真・女神転生 D.D.D. -Digital Devil Desire-   作:J.D.(旧名:年老いた青年)

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≫001 Fake Dream, No Desire.(1)

 

 

 

 

 

 ——東京都内・私立鵬聖(ほうしょう)大学。

 

 日本(この国)においては珍しく、都市一極化とは無縁の如き首都にありながら比較的平凡な成績の学生が多く在籍するこの学び舎において。

 

 「……忠野君。何故、君の進路調査票には何も書かれていないのかね?」

 「あ、いえ、そのぉ……」

 

 俺こと忠野 護仁(ただの・もりひと)は、人生の岐路に立たされていた。

 

 

 

 受験戦争の荒波から解放されて一転して華の大学生活(キャンパスライフ)と浮かれていたはいいものの、襲い来るのは課題・課題・課題の嵐。

 生来の怠け癖が受験の反動からか遺憾なく発揮されてしまったお蔭で、成績はスカイダイビングよろしく急降下。瞬く間に俺の人生設計(そんなモノはない様なモノだが)に大きな狂いを齎す事となった。

 そこからは下手の一念、といった具合に勉学へと励み、三年生となって漸く人並みの成績へと改善するに至るのだが……ここで一つ問題が発生する。

 

 

 自分の中に、これといった進路に対する希望がないのだ。

 

 

 思えば大学に進学したのも周囲に望まれてそれに流される形であったし、進路などというのは大学生活の中で自然に見つかるだろうという根拠のない楽観があったのも事実だ。

 そんな事だから今この様に窮地に立たされている訳なのだが……まあ、ないモノはないのだしこうなったら何時もの様に適当に躱すしかないか。

 

 

 「——いやまぁ。自分もこう見えて色々考えてるんですよ、えぇ」

 語り出しと言えばこれだろう。会話にワンクッションを挟む事で弁明を考える時間を稼ぎつつ、相手に否定的な言葉を告げさせない様にする。

 見た感じ担当官は歳を食ってて、顔付きから予想するに結構陰湿なタイプかも。なら兎に角こっちからぐいぐいと押してみよう。

 「ほう? では、どうして……」

 「ど、どうして記入していないかと申しますと……色々と——そう、色々と選択肢が多くて提出期限の内に選べなかったからなんです」

 そのまま頭で考えて比較的無難に取れる言葉を選択していく。相手の話にインターセプトを掛けながら話す事で会話に積極的な姿勢をアピールしつつ、面倒な(他人の話を聞かない)奴だという印象を植え付ける事で話を短くする事を試みる。前回の対応者はこれですんなりと諦め、早めに切り上げてくれたのだが——。

 「……なら、その選択肢にどういったモノがあるのか教えなさい。貴方ももう三年生なのですから、この辺りで絞り込みを行わないと困るのは貴方ですよ?」

 

 うぐっ。

 

 流石と言うべきか、向こうも伊達で就活相談などという苦労の多いだろう業務をやってない。どうやら俺の浅はかな考えで口を衝いた言葉は墓穴を掘った様で、向こうには”悩み多き就活生”として認識されたらしい。

 

 ここで『実は何にも考えてませんでした、テヘペロ♪』などと宣えればどんなに気が楽だろうか。

 暗黒面からの誘惑は実に魅力的だ……だけど実際にやったら多分本気で殴られるんじゃないかな、グーで。

 

 「……ええ、まずは——」

 胃が痛むのを感じながら、頭の中で適当な就職先についてピックアップを始める。だが俺でも判る様な大企業ばかりをピックアップしてしまった事で相手の本気に火を点ける結果になってしまったのは割愛しよう。

 

 

 

 

 

 「はぁぁぁ……」

 相談室から一歩踏み出した瞬間、喉から凄まじい勢いで溜息が噴き出す。

 今回の担当官の爺さんは見た目とは裏腹に仕事に情熱を持っているタイプだった様で、結局一時間くらい拘束された。人と接することが苦手な俺からすると、至近距離で顔を見られながら嫌な話ばかり続ける時間は苦痛でしかないのだが……

 

 

 ……それでも相手がいい顔をされると、こっちも嫌な顔をできなくなってしまうこの性格はつくづく自分に損をさせるんだなと思う。

 「……悩んでても仕方ないよな」

 

