ARMORED CORE LOST for Tomorrow Answer 作:ダルマ
そして、迎えた土曜日。
待ち合わせ場所の会社前でエドの運転する彼の乗用車に乗り込むと、二人を乗せた乗用車は、試合会場となる郊外のスタジアムへ向けて発進した。
乗用車で移動する事数十分。
二人を乗せた乗用車は、郊外にある、巨大な四角形のスタジアムの駐車場へと到着した。
「ここが、コロニー・フロリダの郊外にある"フロリダ・ロブスター・スタジアム"通称フロスタだ」
スタジアム名の一つであるロブスターを意識した赤い塗装が目を引く、そんなフロスタ内に向け、エドの案内の元向かうアスル。
フロスタの出入り口は、USサウスリーグの試合が行われるとあって、多くの観戦客でごった返していた。
「おい、はぐれるなよ」
「はい」
そんな中を進み、何とか入場した二人は、客席に流れる観戦客をしり目に、エドを先頭にとある個室へと足を踏み入れる。
「あの、エドさん、ここは?」
「ん? 所謂VIPルームってやつだよ。ほれ」
広々とした空間に、ゆったりと落ち着いた雰囲気の座席、そして、部屋の一角に設けられたシェフ常駐のビュッフェコーナー。
そこはまさに、賓客の為に用意された特別な部屋であった。
そして、そんな部屋の利用を可能にするVIPルーム利用カードを、エドは自慢げにアスルに見せびらかすのであった。
「ま、俺様位になるとこれ位は当り前さ」
こうしてVIPルームで試合を観戦する事となった二人は、ビュッフェコーナーで適当な飲み物と食べ物を見繕うと。
座席に腰を下ろし、試合開始の時を待つ。
「全世界四十億人ものフォーミュラフロントファンの皆様、お待たせいたしました!! 只今より! ここフロスタでのUSサウスリーグの試合を開始したいと思います!!」
試合開始を告げるアナウンスと共に、壁一面に設けられた大画面モニターが、試合会場の様子を映し出す。
無人とはいえ実弾を使用する為、観客の安全の為、試合観戦は必然的にモニター越しになる。
それでも、伝わる振動や他の観客達の熱気等は、現場に足を運ばなければ味わえない。
「最初の試合は、現在USサウスリーグの最下位を独走する、チーム・ビリーザチャンプのアデューダンサー対、昨年、主任アーキテクトを交代させるという英断を経て、今年度、初の三連勝を得て上り調子が出てきている、チーム・ジャンクザジャンクのフリッパービットの対決だ!!」
チーム及びu-ACの機体名が読み上げられると共に、試合会場に二体のu-ACが姿を現す。
共に中量二脚型のu-ACは定位置に移動すると、やがて、試合開始を告げるアナウンスと共に、ブースターに火を入れ、搭載した火器を相手目掛けて放ち始める。
モニター越しに伝わる銃声、爆音。
そして壁越しに伝わる試合の振動に、一般観客席の観客達の声援。
始めて見るフォーミュラフロントの試合に、アスルは、レイヴンとはまた異なる戦場の雰囲気に、惹きつけられるのであった。
「お、次はいよいよ、ここたまの登場だな!」
数試合を消化し、この日行われる試合も折り返しを過ぎた頃。
遂に、目当てのチームが登場する。
「さぁ、お待たせしました!! 次の試合は、USサウスリーグの上位チーム対決!! 現在リーグ八位のチーム・ハッスルボールのハッスルボール対、現在リーグ九位のチーム・ここたまのファシネイター・スリーの対決だ!!」
試合会場に二体のu-AC、共に中量二脚型である。
ハッスルボールと呼ばれた機体は、赤を基調としたカラーリングが施され、腕にはパルスライフルにレーザーブレード、背部にはマイクロミサイルとグレネードランチャーを装備し、機体の肩には8の数字を描いたエンブレムが目を引く。
一方のファシネイター・スリーは、黒と紫の二色でカラーリングが施され、腕にはマシンガンにレーザーブレード、背部には中型ロケットに七連マイクロミサイルを装備し、機体の肩には連動ミサイルを装備している。
そして、青いバラに手を回すグラマラスな女性が描かれたエンブレム。
ファシネイター・スリーの姿を目にしたアスルは、確信した、間違いなく、あれは彼女の機体のアセンそのものだと。
「上位チーム同士の直接対決! ここで勝てば両チームにとって初となるレギュラーリーグ、フォーミュラRへの参加にぐっと近づきます! それでは、試合、かいしぃぃぃっ!!」
