ARMORED CORE LOST for Tomorrow Answer   作:ダルマ

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Mission4-1 現役

 式典でのエルとの再会から月日が経ち、いつもの日常を送っていたアスル。

 

「業界注目! 新進気鋭のンジャムジ監督が送る最新作!! 評論家、ボス・サヴェージ氏も絶賛!! 人気若手俳優ズベンとリムのコンビが主役を務め、名バイプレイヤー・ストラング氏他、豪華俳優陣でお送りする長編SF映画作品!! 『前金、それが"全額"なら、終わり』九月九日より世界同時上映!!」

 

 この日も、事務所の一角に設置された応接兼会議スペースに設けられたテレビから流れる番組やコマーシャルを何気なく眺めながら、時間を潰していた。

 

「おい、そろそろ行くぞ」

 

 しかし、アスルはふとセレンの呼ぶ声に反応すると、テーブルに置かれたリモコンを操作しテレビの電源を切り。

 立ち上がると、セレンの後を追いかける。

 

「それじゃ、留守の間よろしくね」

 

「おーう、まかせろ」

 

「いい結果を期待してるわ」

 

 シーラとエドに見送られながら、アスルは、武蔵とセレンと共に、社用車で会社を後にした。

 三人を乗せた社用車が向かったのは、コロニー・フロリダの中心地、マイアミであった。

 

 地上にあるコロニーの中でも、数少ない活気にあふれた場所の一つ。

 そんなマイアミ市内を走る事十数分。

 社用車の進行方向上に、周囲の建物と比べ一際目を引く近代的な超高層ビルが姿を現す。

 

 そんな超高層ビルに、社用車は迷うことなく向かうと、やがて、超高層ビルの地下駐車場へと進入し、程なくして駐車を完了させる。

 

「いやぁ、苦労したけど、遂にここまできたね」

 

「武蔵、そういう言葉は交渉が成功してから言うものだぞ」

 

「あはは、でも、うん。きっと大丈夫だよ」

 

「お前は、偶にそうやって根拠のない自信を……」

 

「アスル君も、成功すると思うでしょ?」

 

「え、まぁ、そうですね」

 

 社用車を降り、エレベーターフロアへと向かう最中、今回超高層ビルへとやって来た目的の成否について話す三人。

 三者三葉の予測の中、到着したエレベーターに乗り込むと、目的の場所を目指すべく上を目指す。

 

「只今案内の者が参りますので、少しお待ちください」

 

 外観の巨大さに違わぬ、広々とした落ち着きのあるロビーの受付へと足を運んだ三人は、受付係の女性からの言葉に従い、暫し待つことに。

 その間、アスルは、ふと周囲の様子を見渡す。

 

 スーツを身に纏った社員達が行き交うが、その数は、まさに大企業と言わんばかりに多い。

 ガラスから差し込む光、各所に設置された観葉植物。

 そして、壁には、このビルの所有者にして社員達の所属先である企業のロゴが大きく掲げられている。

 

 その名を、GAアメリカ。

 

 ご存知、スタンダード・ミリタリー・カンパニーを標榜し、三大企業グループの中で最大勢力を誇るGAグループの盟主。

 企業単体としての技術力等は、多少後塵を拝している部分はあるものの、そうした部分を埋めるべく、ムラクモ等と強固な協力関係の下環太平洋圏を形成し、グループとして競争力の強化を図っている。

 

 そんなGAアメリカが所有するこの超高層ビルは、同社の勢力下にある旧アメリカ東南部担当エリアの統括拠点としての役割を担う支店で、地上における重要施設の一つでもある。

 

「待たせたな」

 

「あ、お久しぶりです! ローディーさん」

 

 その為、GAアメリカの重要人物と出会う事もあり。

 三人のもとへ近づき声をかけたのは、かつては粗製と揶揄され、その後豊富な経験と実績を経て、今やかつての汚名を払拭しGA社最強と謳われるリンクス。

 

 仕立てられたワインレッドのスーツを身に纏い、威厳に満ちた顔つきに整えられた口髭、そしてダークブラウンのオールバック。

 まさにダンディと称するに相応しい四十代後半の白人男性。

 

 現在カラードランクのランク五位に名を連ねる、ローディーその人であった。

 

