モモンガ式領地経営術   作:火焔+

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小話で後書きにしておくつもりだったのに、意外に長くなってしまったので。



09. 褒美×治療×デミウルゴス

●小話1:モモンガとフールーダ

 

「モモンガ様!」

 

 モモンガとジルクニフが握手をした後、フールーダがモモンガの足元に平伏していた。

 フールーダはジルクニフを早期に動かした褒美が欲しい。だが、褒美をねだる事を自ら口にすればモモンガの機嫌を損ねてしまうかもしれない。

 魔法の深遠に近づきたいという想いと、遠ざけられたくないという想いが入り混じり、表情にもそれが表れていた。

 

「フールーダ殿、此度はありがとう御座いました。」

 

「ははっ! 御方の使命を果たす事が出来て光栄に存じます!」

 

「魔法というのは一足飛びで先に進むことはできません。

 という事で、私自らが直接指導するにはまだ時期尚早ということは分かりますね?」

 

「ははぁっ!」

 

 フールーダ自身も半歩にすら及ばないが、地道に歩みを進めてきた。弟子達も第1位階、第2位階と一つ一つ歩みを進めてきた。

 

「なので、魔法系、精神系それぞれ第7位階の魔法を使いこなし、自らも探求者の2名をフールーダ殿の下に派遣しましょう。」

 

 モモンガが手を叩くと、舞台袖から2名のアンデッド、ナイト・リッチと星幽大図書館の司書(アストラル・ライブラリアン)が姿を現す。

 ナイト・リッチは魔術系、星幽図書館の司書(アストラル・ライブラリアン)は精神系のマジックキャスターで、モンスターの設定でも高位魔術の探求者、星幽大図書館(アストラル・ビブリオテーケー)の蔵書を全て記憶しているというヤバめのフレーバーテキストを持っている。

 

(実際に説明させたらチンプンカンプンで訳分からなかったもんなぁ……多分フールーダならこのくらいの方がいいだろう。)

 

 

「モモンガ様からのご下命を承り、貴方に教鞭を取る事となりました。以後、よろしくお願いします。」

 

 エルダーリッチより身なりの良い金の刺繍を施した黒いローブのアンデッドと、白いローブを纏い透けて半透明に見える顔を認識するのが何故か難しいゴーストがフールーダの前に立つ。

 

「モモンガ様!真にありがとう御座います!

 貴方様の期待に応えられる様、力を尽くします!!」

 

「え、えぇ……。励んでください」

 

(一々行動が大げさだなぁ……)

 

 

 モモンガとフールーダの温度差は今日も絶好調なまでに開いていた。

 

 

 

●小話2:在るべき姿のレイナース

 

 フールーダの件が終わった後。

 

「失礼を承知でお願いしたい事があります。」

 

(次は誰ぇ!? でもこれから帝国に所属するんだし、お偉いさんにちゃんと応対しないと大変な事になるし)

 

 フールーダの所為で疲れているモモンガが声の方向へ振り向くと、重爆のレイナースが居た。

 

(確かデミウルゴス情報では昔呪いを受けて右の顔が膿んでいるんだっけ。)

 

「えぇ、私に出来る事でしたら。」

 

「私はレイナースと申します。

 単刀直入に申し上げます。私は昔魔物から死に際の呪いを受けてしまいました。モモンガ様にどうかその呪いを解いて頂きたいのです。」

 

(まぁ、そりゃそうだろうな。美人な人なのに顔の半分が酷い事になっていれば何とかして解きたいと思うよね。

 というか、顔に出来た膿を眉一つ動かさずに直視できる自信ないんだけど……。

 そういうのに敏感だろうし、心を傷つけるのはちょっとなぁ……治すのは全然大丈夫なんだけど。)

 

 そう思って【何かアイデアない?】と、モモンガはジルクニフの方をみる。

 ジルクニフが察してくれて口を開こうとした瞬間にデミウルゴスの声がモモンガの耳に届く。

 

「モモンガ様、差し出がましいかも知れませんが、宜しいでしょうか?」

 

「ん? あぁ、構わない。」

 

「幾ら呪いを解いて貰いたいとはいえ、レイナース嬢はうら若き淑女(レディ)です。

 自らの恥部を殿方に見せるのは、いくらお覚悟があるとは言え……

 ですのでアルベドに確認させた方がよろしいかと愚考いたします。

 いいですね?アルベド。」

 

(ナイスぅ!デミウルゴス!)