 何はともあれ嵐は過ぎたんだ、まずはそれを喜ぼう。

 就活の日々によるストレスと今回の疲れでどこかおかしくなっていたのだろう。心が浮き足立つのを抑え切れずスキップなんて大学生にあるまじきアホな事をしながら、俺はまだ残っていた道中の学生や教師達から訝しげな視線と共に見送られていた。

 

 

 そして大学の門から一歩抜け出た時。

 「ッ……?」

 

 

 ピーンと高音の弦を爪弾いた様な、肌の粟立つ感覚が背筋を走った。

 

 

 身体をブルリと震わせながら何か嫌な予定でも忘れているのかと記憶の中を探してみたものの、特に思い当たる節もないので寒さのせいかと考えた俺はこれ以上気に留める事もなくそのまま家への帰路に着く。

 

 故に当然、気付く事などなかった。自分のスマホに、とあるアプリケーションがダウンロードされていた事など。

 

 ましてやそのアプリが、自分の運命さえも決定付けてしまうなど尚更だった。

 

 

 

 

 

◇  ◆  ◇  ◆  ◇

 

 

 

 

 

 翌昼、学内はちょっとした騒ぎになっていた。なんでも学内のコンピュータ端末や一部学生の携帯機器に削除不可能なアプリケーションが勝手にダウンロードされていたらしい。事務課の職員達があっちへこっちへ慌ただしく移動しているのを横目に眺めながら教室に入れば、こちらでは学生達も噂話に盛り上がっていた。

 

 

<鵬聖大学 4F 403教室>  

 

 

 「あっ、忠野!ちょっとこっち来い!」

 奥の方の席で駄弁っている集団の中の一人の手招きに呼ばれて行く。

 「どうした?」

 「いやさ、表で騒ぎになってたアプリあんだろ?“D.D.D.”……アレさ、ココどころか都内全域で同じアプリがバラ撒かれてるらしーじゃん」

 彼のスマホの画面にはSNSのニュース欄が表示されていて、そこには“都内各地で『謎のアプリ』ダウンロード、新手のテロか”という記事が大々的に載せられていた。

 「は?」

 「官公庁は兎も角、有名どころの大企業も東京に会社持ってる所は軒並みやられてるってさ」

 

 何だ、そりゃ。

 

 日本の官公庁のセキュリティがお粗末なのは兎も角、東京に本社支社を持っている中には海外資本で凄腕ホワイトハッカー付きの所もある。それが、軒並み?

 

 「とんでもないな」

 

 「だろ?でさ……ウチの大学でも結構な割合で、スマホとかノーパソにやられたヤツも居てよ。今ウチらが持ち回りで確認取ってるんだ。お前はどう?」

 そう言いながら手招きでスマホの確認を催促され、俺はコートから自分のスマホを取り出して電源を入れる。

 「ちょっと待ってろ……あークソ、俺もやられてる」

 そのホーム画面には“D.D.D.”のアイコンと共に件のアプリがしっかりとダウンロードされていた——昨日の嫌な予感はこれの事だったか。回避のしようもないとはいえ、予め予兆を感じていてこれだと少し気分が滅入るな。

 

 

 「了解……これで学生の方は今の所、4分の1がやられてる事になるな。おお、クワバラクワバラ」

 集計係が茶化す様にそう呟くのを聞いて駄弁っていた他の面子がその頭を平手で打つ。どうやら、一人だけ騒ぎに巻き込まれていないのが気に食わなかった様であっという間に被害者の面々に揉みくちゃにされていく。

 

 

 

 ……兎も角、朝方故に人の集まり切らない大学内においては全体集計ではないので何とも言い難いのだが、学生全体の4分の1ともなるとおよそ1,000人程がこのアプリの被害に遭っている計算になる。

 

 

 ——大学も上級生達が就職活動で忙しい中にこの事件では随分と苦慮するだろうな。

 

 

 まあ、俺は事件に関して思う所はないし……精々この混乱で就活の準備期間が少しでも延びてはくれまいかなどと考えてしまったりもするのであった。

 

 

 

 

 

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