも力を貸してほしいんです」
千歌が反応すると、飛鳥が千歌を見た。
「ですが、改めて確認を取りたいと思います。千歌さん、これが最後の忠告だ。やめるなら今だけだ。やるんだったら今からこの契約書に名前を書いて貰って…志満さんにも名前を書いて頂きます。あなたがこれからやろうとする事は、浦の星女学院の運命を大きく左右する事になる。話が全部本当だったら猶更だ。それでもやる覚悟があるなら、契約書にサインして欲しい。やめるなら…残念だけど、交渉は決裂だ。私も助ける事が出来ない」
千歌が口角を下げると、契約書を受け取った。
「ペンを貸してください」
「やるんだね?」
「やる!! やっぱり浦の星女学院に変な噂をつけられたまま終わらせるなんて、私も志満姉も美渡姉も嫌だもん!!」
「……」
飛鳥が千歌の顔を見た。
「え、な、何ですか?」
「高海さん」
「?」
飛鳥が口角を上げた。
「今のアナタ、とっても輝いてますよ」
つづく