ARMORED CORE LOST for Tomorrow Answer 作:ダルマ
あの交渉成立の翌日から、CDGは大忙しとなった。
先ずは、ネクスト及びネクスト用輸送機を運用する為に、会社を現在の場所から人口密集の少ない、コロニー・フロリダ郊外の廃棄された空港へと移転。
新たな事務所として機能すべく、移転前に改修工事が行われた郊外の廃棄空港は、一部かつての面影を取り戻していた。
こうして新事務所に移転を終えると、次いで、購入したパーツ等の受け入れ搬入。
専用に新築したネクスト用の格納庫で、アスルの新たなる相棒となるネクスト、SSL型をベースとしたレナトゥスの組み立て作業。
更にはネクスト用輸送機の保守点検作業等々。
主に、整備班の面々にとっては目が回る程忙しい日々が続いた。
だが、他の社員達が忙しそうに動き回る中、一人、いつもと変わらず新しくなった自身のデスクで新聞を読んでいる者がいた。
そう、エドである。
「お、今度のレースはプライド抜き号にハイジョクンも出るのかよ、こりゃ荒れるぞ……」
と言っても、彼が読んでいたのは経済新聞ではなく、競馬新聞ではあるが。
「おいエド、競馬新聞を眺めてる暇があるなら、私の言っていた調査をさっさと終わらせたらどうだ?」
「あぁ、副社長。そいつなら、とっくに終わったんで、副社長のデスクにまとめて置いてますよ」
競馬新聞からチラリと視線を動かし、険しい表情を浮かべるセレンを確認すると。
エドは特に動じることなく飄々とした口調で調査報告書の在処を告げるのであった。
「あれ? そういや副社長、アスルとシミュレーターで相手してたんじゃなかったか?」
「あぁ、それか。……あいつは勘を取り戻すのが早くてな。もう、私では相手として不足だから、今は武蔵が相手をしている」
「ありゃ? 確か副社長、少し前には地獄の特訓で勘を取り戻させるとか豪語してませんでした?」
「はぁ……。同じようにブランクがあると思ってたが、あいつは、リンクスを辞めた後もレイヴンとして活動し、感覚は忘れずにいた。だが、私の方は戦いから身を引いたままで、大分と感覚を忘れてしまったようだ」
自身の席に腰を下ろし、アスルの特訓を通じて痛感した、ブランクによる自身の腕の訛り具合に対する愚痴を零すセレン。
「全く、こんな様では、師匠として失格だな」
「あら、だったらまた、鍛え直せばいいんじゃない?」
そんなセレンに、シーラがコーヒーの入ったカップを差し出しながら話しかける。
「シーラ……」
「アスル君に、助けになってあげるって言ったんでしょ? だったら、足手まといにならない様に、また頑張ればいいのよ。現役の時の貴女みたいにね」
セレンの現役時代、霞スミカの頃を誰よりも近くで目にし、誰よりもよく知るシーラは、霞スミカが、影で努力していた事を知っていた。
「そうだな。……もう一度、私自身も鍛え直すか」
「私も協力するわ」
「ありがとう、シーラ」
そして、そんな長い付き合いであるシーラの言葉に、セレンは救われるのであった。
「だが先ずは、アスルの同期、ライバルになりそうな奴らの情報に目を通す事が先決だな」
自身のデスクに戻るシーラを他所に、セレンはエドがまとめた調査報告書に目を通し始める。
「ほぉ、今回は数が多いな」
「あぁ、何故かは知らんが、今回は大量だ。なんせ、俺達の所を含めて"四人"だからな」
調査報告書に軽く目を通したセレンの口から零れた感想に、エドがすかさず反応を示す。
「毎年一人出れば大当たりって言われてたのが、今回は四人だからな。……ま、考えようによっちゃ、アスル一人よりも注目度はバラけるから、気楽っちゃ気楽だがな」
「だがその分、競争は必須だな」
「まぁ、そうだな」
セレンが目を通している調査報告書は、現在正式なリンクスとしてカラードへの登録を行うに必要な審査の書類を提出している同業他社。
即ち企業の所属ではない独立傭兵のリンクス候補生達の細かな調査内容が記載されたものであった。
