真・女神転生 D.D.D. -Digital Devil Desire-   作:J.D.(旧名:年老いた青年)

10 / 11

 これまで次話を期待されていた読者様方へ、更新が遅れてしまい大変申し訳ありませんでした。

 言い訳をさせてもらうとすれば、仕事の忙しさと難しさで余裕がなく、また書いてない期間も伸びていて少々スランプに陥っていました。

 仕事の折を見ながらの投稿なのでこれからも不定期な更新になりますが、コンゴトモ ヨロシク……




≫008 Fight to Survive, with Digital Devils.(2)

 

 

 

 

 

<鵬聖大学 1F 106教室>  

 

 

 「ふっ、ふっ、ふうっ……!」

 何なんだ、あの化け物は……!

 

 

 通報を受けて来てみれば人間なんて何処にも居らず、不審に思って敷地外に止めていたパトカーへ応援を呼びに行けば突然門から外へ出られなくなった。お蔭で碌な装備もなしに相方と二人、この化け物だらけの大学に取り残された。

 それからはひたすら校内を逃げ回って、隠れて、追われて、追われて、追われて……。

 

 おまけについ先程、犬だか狼だか分からん猛獣に腕を噛まれて重傷を負った相方——前腕の肉をごっそり持っていかれて止血も役に立たない状態だ、早く病院に連れて行かないと——を助ける為に拳銃を撃ってしまった。

 

 

 ——勿論『拳銃を撃ったら昇進出来なくなる』なんて噂話を信じてる訳じゃない……というよりも、命の危機に晒されている中で今更昇進なんて気にしていられる訳がない。

 

 

 問題なのは撃たれた猛獣も怯みはしたが死には至っておらず、逆に興奮させた挙句に銃声を聞き付けた怪物共で部屋の外が鮨詰め状態になっている事だ。

 

 対してこっちはバリケードで対抗しているものの、相方の銃も合わせて残りはたったの九発……こうしている間にも相方の顔からは生気が抜けている。

 

 「68$1€_!」

 「+$4"!○_+_☆;°|!」

 「「「066666!!」」」

 

 扉の向こうから響き渡る怪物達の狂笑。相方の暗がりでも分かるくらいに蒼白くなった顔色と、痛みを抑える深呼吸から少しずつ短く浅いものへと変わっていく呼吸音……それらがまるで俺達の残り時間を示すかの様に聞こえてくる。

 

 

 

 こんなのは現実じゃない。

 

 だけど全身の感覚がこれを現実だと訴えてくる。

 

 気が狂いそうだ……いや、もう狂ってるに違いない。

 

 右手に握ったままの銃を震わせながら、ひたすらに無線を飛ばす。

 

 

 

 「助けて……助けてくれ……誰か、本部……応答して下さい……誰か……」

 

 

 無線からの返事はない。

 

 

 そして不意に、部屋の中を満たす様な浅い呼吸音がいつの間にか止まった事に気付いた。

 

 

 自然と、無線マイクを握る手に力が籠る。

 

 肩にズシリと掛かる重さも、冷たく濡れた鉄臭い制服も、周囲を包む様な怪物達の囁きも。全てを受け入れる事を拒む萎んだ心を狂気で奮い立たせ、唾を飛ばしマイクに向かって吼える。

 

 

 

 「畜生!畜生、畜生、畜生!しs……」

 ……違う、相方はまだ生きている(・・・・・)。絶対に生きているんだ、二人で生きて出て行くんだ。絶対に、絶対に……

 「いや、重傷者1名……繰り返す、重傷者1名だ!化け物に囲まれて、屋内の一室に立て籠もっている!誰か応答しやがれ、バカヤローッ!早くしないと、二人とも化け物に殺されるんだぞ!——俺はまだ、こんな場所で死ぬなんてゴメンなんだよクソッタレェ!!」

 

 

<鵬聖大学 1F 守衛室>  

 

 

 「救出は、無理だろうな」

 頭を抱えたままの俺に、銃声の先を見つめる黒沢の諦めた様な言葉が突き刺さる。

 何も考えずに縋りついた罠で人間を死地に追い遣った事は、いやそんな事、この非常事態に、だから……

 

 「“俺のせいじゃない”、ってか?」

 

 心を読まれたかの如きその言葉に心臓が飛び跳ねた。頭上からの視線に恐る恐る顔を上げ、そこで呆れた顔で此方を見下ろす黒沢の顔が見えた。

 

 「別に俺は、お前に『責任取って助けに行け』とか『今から一緒に助けに行こう』なんて言うつもりは更々ないよ」

 今の状態じゃ行った所で精々が三途の川の連れ合いを増やすだけだしな、と軽く彼は言ってのけ、周囲の痛々しい視線を飄々と受け流しながら煙草を——吸おうとして空になったパックをくしゃりと握り潰しポケットへと突っ込む。

 

 

 

 「ま、かと言って……警察官の為に、他の奴へ『他の人を助ける為に君達を危険に晒すけど大丈夫?』なんて言えるか?それとも俺達の生存率を維持する為に警察官に『呼んだ手前で悪いけど、救助は諦めてくれ』とでも言うつもりか?」

 「何が、言いたいんです」

 自分でもかなりクズな事をしている事は判ってる——自分に降り掛かっている責任から逃げて、そのストレスで当たり散らしているだけだという事を、自覚はしているのだ。

 だが自覚しているからといって自制できるかと問われればそれはまた別の問題であって……黒沢の長ったらしい言葉が癇に障って苛立った俺は、彼を睨み付けながら強い口調で答えを迫る。

