モモンガ式領地経営術   作:火焔+

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11. 戦争前夜

―――― カッツェ平野【モモンガ視点】

 

 開戦の一週間前、俺はカッツェ平野のバハルス帝国軍要塞に足を運んでいた。

 本来ならば、3日前か前日入りする予定だったのだが、パンドラズ・アクターから建前でもヤル気を見せておくべきと言われたからだ。

 

 偉い人とはあまり会いたくないんだけどそういわれたら仕方ない。

 よくよく考えると連れて行くアンデッドたちに慣れて貰うのと、労働力としての試供の場が持てたと思えば中々悪くない。

 きっとパンドラズ・アクターはそこらの事まで考慮してくれたのだろう。

 

 

「――――モモンガ閣下ようこそおいで下さいました。

 私が閣下の護衛をさせていただく事になりました、ニンブル・アーク・デイル・アノックです。

 デミウルゴス様もようこそ。」

 

 金髪青眼のイケメン伯爵で帝国四騎士「激風」の、天にニ物以上与えられたニンブルが敬礼で迎えてくれる。

 今回はデミウルゴスを護衛につけた。アルベドは悔しがっていたが、こういう場は女性をあまり受け入れないから仕方ない。

 

「出迎え頂き有難う御座います。ニンブル殿それと――――」

 

「モモンガ大師匠!お待ちしておりました!」

 

 何故か居るフールーダ。

 いや、デミウルゴス曰く俺の活躍を「絶対に」「絶対に」見に行くとジルクニフに直談判して、ダメなら勝手に行くと駄々をこねてこっちに来たらしい。

 まぁ、帝国の防諜はナイトリッチ達にやらせているので、ジルクニフの安全は問題はないが……

 好きにさせておこう。

 

「あぁ、フールーダも息災か? あまり陛下を困らせるなよ。」

 

「申し訳御座いません。大師匠の活躍をどうしてもこの目で見たく……」

 

 俺に言われると反省するのか……。

 公私はもう少し使い分けてくれると嬉しいのだが。因みに俺を大師匠と呼ぶのは、ナイトリッチ、星幽大図書館の司書(アストラル・ライブラリアン)が師匠でその師匠だかららしい。俺は弟子を取ったつもりも、フールーダを孫弟子にしたつもりもないが、この状況を見るにそうしとかないと色々面倒そうだ。

 

 

「それと、ニンブル殿。何故私を閣下と呼ばれたのでしょう?」

 

「モモンガ閣下が伯爵に封ぜられたからです。」

 

 そういえばそうだった。

 「トブ北東領」「トブ南東領」を伯爵領として先んじて貰っていたんだった。

 貰ったんだから魔物が人里に降りないように整備しておかないと。

 

「ちなみに私は騎士としての肩書きを主としていますので、敬称は使わないで頂けると助かります」

 

 ニンブルも伯爵だが帝国四騎士の肩書きを誇りにしているため、閣下と呼ぶのは非礼に当たるらしい。ややこしくて大変だ……。

 

「分かりましたニンブル殿。

 それでこれから呼び出す私の兵たちは何処に置けばいいでしょう?」

 

「あのあたりの一面を閣下のエリアとしておりますのでお好きに使いください。」

 

「ありがとうございます。それでは呼ぶとしましょう」

 

 ニンブルは呼ぶ?と不思議がっていたが、フールーダはまた上位転移(グレーターテレポーテーション)が見れるのかとワクワクしていた。

 

(違うんだよなぁ。)

 

『シャルティア。転移門(ゲート)で部隊を送ってくれ』

 

『お任せ下さいでありんす。』

 

 俺は伝言(メッセージ)でシャルティアに連絡を取って俺のいる座標にゲートを開いてもらった。

 そこから出てきた者達は――――

 

 

「で、死の騎士(デス・ナイト)……そ、それに……何に騎乗を……」

 

 ニンブルは大きく目を見開いて驚く。予想はしていたのだろうが、やはり実物を見ると違うのだろう。

 そしてフールーダは見た事のない魔法に喜びつつも――――

 