試合開始の合図と共に、両機ともブースターに火を入れ、射撃を開始する。
互いに組み上げられたAIの思考ルーチンに従い、互いの火線を避けつつ、相手のAPを削るべく互いの火器が火を噴き続ける。
試合会場に響く爆音、爆発。
そして、互いの装甲表面を叩き抉る金属音。
光線と火線が交差し、ミサイルが飛び交い、ロケット弾とグレネード弾が明後日の方で爆発を起こす。
互いに足元に火花を散らせながら、会場内を縦横無尽に、まるで踊るように戦う。
そんな何処か美しささえ感じる試合が、開始から一分半を迎えた頃。
互いに決定打を与えられず、少しずつダメージを蓄積させていた中、ついに、ファシネイター・スリーが勝負に出る。
中型ロケットを、ハッスルボール目掛けて放った、かに思われた。
だが、放たれたロケット弾は、ハッスルボール本体を捉える事無く、ハッスルボールの足元前方に着弾、爆破と共に黒煙を巻き上げる。
(この戦法、となると次は……)
ファシネイター・スリーの戦い方に見覚えのあったアスルは、ファシネイター・スリーの次なる行動を予測する。
そして、次の瞬間、ファシネイター・スリーのブースターが火を噴き、機体が、黒煙の中に飛び込んだ。
刹那、黒煙を切り裂くかのように、黒煙から姿を現したファシネイター・スリーは、展開させたレーザーブレードの刃を、黒煙から飛び出すとは思わず棒立ちであったハッスルボール目掛けて振るう。
「決まったぁ!!」
一閃、後、ハッスルボールの上半身と下半身は見事に引き裂かれ、無残な姿を会場に晒した。
「勝者は、チーム・ここたまのファシネイター・スリーだぁ!!!」
「よぉっしゃぁぁっ!!」
試合終了の合図と共に、隣に座っていたエドが声を上げた。
「これで前回の負けはチャラだ!!」
どうやらいつの間にか賭けていた賭けに勝ち、前回の負けを帳消しに出来たようだ。
その後、VIPルームを後にした二人は、通常であれば関係者以外立ち入りを禁止されているエリア、通称パドックへと足を踏み入れる。
特に警備員に止められる事もなくパドックに足を踏み入れられたのも、エドのお陰である。
リーグに参加し、試合を終えたチームのクルーやu-AC等が、ホームへの帰り支度や残りの試合観戦を行っている中、チーム・ここたまを探すアスル。
やがて、アスルの目に、黒と紫で塗装された中量二脚型のu-ACの頭部が目に留まる。
「みなさーん!」
「ん?」
「え? この声って?」
パドックの一角、今まさに勝利を収めたu-ACを輸送用トレーラーの荷台に載せている彼らのもとに、アスルは駆け寄る。
チームの面々は、聞き覚えのあるアスルの声に気付き、近づいてくる彼の方へと目をやると、その姿を見て、思いがけぬ再会に声を挙げた。
「おぉ、やっぱり、アスル、アスル・ゼルトナーじゃないか!!」
「お久しぶりです! ファットマン!」
「ははは、お前さん、少し見ない間に、一層好青年になったな!」
ファットマンと呼ばれた、チームのオーナーであろう還暦を迎えた頃合いのスーツを着た男性は、その名に相応しい恰幅の良い体全体を使って、アスルとの再会を喜ぶ。
「本当にアスル君なの?」
「お久しぶりです、マギーさん」
「久しぶり! 元気にしてた?」
そして、ファットマンの後ろから現れた、秘書であろうか。同じくスーツ姿の二十代後半と思しき、青いショートヘアのマギーと呼ばれた女性。
差し出した右手でアスルと握手をした彼女の左腕は、袖部分がだらしなく垂れさがっている。どうやら、彼女は五体満足ではないようだ。
「どうしたんだ、二人とも? 嬉しそうな声を出して?」
「おぉ、ジナイーダ、お前もこっちに来い。アスルの奴が会いに来てくれたんだ」
「な! アスルだと!?」
ふと、コンテナの影から人影が飛び出し姿を現したのは、チームのアーキテクトであろう、つなぎを腰巻にし、上半身はTシャツ姿の紫ショートヘアのマギーと同年代の女性であった。
「本当に、アスルなのか!?」
「はい、お久しぶりです、ジナイーダさん!」
「久しぶりだな! まさか、こんな所で再会できるとは思ってもいなかったぞ!」
ジナイーダと呼ばれた女性とも再会を喜ぶ握手を交わし、三人と再会を喜んだアスルは、ふと、残りの一人の居場所を尋ねる。
