本章では領地経営はしません。
01. 巨大複合企業の支配者と死の支配者
モモンガことアインズ・ウール・ゴウンは、配下のデミウルゴスによるゲヘナ作戦を完遂し、多大な戦果と共にナザリック地下大墳墓へと帰還した。
(ふぅ……。色々と想定外の事も多かったけど、誰も大きな怪我をせず無事に乗り切る事が出来たな。)
アインズは自室へと戻り、ベッドに倒れ込む様に身を預ける。
アンデッドという疲労の知らない身体ではあるが、精神的な疲労によってヘトヘトになっていた。
(アンデッド創造用の材料もたくさん手に入ったし、暫くは材料に悩む心配はないな。)
アインズが、ふと思った時、強烈な違和感が自身の体を駆け巡った。
そして、鈴木悟だった頃、現実世界に居た頃の記憶がフラッシュバックする。
(俺は何を殺したんだ……?
八本指という犯罪組織、これは問題ない。死んでも良いほどの悪党であるし、セバスの心をかき乱した愚か者達だ。
ゲヘナから現れた悪魔と戦って命を落とした兵士や冒険者、これもまだマシだ。戦いに身を置くもの、戦闘員だ、命を落とす事だってある。
この世界では特に。
だが……)
アインズはゲヘナの内側に居た一般市民、今はナザリック第5階層で絶命し、氷漬けになっている非戦闘員を思い起こした。
そして自分の脳裏に自分(アインズ)と氷漬けの市民、巨大複合企業を支配する富裕層と自分(鈴木悟)を重ねる。
強者の都合で殺し、奪う。
アインズは自分が唾棄すべき存在になっていた事に気が付き目の前が真っ暗になる。
(たっち・みーさんは俺を見たらきっと剣の切っ先を俺に向けるだろうな……
ウルベルトさんも俺を討伐対象と判断するだろう……)
護ろうとしていたアインズ・ウール・ゴウンを自らの手で穢し、なりたくない存在にいつの間にかなっていた自分に涙が出そうな程の嫌悪感が湧き出てくる。
だが精神沈静化が発動し、それすらも許さない。
(俺は……)
アインズはベッドから身体を起こすと、アインズ当番をしていた一般メイドのリュミエールは不思議そうに口を開く。
「如何為さいましたか? アインズ様。」
「第5階層に行って来る。供は不要だ。」
「畏まりました、アインズ様」
今はアインズと呼ばれる事が何よりも辛い。
我侭なのはわかっている。
それでも如何にもならない心に、アインズはリュミエールから逃げるように自室から去った。
――――――――
―第5階層― アンデッド創造用素材保管庫
アインズは氷の中に閉じ込められた一万人を超える王国民の亡骸の前に佇む。
彼らは全員がLv1。第9位階の
(すまない。キミ達を生き返らせる事は私の力では不可能だ。せめて、この世界に存在する者達の幸せの為に役立てることを誓うよ。)
アインズは度重なる精神沈静化により冷静さは取り戻したが、後悔の念が胸の奥にチクチクと突き刺さる。
彼らへの償いとして出来る事は一つしかないと、アインズは、モモンガは、鈴木悟は思う。
(現実の俺達が生きてきた様な世界、弱者が苦しむだけの世界にならない様に、努力すればそれなりの報いがある。
そんな世界になる様に俺の力を使おう)
一般市民だった自分が何処まで出来るかは分からない。
シャルティアを洗脳した強敵の存在にも注意を払わねばならない。
まだ見ぬ強敵も数多く居るだろう。
それでもやらなければならない。
このままでは、もしアインズ・ウール・ゴウンの誰かを見つけたとしても、胸を張って会いに行けない。
(だが、ナザリックの皆は如何思うだろうか……)
アルベド、デミウルゴス、アウラ、マーレ、コキュートス、シャルティア、ヴィクティム、セバス、プレイアデス達の顔が浮かぶ。
セバスやユリは兎も角、他の面々はナザリック外の者を下等生物扱いし、愉しく殺そうとするものが多い。
主として見限られてしまうのではないかという不安と共に1つのやかましい顔が浮かび上がる。
(パンドラズ・アクターか……)
NPC達は自分の創造主を誰よりも上に置く。
アインズ・ウール・ゴウンの中でも最上位にだ。
だから、パンドラズ・アクターすら説得出来ないようならば、きっと誰も説得は出来ないだろう。
(相談してみるか。)
氷に閉ざされた世界を背にして、アインズは自室へと戻った。
――――――――
―第9階層― アインズの自室
「お帰りなさいませ、アインズ様」
アインズが部屋に戻るとリュミエールが深々と頭を下げてアインズを出迎えた。
「リュミエール、パンドラズ・アクターを呼んで来てくれ。相談したい事がある。」
「畏まりました。それでは失礼します。」
リュミエールはパンドラズ・アクターを呼びに行くためにアインズの私室を後にした。
しばらくした後、リュミエールが戻ってくるまでの代役としてアインズ当番をしているシクススがパンドラズ・アクターの到着を伝えた。
「うむ、通してくれ。」
アインズがそういうと、シクススは扉を開けてパンドラズ・アクターを招き入れる。
「パンドラズ・アクター、御身の前に。」
パンドラズ・アクターは流れる様な所作で頭を垂れる。
その最中、彼のハニワの様な目がピクリと動いた事をアインズは――――
――――見逃した