モモンガ式領地経営術   作:火焔+

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10. モモンガ登城する

―――― ナザリック【モモンガ視点】

 

 バハルス帝国に所属してから一月程が経過した。

 特に帝国に召集される事も無く、カルネ村やリザードマンの集落で試行錯誤の毎日だ。

 

 だが時間はゆっくりと流れているようで流れていない。

 バハルス帝国ではジルクニフとフールーダによる俺の受け入れ準備を着々と進めているとデミウルゴスから報告があがっている。

 また、毎年恒例のバハルス帝国によるリ・エスティーゼ王国への宣戦も行われた。

 

 ただ、今年の宣戦布告はいつもとは毛色が違う。

 俺の渡したナザリック製の古地図が宣戦理由に使用されたからだ。

 ジルクニフ曰く、

 

 

「この古地図はバハルス帝国、リ・エスティーゼ王国建国以前に作成されたものである。

 そして、この赤枠はこの古地図の持ち主であるモモンガの領地であったものだ。

 そのモモンガという人物は我がバハルス帝国に所属することとなった。

 つまり、エ・ランテル近郊の領土はあるべき姿に戻らねばならない。

 今年の宣戦理由は再征服(レコンキスタ)だ!

 バハルス帝国の総力を挙げて、祖国の領土を回復する事を此処に宣言する!」

 

 

 事実を知っている俺からすればトンでもない話だが、そう仕向けたのも自分である以上やむを得ない。

 まったくこれを提案したデミウルゴス達には頭が下がるし、言わずとも真意を看破したジルクニフも並々ならぬ才覚だ。

 

(ウルベルトさんの言ってた「鉄人が独裁すると凄い」って。こういう事なんだろうな。確かに国民もバハルス帝国のほうが活き活きしてるし。)

 

 

 話が脱線したが、今年はそういう理由でバハルス帝国の本気が見て取れたというのが世間の感触らしい。

 リ・エスティーゼ王国は当たり前のように、そんなもの出鱈目だとつっぱねた。

 スレイン法国は静観するかと思ったが、消極的賛成のスタンスを取ったのだ。

 理由は、帝国が王国の使者に宣戦を告げた場にスレイン法国の外交官(マジックキャスター)が居たためだ。

 ジルクニフが見せた最近作った古地図を見せた時に、法国側は魔法によって作成年代を調査したのだ。

 

 その結果、おおよそ400年前に作られただろうという判断に至った。

 つまり、法国がユグドラシルプレイヤー転移を認識していない400年前と。

 

(あ、これもデミウルゴスとアルベド、パンドラズ・アクターの調べね。)

 

 魔法を信じないリ・エスティーゼ王国は出鱈目だと無視したが、はじめから真っ向対立していたのだから如何でもいいだろう。

 そうして情勢も、例年とは違うバハルス帝国よりの空気が流れた。

 

 

 

 そして、戦争まで一月を切った辺りでジルクニフからの登城(とじょう)依頼が舞い込んだ。

 フールーダが親書を持ってやってきたのだが……。お前重鎮だろ……。

 

(登城依頼じゃなくて、登城要請でもいいんだけどな……

 まぁ、まだ末席の位置だし仕方ないか。)

 

 モモンガは快諾の返信をフールーダに持たせた。

 

(何か活き活きしてるな。あいつらの言う事、良くわかるなぁ……俺だったら寝てるよ)

 

 ナイトリッチと星幽図書館の司書(アストラル・ライブラリアン)催眠術(うんちく)を思い出して、もう二度と御免だと思う。

 

「さて、私はアーウィンタールへと向かうことになったが、アルベド、セバス、護衛を頼むぞ。」

 

 ナザリックから動かすことの出来るLv100NPCでは、人間らしくみえるアルベドとセバスが適任だろう。

 

(アルベドに関しては角と羽根を他の面々にも見せておく必要があるしな。)

 

 そのあたりはアルベドとジルクニフが上手い事やってくれるだろう。

 アルベドは計算通りと言わんばかりに羽をはためかせ、セバスはいつも通り静かに頷いた。

 

 

 

―――― バハルス帝国 帝都アーウィンタール皇城

 

