SNSサイトにて、ツイ廃と化したガラルジムリーダー総勢一名   作:暁刀魚

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アリシアは、その日世界に恋をした。

「……アリシアは、目が見えないんでしたね」

 

 ミクリの言葉に、ポプラがうなずく。

 

「昔から、何一つ見えたことはない、とあの子はいっていたね」

 

「それって、すごい怖いことね。こうしてロトムゴーグルが普及して、この世から目の見えない人がいなくなりつつある今だからこそ、言えることだけど」

 

 カルネもそれに続く。

 

「ガラルに生まれ、ずっとガラルで過ごして来て、それでいてその気質がガラルとは全く違うものなのは、それが理由でしょうか」

 

 ミクリが分析する。アリシアと普通の人間では、見えているものが違う。感覚の違う彼女は、ガラルという枠にはとらわれないのではないか。

 そのとおりだろう、ポプラも同意した。

 

「不思議なもんだがね、見えてないからこそ見えるものがある、ってのは創作の中の話だが……あいつの才能は、見えていないから手に入ったものに見えてならない」

 

「ああ知ってるわ! 目の見えないサムラーイはココロアイで敵を切るのでしょう!」

 

 ぱぁ、と華やいだ顔でカルネがいう。ミクリが困ったような笑みを浮かべた。

 

「そ、それはどうだろうね……ともかく、アリシアくんは人の本質を見るのが得意で、彼女が目の見えない少女である。ということは、決して無関係だけど、関係があるように見える、と」

 

「同じことが言えるのさ。あいつは美しいものが好きなんだよ」

 

 美しいもの、きれいなもの、素敵なもの、素晴らしいもの。

 この世の肯定的なものすべてを、アリシアは好意的に見ているように、思えてならない。そしてそれは、実際間違っていない。

 

「彼女が初めてみた景色、ですか」

 

 時折彼女の口にする、初めての景色。

 アリシアは、生まれてはじめてロトムゴーグルを通して見た景色は、ターフタウンハズレの森から飛び立つ、無数の進化したばかりのバタフリーだった。鱗粉のようなものを振りまき、きらきらと夕日に照らされ輝くそれは、とても幻想的な光景だったらしい。

 

 その時から、彼女の世界は始まっている。

 

「ただし……モノクロの、ね」

 

「……ははあ、なるほど。読めてきましたよ」

 

 ミクリがうなずくと、カルネがうーん、と考えながら指を折り始める。

 

「えっと、確か先日、ロトムゴーグルの新型が発表されたんですよね。色覚も認識できる……つまりカラーで世界を見ることのできるメガネ」

 

 それが一つ。

 

「そしてここはターフタウンで、今日はアリシアちゃんの誕生日」

 

 二つ、三つ。

 

「アリシアちゃんは過去に、誕生日にロトムゴーグルを贈られて、バタフリーたちが夕日に飛んでいく光景を見た」

 

 そして、四つ。

 

「――私の世界に色がついた日」

 

 そして、五つ。これがすべてだ。

 

「わかりきっちゃいた事ではあるけどね、初めて明言しようか」

 

 そして、告げられる。

 

 

「――今のアリシアには、世界の色が見えている」

 

 

 ――と。

 

 

『――バタフリー、キョダイマックス!』

 

 会場にて、アリシアは叫ぶ。とても楽しげに、相棒のバタフリーも、ダイマックスとともに気合充分だ。こうしてここに、ダイマックスが不可能なムゲンダイナ以外のすべてのポケモンのダイマックスが出揃った。

 

「一気に場が動きますね、これは」

 

「うーん、皆素晴らしいけど、ここでの妙手はアリシアかしら」

 

 最後にダイマックスをしたものが、場の空気を持っていく。当然といえば当然のことだが、真打ち登場と言わんばかりに、インターバル終了と同時にキョダイマックスを切ったアリシアの作戦勝ちでもある。

 

「そのために、早めの行動順になるよう調整していたんだから、当然さ」

 

「こういう小手先の技術は、やはりアリシアとユウリに分があるね」

 

 派手なダイマックスと、ダイマックスキラーたちのパフォーマンス。ことここに至って、下手な小細工は無用、全員がその場で打てる最大のコンボを連打していく。

 ダイナミックな技の応酬に観客は大盛りあがりだ。

 

「……ダイマックスが終わるわ」

 

「この時点で、順位はトップアリシア、二位ビート、三位マリィ、四位ユウリ……」

 

 冷静に解説を続けながらも、公平な審査を続けている二人がつぶやく。

 二人の視線は、マリィへと向いていた。

 