「久しぶりだな、武蔵。いつ以来だ?」

 

「四年、ぶりですね」

 

「そうか、もうそんなに経つのか」

 

 リンクス戦争時は同じグループの一員であった武蔵とローディー。

 故に、二人は握手を交わしながら気兼ねなく言葉を交わす。

 

「一応、私もいるのだが?」

 

「すまなかった。よく来てくれた、ミス・セレン」

 

 セレンとは、言わば敵対企業の社員同士。

 だが、それも彼女が現役であった頃の事。

 現役を退いた現在になっても、ローディーは過去の事を蒸し返し接する器の小さな男ではない。

 

 歓迎のにこやかな笑みと共に、ローディーはセレンとも握手を交わす。

 

「それで、君が、噂のリンクス候補生か?」

 

「はい! アスル・ゼルトナーと言います! カラードランク五位のローディーさんにお会いできて、とても光栄です!!」

 

 二人と握手を交わし終えたローディーは、最後にアスルに目を向ける。

 すると、アスルは背筋を伸ばし、自己紹介と共に会釈するのであった。

 

「……ほぉ、これは随分と、気持ちがいい青年だ。武蔵辺りが教えたのか?」

 

「いやいや、彼が自発的に行っているんですよ」

 

「どうだ、私達のリンクスは? 羨ましいだろ?」

 

「確かに、これ程人格的に安心できるのは、羨ましい。だが、リンクスとして最も大事なのは、人格の良し悪しではなくAMS適性の高さだと思うが?」

 

 かつて粗製と揶揄された程、自身のAMS適性の低さと、それ故に生じる様々な苦労を知っているローディーは。

 まだ若く将来に希望の多いアスルを案じ、そして、そんなアスルに無茶をさせようとしていないかと武蔵とセレンの二人に注意を促す、そんな意味合いを含んだ言葉を投げかける。

 

「安心しろ、AMS適性については心配ない。それに、もしアスルが無茶をするのなら、私が殴ってでも止めてやる、それ位の覚悟はある」

 

「セレンの言う通り。もしアスル君が道を踏み外すなんてことがあれば、僕達が全力で止めてみせますよ」

 

「……成程。アスルと言ったな、いい縁に巡り合えたな」

 

 ローディーの言葉に、アスルは、一礼で返すのであった。

 

「所で、さっき待たせたなと言っていたが?」

 

「ん、あぁ、そうだった。君達を部屋に案内する為に声をかけたのだ」

 

 こうして軽い探り合いが一区切りついた所で、セレンの言葉に、ローディーが自身の本来の目的を思い出す。

 

「カラードランク五位のリンクスに案内されるとは、随分光栄だな」

 

「あぁ、因みに。交渉には私も同席させてもらうので、よろしく」

 

「……っち」

 

「セレン、顔、顔!?」

 

 ローディーの案内のもと、移動を開始する一行。

 その移動中、セレンは、眉間にしわを寄せ、不機嫌な表情を浮かべ、武蔵に注意されるのであった。

 

「そんなに不機嫌にならずともいいだろう。まぁ、知らない仲じゃないんだ、少しばかりは、口利きもしよう」

 

「ほぉ、言ったな? では、遠慮なくいくぞ」

 

「ふ、出来れば少しは、こちらの事情も汲み取ってくれると助かるんだが?」

 

「悪いが、そういう細かい事は性に合わん」

 

「やれやれ、困ったパートナーだな、武蔵」

 

「あはは……。でも、これでも可愛い所があるんですよ。二人きりの時なんて……」

 

「武蔵! 貴様それ以上口走ると承知しないぞ!!」

 

「あの、ローディーさん。社長と副社長がご迷惑おかけします」

 

「う、うむ」

 

 移動中、ローディーはふと思った。

 武蔵とセレンの二人に、アスルの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいと。

 

 そんな一幕もある中、一行はビルのとある階に上り、廊下を歩いていた。

 

 アスルは、ビル上階にあたる階からの展望を確かめるべく、ふと、廊下の窓から外を見渡した。

 そこから見えたのは、大地と異なり、戦前から変わらぬ姿を見せる青く輝くビスケーン湾の姿であった。

 

