モモンガ式領地経営術   作:火焔+

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13. ほぼ無血勝利

 

―――― カッツェ平野【モモンガ視点】

 

 作戦を終えて戻ってきた場所は動物園さながらの煩さだった。

 

「私を誰だと思っている!! ボウロロープ卿の寄子であるバクロ伯爵家当主であるぞ!!」

 

 勿論動物は未だに状況を理解できていない貴族(バカ)達だ。

 幸い六大貴族と王は状況を理解しているらしく、大人しくしている。

 

(全員が大人しければ次の手を打たなくて済むというのに……)

 

「デミウルゴス、頼む。」

 

「はい、お任せ下さい。」

 

 支配の呪言で黙らせるわけではない。

 自ら黙りたくなるような生贄を捧げさせるのだ。

 その生贄は3人。

 

 ナザリックのメイドとして仕えているツアレニーニャを攫って弄んだ挙句、特殊な性癖を持つ客のための娼館に売り払った男爵。

 自分の領地で麻薬『ライラの粉末』を生産させ、ゲヘナ後に蜥蜴の尻尾切りで村人ごと燃やして証拠隠滅した子爵。

 自分と寄子の領地で気に入った娘を見つけると、重税を課して借金のカタに奴隷として奪っていく。そして飽きたら娼館に売って利益の一部を吸い上げ続ける伯爵。犠牲になった娘は200人を超える。

 

 どれも生かしておいてはいけないクズ共だ。

 他にも色々とやらかしている貴族が居るそうだが、デミウルゴスは俺に配慮してその辺りは報告していない。

 

 デミウルゴスが片手を挙げると、後方に位置した魂喰らい(ソウルイーター)の内3体が、死の騎士(デス・ナイト)を降ろしてやって来る。

 

魂喰らい(ソウルイーター)達よ、始めなさい。」

 

 そういうと魂喰らい(ソウルイーター)達は、例の3人の閉じ込められている檻に向かって駆け出す。

 

「ひっ! ひぃぃ!!」

 

 魂喰らい(ソウルイーター)は猫がネズミで遊ぶかのように、檻を叩いたり(かじ)ったり、タックルしたりする。

 鉄の檻がひしゃげない程度に手加減しているが、中にいる貴族は鉄格子に体が叩きつけられて腕が曲がってはいけない方向に曲がっている。

 

「た、たすけっ! ぐぇ゛っ……!」

 

 瀕死になると威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)が第6位階の治癒魔法大治癒(ヒール)で直ぐさま回復させる。

 簡単には死なせないという算段だ。

 この光景をもってうるさい貴族(サル)共を黙らせるわけだ。

 それを悪魔であるデミウルゴスがやるから余計に効果がある。

 

「申し訳御座いません。この子達はチューチューと喚くネズミを見ると獲物だと思って遊んでしまうのですよ。」

 

 ニコリと微笑みながら謝るデミウルゴスをみる貴族たちは顔を青くして手で口を押さえる。

 絶対に楽しんでいると思わせるためだ。多分、楽しんでいるとは思うけど。

 デミウルゴスもストレスが溜まっていると思うし、心が痛まない相手ならデミウルゴスのストレス発散に使ってもいいかもしれないな。

 

 

 10分くらい経った後、3人の貴族は子供に弄ばれた人形の様にボロボロになって息絶えていた。

 

 

「どうやら、お静かになったようですね。」

 

 モモンガがあたりを見渡すと誰一人として口を開く者、開こうとする者さえ居なかった。

 

「さて、ランポッサⅢ世国王陛下。お初にお目にかかります、私はバハルス帝国にて南東トブ領伯爵を拝命しているモモンガというものです。」

 

「お、おぬしが、400年前の古地図を持つ者か?」

 

 ランポッサⅢ世は俺に怯えつつも思ったより冷静に受け答えする。

 甘い人物との評価だったが意外と肝が据わっているようだ。

 

「ええ、あの地図の持ち主です。」

 

 古地図ではないので、敢えて地図と言い直して返答する。

 それを如何解釈するかは俺の知るところではない。

 

「そうか……。この状態を作ったのも貴殿か?」

 

「そうです。」

 

「そうか……。あの時、正しい選択を出来ていれば……」

 

 恐らくカルネ村を救った後に、貴族会議で俺を招聘しようとしたが貴族派閥に一蹴されたときのことだろう。

 あの時は俺もまともではなかったし、結局無駄だっただろうが。

 

「失礼かとは存じますが、早速本題に入っても宜しいでしょうか?

 敵国とはいえ、国王陛下を閉じ込めておくのは礼を欠くと存じますので。

 ですが今は戦争中ですので、どうかご容赦願います。」

 

 つまり戦争が終れば牢から出すと言外に言い含める。

 

「頼む……」

 

 初めから覇気はないが、更に草臥(くたび)れた様に頷く。

 

「陛下自らの口で、この戦いを王国の完全敗北として宣言して頂きたいのです。」

 

 ランポッサⅢ世は既にその状態だろうと訝しむ。

 

「ご推察の通りですが、しっかりとした宣言がないと終わるに終われないものでして。

 こちらの勝利宣言でも構わないのですが――――わかるでしょう?」

 

「敗北を言わせた方が諸外国には効果が高いじゃろうな……。だが……」

 

「和平条約に関しては皇帝陛下とお話し下さい。

 それに口を出す権限は私には御座いませんので。」

 

 何とか譲歩を引き出そうとランポッサⅢ世は食い下がろうとするが、俺はそれを許さない。

 王国の主だった貴族が捕虜なのだ。エ・ランテル周辺、トブの大森林西側、カッツエ平野だけで済むはずがない。

 帝国としては和平条件でゴネて捕虜返還を引き延ばすだけで大きな効果がある。

 

 当主の居ない貴族領は大きく衰退するだろう。

 幾ら次男などの予備が居ようとも当主ほど上手く領を運営できない。

 居ない方がいい場合もあるが、やはり統治は必要なのだ。

 

「ふむ、やはり王国兵が見える場所に居ると決意が揺らぎますか?

