そんなこんなで放課後になっていた。飛鳥は笹原に言われた通り、職員室に向かおうとしていた。
「さて、行くか…」
その時、穂乃果、ことり、海未がやってきた。
「ねえ、飛鳥くん!」
「?」
教室に入って来るなり、穂乃果が飛鳥に話しかけた
「今日、時間空いてる?」
「すみません。今日は空いて無いんですよ」
「どうして?」
「職員室に来るように言われましてね…」
飛鳥がそう言うと、穂乃果がジト目で飛鳥を見つめる。
「もしかして、Aくんに何かされたの?」
「別の方ですね。またの機会にお願いします。そういう訳で、失礼しますね」
そう言って、飛鳥は職員室に向かっていった。
職員室。飛鳥がノックして入ってきた。
「失礼します」
「来たわね一丈字くん」
「あれ?」
職員室にはにこ・絵里・希の他に、女子生徒が3人いた。制服の色は穂乃果達ともにこ達とも違っていた。1年生である。
「これはこれは…」
「ああ! この人で間違いないにゃ! この先輩が真姫ちゃんの事を助けてくれたにゃ!」
「間違いありません!」
「間違いないわ」
と、3人の女子生徒が言い放った。語尾に「にゃ」とつけている女子生徒は星空凛。その後に答えたのが小泉花陽。そして、最後に喋った女子生徒の名前は西木野真姫だった。3人とも1年生である。
実はこんな事がありました。にこ達と合流する前…。
「この辺にはいなさそうだな…」
と、飛鳥が散策をしていると、真姫が脚立の上に立っていて、下には花陽と凛がいた。何かものを取ろうとしていた。
すると突風が吹いて、真姫がバランスを崩して、落下しそうになった。
「!!?」
「かよちん!!」
「危ない!!」
「!?」
声がしたので、飛鳥が声をした方を見ると、真姫が落下しそうになっていた。
「キャー!!!!!」
花陽も悲鳴を上げたが、真姫と凛も悲鳴を上げていた。
「危ない!!!」
飛鳥が瞬時に走り出したその時、誰かに突き飛ばされた。
「ぐあっ!!!!」
飛鳥は転倒した。そして転生者Cが真姫をお姫様抱っこした。
「……!!」
真姫たちが唖然としていた。
転生者C「ふう。危ないところでしたね」
真姫「……!!」
転生者C「ケガはないですか? 真姫」
と、転生者Cが微笑みかけた。
「…して」
「ん?」
真姫が転生者Cを睨みつけた。
「離して!! さっきあの人を突き飛ばしたのちゃんと見てたわよ!!」
「なっ!!」
すると花陽が飛鳥に駆け寄った。
「大丈夫ですか!?」
「いたたた…」
この状況に転生者Cも驚きを隠せなかった。
「そうにゃ!! 凛もかよちんもちゃんと見てたよ!! 真姫ちゃんを助けようとしたのはありがとうだけど、何もあの人を突き飛ばす事ないにゃ!!」
「そこまでして私に良いところ見せたかったの? イミワカンナイんですけど!!」
「なっ!! ひ、人が助けてやったのに何だその態度は!!」
「助けた!? わざと人を突き飛ばしといて何言ってんのよ!! それなら、ちゃんとあの人に謝りなさいよ!! それに、ついてくるなって何度も言ったわよね!!? それからいい加減降ろしてよ!!」
と、真姫はひとりでに降りて、凛と共に飛鳥に近づいた。
「大丈夫にゃ!? 足挫いてにゃい!!?」
「凛、この人2年生よ。ごめんなさい、私を助けようとしてくれたんでしょ?」
自分ではなく別の転生者に優しくしている真姫たちを見て、転生者Cの顔は真っ赤になった。
「な、何故だ…。何故だ何故だ!! 真姫を助けたのはオレなのに!!」
すると真姫、凛、花陽が睨みつけた。
「うるさいわね!! そんな事よりもこの人に謝りなさいよ!!!」
「そうにゃ!! そこまでして女の子を助けてもカッコ悪いにゃ!!!」
「そうです!!」
3人とも怒った顔でCを責め立てていた。飛鳥は困惑した表情を浮かべていたが、Cも引くようすはない。
「カッコ悪い…このオレがカッコ悪いだと!!?」
「あーはいはい。もうやめなさいな」
Cが激昂すると、飛鳥が立ち上がって止めた。
「確かCさんでしたよね?」
「う、うるさい!! どうしてお前が真姫たちに優しくされるんだ!!!」
「分かりません。ただ、これだけは言っておきますね」