 今日はモモンガが皇城に登城する日。

 謁見の間にいる人物は皇帝ジルクニフ、三重魔法詠唱者(トライアッド)フールーダ、帝国四騎士、ロウネ率いる文官衆、帝国8軍の将軍達、そして鮮血帝の粛清を乗り越えた優秀な貴族たちであった。

 これほどの陣容は国賓を招待する時くらいだ。

 この場に居るモモンガを知らない面々に対しては、ジルクニフがどれだけ本気かを証明するのに十分だった。

 

 各々も噂では聞いている、曰くフールーダを超えるマジックキャスター、曰くジルクニフに並ぶ程の英知を持つ者、曰く400年の時を生きる不老不死、どれもが眉唾過ぎて誰もが半信半疑。

 レイナースの呪いを解くことができる聖人。隠していた右半分の顔を見せるように髪形を変えたレイナースを見た者達はそれだけは事実だと理解していた。

 

「陛下、モモンガ様が到着なされたようです。」

 

「あぁ、こちらに通してくれ。」

 

 ジルクニフは余裕の笑みを貼り付けてモモンガを通すように指示する。

 

(アンデッドの姿では来るなよ……!ここでアンデッドとなってメリットがあるとは思えん。だが、アイツなら余の想像を超えてくる事は十分にある……!)

 

 対照的にフールーダは大師匠の到着が待ち遠しくて仕方ないという雰囲気だ。

 

「ここに居るものは分かってはいると思うが、念のためにもう一度言おう。

 モモンガに対する非礼は決して許さん。

 まぁ、余が許さぬ前にフールーダが許さんだろうがな。」

 

 ここに居る者達はジルクニフが愚か者ではないと判断した者のみだ。

 普段なら分かっている筈だと口にはしないが、今回ばかりは念のため、そしてモモンガが何してくるか分からないため、釘を刺しておくことにした。

 それを分かっている者達は一層気を引き締める。

 それにフールーダの顔を見れば嫌でも分かるというもの。彼の魔法狂はここに居る者達には周知の事実。

 そのフールーダがあんな顔をするのだ、間違いなく私怨を買う。

 万が一があれば貴族たちはフールーダの魔法に関する全ての伝手を失うだろうと推測できた。

 それくらいにヤバい顔をしている。

 

「それではモモンガ様、ご入場」

 

 案内の者はどこか不安げな様子で扉を開ける。

 わずかな揺らぎが波を打ち始める。

 

 

「……………………」

 

 

「………………………………」

 

 

「…………………………………………」

 

 

 扉の先には誰もおらず、何も起こらない。

 

 

「……………………」

 

 

「………………………………」

 

 

 何事だろうか?と周囲がざわつき始めた瞬間、レッドカーペットの上に3人の人物が立っていた。

 

 

 あまりに突然の事態に一瞬のあいだ時が止まる――――皇帝とフールーダ以外は。

 

 

 だが、非常に良く訓練された騎士たちは臨戦態勢を取ろうとするが皇帝は手を上げてそれを止める。

 そしてひと呼吸落ち着いた頃、謁見の間に居る者達は三人をまじまじと見る。

 

 

 一番最初に目を引いたのが3人の左に位置する絶世の美女。

 濡れた様な黒い髪に不自然な角、胸元と腰周りが大きく開き絹のような素肌が見える純白のドレスを身に纏う。

 扇情的なドレスにもかかわらず、淑女のような印象を与えるのは美女の知的な表情からだろうか。

 そして腰周りに大きな黒い羽をつけている。

 風貌と美貌から皇帝陛下の情報にあったアルベドという秘書である事は誰もが容易に予想が付いた。

 

 二番目に目に引くのが3人の右側に立つ、白髪のダンディな執事(バトラー)だ。

 黒い執事服は上質なものである事が容易に窺え、佇まいも見事なものだ。

 貴族たちの中には自分の自慢の執事(バトラー)よりも格が高いのではないかと感じるものも多かった。

 寧ろ見る目が確かな上級貴族の方がそう思う傾向にあった。

 この者がセバス・チャンと言うものだろう。

 

 そこでこの場に降り立つものがモモンガ一行である事が

 この場に居る者達にも理解が出来た。

 

 二人より一歩前に立ち、中央に立つものがモモンガであろう。

 身に纏うローブは袖や裾に金や紫で細やかな装飾が施された純白のローブ。

 特級品である事は確かで、その質は貴族たちのものよりかは上、しかしジルクニフの纏うものより1段階下がる代物だ。

 それが貴族たちの心を捉えた。解っている奴だと。

 