リンクス戦争終戦直後、当時まだ独立傭兵と言う概念が存在していなかった中、その先駆けとしてデビューしたリンクス、ハードラック。
彼の登場後、大企業に属さないフリーの傭兵として、独立傭兵と言う存在は徐々に数を増やしつつあった。
だが例年、新しく独立傭兵として現れるのは、多くて一人、というのが現状であった。
この背景には、当然ながらネクストの存在が深く関係している。
ネクストであれ、MTやノーマル等の兵器であれ、"動かす"だけなら一人から数人程度いれば十分だが。
こと"運用"するとなると、操縦者のみならず、兵器を万全の状態にするための更なる人員が必要となる。
そして、ネクストという兵器は、従来の兵器以上に、運用する為には人員が必要となる逸品であった。
企業にとって、所属する人員というものは、かけがえのない財産であり、同時に負債でもある。
何故か、それは企業にとって表裏一体の理。"人件費"と言う名の固定費が発生するからに他ならない。
古くから、企業にとって人件費の問題は常に付きまとうものであった。この問題を攻略しつつ、いかに利益を出すか、それはまさに企業にとって永遠の課題である。
その為、人を減らす、或いは人手の必要な工程を人件費の安い地域で行う等。企業はあの手この手でこの課題に挑んでいった。
そしてその問題は、国家解体戦争以降、競争原理が大幅に幅を利かせた軍事の面においても避けては通れないものとなった。
即ち、世界三大グループ企業に代表されるような大企業ならば、必要な人員の確保も、それに伴って発生する人件費の問題も、さほど懐の痛いものではない。
だが、多くの独立傭兵が所属している、所謂中小企業では、それはまさに死活問題なのだ。
特にネクストの運用に関しては、専門知識の必要な人員を確保するのも一苦労であり、運用の為の資金繰りの大変さも相まって、独立傭兵として市場に新規参入する企業は少ないのが現状だ。
しかしそれでも、その力に惹かれ、或いは一攫千金の可能性を信じて、独立傭兵として市場に新規参入する企業が絶えないのも、また事実である。
そして、そんな新規市場参入が、今回はCDGのアスルも含めて四人も現れた。
自社のリンクスだけでは心許ない、或いは使い潰しが利かない等。
大企業にとって独立傭兵は、大切な時間とお金をかけて育て上げた自社のリンクスに対する万が一の時の為の保険として最適な存在故、その囲い込みは、例年激しいものであった。
所が、今回は四人の為、一人に対する囲い込みよりも勢いは分散される。
エドが口にした言葉の意味は、上記のようなものであった。
だが、裏を返せばそれだけライバルも一斉に増えるという事で。
資金確保の為のアピール合戦は、熾烈を極める。
セレンの口にした言葉は、そうした意味合いを含んでいた。
「けどよ、アスルの腕があれば、他の奴より一歩抜きんでるのは容易い事だろ? 少なくとも、そこに載ってる三人なんかよりは、別格だぜ」
調査報告書に記載された、アスルと同期デビューを果たすと思われる三人のリンクス候補生。
各々の経歴などが記された中には、特に前職がノーマルのパイロット或いはレイヴンと言った、リンクスになるにあたりある程度は役立つ職に就いていたとの記実はない。
もっとも、そうした前職についていなくとも、優秀なリンクスとして秘めたる能力を開花させた例は幾らかある為、経歴が何処までその者の能力を測るに役立つ物差しとなるかは、最終的には読み手の判断次第だ。
「ほぉ……、この二人、ウィスとイェーイという奴らは、スパイサーの所から出るのか」
「あぁ、その二人か。なんでも、二人一組で売り出すつもりらしい。ウィスの方は近距離戦重視で、イェーイの方が遠距離戦重視って棲み分けだ。しかも、イェーイの方はアーキテクトとしても売り出すらしい。ま、確かに売り出し方としちゃ有効だが、にしても二人同時とは、スパイサーの親父さんも景気がいいねぇ、羨ましいよ」
業界としてはそれ程大きくはない為、必然的に、知り合いの会社からライバルが出る事はままある。
