ARMORED CORE LOST for Tomorrow Answer 作:ダルマ
そんな葛野とローディーが同席する、CDGの将来がかかった大事な交渉が。
通された会議室で、程なく開始された。
「それで、御社のご要望についてですが、事前に提出してくださいました資料の通りで間違いありませんか?」
「はい」
まるで面接のような雰囲気の中始まった交渉。
アスル達三人の対面に座るのは、GAアメリカ、ムラクモ、そしてBFFの人事や営業部署等の社員。そして、葛野とローディーの二人。
まさにGAグループを形成する主要企業の社員達であった。
「資料には出資受け入れの他、必須項目として、シミュレーター及びネクスト用輸送機のリース代金の四割引きで契約、GAN01-SUNSHINE-L一式を六割引きで購入と書いてあるが?」
「余っているんだろ。なら、倉庫で埃をかぶせておくよりも、六割引きでもさばいた方が有意義だろう?」
GAアメリカ社員からの言葉に、セレンがチクリと言葉を返す。
すると、GAアメリカ社員の眉間にしわが寄る。
「ニューサンシャイン・プロジェクトのセクションR。現行の技術力で新型機にも対応できる旧型のSS及びSSL型の性能向上を目指した計画の一つ。性能としては概ね満足なようだが、肝心の売り上げが振るわんのではな」
そんなGAアメリカ社員の眉間のしわを更に深くするかのように、セレンから畳み掛けるように言葉が飛び出す。
ニューサンシャイン・プロジェクト、NSS計画とも呼ばれる同計画は、GA社がリンクス戦争後にAFの開発・製造と並行して進めている計画である。
一般には新型ネクストの開発計画と思われているが、実際は新型ネクストは計画全体の一部に過ぎず。
同計画は新型ネクストの開発セクションの他、新たなリンクスの発掘・育成、ネクストの新たな運用方法開拓等々。
ソフト・ハードの各計画を各セクションごとに区分し進めている、巨大な計画なのである。
そして、その内の一つ、セクションRことリジェネレーション計画は。
GA社の旧式ネクスト、GAN01-SUNSHINE及びGAN01-SUNSHINE-Lを、現行の技術力でのアップデートを目的とした計画で。
GA社側の宣伝によれば、同計画で近代化改修が行われたパーツは、近代化改修未実装のパーツと比較し、最大で一・五倍もの性能差があるらしい。
「ど、同パーツはまだ宣伝のほどが不足しており、今後、宣伝効果で売り上げは徐々に……」
「あの皮肉めいた宣伝の効果が絶大だとは思えんがな?」
GAアメリカ社員の反論の弁を、セレンは一蹴する。
彼女の言う皮肉めいた宣伝とは。
売れ行きの芳しくないSS及びSSL型の購買促進の為、同型をモデルに擬人化した『GAマン』なる、どう見ても段ボール箱を被っただけの人にしか見えないキャラクターを用いた宣伝広告の事で。
そのキャッチコピー、『GAマンも愛して!』は、まさに哀愁漂う皮肉めいた文言なのだ。
「そ、それは……」
「ごほん! セレン、君も、社の業務を担う者なら解るだろう。そう簡単に、赤字覚悟で放出できるものではないと?」
咳払いをしたローディーは、萎縮したGAアメリカ社員に代わりセレンの相手を務め始める。
だが、セレンの勢いは留まる所を知らない。
「だからこそだ。後になって七割八割引きで放出するよりも、六割引き程度でも"売れた"との"実績"を今の内に作っておいたほうが、何かと都合がいいだろう? これは、そちらの事情を汲んでの提案だ。それとも、GA社側としては、今後売れる目途が立っているのか?」
セレンの返答に、ローディーの顔が少しばかり曇り始める。
「ローディー、お前ならよく分かっている筈だ。リンクス戦争からSUNSHINE-Eをベースとしたフィードバックを使用しているお前ならな」
「……よろしい。では、少し質問を変えよう、SSL型一式、君達は、どういう運用計画でこれを購入するんだ?」
流石に社員のいる手前、ローディーもGA社の旧式ネクストについての評価は明言を避け、話を別のものへとすり替える。
「明言は避けるか、ま、いいだろう。SSL型一式の使い方についてだが、ハッキリ言って、本命のパーツ一式を手に入れるまでのつなぎ兼練習用だな」
セレンの答えに、ローディーの眉がピクリと反応する。
「素直で大変結構だが。流石にそういう理由でSSL型が選ばれたとあっては、少々気分は良くはないな」
「だが、ローディーも嫌と言う程理解しているだろ? GA社製のパーツは少々手荒に扱っても壊れない程の頑丈さが売りだと」
「……」
「ま、答え辛いのなら答えなくて結構だ。兎に角、現在私達が考えているSSL型一式の運用計画は話したぞ? あぁ、因みに、外装はSSL型一式だが、内装に関してはムラクモ、BFF、更に武装等はGAグループのものを基本にするつもりだ」
まさかここで自分達の会社の名が出てくるとは思わず、ムラクモ及びBFFの社員達は反応に困ったと言わんばかりの表情を見せる。