 

「よろしいでしょうか?レイナース殿。」

 

「は、はい。」

 

 レイナースは頬を朱に染めてモモンガの提案を受け入れる。

 レイナースの表情をみて、そこは気が付かなかったと思うモモンガ。

 久しく忘れていた令嬢としての扱いをしてもらい、忘れていた心がときめくレイナース。

 そして先手を取られて、株を下げてしまったジルクニフ。

 

(しまったな。先ほどのモモンガの視線はその意図だったか。

 確かにモモンガからその発言をすれば、レイナースの膿んだ顔を見たくないと取られる恐れもある。

 レイナースを配下に持つ私が言うのがもっとも正しい対応だった。

 それにしても、デミウルゴスという悪魔も中々機微に聡いな。悪魔だからこそ人間の感情に鋭いのかもしれないが、少なくとも今回はいい方向に使ってくれたようだ。)

 

 ジルクニフの中ではデミウルゴスの株が大きく上昇していた。

 

 

 アルベドはレイナースの顔の呪われた部分を確認してモモンガに向き直る。

 

「モモンガ様。この呪いでしたら解呪はさして難しくありません。

 念のため、ペスに解呪をさせると宜しいかと」

 

「ふむ、ではアウラ、マーレよ。レイナース殿を保健室に案内してくれるかな?

 皇帝陛下。少しレイナース殿を借りても?」

 

「「はいっ!!」」

 

 ジルクニフの快諾を受け、レイナースはアウラ、マーレに連れて行かれて保健室へと向かった。

 そしてモモンガはメッセージでペストーニャに保健室に来る人間の呪いを解いてくれと指示を出す。

 

 

 レイナースが保健室に辿り着くと、そこには茶色の長い髪と犬耳を携えた美女が居た。

 もちろん幻術で本当の顔は隠してある。

 

「私はペストーニャ・S・ワンコと申します…………わん。」

 

(この方も美人で――――豊満な胸を持っていらっしゃいますわ。やはりモモンガ様は胸の大きな者を好まれるようね。

 私も鎧で隠れてはいますが、そこそこのモノを持っていますわ。)

 

 などとモモンガの誤解はあらぬ所で広がっていく。

 

「私はレイナースと申します。貴女が解呪をして頂けると伺いこちらに参りました。」

 

「はい。それではこちらにお越し下さい…………わん。

 目を閉じて――――」

 

 

 解呪はあっけないほどに早く終わった。

 瞳は閉じたままだが、右の顔にあった痒みや違和感が無くなっているのだ。

 まるで今まで悪夢を見ていただけと思うほどに。

 

「それでは目を開けてください…………あ、わん。」

 

 レイナースが瞳を開くと視線先には昔見た自分を成長させたような姿があった。

 ペストーニャが大きな鏡をもってきてくれたのだ。

 

「おめでとうございます、レイナースさん…………わん」

 

「おめでとー!レイナース。」

 

「おめでとうございます、レイナースさん。」

 

 ペストーニャ、アウラ、マーレがレイナースの回復を祝ってくれる。

 そこでレイナースの涙腺は決壊した。

 うずくまって嬉し涙を流すレイナースをアウラたちは優しく介抱した。

 

 しばらくするとレイナースの感情も落ち着きを取り戻し、取り乱した事を3人に謝罪する。

 

「いーよ、いーよ。気にしなくて」

 

「モモンガ様は、慈悲深き御方ですから……。」

 

 アウラとマーレの言葉を聞き、レイナースは疑問に思っていたことを話す。

 ダークエルフの小さい子が何故あの場に居たのだろうと。推測に過ぎないが、この子達も自分と同じ様に救われたのかもしれないと。

 

「貴方達もモモンガさんに救って頂いたの?」

 

「そーだよ!ずっとずーっとアタシ達を見守って、護り続けてくれたんだよ!