セレンやエドが口にしたスパイサーとは知り合いの男性、『ランディ・スパイサー』が社長を務める、自らの名を冠した民間軍事会社『グリッター・スパイサー』の事である。
会社の規模としてはCDGよりも大きく、業績の方もなかなかではある。
だが、そんな規模の会社でも、リンクスを二人同時に用立ててデビューさせるのは、なかなかな賭けであった。
その為か、イェーイと呼ばれるリンクス候補生の方は、リンクスとして大成しなかった場合の保険として、アーキテクトと呼ばれるネクストのアセンブルを担当する要員も兼ねていた。
フォーミュラフロントと異なり、ネクストのアーキテクトは設計者としての性格が強く。
人間で言う皮膚や筋肉、或いは骨格を司るフレームパーツ、心臓や頭脳などを司る内装パーツ。そして、それらにAMSと言う脳内信号を伝達させる為の神経の役割を担う統合制御システム、通称
基本構造は同じでも各企業ごとに詳細が異なるそれらを、搭乗者であるリンクスが操縦の際に違和感を覚えぬ様に、アーキテクトは細かな調整を行い違和感のない高い相互性を確保する必要がある為だ。
その為、専門的な知識もさることながら、やはり実際に使用していた経験も有効となる為。
現役アーキテクトの中には、元リンクスである者も多く。
現役を引退し、ネクストのアーキテクトを専門とする会社を立ち上げた元リンクスも少なくはない。
因みに、ネクストのアーキテクトは、フォーミュラフロントで呼ばれているものと区別すべく、別名"人形遣い"とも呼ばれる。
これは、ネクストという
「全くだな。……ん、こっちのダン・モロという奴は、シャノンの所か」
「あぁ、そうそう。満を持して三人目のデビューさ。全く、大手さんは余裕があって羨ましいよ」
そして残りの一人、ダン・モロという名のリンクス候補生の所属会社を目にし、セレンはまたも知り合いの男性の名を口にする。
フロイド・シャノン。
元ローゼンタール社の社員にして、民間軍事会社『フレンチ・ビード』の社長兼アーキテクトを務める人物である。
同氏はローゼンタール社在籍時代、現在ローゼンタール社所属で、近年急速に頭角を現しつつあるリンクス、ダリオ・エンピオの操るネクスト、トラセンドを設計した事でも知られ。
また同氏が社長を務めるフレンチ・ビードには、同氏が設計したネクストを操り、独立傭兵として活動している現役リンクスが二名在籍している事でも知られる。
一方はインテリオル寄りとされる、ネクスト、トーンエスケープを操る女性リンクス、フェルト。
もう一方はローゼンタール寄りとされる、ネクスト、サベージビーストを操る男性リンクス、カニス。
そして今回、満を持して三人目を輩出しようというのだ。
「おそらく、シャノンの事だから、そのダン・モロってやつはGA寄りにするつもりだろう」
元ローゼンタール社の社員であるフロイド氏は、ローゼンタール社在籍時のコネを利用する一方で、古巣であるローゼンタール社にのみ利する事はしなかった。
それは、同氏のアーキテクトとしての設計指向に通ずるものであった。
同氏の設計指向、それは特定企業に偏らない多企業混淆機である。
この為、所属するリンクスを三大企業グループの各グループごとに派遣させる事で、三大企業グループから均等に距離と信頼を得ようという方針なのだろう。
その総仕上げとして、今回のリンクス候補生輩出だ。
当然、リンクスを三人も擁する、即ちネクストを三体も保有するという事は、それだけ維持していくのに相応の負担も強いられる訳だが。
フレンチ・ビードは、そんな負担も受け入れられる程、規模の大きな会社であった。
「会社としては
しかし、どれだけ会社側が時間とお金をかけて送り出しても、最後に物を言うのはやはりリンクス自身の腕前だ。
特に、世界三大グループ企業のような大企業に属さぬ独立傭兵にしてみれば、カラード上位への最短ルートは、自らの力の証明のみと言える。
そして、そんな必要条件をアスルは満たしていると、エドも、そしてセレンもシーラも、疑う余地はなかった。