「ニンブル殿。死の騎士(デス・ナイト)の方々が騎乗されているアンデッドを知らぬのは不勉強が過ぎますな。沈黙都市はご存知かな?」

 

「ま。まさか……魂喰らい(ソウルイーター)ですか」

 

「正解じゃ。私も生で見るのは初めてではあるが――――なるほど、これ程の迫力。3体で10万のビーストマンを滅ぼしたのも頷ける。」

 

 帝国軍は死の騎士(デス・ナイト)までは知らずとも沈黙都市で有名な魂喰らい(ソウルイーター)は誰もが知っている。

 そのような強力なアンデッドがカッツェ平野で生まれない様にするために、多額の予算を割いてアンデッド狩りをしているのだから。

 

 そんな死の騎士(デス・ナイト)魂喰らい(ソウルイーター)がそれぞれ100体ずつ転移門(ゲート)を通って出てくる。

 この2種のアンデッドにしたのは、横で控えているデミウルゴスの案によるものだ。

 曰く、強さが分かり易いモンスターの方が相手に強い印象を与え易い。

 そういう意味ではエルダーリッチでも良かったのだが、それではレベルが低すぎて(Lv22)ナザリックの品格にはそぐわないとの事。

 帝国の騎士たちは冒険者換算だと鉄~金。レベル換算だとLv15未満だからエルダーリッチでも十分だとは思うんだけどね。

 デミウルゴスによると帝国軍で倒せるシモベを連れてくる事自体がダメらしい。

 次に出てくる予定のシモベもそのあたりを考慮している。

 

「モモンガ大師匠。死の騎士(デス・ナイト)魂喰らい(ソウルイーター)の方々はこれで全てで御座いますか?」

 

「あぁ。これくらいで十分かと思ったが、足りないか?」

 

「滅相も御座いません。十分というより過剰なほど。」

 

 フールーダは戦力の十分さを分かってくれたようだが、ニンブルには過剰すぎて上手く伝わらなかったようだ。

 

「フールーダ老、この戦力は一体いかほどなのでしょう?」

 

「そうじゃな。魂喰らい(ソウルイーター)は3体で10万のビーストマンに相当する。

 死の騎士(デス・ナイト)は倒した相手をゾンビとして従えるが、その強さがまた相当じゃ。

 ひとりひとりが疲れを知らぬ白金級冒険者の実力を持つ。死の騎士(デス・ナイト)殿であれば、2人で人間の10万人の都市を滅ぼすのは容易いだろう。」

 

 確かにスクワイアゾンビは、この世界では死の騎士(デス・ナイト)の半分のレベル17~18になる。

 

「つまりここに居られる死の騎士(デス・ナイト)魂喰らい(ソウルイーター)の方々で800万の敵を一日で滅ぼせるという事だ。

 この数は王国国民900万人、帝国国民800万人に相当するな。今回相手する王国兵26万など、鎧袖一触といってよいだろう。」

 

「そ、それほどなのですか……」

 

 ニンブルは200体しかいないアンデッドたちを見て顔を青くする。

 これが帝国を滅ぼせる軍隊と。

 

「そこまで身構えないで下さい。フールーダですら帝国全軍を相手取り、その上勝つ事も出来るのでしょう?

 多少の規格外など今更とは思いませんか?」

 

 ニンブルは確かにその通りかと納得してしまう。

 ひとりで帝国全軍と200体で帝国全てと考えれば、フールーダのほうが規格外だからだ。

 

 

「さて、もう1部隊も出していいかな?