「所で、グランさんは何処に?」
「あいつは今u-ACの積載作業中だ、終わったら、私からアスルが来ていると伝えよう」
グランと呼ばれた残りの一人の居場所もジナイーダの口から判明した所で。
アスルは、久々の再会に喜びながら、自身の近況を話していく。
「ほーぉ、そうか。お前さんも、一匹狼から組織の仲間入りか」
「まぁ、今時独立レイヴンは世知辛いからね」
将来のリンクス候補と言う事実は伏せ、CDGの一員となった事を話すアスル。
アスルよりも一足早くレイヴン家業をたたみ、フォーミュラフロントの世界に転身したファットマンとマギーは、レイヴン時代の苦労を思い出しながら言葉を返す。
「職場の環境はどうだ? 嫌な思いはしていないか?」
「大丈夫ですよジナイーダさん。とてもフレンドリーでアットホームな職場だから」
「辛くなったらいつでもチームの一員として迎えてあげるからね! アスル君なら大歓迎だから! ね、ファットマン!?」
「ん? まぁ、そうだな。知らない仲でもないし、賑やかなのは嫌いじゃない」
「私も、アスルなら大歓迎だ」
「おいおいおい、うちの大事な
半分は冗談とはいえ聞き捨てならない言葉に、それまで黙っていたエドが口を出す。
「で、アスル、そっちの男は誰だ?」
「エドさんは会社の同僚で、優秀なリサーチャーなんです」
「エド・ワイズだ、よろしくな。これでも、あんた達のチームを応援している一人なんだぜ」
「おぉ、それは失礼した。今後とも、アスル共々、我がチーム・ここたまをどうぞよろしく」
応援していると聞くや、営業スマイルを浮かべエドと握手を交わすファットマン。
全く現金なんだから、とのマギーの少々呆れた声を他所に、ファットマンはエドとの世間話に花を咲かせるのであった。
「あ、本当だ。アスル君だ」
「グランさん! お久しぶりです!!」
とそんな折り、積載作業を終えたつなぎ姿の一人の二十代後半と思しきアーキテクトの男性が姿を現す。
グランと呼ばれた物腰の柔らかそうな男性に近づき、握手を交わすアスルの表情は、笑顔で溢れていた。
それは知り合いと久しぶりに再会したというよりも、兄弟と久方ぶりの再会を果たしたかのような雰囲気であった。
「お? あっちの兄ちゃんも、アスルが昔世話になったレイヴンか?」
「えぇ、そうよ。特にアスル君は、グランの事を本当の兄のように慕っていたから、再会の喜びも一入でしょうね」
ファットマンとの世間話を終えたエドに、マギーが補足説明を行う。
「ま、アスルを弟のように可愛がっていたのは、グランだけではなく、私達もだがな」
「まぁ、俺は弟と言うよりも、息子みたいなもんだったがな!」
それに、ジナイーダとファットマンも続く。
「へぇ、成程な。……所で、あんたらは元レイヴンだったんだろ? どういった経緯でアスルと知り合ったんだ?」
「あら? 知りたがりなのね?」
「ま、仕事柄ってやつだ」
「まぁいいんじゃねぇか、マギー。少しぐらい昔話を話してもさ」
「
アスルとグランが楽しげに話している一方で、エド達も、アスルとの出会い等、昔話に花を咲かせ始める。
マギー曰く、アスルとの出会いは今から三年ほど前。
まだ、彼女たちが小規模なチームのレイヴンとして活動していた時の事。
チームリーダーであり、自称業界最高の運び屋を自負するファットマン。
元はレイヴンならが、とある戦闘での負傷が元で現役を退き、チームのオペレーター及び財政管理等を担当していたマギー。
そして、チームの主力であった二人のレイヴン、グランとジナイーダ。
小規模ながら腕利きの二人を有したこのチームに、ある日、とある依頼が舞い込んでくる。
それが、他のレイヴンと合同でのとある施設の警護の依頼であった。
「そこで出会ったのが、アスル君よ」
当時参加したレイヴンの中で最年少であったアスル。
最年少という事もあり、心配になって声をかけたのがグランであった。
「グランは優しい奴だったからな、私達も気にはなっていたが、躊躇せずに真っ先に声を掛けに行った」
こうして出会ったアスルとチームの面々ではあったが、そこはお互いレイヴン。
この依頼が終われば、別々の道を歩むと思っていた。
だが、事態は思わぬ方向へと進む事となる。
「ま、俺達のいた世界じゃ、騙し騙されるのは常みたいなもんだからな」
実は、アスル達が受けた依頼は真っ赤な嘘で。
