ARMORED CORE LOST for Tomorrow Answer 作:ダルマ
スタイルの良さもさる事ながら、その可憐さに、アスルの視線は自然と女性の顔を追ってしまっていた、レナトゥスのもとへ戻る事も忘れ。
だが、ふと我に返ると、視線を逸らすものの。
やはり隣の女性が気になり、チラチラと女性の顔を意識してしまう。
(駄目だ、何やってんだよ、俺)
見ず知らずの、しかもパイロットスーツ姿の男が、自身の顔を見てくる。
女性の側からすれば、気付いた時に気分を害するのでは。
何とか理性で気持ちを抑えつけ、アスルが視線を再び逸らした刹那。
ふと、横から視線を感じるのであった。
(あ、もしかして、さっきチラチラ見てたの、気付いた?)
再び、ちらりと横を見れば。
そこには、アスルの横顔を真剣な眼差しで見つめる女性の顔があった。
(やっぱり、気付いたんじゃ……)
このまま黙って白を切り通すか、それとも素直に謝るか。
女性の視線を受けながら考え、そして、アスルは答えを導き出す。
「あの……」
「あの、聞いてもいいですか!?」
素直に謝ろうとした矢先、女性の質問に、アスルの言葉はかき消される。
「え、あ、はい」
「もしかして、アスル君? アスル・ゼルトナー君?」
そして、次に女性の口から自身の名が飛び出した事に、アスルは目を丸くする。
何故女性が自分自身の名前を知っているのか。もしかして、IDカードに書かれた名前を目にしたからか。いや、彼女の口ぶりからしてその可能性は低い。
「もしかして、私の事、忘れちゃった?」
理由を考えていると、ふと、女性の口から面識がすでにあるかのような言葉が飛び出す。
そしてアスルは、彼女の顔を、再び正面から見つめる。
すると、遠い記憶の彼方、まだ孤児院で過ごしていた頃の記憶が蘇り。
その中で、澄んだ笑顔をいつも見せてくれた、あるかけがえのない女の子の姿を思い出す。
記憶の中の女の子の顔、それを目の前にいる女性の顔と照らし合わせる。すると、女性の顔には、確かに、記憶の中の女の子の面影があった。
「エ……、ル……?」
「そうだよ!」
気づけば、アスルの口から、懐かしい名前が自然と零れていた。
「エル!? 本当に、エリーサ・ルオナヴァーラなのか!?」
「うん、そうだよ!」
エルとの愛称で呼ばれていた、エリーサ・ルオナヴァーラは、自身の名を呼ばれ、笑顔を見せる。
それは、アスルにとって、懐かしの笑顔であった。
「えっと、久しぶり、だね。元気にしてた?」
「うん、元気だよ。アスル君は?」
「俺も、一応」
「そっか」
互いに予期せぬ再会であった為か、積もる話もある筈だが、出だしは何処かぎこちない。
「所で、そのドレス。もしかして、エルも式典の来賓として?」
「うん。
「
「あ、そうだった。アスル君、私ね、養子縁組したんだ」
「そうなんだ、おめでとう」
「ありがとう。それで、養子縁組したから、今は名前がエリーサ・ルチアーノになるんだけど。……エルって、変わらず呼んでくれる?」
「勿論!」
「ふふ、ありがとう」
「でもそっか、養子縁組したんだ。それじゃ、孤児院も退所したんだ。……あ、それっていつ頃?」
「リンクス戦争が終わって暫くした頃、かな」
エルの口から飛び出たリンクス戦争と言う単語と、その時期に。
アスルは、胸が苦しくなった。
アスルが孤児院を退所しレイレナード社に引き取られた際、引き取りの条件として、孤児院への資金援助があった。
だが、リンクス戦争でレイレナード社は崩壊し、孤児院への資金援助も、同時に打ち切られる事となる。
元々運営に余裕のある孤児院ではなかった為、リンクス戦争後の運営は、再び厳しいものとなった事は想像に難しくない。