 最後までずっと護り続けてくださった……」

 

 アウラの脳裏にふと、ぶくぶく茶釜の姿がよぎる。

 

(本当はお隠れになったぶくぶく茶釜様も一緒に…………ううん!モモンガ様が居て下さるだけでもとんでもない程に光栄な事だもんね!)

 

 レイナースは一瞬だけ曇ったアウラの表情を見逃さなかった。

 

(この子達も、モモンガさんに救われる前は大変な思いをしたのでしょうね。)

 

 勘違い……ではないのかもしれないが、レイナースは同じ境遇だったであろうアウラ、マーレに親近感を抱いた。

 

 

 まるで聖人の様な振る舞いをするモモンガにレイナースは淡い想いを抱くようになるが、それが叶う事は多分ない。

 

 

 

●小話3:デミウルゴス劇場

 

 ジルクニフ達が帰った後――――

 

「流石ですモモンガ様!

 このデミウルゴス、全く気づく事ができませんでした。

 このタイミングでアンデッドの姿をお見せになる事に、これ程に効果があるとは。

 やはりモモンガ様は我々を遙かに越える知謀の御方。」

 

(え!? どういうこと?)

 

 デミウルゴスもアルベドも、気配を消してモモンガ用のカンペを持っていたパンドラズ・アクターも敬服したような雰囲気だ。

 他の面々は分かっておらず、全てデミウルゴスの台本どおりだと思っていた。

 確かに、アンデッドのまま出てしまったこと以外は全てデミウルゴスの脚本どおりだった。

 

(どーしよ!? このまま、実は失敗だったんだよ~あはは~。ということも出来るが失望されたくないし……特にアウラ、マーレには。)

 

 どうにも子供であるアウラ、マーレにはカッコイイ姿を見せたくなってしまう。

 

(いやいやいや! ちゃんとホントの自分で向き合うって決めたじゃないか!)

 

 

「喜んでいる所に申し訳ないが、アレは私も想定外のミスだったのだ。

 デミウルゴスの作戦にどのようなシナジー効果が得られたのかね?」

 

 デミウルゴス達は先ほどのことを無かった事にして話を始めた。

 ここで勝手に喜んだことを謝ってはモモンガはデミウルゴス達に申し訳ない気持ちを抱いてしまわれると判断したからだ。

 

「畏まりましたモモンガ様。

 皆も聞いて欲しい。今、アンデッドになったことの大きなメリットを」

 

 デミウルゴスは姿勢を整えて守護者達のほうへ向き直る。

 この場には階層守護者、セバス、ペストーニャ、オーレオールを除くプレアデスが集まっていた。

 

「まず、アンデッドの姿で登場したことのメリットだ。

 この会談での私達の目的は最も好条件でバハルス帝国に所属する。それは分かるね。」

 

「モチロンダ、デミウルゴス。

 ダガ、アンデッドノ御姿デナクトモ、ソレハデミウルゴスノシナリオ通リダッタノデハ?」

 

「そうだね、コキュートス。だが、アンデッドの御姿を見せた方が、長期にわたってメリットが続くのだよ。」

 

「長期的ナ視点カ……マダ私ニハ難シイ事柄ダナ……」

 

