SNSサイトにて、ツイ廃と化したガラルジムリーダー総勢一名   作:暁刀魚

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謎のアリシア仮面

『おおっとー! これはどういうことだー! キバナ選手の前に現れたのはメロン選手ではなく、謎のアリシア仮面だー!』

 

:は?

:え?

:は?

 

『これは、これはどういうことだー!? アリシア仮面はキバナ選手にたいして引退をかけたバトルを申し込む! ただいま委員会にてこれを審議中です!!』

 

:いやなんでまず色々すっ飛ばして審議が始まるんだよ!?

:説明しろよ!?

:ああもうめちゃくちゃだよー

 

『おっとぉ、乱入したスタジアム端の反対側から、ダンデ臨時委員長が降り立ち現れるー!!』

 

:絶対スタンバイしてただろ!?

:この後の展開が読めた。

 

『おっと、親指ぐっ! オッケーのサインです、オッケーのサインが出ました!! これは試合成立だー!』

 

:今回一時間予定が早かったけど、これが原因だろ。

:茶番すぎる……

 

『というわけで、突如始まったアリシア仮面対キバナ選手を、これよりお送りいたします! 解説は引き続きポプラ様にお願いいたします』

 

 アナウンサーのその掛け声を受けた後、アリシア仮面はスタジアムの上から勢いよく飛び降りる。そのままくるくると回転したまま落下し、地面に直撃した。

 

「失敗すんのかよ!!」

 

 キバナの叫びが虚しく響く。

 穴にポッカリと空いた人形の地面から、アリシア仮面が勢いよくあらわれた。顔や服についた土を払いながら、呼び出したイシズマイに地面を元に戻してもらいつつ、前に歩み出る。

 

「やぁ、やぁ、そういうわけですから、よろしくおねがいしますねキバナ様」

 

「どういうわけだよ!? 説明しろよ!! あとおれさまは引退を賭けたバトルなんざ了承してねぇし、聞いてもいねぇぞ!!」

 

「言ってませんよ、今言いましたから」

 

「明らかに根回し済んでるじゃねーか!!」

 

「それはそれ、これはこれです」

 

 そういいながら、アリシアは手元の機材を弄っている。やがて操作を終えると、スタジアムの画面にアリシアが選出する六匹のポケモンが表示された。

 

「……ルールは見せあいシングルか」

 

「ダブルじゃ勝てないので」

 

「てめぇ……」

 

 頬をひくひくとさせるキバナを差し置いて、アリシア仮面は画面を見上げる。キバナは少ししてから、六匹のポケモンを表示させた。

 この辺りに迷いはない。

 

「てめぇは……ほぉ、面白い趣向だな、おい?」

 

「ふふーん」

 

 そういうアリシア仮面の手持ち、非得意ポケモンとして選ばれているのは、カバルドンとドリュウズだ。カバルドンという時点で、狙いが透ける。

 キバナは変幻自在の天候使い。しかし、その中で最も得意とするのが、すなあらし。

 

 アリシア仮面は、キバナの最も得意とする戦場に、自分から飛び込んでいこうというのだ。

 

「いいじゃねぇか、やってやるよ」

 

 対してキバナは、対アリシアに最も使用したポケモンを中心に据えたパーティ。このパーティが、アリシアに対してもっとも勝率がいいのだから、オーソドックスな選出と言える。

 

 選出には制限時間があるが、二人は迷わずポケモンを選び、配置につく。

 

「それで? どうですか? 受けますか? この挑戦」

 

 既に答えは出ているようなものだったが、アリシア仮面は問う。正面からキバナを見据えて、睨むようにしながら。仮面の奥の瞳が、鋭く光った。

 

 キバナは、一瞬手にしたボールを見る。そこには、長く連れ添った相棒がいる。何を考えているのか、顔を伏せたために、観客にも、対面するアリシアにもそれは伺えなかった。

 そして、

 

「引退だぁ? ――上等じゃねぇか。今のてめぇに勝てないくらいなら、おれさまはもうおれさまじゃあいられねぇ!」

 

 その声に、シン、とスタジアムは静まりかえる。

 キバナは本気だ、そのことを観客たちは理解したのだ。

 

「行くぞクソガキ! てめぇを倒して、おれさまが本物だってことを証明してやる!」

 

「クソガキではありません、アリシア仮面です。いきますよ……!」

 

 バトル開始だ。

 

「行け……ジュラルドン!」

 

「頼みます……バタフリーさん!」

 

 二人のエースが、出揃った。

 

 

『さぁ始まりました、まずはポプラさん、確認したいのですが、やはりこれは予定されていたのでしょうか』

 

『キバナの坊主以外には知らされていたけどね。ま、今日だけ一時間予定が早まったんだ、勘付いてたやつはそこそこいたんじゃないかい?』

 

『……引退、というのは?』

 

『見てりゃわかるよ』

 

 いきなり突っ込んだ質問に、ポプラがそう応える。すると、先程までチャット欄を支配していた引退に対する困惑が、ピタっと止んだ。

 ポプラが言うなら、何かあるのだろう。

 

 彼女の言葉は、アリシアの解説と等価に真実だ。

 

:いきなりエース対決か。

:カバルドンはブラフ?