「あ、でもね! 今は私のお父さんが、私達のいた孤児院に資金援助を行ってくれているんだよ! だから、安心してアスル君!」
アスルの自責の念を滲ませた表情を見て、エルは、それ以上思い詰めない様にと、アスルの手を取りながら孤児院の現状を話した。
「え? そう、なの?」
「うん。だから、アスル君が悩む必要なんてないんだよ」
「……そっか、それは、よかった」
長年、心の何処かで心配していた孤児院の問題が解決し、アスルは肩の荷が一つ下りて安心する。
そして、その感謝を、エルに告げるアスル。
「あ、所で。エルの養父って、一体どんな人なの? さっき、最後の晴れ舞台って話してたけど?」
「あ、私のお父さんはね、インテリオル・ユニオンの代表取締役CEO、クラウディオス・ルチアーノだよ」
「……え」
孤児院に資金援助を行えるほど裕福で、しかも今回の式典に参加する程の人物であるから、ある程度社会的地位の高い人物ではないかとの憶測を行っていたアスルであったが。
まさか、式典を主催し、先ほど壇上で乾杯の音頭を取っていた、今や世界三大グループ企業の一つを形成する企業の社長だとは、想像もしていなかった。
「今回の式典がお父さんの最後の仕事。式典が終われば、退任して名誉会長になるんだけど。あ、でも安心して! 孤児院への資金援助は続けられるから!」
「あ、うん、それはよかった。……あ、って事は、もしかして、エルも?」
「うん。今はインテリオル・ユニオンの社員だよ」
養父がインテリオル・ユニオン社の社長でありながら、その養女であるエルが他社の社員などである可能性は低く。
アスルが思った通りの答えが、エルの口から返ってきた。
「そういうアスル君は、その恰好、もしかして……」
「あぁ、今は、PMCのレイヴンとして活動してる」
「そっか……」
エルとしては、アスルが戦争等に関わることなく、何処かで慎ましやかに仕事をして生活していて欲しかったのかもしれない。
アスルがレイヴンである事を打ち明けると、エルの表情が曇っていく。
「でも、アスル君が決めた道だもんね。私がどうこう言える訳……」
「エル……」
「あ、そうだ! ねぇ、アスル君さえよければ……」
と、エルが何かを思いつき、アスルに提案しようとした刹那。
突如、会場内に金切り音のような音が響く。
すると、アスルは咄嗟にエルの身を守るように自身の体をエルに覆いかぶせるようにすると。
音に混乱する会場内を見渡し、音の正体を探り始める。
「あ、アスル、君……」
このアスルの突然の行動に、エルの頬がどんどん赤みを増していく。
「皆さま、落ち着いてください! 問題ございません! 警備の機体がこすっただけですので!!」
それから程なくして、会場内に、先ほどの音が重大な事象ではない事を知らせるアナウンスが流れる。
どうやら、警備中のレイヴンの愛機が、施設の一部と接触した事が原因で、先ほどの音が発生したようだ。
アナウンスが流れ、会場内の混乱も収まり。
程なくして、会場内は平穏を取り戻した。
「エル、大丈夫だった?」
「う、うん」
しかし、エルに関しては、まだ平常心を取り戻すには、今しばらくの時間がかかりそうだ。
「本当に大丈夫? 顔が少し赤いけど?」
「だだ、大丈夫!」
「ならいいけど。……あ、そういえば、さっき何か言いかけてたけど、一体何?」
「あ、そうだった。あのねアスル君、もしアスル君さえ……」
と、再びエルが先ほど言いかけた提案を今度こそ伝えようとした刹那。
アスルのつけていたデジタル式の腕時計から、アラームが鳴り始めた。
「っと、ごめん、エル。もう持ち場に戻らないと、休憩時間が」
「あ! そうなんだ。なら、話はまた次に会えた時にでも」
