ARMORED CORE LOST for Tomorrow Answer   作:ダルマ

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Mission3-1 大人の社交場

 ファットマン達とのひと時の再会を果たした土曜日が過ぎ、翌日からも、アスルのレイヴンとして依頼をこなす日々は続いた。

 そして、この日も、アスルはレナトゥスのコクピットに缶詰めになりながら、与えられた任務をこなしていた。

 

「本日は、当社インテリオル・ユニオンが建造しました最新鋭のクレイドル、クレイドル19(ナインティーン)の正式可動記念式典へご参加くださり、当社一同、心より、感謝申し上げます」

 

 特設会場に設けられた壇上で、上質な黒のスーツに身を包んだ六十路前後の白髪交じりの男性が、挨拶を行う。

 そんな壇上の男性に、特設会場にいるドレスコードに従い正装に身を包んだ人々が視線を向ける。

 

「それでは皆様、僭越ながら、乾杯の音頭を取らせていただきたいと思います。……それでは、どうぞこの後も、美味しい食事をお楽しみください、乾杯!」

 

「「乾杯!!」」

 

 そして、乾杯の音頭と共に、特設会場内に乾杯の声が溢れ。

 刹那、それまで静かであった特設会場内が、一気に賑やかさを増すのであった。

 

「……ふぅ」

 

 そんな特設会場の様子を、レナトゥスのコクピットに缶詰めであるアスルは、レナトゥスのカメラ映像を通して眺めていた。

 

 ではここで、現在アスルが行っている任務について、説明を行おう。

 現在、アスルが行っている任務は、式典が行われている特設会場の周辺での警備活動である。

 武装集団等からの襲撃に備えたこの警備活動には、アスルの他、複数の同業他社のレイヴン達も動員されている。

 そして、この式典の主催者であり、今回アスルを含むレイヴン達の依頼主、インテリオル・ユニオン社の正規軍部隊の姿も確認される。

 その中でも特に目立つのは、その巨体故に特設会場から離れた場所に配置せざるを得ない、量産型AFの代名詞、GA社製AFのランドクラブ、のインテリオル・ユニオン社購入・独自改修型。

 青み掛かったシルバー塗装と多連装レーザー砲が目に付く、通称グラン・グランキオである。

 

 そんな過剰とも言うべき戦力が集結しているのが、インテリオル・ユニオン社勢力圏内、アフリカ大陸西部旧コートジボワール沿岸部に建設されたアルテリア・"イスキアル"。

 その一角に設けられた特設会場だ。

 

 野外会場の為天候が心配されていたが、式典当日は晴れ晴れする程の快晴で、まさに式典日和と言えた。

 

 おそらくセレンの伝手で回ってきたであろう今回の任務。

 これ程の重武装の警備状況で襲撃を仕掛けようと考える輩はいないと思われるが、それでもアスルは、緊張感をもって任務にあたっていた。

 

「ご苦労様、アスル君」

 

 それから暫く、特に急を告げる知らせもなく、特設会場の賑やかな様子を退屈しのぎに眺めていると。

 不意に、コクピット内に今回のオペレーターを務めるシーラの声が響く。

 

 なお、セレンは武蔵共々、今回の式典の来賓として参加している為、シーラがオペレーターを務めているのだ。

 

「交代の時間よ」

 

「分かりました」

 

 シーラからの通信は、交代と休憩を告げるものであった。

 程なくして、交代要員のレイヴンが愛機に乗ってやって来る。

 

「では、お願いします」

 

「へいへーい」

 

 何ともやる気が感じられない相手の返事を聞きながら引継ぎを終えると、アスルはレナトゥスを、特設会場に隣接し設置された待機場へと移動させる。

 

「はい、どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 指定の場所にレナトゥスを片膝をつき駐機させ、レナトゥスから降りると、待機所に隣接する臨時の指令所からシーラが駆け寄り、アスルにタオルとドリンクを手渡す。

