モモンガ式領地経営術   作:火焔+

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07. モモンガ、バハルス帝国に所属する(前編)

―偽ナザリック地下大墳墓 第??階層― 玉座の間(舞台裏)

 

(はぁぁぁ――――!!! なんで皇帝がアポなしで来んの!?)

 

 人間状態だったモモンガは突然のジルクニフ訪問にパニック状態になりながらも、一般メイドたちの力を借りつつ準備を整えていく。

 

(いや、アポはあったけどね!! 30分前に!!)

 

 メッセージの魔法が信用されないこの世界で、早馬の情報速度なんてタカが知れている。

 それにジルクニフの馬車自体、異例の高速でこちらに来たのだ。早馬を責めるのは間違っているのもモモンガは分かっている。

 

 だが、モモンガの気分はこんな感じだ。

 

(客先の会社の重役と打ち合わせさせて貰って会談の段取りつけましょうね。って話だったのに、行き成り客先の社長が来ちゃったよ! しかも大企業の! 俺みたいな平社員に如何しろってんだよ!!)

 

 文句の一つも言いたい気分だが、しっかり役目をこなさないと折角デミウルゴス、アルベド、パンドラズ・アクターが考えてくれた作戦が台無しだ。

 

(あ、そうだ!こんな時こそ死の支配者(オーバーロード)じゃないか!)

 

 人化の指輪を外して死の支配者(オーバーロード)に戻ると精神安定化が発動して落ち着きを取り戻す。

 冷静さを取り戻したモモンガは着々とジルクニフを迎える準備を整えていった。

 

 

 

――――――――

 

―偽ナザリック地下大墳墓 第??階層― 廊下

 

 ジルクニフ達は神殿の中にあった一枚の大きな姿見、転移門を通ってトブの大森林内に作った偽ナザリックへと転移した。

 アウラ、マーレ達の力作であるこのダミー・ナザリックは、素材こそオリハルコンやアダマンタイトなどの低級金属ではあるものの、ナザリック第10階層にも相応しい荘厳な造りになっていた。

 

転移(テレポーテーション)のマジックアイテムにも驚いたが、この城もなんと素晴らしい!」

 

 ジルクニフは10m以上ある天井に細かな装飾が施されている壁や柱、そして今にも動き出しそうなほど精巧な彫像に魅入ってしまっていた。

 

「まさか、ゴーレムという事はありませんわよね?」

 

 レイナースの言う通りそのまさかだが、先導するユリとルプスレギナは微笑を絶やさずに深紅の絨毯の先へと進んでいく。

 

「レイナース様の仰るとおり、これらは全てゴーレムで御座います。

 此処にはゴーレムを作成する設備も揃っておりますので。

 この通路には67体の悪魔を模したゴーレムが警備にあたっております。」

 

「67体も……」

 

 ジルクニフたちは辺りを見渡しつつ先へ進んで行くと、3mもあろうかという扉が現れた。

 その隣には先ほどより大きい、天使と悪魔のゴーレムが(たたず)んでいた。

 

「陛下、この色オリハルコンですぜ……」

 

「その様だな……これが最強のゴーレムか。」

 

 ナザリックにとっては最弱のゴーレムに等しいのだが、そんな事をユリたちがいう必要はない。

 本来ならばもっと高位の金属で作られたダミーレメゲトンの悪魔たちが並んでいるのだが、デミウルゴス達によりバハルス帝国の者達にもわかる金属で作成された超劣化レメゲトンの悪魔たちが設置されたのだ。

 

 

「皇帝陛下。この部屋にモモンガ様方がおられます。

 このまま御進みください。

 私達は此処から先に入る権限が御座いませんので。」

 

 ドアマンと化したオリハルコンゴーレムが扉を開けると、ジルクニフは先頭に立って玉座の間へと入っていく。

 

 

――――――――

 

―偽ナザリック地下大墳墓 第??階層― 玉座の間(舞台裏)

 

 ジルクニフ達が廊下のゴーレムや調度品に驚いているのと時を同じくして

 

「アルベド……本当にいいのか? デミウルゴスの様にそのままという選択肢もあるのだぞ?」

 