 ダイマックスの終了時点で、マリィが三位。これまでになかった展開だ。マリィは常に、ダイマックスによる高得点で他者を引き離すことで勝利してきた、パフォーマンスの質こそが強みである。

 

「一気に打って出るでしょうね」

 

「だが、これは……」

 

 審査員たちには見えていた、ここで最大の攻勢に打って出る必要のあるマリィ。最高潮を取って一気にトップまで駆け上がる必要があった。

 しかし――

 

「ユウリが妨害にでた! ここまで正統派な演技を続けていたユウリだが、一転妨害! これはマリィにとっては痛い展開だ!」

 

 ユウリのムゲンダイナが、最後の一手をアピールのためではなく、妨害のためにうった。

 

『な――!』

 

 驚愕するマリィをよそに、パフォーマンスは続く。

 

 ダイマックスは、やがて終了した。場には、アリシアのキョダイバタフリーだけが残る。これも、次の手番で元通りだが――一人残った事実は、ある事実を意味している。

 

「トップアリシア、二位マリィ! マリィ追い抜けず! そして最下位から、ユウリがアリシアに狙いを定める!!」

 

「……技術的には、やっぱりユウリちゃんの方が上なのね」

 

 ユウリの妨害は、妙手だった。マリィの最高潮を妨害し、同時に一人浮きしたアリシアのキョダイバタフリーを場に残した。そしてもう一つ。ここで彼女が最高潮を妨害したことで、誰が最高潮を得ることができるのか。

 もちろん、それはユウリ自身である。

 

 ユウリのダイマックスほうが炸裂。それはさながら、ダイマックスキラーがダイマックスを打ち破ったときのようで。

 

「ユウリ、一気に逆転トップ! アリシアは二位に転落しキョダイマックスが終了だ! これはわからなくなってきたね!」

 

 ミクリのテンションもまた最高潮。観客とともに、大いに会場を湧かす。カルネも、どこか興奮を隠しきれない様子だ。

 トップのコーディネーターからみても、今のやりとりは素晴らしいものだったと言って良い。

 

「マリィはアリシアやユウリの技術には敵わず、同じ技術という面でもユウリとアリシアの間では差がある、面白いですね、これは」

 

「これこそ、コンテストの醍醐味だろう? つっても、アタシらが本気でやると、何一つミスなく終わるから、こういうやり取りはなかなか見られないんだが……」

 

 それはプロトレーナーの世界でもそう変わらない。技術や才能の優劣による差。そしてそれが埋まっていき、完成していく過程。

 成長を楽しむとは、そういうことだ。

 

「ビートが苦境に立たされているね、ここまで、あまりうまく状況を作れずに、最下位だ」

 

「なぁに、このままじゃユウリの一人勝ちで終わっちまう。それを覆せるのは、ビートだけだよ」

 

 珍しく、素直にポプラが弟子バカ発言をした。ミクリとカルネは目を合わせ、それから笑って問いかける。

 

「そうはいっても、ユウリちゃんの流れは技術による地盤があるわ、そう簡単に崩せないわよ」

 

「だが、崩せないわけじゃあない」

 

 人は誰しも完璧ではない、とポプラはいう。特にこの場において、コンテストで決勝を戦うアリシアたちは未だ未完の大器。崩れないということはありえない。

 無敵のチャンプも、無敵のコーディネーターではいられない。

 

「ビートが反撃に動いたね。大胆にも、ユウリだけを狙う妨害手だ」

 

「うーんこれは、危険ね。もうコンテストも中盤間際、妨害が成功しないと、彼はこのまま最下位確定よ」

 

 難しい顔をする二人に、ポプラはいつもの調子で言う。

 

「どっちにしろ、ここで手を打たなければあいつは負ける。最下位確定だろうと、勝利の可能性はこれしかない」

 

 対して、マリィとアリシアは動かない。彼女たちは、妨害にでなくてもユウリを出し抜ける位置を、ギリギリながら維持している。そこに最下位が直接妨害に出たのだ。チャンスは何もしなくても回ってくる。

 

「薄情なもんだね」

 

「ですが、同時にそれはビートに対する最大の声援でもある」

 

 ――その選択は、シビアながらも、同時にビートにとっては信頼の証だ。

 

 お前ならやれる。

 二人は無言でそう告げていた。

 

「世界には、どうしようもなく才能のないことに打ち込んじまうやつもいる。下手の横好きとは言うが、それだけ好きなんだ、のめり込むことに才能は壁にゃならない」

 

 ポプラは語る、朗々と。

 

「そいつらは、やがて花開く時が来る。ただ、人の数倍、数十倍遅いだけ。そんなの、普通はまって何かいられない。あのひねくれた自信家の坊やだったあいつに、才能のない自分なんて、本来は耐えられるはずもない」