 

「そうだアスル君、さっきセレンから連絡があって。紹介したい人がいるから顔を出して欲しいらしいの」

 

「え? でも、俺、こんな格好で」

 

「それは仕方ないんじゃない、今からスーツも用意できないし。ま、証明用のIDカードがあれば会場には入れるから、多少場違いだけれども、今回は急な事だし、仕方ないわ」

 

「分かりました」

 

 セレンからの命令にノーと言えるような立場にないアスルは、程なくしてドリンクを飲み干し、空になったカップとタオル、それにヘルメットをシーラに手渡すと。

 特設会場内のセレン達に合流すべく、特設会場へと向かうのであった。

 

 

「IDカードを……、よし、いいぞ」

 

 フォーマルな場の雰囲気を壊す事のない、体格の良さが隠しきれない黒のスーツに身を包んだ、インテリオル・ユニオン社傘下の警備会社社員達のチェックを経て。

 特設会場内へと足を踏み入れたアスルは、自身のパイロットスーツ姿が周囲の正装に馴染み切らず浮いている事を向けられる視線から若干気にしつつ、セレンと武蔵を探して特設会場内を右往左往する。

 

「こっちだよ、アスル君!」

 

 数分歩き回り、武蔵の声でようやく二人の姿を見つけると、足早に二人のもとへと駆け寄る。

 そこにいたのは、二人の他、来賓として今回の式典に参加している、おそらくお歴々の方々。

 上質なスーツの身を包んだ彼らは、武蔵に紹介されるアスルを、見定めるような視線で眺めている。

 

「ほぉ、彼が先ほど仰っていた、期待のリンクス候補生ですか?」

 

「今はレイヴンをしているようで。レイヴンからリンクスへの転身となると、あの、アナトリアの傭兵の再来を狙って、ですかな?」

 

「いえいえ、そこまでは。ただ、レイヴンとしての経験は、リンクスとなっても生かせるものがあると思ったから、経験を積ませているんです」

 

 お歴々の方々から放たれる言葉に、武蔵が丁寧な口調で対応していく。

 こんな対応、おそらくセレンさんではできないだろうな。と、アスルは、黒のドレスを着こなし、黙っていれば女性として魅力満点なセレンの方へちらりと視線を向ける。

 

「何だ?」

 

「あ、いえ」

 

 刹那、アスルの視線に気づいたセレンは、短く、しかし警告の意味が込められた言葉を放つ。

 いつも以上に綺麗ですね、と取り繕うような返事でもしようかと思ったアスルだが、エドのアドバイスが頭をよぎり、咄嗟に、そんな言葉は喉の奥へと引っ込めた。

 

「ほぉ、その青年が、お前たちの新しい玩具という訳か?」

 

 それから程なくしての事であった。

 黒いスーツを着た一人の、杖をついたアジア系の男性が、アスル達のもとへと近づいてきた。

 お歴々の方々が男性の声に気付くや、彼らは咄嗟に、男性に道を譲る。

 

「っち、何の様だ? 王小龍(ワン・シャオロン)

 

「ふん、相変わらず、愛想の一つも振りまけんか」

 

 杖をつき、その顔や手には歩んできた年月の長さを物語る相応のしわが刻まれ、その髪は、既に全面白髪である。

 だがその瞳は、年齢を感じさせぬ程活力に溢れ、声に宿り纏った老練な雰囲気と相まって、男性が、ただものではない事を感じずにはいられない。

 

 そして、その予想は間違いではなかった。

 王小龍。

 その名を知らぬ者は少ないであろう。

 

 国家解体戦争で活躍したオリジナルの一人にして、齢六十近くと噂されながらも今なお現役でありながら、同戦争時から所属するBFF社の重鎮として知られるリンクス。

 また、彼はリンクスとしての腕前もさることながら、リンクス戦争において一度はBFF社が崩壊の危機にありながらも、ムラクモ社の仲介によりGA社の支援を取り付ける等。

 BFF社を再興させたその政治的手腕も高く評価されている。

 ただし、政治的手腕に関しては、同時に多くの黒い噂も絶えず。一部では"陰謀屋"と揶揄されている。

 