「あぁ、ありがとう。……所で、先ほど本命までのつなぎと言ったが、その本命とやらは、どんなものなのか、差し支えなければ教えて欲しいものだが?」
「細かくは言えんが、一応言っておくと、ムラクモのパーツを本命に考えている。よくご存知の通り、ムラクモのパーツは高性能だが、それに比例して、維持費も高価な事で知られている。故に、私達はSSL型で
「成程。大変結構だ」
セレンからの答えに一応納得したのか、ローディーは質問を切り上げる。
「そうだ、言っておくが、私達の提示した条件を飲み出資を行う事は、GAグループにとってやがて大きな財産となる筈だ。別に整備や輸送機用の人員まで差し出せとは言ってないんだ、人員はこちらで確保している。そちらは必要な資金と品物を提供するだけ、何をためらう事がある?」
「えっとセレンさん、それは
セレンの言葉に、今度は葛野が反応を示す。
「そうだ。今回の投資、やがて大きな利益になるぞ。それこそ、"リンクス戦争の英雄"の時のようにな」
「あの方の様に、ですか、それはまた随分と大きく出ましたね」
「言っておくが、願望なのではないぞ。七割がたは確信している」
「先輩もそうお考えですか?」
「え? まぁ、うん。アスル君は優秀だから、多分僕が現役の頃よりも活躍してくれると思うよ」
「そういえば、資料によれば
言い終わるとふと、葛野は先ほどから黙っているアスルに目を向ける。
特に自身の出番がないと感じているのか、黙っていたアスルは、葛野の視線に気づくや、彼の目を真っ直ぐ見つめ返す。
「一つ、質問してもいいかな、アスル君?」
「あ!? はい!」
そして不意に、葛野から尋ねられたアスルは、一瞬びくりとしたものの。
直ぐに向き合い直すのであった。
「君は、どうしてリンクスになろうと思ったんだい?」
「……、俺を、俺を必要としてくれた人達の力になりたいからです!」
葛野の目を真っ直ぐ見つめながら、アスルは、力強く答えた。
「……成程、答えてくれてありがとう。……もしかしたら、彼は我々の予想も出来ない程の、"イレギュラー"というものになるかも知れませんね。……いや、もしかしたら、既にそうなのかも」
そして、葛野は再び視線をアスルからセレンへと変更すると、意味深な感想を漏らすのであった。
「何れにしても、先輩とセレンさんが見出した候補生ですから。ここは、貢献して下さった先輩の顔を立てて、ね、どうでしょう?」
葛野はムラクモ社員達に是非を問うと、暫し社員同士でアイコンタクトを取った後、一人のムラクモ社員が声をあげた。
「当社といたしましては、御社への出資に関しては賛成の立場です。それと、シミュレーターの件ですが……」
と、ムラクモ社員は目線を葛野へと向ける。
「私の中古でよければ、先輩方に半額でリースしますけど? どうです?」
すると、ムラクモ社員からバトンを渡された葛野が話を引き継ぐ。
「半額は魅力的だが、中古か……」
「セレンさん、一応データは最新のものですし、なんでしたら、機材もお渡しする前にオーバーホールしますよ」
「ほぉ、それは太っ腹だな。いいだろう」
こうして、ムラクモとの間で交渉が成立すると。
「我々BFFといたしましても、出資に関しては賛成を表明します。また、ネクスト用輸送機のリースに関しましても、そちらのご要望通り、四割引きでの契約で構いません」
「すばらしいな」
続いてBFFとの交渉も成立し。
残るは、GAアメリカのみとなる。
「さて、残るはGAのみだが、最終的な結論は?」
「少し、外で話してきてもいいかな?」
「あぁ、構わん、が、手短にな」
すると、ローディーがGAアメリカの社員達を引き連れ、一旦会議室から退室する。
おそらく、廊下で最終的な結論を話し合っているのだろう。
数分後。
退室していた面々が、再び会議室内に戻って、着席するや、ローディーが口火を切った。
「話し合った結果、そちらの要求通り、SSL型一式を六割引きで販売しよう。それから、パーツに関してはメンテナンスを実行してから渡そう」
「いいだろう、では、交渉成立だな。今後とも、いいお付き合いが出来そうだ」
「こちらこそ、な」
セレンから差し出された手を、ローディーは握り返し握手を交わす。
こうして、その後必要な書類や手続きのやり取り等を終え、この日の交渉はすべて終了。
大満足な表情を浮かべたセレンを先頭に、三人は会議室から退室していった。
そして、会社へと戻る道中の車内。
途中、祝杯様にとマイアミ市内の店で幾つかの酒類を購入し、更に機嫌のいいセレンが、思い出したかのようにアスルに話しかけていた。
「アスル、分かっているとは思うが、これから忙しくなるぞ」
「はい」
「ネクストを降りてから大分間が空いているからな、これから、私がみっちりと、昔の勘を取り戻させてやるから、覚悟しておけ」
「分かりました!」
「が、先ずは帰って祝杯だ! 飲むぞ!!」
その後、会社に戻ったアスル達は、宣言通りシーラやエド等、他の社員も含めて祝杯を挙げた。
その際、アスルはセレンの酒癖の悪さを再び目の当たりにすると同時に、何気に武蔵の酒豪ぶりを目にすることになるのだが、それはまた、別のお話。