―リ・エスディーゼ王国国境付近― ナザリック転移門設置拠点
数日後、ジルクニフ達は古地図に記されたモモンガとの連絡拠点へと到着した。
そこには小規模ではあるが、パルテノン神殿の様な石柱が特徴的な神殿が立っていた。
「此処からでは正確には分からんが、まるで1つの石から削りだしたような美しさだな。」
ジルクニフも様々な美術品を日常で目にしているため
ジルクニフの言うとおり、石柱や屋根などの大きなパーツは1つの岩石から削りだされていた。
それだけの財力と技術がある事を分かり易く提示するために、モモンガがデミウルゴスと相談して作り上げたものだ。
バハルス帝国の面々が神殿の美しさに見とれていると、神殿の中から一人の女性が現れた。
(なっ! なんと大きい――――いや、美しい。)
男ならば誰もが引き付けられるだろう爆乳。
そして黒髪をアップに纏めた彫刻のように美しい女性。
(メロンか……いや、よもやスイカ……はっ!いかん。)
ジルクニフとて一人の男。つい見てしまうのは仕方ない。
胸元から視線を上げて美しい顔に視線を向けると視線が交差した。
ジルクニフの視線は眼鏡をかけたメイド服を着た女性に感知されていたようだ。
(しまったな。レディに対して失礼な事をした。)
「申し訳ない。貴女の知的さと美しさを兼ね備えた姿に心を奪われてしまっていたようだ。」
「ありがとうございます、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス陛下。私はユリ・アルファと申します。
モモンガ様は陛下との面会の準備をなされております。
長旅でお疲れでしょうから、しばしご休憩下さい。」
そういってユリはパンッパンッと手を叩く。
ジルクニフは神殿の中で休憩を取るのだろうとその為に荷物持ちを呼んだのだろうと思った。
だが、ナザリック(主にデミウルゴスとアルベド)がそんなに安易な応対をするわけが無い。
出てきたのは身長2m以上の黒い騎士。
顔はゾンビの様でアンデッドだという事がわかる。
それがテーブルやイスを持ってぞろぞろと出てきたのだ。
(ほぅ……。モモンガの使役するアンデッドは下男の様な仕事も出来るのか。なかなかやるな。)
ジルクニフがそう思っていると、隣から――――
「ほわわぁぁぁァァァァアアア――――――――ッッッ!!!!!! くぁwせdrftgyふじこlp――――」
歓喜に飛び跳ね、泡を吹くフールーダの奇声がこの場に響き渡る。
一体如何したのだとフールーダの方を向くと、バジウッド達四騎士や側近の騎士達が悲壮な表情をしつつも自分の得物に手を掛けようとしていた。
モモンガを招聘しに来たのだからこちらから攻撃はしてはならない。剣に手を掛けてはならない。その矜持がギリギリの所で暴挙に出ることを防いでいた。
戦士としての才覚が皆無(クラスレベルを取得していないだけだが)なジルクニフもようやく、この下男のアンデッドが只者ではない事を悟る。
「爺! いったいこのアンデッドは何者なのだっ!」
「ふはははハハハハッッ!!!! 流石は至高なる御方ァ!! 私が5年の年月をかけても全く支配できなかった伝説のアンデッドをこれ程容易く完璧に支配なされているッ!!」
瞳孔が開き狂喜乱舞しているフールーダの言葉を聞いて、ジルクニフはこのアンデッドが何者かを理解する。
「このアンデッドが
帝国魔法省の地下で厳重に封印されている伝説のアンデッド。
5年前カッツェ平野に突如現れ、帝国軍の1軍を一体で滅ぼした強大な力を持つアンデッド。
フールーダを含む高位のマジックキャスターが多大な犠牲を払いつつ、空中からの爆撃で何とか捕縛する事が出来たアンデッド。
つまり、一体でもこちらに対して敵意を持てば瞬く間に生者は存在しなくなる。
そのことを理解したジルクニフは肝を冷やす。
「この
どうかご安心下さい。」
ユリがそういい、頭を下げるとジルクニフは少しだけ冷静さを取り戻す。
(あの女性も
それなのに全く動じぬその姿勢、それに爺も危機感ではなく――――狂喜といえばいいのか……。兎も角身構えてはおらぬ。
皇帝として堂々としないわけにはいかないな。)
ジルクニフは飛び跳ねて踊っているフールーダの姿とユリの動じぬ様を見て、男として情けない姿は見せられないと精一杯の虚勢を張る。
その姿を見て四騎士たちは、落ち着きを取り戻して姿勢を正した。だが、強張った顔が
「バジウッド、お前たち四騎士があれと戦った場合勝てるか?」
「冗談を言わないでくだせぇ陛下。4対1でも数分と持ちませんぜ。
アレと戦うくらいなら同じ人間のガゼフ・ストロノーフと戦った方がまだマシでさぁ。」
アレだけ大きなタワーシールドを持つのだ。
生物相手なら防御に徹して疲労を誘い、力が落ちたところで攻めに転じるだろうとバジウッドは判断する。
そうであるなら、同じ様に疲れるガゼフの方がマシだと。王国の至宝を装備された場合はどちらとも戦いたくはないが。
そんな事を考えている間に、フールーダは
「ユリ殿や、
「はい、問題ありません。彼らの動線を遮らないで下さると助かります。」
ユリの承諾を得たフールーダは
人差し指を
「爺、みっともないぞ。」