 こちらは衛生兵なのだがね。」

 

 ニンブルの了承を得るとシャルティアに指示して次の魔物を出してもらう。

 こっちは金貨で召喚した魔物だから、正直磨耗はして欲しくない。

 

 そう思いつつ、威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)が20体転移門(ゲート)から出てくる。

 

「こいつらは威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)。帝国騎士達の衛生兵としてつれてきた。アンデッドにはダメージになってしまうからね。」

 

「そうですね。アンデッドにとっては神聖魔法は天敵ですからね。」

 

 ちょっとしたジョークを交えたのだが、ニンブルは分かってくれて、フールーダは口を開けたまま固まっていた。

 フールーダは威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)の力が分かるようだ。

 

「大師匠……。この天使は主天使(ドミニオン)なのですか……?」

 

「そうだ。」

 

「第7位階の天使召喚で光臨為されるあの……最高位天使」

 

 どうやらスレイン法国の事情に詳しい者はわかるらしい。

 第2位階で天使、第3位階で大天使、権天使、能天使、力天使、主天使と続くことを。

 ちなみに第7位階で終わりとされているらしく、座天使(スローンズ)智天使(ケルヴィム)熾天使(セラフィム)は存在も知らないらしい。

 スレイン法国の上層部は知ってそうだけどね。

 

 その話を聞いたニンブルは笑顔のまま固まっていた。

 ちょっと刺激が強すぎたようだ。

 

 まぁ、主天使(ドミニオン)は帝国、王国というより法国宛のメッセージで連れて来たからね。

 見てるんだろうきっと。

 

 

「さて、お前たちは別命があるまではあの開けた区画で待機していろ。」

 

 俺が死の騎士(デス・ナイト)たちに命じると、兵士の行進のような綺麗な隊列で行動を開始した。

 

 

 

―――― カッツェ平野 帝国軍要塞【モモンガ視点】

 

「本当に宜しいのですか?」

 

 帝国第二軍の将軍ナテル・イニエム・デイル・カーベインが俺の破格の提案に自分の耳を疑っているようだ。

 

「ええ、私の私兵は傭兵のように扱ってくだされば結構です。

 今からでは連携も難しいでしょうし私は軍人ではありません。本職に預けたほうが有効利用してくださるでしょう?

 あなた方の命に従うように指示しておきますので。」

 

 実際は万が一の為に帝国軍の盾として連れて来たアンデッドで、本命は当日までのお楽しみだ。

 

「万が一、王国内に私と同等の力を持つものがいた場合、アンデッドたちを盾にして退いて下さい。

 私の全力で貴方たちを巻き込むわけにはいきません。

 その場合【最優】の作戦は失敗となるでしょう。」

 

 正直、強者がいなければ死の騎士(デス・ナイト)を一列に並べて前進させるだけで勝ちきるだけの戦力を持ってきたつもりだ。

 自分の力を見せる作戦で帝国兵士に怪我をさせるわけには行かない。

 

「わかりました。モモンガ閣下の兵たちを預からせていただきます。」

 

 ナテル将軍は本当にいいのだろうかと怪訝な顔をしているが、今後もこういうことはあると思うしその辺りは慣れてもらおう。

 

「それと、死の騎士(デス・ナイト)も周囲の警備の仕事を与えてやっては下さいませんか?

 彼らも暇を持て余すのは本意ではないでしょう。」

 

 そう、ここが大事だ。

 このために1週間前に来たといっても過言ではない。

 

 アンデッドの警備兵。寝ない、気を抜かない、疲れない、賄賂に靡かない。良い事尽くめだ。

 だが、騎士達の仕事を全て奪ってはアンデッド達に良くない気持ちを持つというものだ。

 その様な采配は本職に任せるべきだ。一応貴族の自分が言う以上、全く使わないということは出来ないだろうし、使える肩書きは使わせて貰おう。

 死の騎士(デス・ナイト)たちにドッグタグの様な大きな名札をつけたのも、カッツェ平野で他のアンデッドと俺のアンデッドを見間違わないようにとの考えからだ。

 

「はっ、モモンガ閣下のご好意、ありがたく頂戴します。」

 

 

 