 では帝国軍の要塞付近までご案内いたしましょう。」

 

 その言葉に反応してデミウルゴスがもう一度手を上げる。

 すると100体の死の騎士(デス・ナイト)がこちらにやってくる。

 そしてそれぞれ3つの檻を積み重ねて持ちあげる。

 中にいる貴族は鉄格子にしがみ付いてブルブルと震えるだけだ。

 

 因みにランポッサⅢ世の檻は俺が持って移動した。

 死の騎士(デス・ナイト)に持たせて万が一があっても困るからだ。

 

 死の騎士(デス・ナイト)の歩みを邪魔しないように帝国騎士たちは道を開けて要塞付近まで王国貴族たちを運んだ。

 そこにはニンブルとフールーダが敬礼をして待っていた。

 

「お疲れ様ですモモンガ閣下。まさか無血で敵国の貴族を捕虜になされるとは。」

 

「さすがで御座います!モモンガ大師匠!!やはり魔法は如何に使うか、それを改めて勉強させて頂きました!」

 

 

「無血ではありませんよ。少しながら血を流してしまいました。」

 

「戦争で3人でしたら無血といっても過言ではありません。」

 

「ありがとうございます。それではニンブル殿、後の事はよろしくお願いします。私は念のため前線に戻りますので。」

 

「はっ!閣下の功績、必ずや帝国の為になるよう使わせて頂きます。」

 

(必要であったとはいえ、やっぱり楽しいものではないな。)

 

 俺はボロを出さないようにランポッサⅢ世の相手を本物の貴族のニンブルに任せて前線へと戻る。

 ここでプレイヤーとの戦闘になるわけには行かないのもあるし。

 

 

 

 結局、スレイン法国は全く動かず静観しているだけだった。

 プレイヤーの存在はないのか、それとも俺達を敵対勢力と思わなかったのか。

 現状だけを見ると人間に対してむやみに血を流させない存在と映るだろう。

 ただ――――

 

 【人間至上のスレイン法国】

 

 【全存在のユートピアを求める俺】

 

 

 

 対極に位置する方針、どこかで必ずぶつかる日が来るだろう。

 

 

 

 

―――― バハルス帝国 帝都アーウィンタール皇城

 

 戦争から一週間、俺は皇城に呼ばれていた。

 

「よくやってくれた。いや、想像を絶する成果だよモモンガ公」

 

「帝国の為に力を振るったに過ぎません。」

 

 非常に上機嫌なジルクニフ。

 周りの貴族も将軍たちも歓迎ムードで満ち溢れていた。

 

「未だ和平交渉の最中だが、想像以上の領土が手に入りそうだよ。

 公の領土も加増しないわけには行かないな。」

 

 ジルクニフが言うにはエ・ランテルの西、エ・ペスペルを治めるペスペア侯をリ・ロベルに封じる事でエ・ペスペルを割譲させる事はほぼ確定らしい。

 さらに、エ・アナセルに6大貴族の誰かを封じる事でリ・ウロヴァール、リ・ブルムラシュール、エ・レエブルを割譲させる事も可能だそうだ。

 ウロヴァールは北の海の港町、ブルムラシュールは王国北東の鉱山都市、レエブルはエ・ランテルの北西で王都リ・エスティーゼの東に当たる。

 これらはアゼルリシア山脈、トブの大森林を挟むので、俺が欲しなければ毎年王国から帝国に払われる莫大な賠償金が増えるだけだ。

 

「陛下、エ・ペスペル領だけでも十分過ぎます。」

 

「そうか、エ・ペスペルから北上すれば王都だからな。無理に割譲させる必要も無いということか。公は欲が無いな」

 

 領地を割譲させれば俺の税金が増えるが、賠償金ならば全て帝国に支払われるため俺にはビタ一文入らない。

 それを揶揄して無欲といったのだ。

 正直、エ・ランテル、エ・ペスペルだけでも手に余りすぎる。

 

 

 因みに賠償金は6大貴族からもしっかり徴収するみたいで、どちらかの派閥が力を持つことはないそうだ。

 

 

「さて、諸君。モモンガ公がバハルス帝国史上最大の功績を上げてくれた。

 その賠償金は今までとは本当の意味で桁違いだ。

 やらなければならない事は無数にある。この交渉が終わっても暇になる事はないぞ?」

 

 

 愉しそうなジルクニフとは違い貴族達は青い顔をしているが、目は自分たちの利権が絡む産業や土地を発展させようと燃え滾っていた。

 

 

 





誤字報告ありがとうございます。

ホントはモモンガの事はランテル公と呼ぶべきなのですが、
これだとモモンガだと分からなくなるので、人名+爵位という感じで使わせてもらいます。
レエブン侯の様に家名(領地名?)の方が分かり易い場合は、今までどおりということで。
レエブンの名前がエリアスだなんて知らなかったよ……。

モモンガの呼び方は、モモンガ公orモモンガ閣下or大公閣下orモモンガ様で統一すると思います。多分ね。
公爵以上を卿とは呼んではいけないらしいので。
モモンガ公:ジルクニフ
モモンガ閣下:他の貴族
大公閣下:それ以外
モモンガ様:親しい人物

他の国の国王がモモンガを呼ぶ場合は?
わからん!誰か教えて!!

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