:わからん。

 

『さて、この対面は基本的にこれまでジュラルドン有利でしたが、今回はどうでしょう』

 

『今回は難しいね、後ろに三匹じめんタイプが視えてるんだ、そうそうおいそれと電気技は撃てないよ』

 

:いつものフライゴンに、カバルドンとドリュウズだな。

:フライゴンが完全に虫ポケ扱いで草。

 

『では交換?』

 

『アリシアのバタフリー相手に交換するバカが何処に居る。死にたいなら止めないよ』

 

 そこまでポプラが断言する程度に、アリシアのバタフリーに対して交代はありえない。配信を行っている枠のコメント欄にも、その言葉に対するツッコミは一切なかった。

 ポプラの言う通りだ。アリシアを相手にして、バタフリーに対して交換以外の選択肢を撃てない場合。そのトレーナーは必ず敗北する。

 

『考えられるのはストーンエッジかね。物理技だが、ダイマックスなら、キバナの今の不調も無視して確実にあたる。きあいのタスキを潰せるのも大きいのさ』

 

:その場合じゃくてんほけんを起動させたいよなー。

:バタフリーじゃムリだろ。

:逆にバタフリーも有効打がないよな。

 

『バタフリーに有効打がなく、なおかつジュラルドンの打てる手が一つしかない。その上キバナは交代ができない。なら答えは一つさ』

 

「もどって、バタフリーさん!」

 

:一つしかないけど、何の意味があるんだよ!?

 

『そりゃあ、ジュラルドンのもちものがこだわりスカーフだからさ』

 

 そして、アリシア仮面のフィールドに現れるのは、ドリュウズだ。そこにキバナのジュラルドンのりゅうのはどうが突き刺さる。

 

『四個目の技はソーラービームだね。りゅうのはどうより、まだあくのはどうの方がダメージでるからねぇ』

 

 そしてこれで、ある状況が完成する。

 

『さぁこれで、キバナ選手はアリシア選手に対して“交代するしかなくなった”ぁ!!』

 

:アリシアの得意戦法だ!

:これは勝ったな……

 

 一気に、状況はアリシア仮面に対して傾いた。

 

「……てめぇ」

 

 キバナが、笑みを浮かべる。苦々しげに、それでもなんとか冷静さを失わないように。

 

「どうですか? 案外、捨てたもんじゃないでしょう、私も」

 

「ああほんとになぁ。まぐれ勝ちしたあの時が、嘘見てぇだ」

 

「アレはまぐれじゃないですよ。あなた、今年の貴方のダンデ様への勝利もまぐれだと言うつもりですか?」

 

「おれさまはてめぇとは違う!」

 

 叫び、キバナがジュラルドンを手持ちに戻す。キョダイマックスという選択肢もなくはないが、今のジュラルドンの技構成では、ドリュウズに対して絶対に有効打が撃てない。

 

「なら証明してみせてくださいよ! この状況から!」

 

 対するアリシアは剣の舞を選択。キバナが繰り出したのはフライゴンだ。

 

「……まだ、終わってねぇ」

 

 大勢を低くし、深く考え込みながら、キバナは言う。この状況は完全にアリシアの手のひらの上ということを、理解した上で。

 

 ――アリシアの強さ。

 その最もたるものは、対戦相手の交換後の行動の読みの正確さだ。アリシアにとって、相手がポケモンを交換するということは、交換以外に選択肢がない、ということを指す。

 アリシアのエースポケモンはバタフリー。サブエースはフライゴン。この二匹はそれぞれちょうのまいとりゅうのまいを有する。そのため、アリシアの基本戦法はこの二匹のどちらかを使った三タテ戦法だ。

 

 非常に意外に思われるかもしれないが、アリシアはかなりそういった一匹のポケモンにこだわるスタイルを得意とする。それが、本人にとって最も適性があるのだから、当然といえば当然だが。

 

 先程ポプラも言ったが、アリシア相手にポケモンを交換するということはすなわち敗北を意味する。現在、キバナはアリシアの術中にあった。

 

『ここでアリシアがダイマックスしてダイロックすりゃあ勝負が決まるね』

 

 ポプラは言う、アリシアのドリュウズ、持ち物はシュカのみだ。これにより、じしん一発ではドリュウズを倒す事ができず、りゅうのまいを入れてからではダイロックからのすなあらしで起動したドリュウズの特性、すなかきに追いつけない。

 

『ダイマックスを行った場合は?』

 

『そうなりゃまた変わってくるが、そこまでアリシアは折込済みさ』

 

:ですよねー。

:初手から詰んでね?