 服装は皇帝陛下を超えないように調整され、自己主張の強い不和を招くものではない事。

 そして自分たちのものより上ということで、お前たちより格上の存在だと衣服だけで示したのだ。

 更に金では買えない上質な装いも、金だけではなく技量を持つものの伝手がある証左。

 

 

 そしてその顔は――――

 

 

 

 平凡(へいぼん)

 

 

 

 至って平凡、美形が多いこの中では下から数えた方が圧倒的に早い位の……。

 だが、それが高位のマジックキャスターという噂が真実であると皆に思わせた。

 フールーダも決して整った顔立ちではない。そして外交の場に立つ者達は顔も1つの武器だ。

 もちろん外交の場に立つ貴族たちも皆、顔が良い。

 そうでなくしてこれほどの待遇が高位のマジックキャスターである事を示す。

 

 貴族達には寧ろ好ましいと思うものさえ居た。

 フールーダは魔法に傾倒しすぎて、貴族的な振る舞いが全く出来ない。

 だがモモンガという存在はそれが自然なほどに出来ている。

 古代のエ・ランテル地方を治めていたのが真実ではないかとそう思わせるほどの。

 

 

(ふぅ……。また色んなことをやってくれたなモモンガ。一手で貴族たちの心を掴んだか。

 まぁそれはいい、最悪の想定だけは外してくれたのだからな。)

 

 ジルクニフはモモンガが普通に登場しない事は百も承知だ。

 各所の関所から連絡もないし、アーウィンタールに入ったとの連絡も無かった。

 そして皇室空護兵団からも上空に異常なしとの報告、これはもう転移しかないと。

 

 フールーダはモモンガなら自分の想像も付かない事を魅せてくれると勝手に思っていただけだった。

 

(だが、こんな奥まで、この場所まで一息で跳んで来るか。恐ろしいものだ)

 

 もちろん、普通は出来ない。

 モモンガは完全不可知化(パーフェクト・アンノウアブル)で一度この場所に来ているから出来た芸当なのだ。

 

 

「よく来てくれたモモンガ。キミの事だ、どんなサプライズを見せてくれるか楽しみだったよ。」

 

 ホントは胃が痛くて仕方なかったが、ここは皇帝たる振る舞いを必要とされる場である事は理解している。

 

「ありがとうございます皇帝陛下。皆様の疑問を解消する為にはこの方法が一番かと思いましたので。」

 

「ということだ。彼が新しくバハルス帝国に加わってくれたモモンガだ。」

 

 ということだ。ではありませんと心の中で思う側近たち――――とモモンガ。

 頭の良い者達は言わなくてもわかってる前提で進めて行くのは本当に困る。

 

 

「あぁ、そうだモモンガ。今度の戦争で魔法を披露してくれるとの約束をしたと思うが、どの様な魔法を使うか決まったのかな?」

 

「えぇ、皆と相談しましたところ、2パターンのアイデアが出来ましたので、陛下にお選び頂こうかと。」

 

 ジルクニフとしてはモモンガの脅威度を測るため、強力な魔法を使ってくれと提案した。

 この場で「強力な」という文字を抜いたのは、有事の際に自分はそんな事を言った覚えが無いとシラを切る為だ。

 だが、2つから選べと言われると毛色が変わってくる。

 モモンガの提案をジルクニフが決めたことになるため、有事の際に責任を負うことになる。

 ジルクニフは自分の策が見破られている事を確認した。

 

「ほぅ、その2つはどんな魔法なのかな?」

 

「魔法というより作戦ですね。

 1つ目は【最優】の作戦。魔法を駆使してこちらの被害が無いのは勿論、敵兵士達すら被害を最小限に完全勝利する作戦。

 2つ目は【最凶】の作戦。殲滅力の高い魔法を使用して、敵全軍を殲滅し勝利する作戦です」

 

 モモンガとしては「1」がオススメだが、ジルクニフは鮮血帝の異名をとる。

 万が一血を好む作戦を良しとするならば「1」は気に入らないだろうと「2」の作戦をバックアッププランとして用意しておいたのだ。

 

(15万以上の兵を殲滅出来ると豪語しておいて余に選択させるか!