 モモンガは心配そうにアルベドを見つめている。

 

「はい、問題は御座いません。こちらの方が今後動く際に自由が利きますので。」

 

 アルベドはそう言いつつ、自分の頭から生えている角を掴んだ。

 そして――――

 

「ふんっ!!」

 

 ――――バギッッ!という音と共にアルベドの角が根元から折れた。

 2本ともだ。

 その角を予め用意しておいたヘアバンドに括り付ける。

 

(自分の角じゃないけど、見ているだけでキモが冷えるよ……。精神安定化が働いて無かったら、絶対取り乱してた。)

 

 アルベドはヘアバンドの作成を終えると、次は自分の腰から生えている黒い翼の根元を掴んだ。

 

「や、やはりそちらはやらなくても良いのではないか?アルベドよ。」

 

 幾ら作戦とはいえ、アルベドが傷つくのはやはり心苦しい。

 モモンガはそう思いアルベドに無理はしなくていいというが。

 

「いえ、こういうのはキッチリやらなくてはなりません。

 腰に巻くベルトにつける設定なので、服を脱がない限りわかる事はありませんが、万が一の場合後悔が残りますので。

 ふんっっ――――」

 

 アルベドが力を篭めると一対の羽根もあっけなく根元から千切れる。

 アルベドにとっては大きなダメージではないが、流石に痛むのか少し顔が痛みに歪む。

 

「アルベドよ。やはり痛むのか?」

 

 モモンガは心配して角の生えていた頭と羽の生えていた腰の辺りをさする。

 すると、アルベドの顔は歓喜に妖艶に微笑み

 

「モモンガ様のお陰で痛みは全く御座いませんわ。寧ろ気持ちいいくらい――――

 あ、出来れば腰を撫でて下さっている御手はもう少し下の方が……」

 

 アルベドはモモンガの手を取り自分のお尻に導こうとするが……

 そこにデミウルゴスの待ったがかかる。

 

「アルベドふざけ過ぎです、モモンガ様がお困りですよ。」

 

「わかってるわよ。でも、痛みがあったのは本当なのよ。

 貴方だって尻尾を千切ればモモンガ様が撫でて下さるかもしれないわよ」

 

 アルベドは、ぷくーっと頬を膨らませてモモンガの手を離す。

 モモンガはホッとした様な、ちょっとがっかりした様な複雑な気分だ。

 

「それは私とて興味はありますが――――」

 

(えっ? あるの? それ聞きたくなかったな~)

 

 デミウルゴスの発言にモモンガは精神安定化が発動する。

 

「あ、いえ。アルベドみたく性的な興味ではありませんよ。

 至高の御方で在らせられるモモンガ様に手当てして頂ける。それがどれ程光栄な事か、その感覚を味わってみたくはなります。」

 

(あ、そっちか。よかった~。)

 

 モモンガの雰囲気から悟ってくれたデミウルゴスがフォローを入れてくれる。

 

「やはり貴方も人に扮してはどう?」

 

「いえ、尻尾は兎も角、私の目は流石にごまかしが利きません。

 目をくり貫いて、氷漬けにしてある人間の目を入れても自然には動かせないので。」

 

 アルベドへの返答に目をくり貫くなんて恐ろしいことを言うデミウルゴスに、モモンガは精神安定化が再発動する。

 

「いや、デミウルゴスはそのままでよい。私に下った魔神という設定のままな。」

 

 

 アルベドが角や羽根をもいだのは、対ジルクニフのためであった。

 デミウルゴス情報ではジルクニフは【精神防御のネックレス】を装備しているため、幻覚魔法による誤魔化しが通用しない。

 なのでアルベドは悪魔の証を取り払い、アクセサリーという形で身につけるという剛毅な選択を提案してきたのだ。

 一度その様な姿を見せれば安心してしまうもので、これ以降は淑女の頭や腰を無作法に触る者も居ないだろうし角や羽根をつけていても怪しまれないだろうとの算段だ。

 アクセサリとしての効果も角は【精神攻撃に対する完全防御】羽根は【即死に対する防御】というマジックアイテムとして紹介すれば、取り外す機会も無くなるだろう。

 それに角や羽根は治癒魔法で回復すれば元通りにもなる。

 