実際は、集められたレイヴン達に恨みを持った者達による罠であった。
まんまと罠にかかり一か所に集められた彼らは、大部隊による奇襲を受ける事となる。
激しい戦闘が行われ、幾人ものレイヴンが愛機と共に没した中。
やがて銃声が止み、静寂が訪れた只中に立っていたのは、グランとジナイーダ、そして、アスルのレナトゥスだけであった。
「と言っても、アスルの機体は限界寸前だったな」
とはいえ、ジナイーダの証言通り、グランとジナイーダの機体に比べ、アスルのレナトゥスは損傷が激しかった。
「そこでグランがね、生き残ったのも何かの縁だって、アスル君の機体も回収できないかって頼んできたの」
「あの時はちっとばかし無理したが、何とか回収には成功してな」
「幸い、機体の損傷に比べて、本人は軽傷程度だったからよかったけどね」
こうして、ファットマン達のチームに回収され、彼らの活動拠点で世話になる事となったアスル。
当初は、自身の怪我と機体の修理が終われば別れるかと思われた。
「ただまぁ、その後何だかんだで半年ぐらいは一緒に行動したな」
しかし、ファットマンの言う通り、アスルはファットマン達のチームにその後半年間同行し。
そして、雲一つない快晴のある日、アスルは、愛機レナトゥスと共に、彼らのもとから旅立った。
「懐かしいな。あの頃は、よくファットマンが私達の下着を使ってよくアスルをからかってたものだ」
「ははは! そういえばそうだったな! いやぁ、なんせアスルの奴、年頃だって言うのにマギーやジナイーダに夜這いの一つもかけねぇから、もしかして興味ねぇのかと思ってな!」
「ファットマン、アスル君はファットマンみたいなエロ親父じゃないのよ。一緒にしないで」
「まぁ、しかし、アスルの奴が夜這いしねぇの、何かわかる気がするわ。なんせ顔はいいが、まな板じゃぁな……」
昔話も一区切りがついた刹那、ふと、エドがマギーとジナイーダの胸元の膨らみを目にしながら、余計な一言を漏らしてしまう。
ファットマンの顔を青ざめ、エドに注意しようとする間もなく。
気付けば、エドは床に突っ伏していた。
「悪いな、手加減できない性分なんだ」
「それは禁句と言われていたらしいわ、私達を切れさせる、死を告げる言葉よ」
互いに握りこぶしを作りながらエドに吐き捨てるように言葉を放つマギーとジナイーダ。
どうやら、二人にとって胸元の膨らみに関する話題はタブーのようだ。
「いってて……。じょ、冗談だってのに……」
と、頭をさすりながら再び立ち上がるエドではあったが。
ふと目にした、マギーとジナイーダの現役の頃を彷彿とさせる鋭利な視線に、自然と背筋が伸びるのであった。
(やべぇ、この二人、副社長と同じだよ……)
そして、内心、女は怖いと改めて認識するエドであった。
「あれ? エドさん、どうしたんですか? なんだか少しやつれた様な……」
「おぉ、アスル。いいか、女を選ぶときは慎重にな」
「??」
グランとの話を終え、エド達のもとへと戻ってきたアスルは、エドの言葉の意味を理解できず、疑問符を浮かべるのであった。
「それじゃアスル、元気でな」
「あ、そうだアスル君。これ、私達のチームの名刺。気が向いたら、また遊びに来てね」
「会えて嬉しかったぞ、アスル」
「アスル君、頑張ってね」
「皆さんも、お元気で!!」
こうして、ひと時の再会を堪能したアスルは、エドと共に帰っていった。
二人の背を見送るファットマン達は、二人の姿が見えなくなると、ふと本人の前では言えなかった事を話し始めた。
「にしても、アスルの奴、自然な笑顔が増えたじゃねぇか」
「そうね。私達といた時は、何処か、無理して笑ってる感じがしたものね」
「それだけ、いい仲間に巡り合えたんだろう」
「そうだね」
「所でグラン、アスルの奴と何を話していたんだ?」
「んー、決意表明、かな」
「なにそれ?」
「アスル君も頑張るから、僕達も頑張るよ、みたいな?」
「そうだな。アスルもアスルで進んでいるんだ。私達も、追いかけた高みへと手を届かせるために、更に頑張らないとな」
「そうね。……それじゃ、先ずは次の試合に向けて頑張りましょう」
「チーム・ここたまの戦いはこれからだ、だな」
アスルと出会い、彼の突き進む姿を目にしたファットマン達は、気持ちを引き締めるのであった。