奇行に走るフールーダを見かねたのか、ジルクニフはフールーダを嗜めた。
「問題は御座いません、皇帝陛下。フールーダ様も仕事を終えた
アンデッドに興味を持って下さるのは我が主にとっても喜ばしい事ですので。」
自身もアンデッドであるユリはこの世界でのアンデッドの評判を重々承知している。
フールーダが変わり者である事は見れば分かるが、少しでもアンデッドの見方が変るのであればと、お触りを許可したのだ。
アンデッドを世界に広めていくモモンガにとっても都合がいいはずだと。
「ふぉぉぉぉォォォ――――ッッ!!」
ユリのお許しを頂いたフールーダは、作業を終えた
骨に頬ずりをするフールーダの姿にジルクニフは手で顔を覆う。
ああなったフールーダは止まる事はない。ジルクニフはそれを知ってしまっている。
「申し訳ないユリさん。後でキツク叱っておきますので、如何か気分を害されない様お願いしたい。」
皇帝であるため頭は下げないが、フールーダの無礼な振る舞いに謝罪をしないわけにはいかなかった。
「謝罪など不要です、皇帝陛下。
モモンガ様はこの様な事態も想定されて
(なるほど、爺があれほど取り乱し、四騎士達が戦いを放棄したくなる程のアンデッドを下男として寄越す。
つまり、それだけ力があるとのアピールをしていたという訳か。
モモンガというマジックキャスターの力量を示すには最適というわけだ。)
たった1つの事柄で十分な力を示すモモンガという男にジルクニフは評価をさらに1つ上げる。
アレだけの神殿を作る財力、技術力。ユリという爆乳美女を従え、
金、女、暴力の全てを高い次元で所有するモモンガ。
エ・ランテルを所有するという事は、自身の実験を披露する場と同時に権力両方を手に入れる心積もりなのだろうとジルクニフは判断する。
「そうです。騎士の方々も
長旅で筋肉も固まっていることでしょう。
ユリが指示すると
「おぉ……モモンガ殿以外の命も聞くのか。」
「はい。モモンガ様より命令権をお借りしておりますので。」
それほど強固に支配されており、モモンガが命令権を貸せばモモンガの居ない地でも労働力として働かせる事が出来る。
ジルクニフの目にはそう映った。
「雷光、激風、重爆、不動、折角の申し出だ。受けてみてはどうだ?
このようなハンデで強者と戦う機会など、二度とないかも知れんぞ。」
ユリから回復魔法を使うマジックキャスターも控えているという話を聞いて、バジウッド達は諦め半分と好奇心半分で
「クソッ! 連携すらさせてくれねぇか!」
「速さには自信があったのですか……! これ程とはッ!」
「【重撃】が完全にはいりましたのに……。全く動じないなんて!」
「…………!!」
ジルクニフはそれを眺めつつ、ユリが注いでくれた果実のジュースを口にした。
(美味いな――――。はぁ、久方ぶりに休息が取れた気がする――――。)
ジルクニフはジュースによるバフを癒しと勘違いし、ゆっくり流れる時をまどろんでいた。
少し先では四騎士だけでなく、護衛の騎士達も
常人が見れば余りに異常な光景だが、ジルクニフは確かに何年ぶりかの休息を得ていたのだ。
しばらく時が経ち、バジウッド達は体力の限界に達し、草原に倒れこむ。
それと同時に
「それでは皆様の治療に入らせて頂きます。ルプスレギナ、お願いね。」
ユリがそういうと神殿の中から、赤く長い髪を三つ編みにした褐色肌の巨乳メイドが現れた。
「お初にお目にかかります。私はルプスレギナ・ベータと申します。
皆様の治癒はわたくしにお任せ下さい。」
ルプスレギナは調子に乗らなければ、公私をキッチリと切り替えられる。
特にユリが監視についているのだから、そうそう変な事もできないというのもあるが。
「このくらいでしたら第3位階の
「たのんます」
バジウッドの手を取り、傷の状態を確認していくルプスレギナにバジウッドはガラにも無く顔を赤くする。
「
魔法強化で効果を高めた回復魔法によってバジウッドの傷は瞬く間に回復していく。
そして、同じ魔法をかけられたレイナースはその効果の高さにあるお願いに出る。
「ルプスレギナさん、解呪の魔法に心得は御座いますか?」
「信仰系の魔法でしたら、ある程度は使えますよ。」
「でしたら――――」
ルプスレギナはレイナースが口を開こうとしたのを押し留める。
「申し訳御座いません、モモンガ様の許可無く高位の魔法の使用をするつもりは御座いません。」
ホントはそんな指示はないのだが、ルプスレギナの「イジワル8割」と「無駄に手の内を見せない2割」でレイナースの申し出を断った。
「陛下、私はモモンガ様の下に付くかもしれない事をご了承下さい。」
レイナースは(自身の顔の右半分に掛けられた呪いを解くために)自分の身を優先するとジルクニフに雇われた時に契約した。
ジルクニフもそれは了承しているので、今更反故にする事はない。
「わかった。さてさて、これで益々モモンガを帝国に招かねばならなくなったな。」
これは自身の代でもっとも大きな仕事になるかも知れんな。
ジルクニフは覚悟を決めた。
その視線の先には
「それでは皆様、モモンガ様の準備が整いましたのでこちらへお越し下さい。」
フールーダならこれくらいやる。やるよね?モモンのブーツ舐めるくらいだし。