 正直実力を見てみたいという思いはあるが、そんな選択をしてはバハルス帝国は世界の敵になる。

 その手札をチラつかせて選択させぬとは……!

 くそっ!余の作戦をまんまと逆手に取られたか!)

 

 皇城まで容易く侵入でき、10万以上の人間を殲滅できる。つまりアーウィンタールを容易く死の都に出来る。

 モモンガはそういったとジルクニフには聞こえてしまった。

 もちろんモモンガはそんな事考えてはいないが。

 

 そこでジルクニフはふと思う。

 

(爺の話では死の騎士(デス・ナイト)一体で10万の都市を落とせるといってたな。

 とするならば既にその力量は示している。再確認だという事か。

 態々警告してくれているとはありがたいことだ。)

 

 とっくに帝国を殲滅できる手札は見せられていたことにジルクニフは不思議な安心感を覚える。

 自分が策を巡らせても無駄なのだ。

 【余計な事をするな】今回のメッセージはそれを含んでいるんだろうと。

 だからといって何も手を打たないなどありえないが。

 

「ほぅ、非常に悩ましいところだが、やはり1つ目の作戦がいいだろう。

 王国はいずれ帝国の一部となる。つまり未来の臣民をむやみに殺す必要はない。」

 

「ハッ!畏まりました皇帝陛下。

 ではその様に準備の方、進めさせて頂きます。」

 

 モモンガはジルクニフの思い込み(なやみ)など露知らず「1」でよかったと思うのだった。

 

 

 

 

「そうだ、モモンガ。貴公には取り急ぎ伯爵の地位を用意しておいた。」

 

 伯爵という言葉にアルベドとセバスが僅かに不快感を纏う。

 その程度かと。

 

「だが、次の戦争においての活躍により大公の席を新たに用意してある。

 貴殿のために新たに創設したのだ。この席を空位にしないでくれよ?」

 

 バハルス帝国の貴族は男爵~公爵までしか存在しない。

 つまりモモンガは公爵より上位の存在、皇国貴族の序列2位としての席を用意された。

 第1位は皇帝なのだからここが最高位となる。

 

 それならばとアルベドとセバスも不快感を抑えた。

 二人からすれば、その地位は既にモモンガが手にしたも同然だからだ。

 

 

 モモンガの高待遇に、ここに居る貴族たちはさぞや不快だろうと思いきや、案外そうでもなかった。

 既にその様な根回しがあったし、宮廷貴族になったとはいえ派閥は当然としてある。

 そこに無所属の一大勢力が現れたのだ。パワーバランスを傾けるのに何とかして派閥に取り込みたいと、モモンガの所作を観察している。

 何に興味があるか、如何すればこちらに靡くか。

 

 それだけでなく、依然として貴族の力を持ち続けるには相応の資金が要る。

 つまり彼らは商会の長や有力な地主でもある。

 マジックアイテムを作り出せるであろうモモンガはそちらの方面でも是非、懇意にしたいのだ。

 さらに帝国が勝利すればエ・ランテルのマーケット、さらにトブやアゼルリシアの素材が手に入るかもしれないと皮算用までしたくなるほどに。

 それほどまでに、モモンガは存在が宝の山なのだ。

 

「身に余る光栄です――――」

 

 モモンガが(うやうや)しくジルクニフの言葉を受け取ると、ジルクニフは「うむ、励めよ」とうなずいた。

 

 

「もう1つ忘れていたよ。アーウィンタールでの住まいはもう得ているのか?」

 

「いいえ。まだで御座います陛下。」

 

「そうか、それなら丁度いい屋敷がある。掃除は済ませておいたから好きに使うといい。

 ハウスキーパーはキミの拠点からつれてきてもいいし、ここで雇ってもいい。好きにしたまえ。」

 

(ここまで手厚くしてくれるのは嬉しいけど、受け取って良いのかな?)