 おそらく、セレンが本人を目の前に舌打ちしたのも、そうした陰険な部分を嫌っての事だろう。

 

「全く、黙って愛想を振りまければ、言い寄る男は引く手数多なものを。そんな調子だから、貴様を好こう等という奇特な男は、こいつ位しか現れんのだ」

 

「あ、あはは、どうも」

 

「おい武蔵、そこはガツンと言い返せ!」

 

「いや、でも、一応本当の事だし」

 

 そんな王小龍からの指摘に、武蔵は苦笑いしながら対応していたが。

 

「あ、でも……。幾ら王小龍と言えど、これ以上セレンを侮辱するなら、……貴方には、相応の報いを受けてもらう事になるかもしれませんよ?」

 

 ふと、武蔵の雰囲気が、アスルがそれまで感じた事のないものへと変化すると。

 彼の口から、いつもの優しさを感じられない、冷たく突き刺さる様な口調の言葉が零れる。

 また、その瞳も、冷たいものに変化していた。

 

 それは、アスルも見た事がない、そんな武蔵の一面であった。

 

「……ふん、いいだろう、この話題はここまでだ。今日は下らん口論をする為に足を運んだのではないからな」

 

 そんな武蔵と正面から対峙していた王小龍。

 表面的には変化が見られなかったが、どうやら、内心では幾分変化していた様だ。

 

 こうして静かな一触即発の事態は終結し、武蔵も、アスルがよく知るいつもの彼へと戻るのであった。

 

「で、本題だが。その青年、見込みはあるのだろうな?」

 

「えぇ、見込みは十分ですよ」

 

「そうか、それは楽しみだな……」

 

 アスルを一通り眺めた後、王小龍は踵を返すと、その場を後にしようとした。

 だが、ふと言い残したことがあるかのように足を止めると、僅かばかり振り返り。

 

「あぁ、そうだ。お前たちが望むのなら、便宜を図ってやらんでもないぞ」

 

「それはありがとうございます。ですが、お返事は、他のお誘いも検討してからという事で」

 

「まあいい。気が向いたら連絡をしろ」

 

「その時は、是非に」

 

 そして、言い残したことを言い終わると、王小龍は来賓の中へと姿を消した。

 それに釣られ、お歴々の方々も、アスル達の前から去っていった。

 

「全く、厄介な奴に目をつけられたな」

 

「でもセレン、何れは目をつけられた訳だし。むしろ、こんな場で目をつけられるのはよかったのかも知れないよ?」

 

「ま、人気のない所で先ほど以上にチクチク言われるよりはマシか……」

 

「あ、あの……」

 

 武蔵とセレンが王小龍との遭遇を評価していると、アスルが遠慮がちに声をあげた。

 

「ん? 何だ?」

 

「あの、俺もう、戻ってもいいですかね? 休憩時間も限られてるんで」

 

「あぁ、すまなかったな。もういいぞ」

 

「貴重な休憩時間なのに御免ね」

 

「いえ、では」

 

 こうして、武蔵とセレンのもとを離れ、特設会場を後にしようと歩き出したアスルであったが。

 戻ってから空腹を満たす為に食事をとる時間が残っているか、と気にかかり。

 

 特設会場内には至る所に食欲のそそる、高級そうな料理の数々が並んでいる事もあり。

 

 気付けば、料理を盛った皿を片手に、空いている椅子を探し回っていた。

 

「ふぅ……」

 

 程なくして、空いている椅子を見つけたアスルは、椅子に腰掛けると、皿に盛った料理を口にし始める。

 

「よぉ、どうした? 美味そうな料理食ってるのに、そんな辛気臭そうな顔して」

 

「あ、エドさん」

 

