真・女神転生 D.D.D. -Digital Devil Desire- 作:J.D.(旧名:年老いた青年)
「——よォ、目が覚めたか」
……今日はまさしく厄日だ。
昼飯の麺は伸びるし、教授に吊し上げ食らうし、挙げ句の果てに怪物と殺し合いまでさせられて、よく分からん狼みたいな奴にも目を付けられて気絶して、そんで野郎の顔がドアップの最低な寝覚めと来た。
「クソ、痛ぇ……」
身体を起こせば全身から悲鳴が上がって口から悪態が飛び出る。どうやら寝かせられていたベッドは随分とマットレスが薄かったらしく、俺が呻きながら背骨を鳴らす光景に目の前の男が失笑する。
「……何だよ」
「あぁ、いや。こうして見ると、とてもあの化け物共を返り討ちにした奴とは思えなくてな」
そう言って笑いを抑える男を改めて見る。
ソイツはオールバックに纏めた黒髪とパーカーにカーゴパンツ姿、身長は俺よりも低い癖に顔はやや老け気味で無精髭を拵えた……何というか、かなり濃い印象の人物だった。
「俺は法学科の四年、
「……経営学科、三年。忠野、護仁……」
手を差し伸べられたので遠慮なく掴ませてもらい立ち上がると、着いて来なと言われてその後に続く。
「おぅい、奴さんが目覚めたぜ」
部屋を跨ぐと、そこは壁一面にモニターと機械設備が並ぶ狭い部屋——恐らく守衛室であり、先ほど寝ていたのは併設された仮眠室だったかと理解した。
部屋に居たのは、俺を連れた黒沢含めて四人。
「いやぁ、随分と大変だったね……無事にいられただけでもよかった、よかった」
最初に俺は声を掛けたのは、モニターの前に座っている六十は過ぎた老教授。確か名前は……
「……フン」
もう一人はレザージャケットにジーンズの全身黒尽くめな茶髪の女。名前は思い出せないが人相は覚えており、確か不良として有名な人物だった筈だ。
袖の下から伸びる、女性にしては武骨な手には血の滴るナックルダスターが嵌め込まれていて……これまで何を殴って来たのかは容易に想像が付いた。
「ううう……」
そして最後の一人は部屋の隅に体育座りで縮こまったまま、声にならない嗚咽を漏らす黒髪の少女……元より異性の名前を覚えるのは苦手だったが、顔も見えないのでは判断のしようもない。
「黒沢……サン」
「黒沢でいい……この階の生き残りは、これだけだ。他は上に逃げたか……死んで、喰われてる」
黒沢の歯に衣着せぬ物言いに、黒髪少女の押し殺した嗚咽が強さを増す……彼女も、目の前で人が死ぬのを見た口か。
生き残るのに必死だったとはいえ、改めて冷静になってみると……人の死に対する感覚が麻痺しつつある自分は、置かれている状況に心を呑まれつつあるのを自覚しなければならないのかもしれない。
「あの化け物共は、普通の人間には到底太刀打ち出来ない——俺の見た限りじゃ、そこのゴリラ女がバカみたいに殴りまくって、ようやくチビっこいのを一匹殺せたぐらいだ。俺達が同じ事をやろうとしても返り討ちに遭ァイっ!?いいいいっ痛ぅあぁっ……!」
「くたばれ、クソ沢」
ゴリラ女と名指しした茶髪から説明途中で尻にボレーキックを叩き込まれ、床に沈む黒沢。
真面目な話の最中に茶化す様な事を言うから当然と言えば当然だが、相手が相手だけに勇気があると言うか無謀と言うか……俺は黒沢という男に対して尊敬とは似て非なる感覚を覚えかけた。
「痛たた……ま、まあ、そんな訳で、だ。俺達も他の面子を集めたいと思っても出来ないから此処で篭城するしかなかったんだが……」
そこに、と彼が話を続ける。
「お前みたいな、化け物を操る人間が居たのには驚かされたがね」
「……なっ!?」
俺が驚きのあまりに椅子から立ち上がるよりも早く脚払いで姿勢を崩され、再び着席させられると同時に両肩を強く押さえ付ける二本の腕。
俺の背後で圧を掛けているその下手人は、先程黒沢の尻を蹴り飛ばした茶髪だった。
「悪いな
「黙ってろアホ沢……ほら、コイツのスマホだ」
岩動と呼ばれた彼女が俺のポケットを
コイツら、スマホから悪魔を喚び出した事を知ってる?まさか、俺が悪魔を召喚してる所まで見てたってのか?
「そのまさかだ。俺としちゃ逃げ遅れた奴を助けに行ったつもりだったんだが、化け物を喚び出したンなら話は別だ……」
俺が座らされた正面に椅子を置き、此方を鷹の様な鋭い眼差しで見据える黒沢。その手には先端に電極の付いた警棒——スタンガンが握られていた。
マズい、マズいマズいマズい!
どうやら誤解されてる様だが、俺に否定出来る材料が全くないのはマズい!