 デミウルゴスに関しては先ほど彼が言ったとおり、(皇帝の前でサングラスをして隠すわけにも行かず)どうしても目が誤魔化せないので元・魔神という体で紹介することになっている。

 これも、モモンガが魔神を降す事のできる強力なマジックキャスターというのを分かり易くするのにも役に立つ。

 

 

 もちろん同じアンデッドのシャルティアもだが――――

 

 

「モモンガ様ぁ~~~♡♡」

 

 液体ファンデーションを持ったシャルティアがモモンガの元にやってきて猫撫で声で擦り寄った。

 三度の精神安定化が発動して、緊張しかけたモモンガは落ち着きを取り戻す。

 

「どうした?シャルティア。」

 

「わらわは~自分じゃファンデを塗れないでありんすぅ~♡

 だからぁ、モモンガ様にぃ~~お願したいでありんす♡♡」

 

(確かに首元や背中などは塗り残しが無いか気になるだろうしな。)

 

 シャルティアは目にカラコン、肌をファンデで化粧する事で吸血鬼の白さを隠すことになっている。

 犬歯は削って他の歯と同じ高さに揃えてある。モモンガは先ほどのシャルティアとの会話で口内を確認していた。

 

「うむ。構わないが。何処を塗ればいい?」

 

「それは~♡ 胸と♡ 足の付け根のあ・い・だ♡ でありんす♡♡

 丹念に隅々まで塗って欲しいでありんすぅ♡♡♡♡」

 

 

(え゛え゛え゛ぇ゛ぇ゛ぇ゛ェ゛ェ゛ェ゛――――!!!)

 

 

 モモンガに四度目の精神安定化が襲い、シャルティアには背後から拳骨が襲う。

 

「いったぁ! 何するでありんすか! チビすけ!」

 

「それはこっちのセリフだよシャルティア。馬鹿には躾が必要でしょ?」

 

 シャルティアの馬鹿な行動に呆れているアウラがシャルティアに拳骨を食らわせたのだ。

 

「だからって、ブたなくってもいいでありんす。」

 

 タンコブが出来たかの様に頭をさするシャルティアにアウラが追撃をかける。

 

「モモンガ様が御忙しい時にふざけた事をするからだよ。

 アルベドもだよ! 守護者統括のアルベドが馬鹿な事をするからシャルティアが真似したんだからね!」

 

 姉は強しというべきか、ぶくぶく茶釜の面影がうっすらと見えるアウラの叱る姿は堂に入っている。

 アルベドとシャルティアはしゅんとしてアウラのお叱りを受けたままだ。

 そんな光景を見てモモンガは懐かしいような寂しいような嬉しいような何とも言えない感覚になる。

 

「はははっ、アウラそれくらいにしておいてあげなさい。

 シャルティアも塗りが心配なところはアウラに見て貰いなさい。」

 

 

 

 ちょっとしたハプニングがありながらも、準備は着々と進んでいく――――

 

 

 

「モモンガ様、わたくし達は先に出て準備しております。」

 

「うむ。手はずは任せたぞ、アルベド。」

 

 アルベド達は先に玉座の間で控えて、ジルクニフたちを待った。

 

 

 

 そして、ジルクニフ達が玉座の間に入り――――

 

 

「ようこそ御出で下さいました、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス皇帝陛下――――」

 

 

「――――それではモモンガ様、お入り下さい。」

 

 

(ふぅ……もう逃げる場所はないぞ俺!

 国のトップと一般市民との会談なんて……!)

 

 精神安定化が断続的に発動して、モモンガの精神は徐々に落ち着いていく。

 手のひらに人の字を何度も書いては飲み込む。

 

(あまり待たせては状況が悪くなるばかり。大丈夫だ!俺!)

 

 

 

 最後にダメ押しの精神安定化が働き、モモンガの足が動き出す。

 アルベドの呼びかけに応じて、モモンガは舞台袖から大舞台へと――――

 

 

 


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