「それじゃ。……あ、そうだ、久しぶりに会えて凄く嬉しかった」
「私もだよ!」
「じゃ、また」
こうしてレナトゥスのもとへ戻るべく、会場を後にするアスル。
そんなアスルの背中を、手を振りながら見送ったエルは、彼の姿が見えなくなると同時に、零れるように独り言ちる。
「また、会える、よね……」
それは何処か、儚げな声であった。
あの式典での再会から数日後。
エルは、いつものように、自身に与えられた仕事をこなしていた。
「エル、間もなく降下エリアに到着よ。ブリーフィングの内容、ちゃんと覚えてる?」
「大丈夫だよ、
「そうよ。ま、ターゲットの基地にはAFもネクストも配備されてないみたいだし、MTやノーマル程度が関の山だから、簡単な仕事ね」
薄明かりで照らされる、狭いコクピット内。
エルは、固いシートにパイロットスーツを身に纏った体を固定し、ヘルメットに内蔵されているヘッドフォンから聞こえる、義理の姉であり自身の管制官、即ちオペレーターを務める女性と、作戦前の会話を楽しむ。
「あ、そうだ。ねぇ、エル。この間の式典で、エルが親しげに話してたあの青年君、一体誰なの?」
「え、えぇ!? お姉ちゃん、見てたの!?」
「偶然ね。それよりも、一体あの青年君は、エルとどういう関係なのかなぁ~? お姉ちゃん、気になっちゃうなぁ~」
「い、今は関係ないでしょ!!」
「おー、バイタルが凄い事になってるよ」
目の前のモニターに表示されたエルのバイタルサインの乱れを目にし、悪戯な笑みが止まらないエルの義姉。
一方エルは、義姉からのからかいの言葉に、気恥ずかしさから顔を赤くするのであった。
「さて、可愛い妹の緊張をほぐしてやった所で、エル、そろそろ出撃よ」
「うぅ」
程なくして、義姉の口調が、先ほどまでの悪戯なものから、真面目なものへと変化する。
エルはこの決着に納得してはいなかったが、迫るタイムリミットに、直ぐに気持ちを切り替える。
──アイドリング解除、ジェネレーター出力上昇、コジマ粒子圧縮開始、各システム、戦闘モードへ移行、チェック、チェック。
コンソールを操作し、機動シーケンスを開始する。
刹那、無機質な機械音のアナウンスが流れ始める。
──チェック完了、オールグリーン。AMS接続レベル、戦闘モードに移行します。網膜投影、開始。
「っ、く!」
程なくして、アナウンスの終了間際、エルに、頭に電流が流れたかのような痛みが走る。
堪えきれず声が漏れるが、その痛みも一瞬の事。
次の瞬間には、彼女は、自らの愛機とその意識を一部を繋げ、その時を待った。
「降下エリア到達、ハッチ開放、機体降下準備」
輸送機のコクピットからの通信が流れるや、輸送機の胴体底部に設けられた二重のハッチが開放され、薄暗いカーゴ内に光が飛び込む。
そして、開放されたハッチの眼下には、何処までも続くアフリカ大陸中部の砂漠の風景が流れていた。
「降下カウントダウン開始、五、四、三、二、一……」
零、の合図と共に、流線形の多い、白と青の二色で塗装された、特徴的な腕部を有する中量二脚のエルの愛機が、固定具の解除と共に、輸送機のカーゴから大空へと放たれた。
重力に逆らう事無く降下を続ける機体の周囲に、やがて、機体から放出されたネオングリーンの粒子が纏い始める。
これこそ、この機体が、従来の兵器とは一線を画す事を物語っていた。
「
そして、迫りくる砂漠の大地に、オートブーストを使用して無事に着地すると。
エルは、自らの愛機、Y01-TELLUSの派生型、腕部を武装と一体型のパーツに変更した
地平線の彼方に見える目標の基地を目指し、メインブースターに火を入れた。
大空を羽ばたく白い鳥を描いたエンブレムの如く、ヴェーロノークは、砂煙を上げ、砂漠を駆けた。