飛鳥がCを見つめた。
「女の子を助けたい気持ちは分かりますが、落ち着きましょう」
「……!!」
「ふん!! 行きましょ!!!」
と、真姫は飛鳥を連れて凛と花陽と共に去っていった。この後別れるのだが、にこ達とのトラブルに巻き込まれるのだった…。
「神様…。これってアトラクションの一つなんですか?」
「いや、転生者の行動パターンを見て、それに合ったイベントが起きるようにしているのじゃが…。このパターンは初めてじゃな…」
「そうですか…」
飛鳥と神様が心の中で会話していた。
そして回想は終わり、今に至る。
「そ、そう…」
担任の山内が返事をした。
「あ、えっと…小泉さんを助けてくれてありがとう!」
「あ、いえ…。助けたのは私じゃなくて、彼なんですが…」
本当に助けたわけではないので、飛鳥は複雑そうにしていた。
「いいわよ。あんな奴。3年生も助けたんだし、あなたの手柄にしておけば」
「そ、それはどうなのかな…」
「いいにゃ! 人を突き飛ばして謝らない人なんて、ヒーローでもなんでもないにゃ!!」
「ま、さしずめ女の子にモテたいから。でしょうね」
(めっちゃズバズバ言うな…(汗))
真姫の一言に、飛鳥は困惑するしかなかった。本当に困惑するしかない。何しろこんなにズバズバ言うのだから。
「それにしてもアナタ…。随分地味ね」
「西木野さん。一丈字くんは先輩ですよ!」
と、真姫たちの担任である山内が諫めた。すると絵里が飛鳥の方を見た。
「あ、それはそうと…さっきは助けてくれてありがとう」
「いえ」
「確かに大したことはしてないかもしれへんけど、絵里ちの為に嫌がらせはやめろ言うたやん。それや」
「あー…」
飛鳥が納得した。確かに言われてみれば言ったような気もしたな…。という感じで思い出していた。
「本当に大した奴よ。あんた」
(あぁ…。今まで頑張った甲斐あったなぁ…)
身内以外でこんなに褒められることは滅多にないので、飛鳥は称賛をかみしめていた。しかし、神様からは「転生世界での過剰なまでの称賛が、転生者をダメにした」と言われているため、あまり調子に乗らないようにしていた。
「山内先生と笹原先生からお前の話は聞いた。転校初日から本当に大した奴だ」
「いえ、お恥ずかしい限りです…」
山田から褒められて、飛鳥が視線を逸らした。
「謙遜するな。自信を持て」
(本当に今まで頑張って良かった!!!)
飛鳥は感涙しそうになったが、何とかこらえた。
「…それに比べてあいつは」
「え?」
すると笹原と山内も沈んだ。
「そうね…うちもまずいかも…」
「……」
(あっ)
飛鳥は察した。この3人の教師はフォーを受け持っていたのだった。これからの学校生活を考えたら、同情するしかない。
『ちなみにCの事について教えてやろう』
『え、何かあるんですか?』
神様が突然テレパシーで飛鳥に話しかけた。
『自分がヒロインにちやほやされていないと気が済まない性格で、本当に殺しておる』
『……』
ちなみにフォーの特徴
転生者A:正統派イケメン。ジャニーズにいそうな顔。
転生者B:ワイルド系イケメン。俳優っぽい顔。
転生者C:頭脳派イケメン。眼鏡をかけている。漫画に出てくるメガネ系イケメン顔。
ちなみに元の顔は3人とも不細工である。
『何度も言っておるが飛鳥よ。お前の仕事はあの3人からμ’sや他の女子生徒を守るという事と、チヤホヤされる事だ』
『ダメになりそう…』
と、飛鳥が弱気な態度を見せていると、山田がため息をついた。
「はぁ…。どうすればいいんだ…」
(ガチのトーンで困ってらっしゃる…)
共学化のテストという名目で転入した飛鳥達だったが、状況は最悪だった。眉間にしわを寄せた山田たちの姿がすべてを物語る。もし自分までああなってしまったら、完全に音ノ木坂は暗黒の未来を迎えることになる。そして自覚した。自分が『最後の希望』だと。ゲームでよくあるパターンだが、まさかこんな状況でそのパターンになるとはと、飛鳥は信じられずにいた。
「4人中3人がろくでなしとはな…」
「はぁ…」
「……」
転生に限らず、人気アニメのキャラクター達って大変だなぁ…と、飛鳥は思った。
つづく