「焦る必要はないさコキュートス。それでどのようなメリットがあるかだ。

 まず、短期的な効果だが、現れた存在がアンデッドだった。そこで驚きがはいる。

 向こうもあちらの利益が大きくなるように準備してきた事は間違いないし、シャドウデーモンから事前報告も入っている。

 だが、想定外の事象が起きるとそれを理解するために思考が奪われてしまうものだ。

 私が悪魔のまま、コキュートスがそのまま、アルベドも角と羽根をつけたまま出たのもそれを期待してのことだ。」

 

(なるほど、驚かされたら考えてきた事忘れちゃうもんな。)

 

「じゃあ、アンデッドの御姿のままの方が良かったんじゃありんせんか? デミウルゴス。」

 

「う~ん、それは残念ながらそうではないのだよシャルティア。

 人というのは自分と異なるものを受け入れ難いものだ。

 あの絶妙なタイミングで戻ったからこそ、最大の効果が発揮されたのです。

 驚いた後にサプライズだったという安心感を得た場合、人の心には安堵感と共にその人に好感を持ってしまうものなのだ。

 他人であればそうは行かないが、交流を持とうとしてやってきたのだから尚更効果は高いのさ。

 

 そして、最大のメリットが皇帝だけが所持している精神耐性のマジックアイテム。

 これにより、皇帝だけがアンデッドでもあり人でもあるという混乱に陥り、他のものは只のサプライズという温度差を生み出す。

 アウェーに来て、さらに心情を誰も理解してくれないというのは結構キツイものだよ。」

 

「なるほど、女性と女性の悦びを分かって貰えないわらわの様なものでありんすね。」

 

 意味の分からない事を言うシャルティアは正にデミウルゴスの言った状況に良く似ている。

 

「ん……? それは……ちょっと良くわかりませんが、似たようなものでしょう。」

 

 困惑するデミウルゴスもそういうことにしておいて話を進める。

 

 

「皇帝はこれ以降、アンデッドを帝国に所属させるかもしれないという懸念を抱えながら話を進めなければならない。

 それに思考が占有されて、通常の半分以下の精細さだったね。」

 

「デミウルゴスさん、皇帝さんに疑いを持たれるのは良くない事なんじゃないでしょうか?」

 

「いい着眼点だね、マーレ。

 一見良く無さそうに見えるが、それが長期的なメリットなんだよ。

 皇帝はモモンガ様の情報を最優先に集めようとするだろう。つまり最も注目される人物となる。」

 

「あ! モモンガ様の功績と慈悲深さが全部皇帝さんに伝わるんですね!」

 

「その通りだよマーレ。

 一見悪手に見えるが、その後の功績はそれを遙かに上回るものだからね。

 余すことなく皇帝に伝わる事が大事なんだよ。」

 

(そっか。仕事を十分にこなしても、上にまでそれが何%届くかだもんな~。)

 

 

「それに皇帝の事だ。モモンガ様の御姿どちらが本当か、そして帝国に所属するか他国に所属するかを計算して、どちらであれ帝国に所属して貰うしかないという結果に行き着くだろしね。

 アンデッドかもしれないという幻想に怯えて、閑職に回すなんて事は出来るはずもないだろう。

 どちらも本当の御姿だというのに、無知とは恐ろしいものだよ全く。」

 

「つまり、帝国に所属しつつもモモンガ様の御好きな様に事を運べるという事だね、デミウルゴス。」

 

「そうです。待遇も私が想定したものよりいいものとなるでしょう。

 エ・ランテルやカッツェ平原の大都市、小都市への文官派遣も確約を取れましたしね。

 このあたりは王国戦後を予想していたのですが。」

 

(おぉ!半分くらいは帝国から渡される仕事をしないといけないかなって思ったけど、何かいい方向に進みそうだぞ。

 今回は運が良かったけど、次はそうともは限らないから気をつけないとな。)

 

 

(さてと、次は帝国に出向いて他の貴族との面通しと、カルネ村で準備だな。)

 

 

 




会談のときパンドラズ・アクターはモモンガに変身し、かつ死の騎士(デス・ナイト)に扮して裏でカンペを持っていました。

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