 

「変えたんでしょうかね、ポプラさんが」

 

「違うさ」

 

 妨害する。

 何度も、何度も食って掛かる。諦めること無く、愚直に、まっすぐに。

 コンテストはいよいよ終盤に差し掛かり、それぞれの立ち位置がはっきりしてくる。トップはユウリ、変わらずに。二位、アリシア。三位マリィ、最下位ビート。一切替わらない。

 だが、

 

「――ああ、ユウリが選択ミスだ! 最高潮を取れなかった!!」

 

 それまで、順調に最高潮の加点を稼いでいたユウリの手がズレた。幾度にも渡る妨害で、計算がズレたのだ。ユウリらしからぬミス。だが、ユウリでもミスはする。何度も、何度も試行すれば、本当に小さな確率で。

 

 最後の最後で、ビートがそれを引き当てた。

 

 ユウリの取り逃がした最高潮。誰に流れるかは言うまでもない。

 

「ビートくんが会場を席巻しているわ。順位はアリシアが繰り上げで一位。ビートくんとユウリちゃんがほぼ同率で二位と三位!」

 

「マリィも少し巻き返しに苦しんでいるが、ふむ、インターバルに入るね」

 

 ついにユウリの牙城が崩れ、ほぼ四者横並び、若干マリィが決め手に欠ける印象があるが、マリィの顔に焦りはない。

 

 このインターバルが終われば、ついに最終決戦だ。ここまで、全員が手を尽くし、趣向を凝らしてコンテストを盛り上げてきた。

 そう、最終決戦。後少しで、コンテストが終わる。

 

 そしてインターバル。ユウリは何かを考え込むようにムゲンダイナと向かっている。マリィは少し考えて、それからモルペコの方を見た。

 

 迷いなく、動いたのはビートだ。もはや、既に彼の中では最終戦のビジョンは定まっているらしい。

 

 

『――皆様、少々お聞きいただきたい!』

 

 

 会場に向け、ビートは高らかに叫んだ。

 それはさながら、かつてのファイナルトーナメント乱入時のような仰々しさで。

 

『ボクは、この世で最も嫌いなものが二つある! 一つはピンク!』

 

 その叫びに、会場からどっと笑いがこだまする。そりゃそうだという笑いと、この後のことを想像しての笑い。解説席で、ポプラの目が光ったのを、ミクリとカルネは見逃さなかった。

 

『そしてもう一つは――』

 

 声を張り上げて、両腕を振り上げて、そして叫ぶ。――こうして前フリをした時点で、正直なところ、観客席にいる者たちは、なんとなく彼が言いたいことを理解していた。

 

『――コンテスト、です!』

 

 即座にブーイングが上がる。示し合わせたように、だれからともなく。

 

『だってそうでしょう!? ポケモンの素晴らしさを競わせる!? そんなもの、結局は審査員の眼がすべてじゃないですか! シンプルなポケモンバトルとは違う。複雑で、曖昧だ!』

 

 マリィが、ユウリが、叫ぶビートを見た。訴えはまだ続く。

 

『確かにその駆け引きは面白いものかもしれない! 観客を魅了できるかもしれない! けれど、コンテストには敗北がないのですよ! ポケモンが戦闘不能になるような、明確な負けの基準がない! 優劣はついても、決着はつかない!』

 

 ざわざわと、観客たちが騒ぎ出す。ビートの言葉を、彼らはどう受け取っているのか。

 

『白黒つかないってのが、どうもボクには気に食わなかった! ボクがコンテストに向いていないと、今まで散々寄ってたかって言ってくださいましたが、原因はきっとそれでしょう!』

 

 ボクは道化じゃないんですよ、という叫びに、会場からは笑いが溢れる。今、大げさな動作で訴える彼の役割が、道化でなければ何だというのか。

 少なくとも、ビートは不満たらたらに言うが、それがなにかの前フリであることは、彼がこれまでコンテストに費やしてきた時間が語っている。

 

『だから、こうしてやることにしました! ボクがコンテストを、めちゃくちゃにするのです!』

 

 そういって、手を上に振り上げる。一本、突き出された人差し指。

 

『ですが、例えばそれは乱入とか、妨害では芸がない。何よりそんなことをしても大して面白くはない。二番煎じなんて流行らないんですよ』

 

 それが、アリシアへと向けられた。

 

 

『だから、ボクの優勝でもって、貴方の誕生日を台無しにすることにしました。ざまあみろアリシアさん!!』

 

 

 挑発的な笑みで、普段投げかけられている言葉を、ビートはアリシアへと突きつける。

 

