"プロジェクト"を壊したのは、遠大な夢に終わりを告げたのは、私たちだった。
私たちは、近づきすぎた。
互いの引力は感じていた。けど、意地がそれを斥力に変えてしまった。
あの日からまともに口も利けていない。そのまま五年が経ったことは未だに受け入れ難かった。
何も成長出来ていないなんて、思いたくなかった。
そのくせ、仕事はお互い順調のようだ。顔を合わせることはないけど。
ああ、駄目だな。
七夕が来るたびに、思い出してしまう。
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練習に集中できていないことくらい、自分が一番わかっていた。
自分のミスで長引かせてしまったことを申し訳なくは思うけど、だからと言ってどうなるものでもない。
すっかり暗くなってしまった空は、思いとは対照的に晴れやかで。
明日は休みだ。少し寄り道をして帰ろう。
少しだけ迷ったが、夏樹は誘わなかった。
手を伸ばせば、まだ届くのかもしれない。そう信じてしまっていたから。
ゆっくりと上体を起こす。気怠かった。
休みとはいえ、本当に何もしなかった日は久しぶりだ。去年も同じようにしたことだけは覚えていた。
明かりをつけないままスマホを手に取る。日付をまたいだ頃だった。
朝までもうひと眠りは無理だろう。深いため息は、時間を余計にゆっくりにした。
タオルケットを引き寄せ抱いてみても、何も変わらない。猫の写真フォルダは寝る前にもう整理してしまった。
住み慣れた自分の家に圧迫されている気がして窓を開ける。
空だけは揶揄うように澄んでいた。
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月の明かりに照らされながら、あの日のことを考える。
五年前のあの日。間違ったのは自分だ。ずっと意地を張っていた。
とっくの昔に後悔に変わっていた。そのくせ連絡を取る自信はなかった。
同じ場所に立ちたいなんてわがままはもう許されなくなってしまったからだ。けど、まだそれを望んでいる。
アクセルに力が入る。バイクの音にかき消されないよう、確かにあの歌を口ずさんでいた。
歌うほど哀しくなるのは知っている。けれど止めてはならなかった。
自然と、あの場所へハンドルを切っていた。
何もしないことに耐えられなかった。
気が付くころには軽い散歩の用意が整っている。当然のように変装は欠かさない。プロで居たかったからだ。
息苦しいけど、幾分かはましだろう。重なる五年を布団をかぶって過ごすよりはきっと。
そう信じていたかった。想い出は優しくて、残酷だ。今と比べると涙が出そうになる。
こらえればこらえるほど、気持ちは確かになってゆく。
ネコミミ代わりのヘッドホンであの歌を繰り返し再生しながら、小声で、ずっとつぶやいていた。
歌詞はまだ、寸分たりとも違わず覚えている。
それが悔しくて、歩を早める。大声で叫びたかったがそんな資格はない。
イライラを隠すように、カチカチと音量を上げた。
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もう一度。その願いはこの日が来る度に頭を掠めていた。
いつか。いつかっていつだろう。
行動に起こせない自分が大嫌いだ。そんなのロックじゃない、ずっとそう呟きながらも何もできなかった。
全て終わってしまったから、もう遅いからと、自分を安心させてきた。
口ずさむあの歌を舞台で披露していた頃とは変わってしまったのだ。
否、安い意地を張ったあの時から、なんら成長できていない。
サビに差し掛かったはずなのに、声はだれかとすれ違ったみたいに小さくなって。
空をキラリと流れた光の筋には、気が付かなかった。
誰もいない街並みは焦る気持ちを吸い込んでくれるようだ。
けれど代わりに寂しさがやってくる。
吸い寄せられるように、足は想い出をなぞり、ほどなくして辿り着く。
事務所だった、今はもう別のテナントが入った建物。
建物自体もかなり古くなってしまっている。月が反射する窓も、薄汚れていた。
そんなの、ずっと前から知っていたことだけど。そう自分をなだめ、通り過ぎよう。
そう、思っていた。
颯爽と駆け抜けていったテールランプの流星が。
目の前で赤く光り、止まる。
誰なのかが、ヘルメット越しでも私にはわかってしまった。
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目的地が近づくと共に、心の疼きも増していく。
事務所。楽しかった想い出が詰まったそれは、心を締め付けるようで。来た事すら後悔しそうになる。
あの角を曲がれば。そこにはもう何もないと知っていても、ハンドルを切る。
そして、事務所をちらりと見ただけで景色が横に流れ――
意識の端に映った人影に、急ブレーキをかけていた。
そんな。まさか。
減速を受け止め、振り返る。ああ、やっぱり。
変装越しにだって、わかるよ。五年ぶりでも、わかるよ。
「みく…?」
ヘルメットを脱ぐ。バイザーがなければ間違いようもない。みくも、驚いたような顔でこっちを見ている。
月の光を纏う、精霊のような彼女になら、言えるかもしれない。久しぶり、そんな言葉は後でもいい。
「あの時は……ヘンな意地とか張って……ごめんっ」
「もう、遅いよ……!」
震える声。私たちに五年は遅すぎた、それを実感する。もう何もかも手遅れだったのか…?
空気だけがしんとする。その中、うっすらと聞こえてきたのは、私たちの歌だった。
「その歌……」
咄嗟に口をついて出ていた。さっきまで口ずさんでいたフレーズが、微かに聞こえてくる。
「……こっちこそ、あの時はごめんなさい」
「そ、それじゃ!もう遅いからみくも気を付けて帰るんだよ!!」
「あっ、ちょっと待つにゃ……」
これ以上言葉を重ねるのは、きっと今の私には出来ないだろう。
まだぎこちないけど、きっと。いつかは、また。
「一緒に、歌いたいな……!」
そっと涙を拭って、前を向いた。