このままじゃ無実の罪を自白させられるか集団リンチにでもされかねない!
肩に置かれている手には血塗れのナックルダスターが鈍く光る……目の前のスタンガンも怖いがこっちはもっと怖い!やっとの思いで地獄から抜け出せたのに死ぬなんて最低だ!
黒沢の後方で背を向ける他二人はまるで、これから起きる出来事に顔を背けるかの様にその表情を見せない。
「洗いざらい、吐いてもらうぜ」
その言葉と共にガチガチと鳴り響く自分の咬合音が、嫌に耳奥に張り付いた。
「フゥン……その“悪魔召喚プログラム”とやらがその化け物、いや、『悪魔』だったか。ソイツらを呼び出したってのかい」
「そんなオカルトで眉唾物な話……っても、今この状況こそが既にオカルト話の領分なんだがな。まぁ……参考程度にはなる、か」
十数分後、俺は文字通り『悪魔』『マグネタイト』『D.D.D.』『悪魔召喚プログラム』に関して知っている事を洗いざらい吐いてしまった。
死にかける目に遭ったと言っても、いやむしろその死にかけた経験があるからこそ……無駄に痛い目に遭うのは御免だというのが本音だった——
「こっちはてっきり拷問でもされるかと思いましたよ……!」
——だったのだが、全てを話して用済みとなった筈の俺は、殺されもしなければ傷付けられる事もなかった。
そう、先程の流れは全て演技だったのだ。
当初は悪魔を召喚した俺をこの事態の首謀者と睨んでいた両名だったが、その悪魔に半殺しにされる様な奴が本当にこんな大それた計画を実行に移せたのかという部分で二人の間に疑問が生じた。
そこで、俺が反抗的な場合や本当に首謀者だった場合に備えて急遽芝居を打つ事にしたのだとか。
ビビって喋れば御の字、喋らなくても
「ククク……冗談、この緊急時にわざわざ戦力を減らす様な真似はしないさ。それに……」
黒い笑顔でサラリと、とても冗談に聞こえない発言をする黒沢の頭頂部に拳骨が落ちる。
「このバカ沢が下衆な真似をしたら、アタシが叩きのめしてる」
無論その拳を振り下ろしたは岩動——
しかし、フンと鼻を鳴らして拳を構える姿は——噂に聞く様な、喧嘩に慣れた不良というよりも……どちらかと言われれば正統派のスポーツ選手に近く思える。
「フゥーッ……この通り、おっかない姐さんに睨まれてちゃ
「は、はぁ……」
殴られた黒沢は口元を緩めたまま懐から取り出した煙草を咥えて一服する。
そして彼は吐き出した紫煙の輪を吐息で吹き消しつつ後頭部から指を二本立ててケラケラと戯けてみせた。
——それは、周囲を取り巻く理不尽に対する彼の反抗心の表れか。或いは、この狂った状況で少しでも皆に安らぎを与えようとする彼なりの気遣いだったかもしれない。
「ふふふ、はははっ」
黒沢の戯ける様な態度へ出間教授が思わず失笑し、そこから守衛室の中に少しずつ笑いが広がっていく。
「「「ははははは……!」」」
だから、少しだけ。
この平穏な時間に浸ってしまえる事に、泣きながら俺も笑った。
今回は悪魔が登場せずパーティステータスの目立った更新もないので、名前の挙がった登場人物紹介をさせて頂きます。
[黒沢 巽]くろさわ・たつみ
所属:鵬聖大学 法学部4年生
身長:165cm 体重:65kg
好きなもの:ミリタリー関連、動物全般
嫌いなもの:不誠実・横柄な人間
気絶していた忠野を助けた人物。
他に有力な人物が居ない為に現状では実質的な守衛室組のリーダーであり、拠点としている守衛室に生存者を集めつつ慣れないムードメーカーとしての役割も担う苦労人。
表向きは飄々とした三枚目として振る舞っているが……?
[岩動 嘉美]いするぎ・よしみ
所属:鵬聖大学 経営学部4年生
身長:173cm 体重:68kg
好きなもの:格闘技、孤独
嫌いなもの:セクハラ
大学内では有名な不良学生。
守衛室組の中で唯一の武闘派であり、身に付けている総合格闘技を駆使して低レベルの悪魔であれば拳だけで殺せる程の実力を持つ。
元々は教育学部生だったが、暴行事件を起こした結果として学部を異動することになったと噂されている。
[出間 倫夫]いずま・みちお
所属:鵬聖大学 教授
身長:161cm 体重:80kg
好きなもの:和菓子、家族
嫌いなもの:なし
80を越える高齢でありながら教壇で元気に講義を行う体力を持つ、この大学の名物教授。
講義の合間に交えるユーモアのセンスや分かりやすい内容解説に高い人気を持ち人生相談にも応じるなど、様々な学生から慕われている。
後書きスペースの活用法について
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次回予告
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登場人物の紹介
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登場悪魔のアナライズ図鑑
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主人公パーティのステータス
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