『これは復讐です! 普段から人を殴ってもいいサンドバッグだと思って気軽に殴りかかってきて、最近のボクの扱いは、君みたいな可燃物に成り果てつつある! そんな未来はまっぴらだ!』

 

 声をかけられたアリシアは、顔を伏せている。

 

『さぁ、なにか言ってみたらどうですか! 昨日から、Poketterでもろくにつぶやいていないじゃないですか、らしくもない!』

 

 観客の視線が、アリシアへと注がれる。ビートが一頻り挑発を終えると、シン、と会場は静まり返った。

 誰も、その場で声を発するものはいない。

 誰も、アリシアを見ていないものはいない。

 

 そして、アリシアが口を開く。

 

 

『――赤、青、黄色』

 

 

 ぽつり、ぽつりと。

 

『緑、紫、黒、白、ピンク』

 

 ピンク、ひくりとビートの顔がひきつる。アリシアは、無視して続けた。

 

『――色、色。色々、色。ああ』

 

 そして、顔を上げた。

 

 

『世界は、こんなにも美しいのですね』

 

 

 華やぐような顔で、幸せそうな微笑みで。

 一瞬、笑みを浮かべたビートが、それから顔を険しくしてがなりたてる。

 

『美しいはずがあるものですか! こんなにもぐちゃぐちゃで、混沌としていて、思うように行かない世界が! 美しくあってたまるものですか!』

 

『世界には、いろんな色がありますね。一つとっても、それは違う。同じ服の色ですら、影で見え方が変わってくるのです』

 

『そんなパステルを無茶苦茶に混ぜ合わせた世界を、貴方は美しいというのですか!?』

 

『はい。想います』

 

 自信をもって、アリシアは頷いた。

 

『ずっと、羨ましかった。ずっと、眩しかった。色のついた世界を見ている人が。その中で笑う人たちが。彼らはきっと素敵な人達で、だから私はそれが羨ましいのだと思っていました』

 

 アリシアは、胸に手を当てる。

 

『その中にはいっていくことが怖かった。受け入れてくれるかが怖かった。でも、前に進むことにしたんです』

 

『なぜ?』

 

 ビートが問いかけると、アリシアは隣に飛ぶバタフリーを見上げた。

 

『だって、進まないと損でしょう? 素晴らしい未来が待っているのに』

 

『そんな保証、だれもしてくれませんよ』

 

『します。できます。してみせます。私自身が、世界に向けて』

 

 それからもう一度ビートを見ると、アリシアは目を細めて微笑んだ。

 

『貴方は、どうですか?』

 

『……ボク、は。未来になんて、何が待っているかわからないと、知っています。思ってもみない結末が待っていると、知っています』

 

『じゃあ、足を止めますか?』

 

 ビートは、その言葉に、力強く返した。

 

『それは嫌だ! そもそも、世界はボクが足を止めても構わず進んでしまう。止まっていても先へ進むコンベアの上に立っていることだってある! だから、だったら自分の足で進んでやる!』

 

『そのためには――周りの助けが、絶対に必要なんですよ』

 

 アリシアも、ビートも。

 誰かの手によって代わり、進んできた者たちだ。

 

 ユウリがダンデによってトレーナーの道に誘われたように。

 マリィには、ネズが側にいるように。

 

 アリシアとビートの二人は、それがより一層大きかった。

 

『だから、私はそんな周りを美しいと思う。素晴らしいと思う。貴方だってそうでしょう? 感謝の一つくらいあるのでは?』

 

『…………』

 

 二人が、同時に視線を解説席へと向ける。

 ガラスの向こうに、光で反射して見えない先に、ポプラがいる。

 

『……………………ああもう! そうですよ! 感謝していないはずがない! あの人にも、貴方にも、皆さんにも!! 今のボクは、皆さんがなければ成立していない!!』

 

 だから、

 

『解っているんですよ、貴方の言いたいことくらい。ボクの思っていることくらい!』

 

『あはは、案外、私達相性がいいのですね』

 

『やめてください気色悪い』

 

 だが、

 

 ああ、

 

『ふふ』

 

『ははは』

 

 二人の笑い声が、会場に響き渡る。

 ユウリと、マリィも自然と笑みがこぼれていた。

 

 ――インターバルが終わる。

 

 長かったようで短かった、コンテストの終幕だ。

 

『ああ、やっぱり、想います』

 

『……不本意ながら、ボクも同意しましょう』

 

 笑みを浮かべた二人が、ポケモンを隣に立たせて。

 前に出る。

 

『ボクは』

 

『私は』

 

 ユウリも、マリィも後に続いて。

 

 

『――この世界が、こんなにも大好きです!!』

 

 

 かくして、最後の祭りが、始まった。




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