 しかし、ふと湾口部に目をやると、そこには沖合からの侵入者を迎撃する為の防衛施設。

 クレイドルへの本社機能移転以前、GA社の本社であったビッグボックスの防衛用としても採用されている巨砲を備えた。

 まさに現代に蘇ったフォート・ドラムと言うべき施設が存在し、嫌でも戦後からの変化を思い知らされる。

 

「アスル君、こっちだよ」

 

「あ、はい!」

 

 窓からの眺めに少しばかり目を奪われていた間に、残りの三人は先に進んでいた。

 武蔵の声に慌てて三人のもとへと追い付くと、それから程なくして、一行はとある扉の前で足を止めた。

 

「ここだ、さ、どうぞ」

 

 ローディーに入室を促され足を踏み入れると。

 部屋の中には、数人の社員と思しきスーツ姿の男性達が、縦長机を前に出迎える。

 

「あれ? 葛野(かどの)君じゃないか!?」

 

「お久しぶりです、先輩!」

 

 すると、武蔵がその内の一人の顔に気付くや、嬉しそうに声をかけた。

 話しぶりから察するに、どうやらムラクモ社時代の後輩の様だ。

 

「ほぉ、まさか現カラードランク二位のお前まで同席とはな」

 

「どうも、セレンさん。先輩がいつもお世話になってます」

 

「え? あのセレンさん、この方、もしかして……」

 

「何だ? 気付いてなかったのか。こいつはムラクモ・ミレニアム社最高の戦力と呼ばれている葛野 隆見(かどの たかみ)だぞ」

 

 黒のスーツを身に纏い、眼鏡をかけた黒髪黒目の純日本人な風貌を有する三十台前後の男性。

 ただの社員と思っていたその男性が、まさか現役の、それもカラードランク二位の肩書を有する人物とは想像も出来なかったアスルは、セレンの説明に目を丸くする。

 

「ま、確かに葛野はリンクスとしての腕前は一流だが、広告塔としては、私見を言えばド三流もいいところな没個性だからな」

 

「いやー、セレンさん、相変わらず手厳しい」

 

「本当の事だろうが」

 

 セレンの指摘に頭をかく葛野。

 とても現カラードランクトップスリーの一角を担う人物とは思えないが、正真正銘、彼はムラクモ・ミレニアム社最高の戦力のリンクスである。

 

 葛野 隆見はムラクモ社がリンクス戦争終結直前に送り出したリンクスで、戦後、武蔵ことヤマトタケルの指導の下、共に様々な任務に従事し。

 ヤマトタケルが現役を引退し退社した後は、後進の育成に関わりつつも、遠近隙の無い戦い方で高い任務達成率を誇り。

 また、曲者揃いなリンクスの中にあって柔軟な思考と安定した精神の持ち主でもある為、企業連からの評価も高く、一部ではベルリオーズの再来とも呼ばれている。

 

 彼の操るネクスト、ムラクモ社の新標準機、中量二脚型のJMM-YATAGARASU(八咫烏)をベースとした"ヤタガラス"は、まさに万能型のアセンを誇るが。

 任務の内容によっては、アセンを固定する事無く他企業の武装であっても躊躇せずに使用する為。

 これも、ベルリオーズの再来と呼ばれる要因の一つである。

 

 しかし、そんな企業側からの評価に対して、彼の世間一般での認知度は、意外な事に低い。

 その要因となっているのが、彼が、ムラクモ社最高戦力のリンクスであるにも拘らず、同社の広告塔として起用されていないからである。

 

 何故、ムラクモ社が彼を広告塔として起用しなかったのか。

 その最大の理由は、セレンが指摘した通り、アスルが最初、彼を一般社員と間違う程、彼が没個性だからである。

 取り立てて奇抜なファッションをしている訳でも、印象に残る顔をしている訳でも、言葉遣いが特徴的な訳でも、性格に難がある訳でもない。

 安定し過ぎているが故に、広告塔として起用するにはインパクトが無さ過ぎたのだ。

 

 故に、彼はその実力に反してメディアへの露出が少なく、GA社の顔として世間一般でも顔が知られているローディーと異なり、世間一般ではあまり顔の知られていないリンクスであった。

 もっとも、個性揃いのリンクスの中にあって没個性と言われる彼、それはそれで、見方を変えればまた一つの個性なのかも知れない。


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