 ナテル将軍は本当に死の騎士(デス・ナイト)たちを上手く使ってくれた。

 魂喰らい(ソウルイーター)は自衛の出来る物資運搬に。

 威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)は騎士達の傷や病気の治療。

 死の騎士(デス・ナイト)は付近を哨戒する騎士達のパーティーに加えられて警備に当たっていた。

 死の騎士(デス・ナイト)のヘイトを集めるスキルで遭遇するアンデッドの攻撃は大体死の騎士(デス・ナイト)に向く。

 上手くタンクとして機能した死の騎士(デス・ナイト)を援護するように騎士達がアンデッドを駆逐していく。そういう使い方だった。

 騎士達も最初は敬遠していたが、自分の命が懸かっている場で頼もしい活躍をすれば、その様な気持ちも溶けていって意外なほどに上手く受け入れてくれた。

 アンデッドは敵であって倒すものという今までの固定概念はあるものの、実利がそれを上回った形といえよう。

 命の危険がある仕事ほど、固定概念(それ)どころじゃないのかも知れないな。

 

 あとは、思ったとおり夜間の警備には大きく役にたってくれた。

 初めて6軍全軍を召集したが、今までで一番戦争の準備が整え易かったとナテル将軍に感謝されるくらいだった。

 こちらとしても、アンデッドの使い方を学ばせて貰ってありがたかった。

 

 

 

 そして学ぶ事の多い日を過ごしつつ決戦当日を迎える――――

 

 

 

 




誤字報告ありがとうございます。

●小話1:占星千里と風花聖典

「あ、あれは……あのお姿は最高位天使」

 スレイン法国の漆黒聖典が第七席次「占星千里」はモモンガが連れて来た20柱の威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)を見てうろたえる。
 魔神をも倒すその強さは六色聖典で知らぬ者はいない。

「風花聖典の半数はこの事実を本国に届けてください。」

 風花聖典は占星千里の指示で瞬く間に行動を開始した。
 彼らとしても本国に報告せねば無ければならない重要な方法である事は明白だからだ。

「一体、あのモモンガという者は何者なのでしょうか……?」

「わかるわけないわ。事実として最高位天使の威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)死の騎士(デス・ナイト)魂喰らい(ソウルイーター)を配下に持つもの。あの傍に控える悪魔もね。」

 占星千里も風花聖典もしやという期待がよぎる。
 もしかしたら従属神様かもしれないという。

「六大伸様の命によってトブの大森林で活動為されていたという可能性は……」

「早計ね。そう思いたい気持ちもわかるわ。そうである場合、何故スレイン法国へお戻り頂けないのか、その理由がつかめないし。
 『神人』または『ぷれいやー』かもしれないし。」

 天使とアンデッドと悪魔、そしてそれを従える者が弱いはず無い。
 それだけの力を持つ場合、『従属神』『神人』『ぷれいやー』そのあたりが妥当。エルフの王の様にその限りではない場合もありはするが……

「騒動を見る限り『人類の敵』という雰囲気はないけれど……」

 雑務や警備をこなすアンデッド、治療にあたる最高位天使を見る限り『八欲王』の様な自己の欲で動く非道な存在で無い事はわかる。

「やめましょう。私達で考えて分かる事ではないわ。どのように接するかは本国の決める事
 私達は事実を集めて伝える目となる事。」

 ブレザーとプリーツスカートを身に纏う女子高生の様な占星千里はこの後に起きうる事態を目に焼き付けんと翌日に迫る開戦に臨むのだった。


●小話2:ジルしってるか?天使はりんごしか食べない。

「なんでこんなにリンゴが多いんだ?」

 物資を運ぶ騎士はいつもとは違う物資を不思議に思う。

「モモンガ伯が連れて来た天使様の食事なんだとよ。」

「そうだったのか。俺も腰痛めたときお世話になったし、ちゃんと運ばないとな。」

 威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)は怪我だけじゃなく持病なども治癒してくれるため、帝国騎士には人気があった。
 天使はアンデッドと違い食事をする。
 ホントは果物系なら何でも食べるのだが、モモンガがふざけてリンゴしか食べないと言ったらこうなってしまった。
 モモンガは慌てて訂正したが、逆効果でモモンガが遠慮したと思われてしまったのだ。
 そういう如何でもいい経緯があって威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)はリンゴしか食べれない生活を送っている。


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