 

 モモンガが判断に迷っていると、アルベドから小声でフォローが入る。

 

『お受け取り下さい。』

 

(まぁ、アルベドがそういうのなら。)

 

 モモンガはジルクニフからの下賜品を受け取る事にした。

 ジルクニフにとっては爵位を剥奪して没落した貴族が売り払った空き家を渡しただけに過ぎないし、ハウスキーパーを雇っても良いといえば、他の貴族が自分の手の者を送り込むだろうと考えたからだ。

 自分ひとりの視点からではモモンガの動向を掴み続けるのは難しい。だが、多方面からの目によって思惑の欠片でも掴めるかも知れないとの判断だ。

 もちろんアルベドもそれを理解しているからこそ、モモンガに引き受けることを助言したのだ。

 モモンガの偉大な功績を可能な限り、バハルス帝国に知らしめるために。

 

 

 モモンガの顔見せは無事終了した。

 この後は軽い立食パーティーがあったが、モモンガは基本的な応対をアルベドとセバスに任せて、場の空気に慣れることに精一杯だった。

 立食パーティとしたのは、テーブルマナーを知らないモモンガに配慮しての事だ。

 元々フールーダの様に、貴族的な振る舞いは全く出来ないという前提条件だったのだから当たり前だろう。

 

 他の貴族たちもモモンガの振る舞いを見てなんとなく、貴族的な振る舞いも少しは出来る高位のマジックキャスターという立ち居地に収まった。

 つまりはフールーダの上位互換というわけだ。

 

 

(あぁ~~~…………疲れた――――)

 

 

 これはジルクニフ、モモンガどちらの言葉なのだろうか。

 

 

 




ここでの公爵はDuke(諸侯の称号)という感じです。
大公はその上、偉大なる公爵という扱いでお願いします。
公爵関連は王族血縁者だったりややこしいので、この作品ではそういうことで。


●小話1:ロクシー

「ロクシー。お前の目から見てモモンガはどういう奴だった?」

 ジルクニフは立食パーティーに同席させたロクシーに聞く。
 バハルス帝国に益をもたらすか害をもたらすかだ。

「非凡と平凡が上手く融合した様な……不思議な感じですね。
 人望は高く、陛下のように下を率いるというより、下が彼を支えるという感じでしょうか。
 ただ支えられるだけでなく、時折見せる非凡さが下の心を惹き付けるという様な……。
 申し訳ありません。上手く言葉に出来ないようです。」

「確かにアルベドもセバスも非常に有能だったな。
 今日のモモンガは平凡という感じがした。表向きはな。
 あいつは上手く真実を隠す。帝国にはどうだ?」

「陛下が行動を誤らなければ益をもたらすでしょうね。
 欲は凡人並みにはありそうですが、大義という芯を持っていそうです。
 そのあたりを陛下が見極められるかが鍵でしょう。」

「大義か……。」

「最後に、性格は非情にもなれますが、基本的に穏やかなタイプでしょうね。」

(うむ……。穏やかなアンデッド?余計わからないな。)

「さ、考え事をしているくらいなら跡継ぎを作る仕事でもして来なさいな。」

 ロクシーの部屋から追われて、ジルクニフは考えつつも今日の夜の仕事を果たしに行く。
 ジルクニフとしてはロクシーはありだと思うのだが、ロクシーがそれを許さない。
 帝国の顔なのだから華やかでなければならない。顔も武器だと。

(それも分かるのだが、王佐の後継者を産んでもいいと思うのだがな。
 有能であればすげ替えようと思っているのがバレているのだろうな。)



●小話2:フールーダとジルクニフ

「爺よ。お前だけにこの話はしようと思う。お前なら知って尚変らない確信がある」

「ふむ、陛下――――いや、ジルよなんですかな?」

「モモンガがアンデッドだとしたら如何する?」

「どうもこうもしませんな。死霊魔術師にとって意思を持ったままアンデッドになるのは理想の1つですからな。常識ですぞ?
 永遠に研究できるなんて最高ではありませんか。」

「常識なのか……。」

 結局は研究の為、マジックキャスターは探求者ばかりなのかとジルクニフは思う。

「なるほど、精神魔法耐性のマジックアイテムを持つ陛下の目にも両方の姿が映ったのですな。
 ふむ、人でありアンデッドでもある。神の如き力であれば可能なのかもしれませんな。
 フフフ、意外と真の姿は竜なのかもしれませんぞ。」

(なるほど、2つの姿で全てとは限らないか。これは盲点だったな。)

 ジルクニフの勘違いは更に加速する。
 決してフールーダは嘘を言ったわけではない。第10位階を使いこなすモモンガならば何でもありだと、そう思っただけなのだから。


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