:そもそも、なんで初手ジュラルドンなんだ? カバルドンに対しての有効打がダイマックスしてダイソウゲンしかないけど。

 

『最初からそのつもりだったのさ。それを外したのがアリシアって構図だ』

 

:それにしたって、まだキバナの手持ちなら別の選択肢あったろ……

 

『だとしても、ここまで挑発して、キバナが逃げられるかい?』

 

:ムリ

:ムリ

:ムリ

 

『そういうことさ。この手持ち、この状況でアリシアは既に状況を完成させている。どうやっても、キバナは勝てないのさ』

 

 そう言って、ポプラは会場を見下ろし、そして、

 

 

『このままなら、ね』

 

 

 と、つぶやいた。

 その時だ。

 

 

『どうしたキバナ! その程度か!?』

 

 

 その場で、声を上げる者がいた。

 

 ――――ダンデだ。

 

 アリシア仮面の乱入時、登場してから、彼はずっとこのバトルをスタジアムの上から見守っていた。だからこそ、彼はキバナに、声をかけることができる。

 

 だってこれは、公式戦でも、なんでもないのだから。

 

『お前はそこで負けるのか? お前の戦いはこれまでか!? ドラゴンタイムは始まらないのか!?』

 

「……」

 

 キバナはそれを、見上げたまま黙る。

 

『俺はお前に負けたさ。けど、だからって俺はお前に負けたつもりはないんだぜ。だって一度負けたって、次があるってことを俺は知ったからな!』

 

 ダンデはアリシアを見て、続ける。

 

『お前が俺に勝った後、目の前には誰がいる!? 誰もいないのか? いなけりゃそれでもいいだろうけどさ、違うだろ!? だったらどうするんだよ』

 

「…………せぇ」

 

『お前はどうしたいんだよ! キバナは何がしたいんだ!? キバナの次は、一体何処にある! 答えてみろ! キバナ!!』

 

 

「――うるせぇ!!」

 

 

 キバナの叫びが、絶叫が、悲鳴が、スタジアム中に響き渡った。

 

「うるせぇ! うるせぇうるせぇうるせぇ! 解ってるんだよ! そんなことくらい、自分が自分を見失ってることくらい!」

 

 全員の、その場にいるすべての人の、この戦いを配信で見ている者まで、違わず。

 すべての人々の視線が、キバナへと向けられた。

 

「てめぇもクソガキも、“ネズ”も! いちいち、いちいち、おれさまに情けをかけてるつもりかぁ!? 発破なんざいらねぇよ! おれさまは言われなくても解ってるんだよ!」

 

 そして、

 

 

「この不調が、一年以上も前から始まってることくらいなぁ!!」

 

 

 そこでキバナははじめて。

 自分の不調について、言及した。

 

「そもそもの始まりはダンデに勝ったことじゃねぇ、ダンデが負けたことだ。そこでおれさまは、ダンデという目標を失った。勝ったから失ったんじゃねぇ、何もできねぇから失ったんだ!」

 

 でなければ、

 

「でなけりゃ、いくらクソガキやクソババァだろうと、おれさまがダンデに限界を超えて勝つ前から、その不調を予期することはできねぇよ!」

 

 アリシアも、ポプラも、それに対して言葉を返すことは、なかった。

 

「けどよぉ、どうすりゃいいんだよ! 失ったのはおれさまじゃねぇ! 何かをしたのもおれさまじゃねぇ! だったらおれさまの、何処に文句を言う資格がある!」

 

 叫ぶキバナは、堰を切ったようだ。とめどなく、言葉の洪水が溢れ出す。

 

「情けなく懇願でもしろってのか!? おれさまが!? あの嬢ちゃんに!? それともダンデの野郎にか!? ふざけんじゃねぇ、そんなの誰も望まねぇ! 何よりそんなの、おれさま自身が納得できねぇ」

 

「キバナ様……」

 

「じゃあ、おれさまはあの嬢ちゃんに、新チャンピオンに勝てばいいのか!? 負けた後のダンデに勝てばいいのか!? 前者はムリだ、到底敵わねぇ! 後者はやった! むしろ落ちたぜ、どういうことだ!」

 

 そう言って、叫ぶキバナの顔は、

 

 ――笑っていた。

 

 笑えるくらい、今の自分は、情けなかった。

 

「嬢ちゃんに勝つっていう目標を持つことができる。少なくとも、この一年は勝つために使った。けど何も変わらなかった。じゃあどうする? どうすればいい!」

 

 もう、キバナには、

 

「もう、おれさまには――何もねぇんだよ」

 

 ただ、うなだれることしか、できなかった。

 

『…………』

 

 ダンデが、

 

『…………』

 

 アナウンサーが、会場が、静まり返る。

 時間が止まったかのように、その場は凍りついていた。

 

『……さて』

 

 ポプラが、ふとこぼす。

 

『お膳立ては全部済んだよ。こっからどうやって声をかけるつもりだい』

 

 ポプラは、そう言ってある一人の少女に目を向ける。

 それは、ダンデも同様だった。

 

 

『――アリシア』

 

 

 この場において、未だ言葉を持たぬ者。

 

 わざわざ乱入なんて方法で割ってはいって、荒療治を始めた責任者。

 

 この状況は、全て彼女が作ったものだ。

 

 だからこそ、最後の一言は。

 

 

 最後のチャンスは、アリシアへと託された。




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