 すると、横から聞き慣れた声が聞こえ、声の方へと振り向くと。

 そこには、ワイングラスを片手に持ったエドの姿があった。

 

「お前さんの口には合わなかったか?」

 

「いえ、料理は美味しいんですけど……」

 

「あぁ、お前さんにはこういう大人の社交場(腹芸披露場)は苦手か?」

 

 アスルの様子から何かを察したエドは、アスルの本音を代弁する。

 

「そうですね。俺には、苦手かもしれません。あんな駆け引き、出来る自信があまり……」

 

 すると、アスルの口から、先ほどの武蔵と王小龍の駆け引きを目にした感想を含んだ本音が漏れる。

 

「しかしまぁ、苦手と言っても、時には無理して参加しなけりゃならん事もある。特に、こういう式典の場は、業界のお歴々が一堂に会する事もあるからな。パトロン探しには、まさにうってつけつ場所さ」

 

 今回の式典、来賓として参加しているのは、何もインテリオル・ユニオン社の関係者だけではない。

 王小龍のような、表面的には対立構造にある企業の人間も、多くが来賓として参加している。

 

 これは、クレイドルが人類の共同財産であり箱舟であると同時に。

 そんなクレイドルを建造したインテリオル・ユニオン社の権威発揚の為、その証人として招かれている、とも言えた。

 

「そもそも、リンクスになって名を挙げて、どこぞの企業から御贔屓になりゃ、嫌でもこんな場に出なけりゃならなくなるんだぞ」

 

 各企業所属のリンクス、その中でも、特にカラードランクのトップテンにその名を連ねるリンクス達は、所属している企業にとって、まさに最高戦力であると同時に、最高の広告塔でもあった。

 インテリオル・ユニオン社を例に挙げれば、現在カラードランクのランク十位に名を連ねる同社所属のリンクス、ウィン・D・ファンション。

 彼女は、デビューから程なく当時GA社の最新鋭AFであったギガベースを撃破する等、GA社にとっては災厄とまで呼ばれるリンクスであるが。

 同時に、インテリオル・ユニオン社の広告塔として、様々なCMや雑誌、更には看板などに起用され、文字通りインテリオル・ユニオン社の顔として、一般にも広く知られている。

 

 この様に、一部例外はあるものの、カラードランクの上位に名を連ねる程に名を挙げるという事は、同時に公人としての身の振り方も心得なければならなくなる。

 

「避けられない道、ですか」

 

「まぁ、そうだな。お前さんなら、多分避けようがないだろうな。……あぁ、そうだ、もしアドバイスが欲しいなら、社長あたりに聞いてみるといい。現役の頃は、こんな場に何十回と出てた筈だからな、いいアドバイスがもらえる筈だ」

 

 エドからの助言に、何故境遇が同じはずのセレンの名が出ないのかと疑問に思ったアスルであったが。

 セレンのストレートな性格を考慮すると、確かにアドバイスをもらう相手としては不十分だな。と、静かに納得するのであった。

 

「ありがとうございます、エドさん」

 

「ま、今すぐって訳じゃねぇんだ。少しずつでも、慣れてきゃいいさ」

 

「頑張ります」

 

「ははは、いい顔だ。やっぱ辛気臭い顔より、そっちの方が……っと、もう空かよ、わりぃ、新しいワイン探してくるわ」

 

 片手に持ったワイングラスの中身が空になったのに気が付くと、エドは、新しいワインを探すべくその場を後にした。

 

 こうして再び一人となったアスル。

 更に残っていた料理も食べ終え、レナトゥスのもとへと戻ろうかと思った矢先の事であった。

 

「あの、隣、座ってもよろしいですか?」

 

「え? あ、どうぞ」

 

 不意に声を掛けられ、返事をしつつ声の主の方へと視線を向けると。

 そこには、同年代位の、落ち着きのあるネイビーのドレスを着た、綺麗な青い髪を靡かせた女性の姿があった。

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