 

 

 だが彼はそんな虚勢に余裕を崩す事すらなくしっかりと視線を交わしながら淡々と言葉を返した。

 

 「『ヒーローとは、自分の自由に伴う責任を理解している人間を云う』……選ぶからにはお前が自分自身の責任を負えって事さ」

 

 

 お前はどっちを選ぶ?——生死不明の一人か、この場で確かに生きている四人か。

 

 

 人数を示す両手の指の向こうで、酷薄な笑みを浮かべながら彼の双眸が俺を射抜く。

 

 

 ……思えば誰かから明確に選択を迫られたのは、これが初めてだったかもしれない。

 “そうしなければならない(強制)”という一本道か、“そうしてくれるだろう(期待)という外部からの入力。誰もが自分の意見を求めず、他人が敷いたレールの上でひたすら前に流されるままの生き方に……不安を感じる事こそあれ、俺は不満を抱く事もしなかった。

 

 だが今は違う。誰かに流されて行動した所で誰も責任を取ってはくれないし、後悔する時間だって惜しいくらいに俺達は逼迫していて……だからこそ——

 

 「お、俺は……やっぱり、助けに行かなきゃ、と、思うんです……すいません!」

 

 ——俺は、自らの安心の為に(・・・・・・・・)他人を助ける事を選んだ。善意からの行動でも何でもない、己の信頼向上と心の安定という報酬を求めた打算的なものではあるが、それでも……今の俺に必要なのは行動だった。

 

 制止の声も聞かず、俺はスマホ片手に部屋を飛び出した。

 傍らにはその恐ろしげな姿も段々と慣れ始めてきたヘルハウンドが召喚者に追従する。

 「護衛任せた、ヘルハウンド!」

 『アオーン! マカセロ サマナー!』

 

 

 

◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 一方、部屋に残された者達は出て行った男に対して四者それぞれが愕然・感嘆・憤懣・困惑の表情を浮かべていた。

 

 

 「——何で行かせた、クソ沢」

 まず口火を切ったのは憤懣の表情を浮かべていた岩動だった。その非難の矛先は勿論、忠野に発破を掛けた黒沢である。

 「行かせた(・・・・)?まるで俺が嗾けたみたいな言い方は止してくれよ」

 「事実だろうが。お前だって、この場所で一人になる事の意味くらい判ってるだろ」

 「……なら、お前も一緒に行ってやればァ?“ヒーロー”さん?」

 怒涛の剣幕で凄まれてなお、言われた張本人は感嘆の表情から嬉しそうに口角を三日月に吊り上げつつ小馬鹿にした口調で彼女に言葉を返す。

 

 一瞬、ピシリと空気がひび割れる様な錯覚をその場の全員が覚えた。そしてそれが激怒を通り越して無表情となった岩動から放たれる“怒気による圧力”によるものだと気付いた時には、既に彼女は机に乗り上げながら黒沢の胸倉を掴んでいた。

 

 

 「おちょくるのも大概にしろよ、お前」

 

 

 二人の視線が僅かの間、交錯する。片や冷たい瞳を憤りで燃やし、片や濁った瞳を嘲りで湛えて。

 

 

 実時間にしてほんの二、三秒。岩動は歯軋りしながら胸倉を掴んでいた手を強引に振り下ろし……もういい、とだけ呟くとそのまま彼女も守衛室を後にした。

 

 

 

 

 

 半数が退出し、僅かに広くなった室内で笑みを浮かべていた黒沢は……一転して表情を崩すと怒らせていた肩を下ろした。

 「悪役(ヒール)も大変なお仕事……なんてのは、慰めにはならないかな?」

 「……???」

 訳知り顔の出間に対して、この場で唯一素性の判っていない少女——経営学科1年生の董 美里(ドン・メイリィ)は状況を理解できていないのか部屋の隅で元の雰囲気へと戻った黒沢を見つめながら頭に無数の疑問符を浮かべていた。

 

 

 

 なんの事はない、全ては黒沢の演技に過ぎなかったのだ。

 

 

 

 彼は彼で、警察官を助ける為に前の二人の思考を誘導していたのだ……というのも彼も忠野同様、全くの善意ではなく戦力の拡充という打算ありきでの行動である。

 

 その為にやや自己中心的な傾向のある忠野には罪悪感を刺激しながら責任感とすり替える事で自発的な行動を促し、一方で冷静を気取りながらその実直情型の岩動に対しては徹底的に神経を逆撫でして煽り倒す事で理性の軛を緩め忠野の援護へと走らせた。

 

 その神憑り的な話術の代償として彼に対する二人の評価はかなりの底値……片方に関しては最早最底辺にまで落ち込んでいるが、その事実は自己評価の低い彼にとっては何の辛苦にもならなかった。

 

 

 

 「……しかし、ボブ・ディランとは。君にしては柄でもない言葉選びだね」

 「……アイツ自身が選んで動く事が大事なんですよ、こういうのは。岩動もあの分ならきっと張り切って暴れてくれますから」

 出間は苦笑いと共に黒沢に言葉を投げ掛け、彼はそれに自嘲を含んだ言葉で応えながら出口のドアノブへと手を掛ける。

 

 

 

 

 

 「それに俺は、ロックならチャック・ベリーの方が好みですよ——『Go Johnny, GO! GO!(それ行けジョニー、いざ征かん!)』ってね」

 振り向き様に見せたその表情は、悪戯心に満ちた少年の顔をしていた。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。