ARMORED CORE LOST for Tomorrow Answer   作:ダルマ

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Prologue 昨日の問い

 それは遠い、遠い記憶の一部。

 まだ見上げた空が透き通るような青を描いていた頃。

 彼がまだ、物心が付いて間もない子供であった。

 

「ねぇ、約束」

 

「うん、約束」

 

 物心が付き、彼が最初に分かったのは、自身に両親というものがいない事。

 そして、自身と同じ境遇の子供たちを集め、擁護する施設の一員であるという事実。

 

 それでも、彼は悲しくはなかった。

 同じ境遇の仲間たちがいる、助け合える者達がいる。

 そして……。

 

「約束、破っちゃ駄目だからね」

 

「うん! 絶対、約束守るよ!」

 

 目の前で、澄んだ笑顔を見せてくれる大切と思える人も。

 

 

 だが、何故だろう。

 彼にとってかけがえのない人であった筈のその者の名を、彼は何故か口に出来ない。

 何故口に出せないのか、何故言葉に出来ないのか。

 戸惑っていると、やがて世界が暗転する。

 

 何処までも広がる、漆黒。

 この突然の状況変化に、彼が再び戸惑っていると、刹那。

 

 周囲の状況が一変する。

 

 それは、薄明かりの狭苦しい空間。

 小さなモニターにコンソール、それに座り心地がいいとは言い辛いシートに、操縦桿。

 無機質な物質で形成されたそれは、いつの間にか装着していた近未来的なパイロットスーツも相まって、宛ら本の中に登場した、ロボットのコクピットのようであった。

 

 だが、何故だろう。

 彼には、そのコクピットのような空間に見覚えがあった。

 そして、気が付けば、彼は無意識にコンソールに手を伸ばしていた。

 

──AMS接続レベル、戦闘モードに移行します。網膜投影、開始。

 

 無機質な機械音のアナウンスが流れた直後、頭に電流が流れるかの如く感覚が襲い掛かる。

 だが、それも一瞬の後。

 次の瞬間、彼の意識は、別の方に向けられる事となる。

 

 それは、まるで自身が全高一四メートルを誇る巨人になったかの如く、網膜に広がる景色。

 それは、まるで自身がそんな巨人の一部になったかの如く感覚。

 それはまさに、テレビの中に登場した、巨大変身ヒーローに、自分自身がなったかのようであった。

 

「リンクス、作戦開始だ。いつも通りにやればいい」

 

 刹那、ヘッドセットから、無機質な機械音ではない、人間の、男性の声が聞こえてくる。

 

「了解……」

 

 男性の声に反応するように返答すると、彼は、操縦桿を握り、そして、自身が操縦する黒い機械の巨人を動かし始める。

 

 

 響き渡る轟音。

 立ち上る炎に黒煙。

 コンクリートの大地を彩る、赤い液体。

 無残に転がる残骸に、瓦礫の数々。

 

 そして、幾つも響く絶望の声。

 

 機械の巨人を通して彼が目にした光景は、悲惨の一言に尽きた。

 だが、そんな光景を作り出した張本人、機械の巨人とそのパイロットである彼に、罪悪感と言う感情は湧いていなかった。

 何故なら、今回の事は悪い奴らをやっつける為の正義の行い。彼が大人たちから、そのように聞かされていたからだ。

 

 無垢な正義感に満足した彼は、再び機械の巨人を操り、その場を後にする。

 

 でも何故だろう。

 瞳から、一筋の涙が流れてしまうのは。

 

 

 

 そして、再び世界が暗転する。

 

 次に世界が一変した先で目にしたのは、何処かの廊下。

 特に特徴もない、何処のビルにでもありそうなそんな廊下。

 少年から青年と呼ばれる程に成長した彼が、そんな廊下を歩いている、パイロットスーツの上からジャケットを羽織った姿で。

 

「ほぉ、GA(グローバル・アーマメンツ)社の一個艦隊を壊滅させたのか」

 

「そうなんだよ! ねぇ、凄い? 凄い!?」

 

「良くやった、と言いたい所だが、あまり浮かれすぎるのは良くない。慢心は、気付かぬ内に死の影を呼び込むことになる」

 

 自身の挙げた戦績を、彼は肩を並べて歩く男性に自慢気に話したが、男性から返ってきた反応は、彼が期待していたものではなかった。

 男性は、三十代半ばであろう、頬にかつて受けたのか切り傷が特徴的な人物であった。

 彼と同じ装いをしている事から、彼と同じ機械の巨人のパイロットだろう。

 

「もう少し褒めてくれたって……」

 

「何か言ったか?」

 

「あ、いや……」

 

「だが、時には教え子を褒める事もまた、教官としての責務だろう。……よくやったな」

 

 若干不貞腐れ気味の彼の頭に、男性の大きな手が置かれると、髪形が崩れる程男性は彼の頭を撫で始める。

 

「っ! ちょ! もう俺はそこまで子供じゃねぇよ!」

 

「ははは! 俺にとっちゃ、お前はまだまだ子供さ!」

 

 豪快に笑いながら彼の頭を撫で続ける男性。

 一方の彼も、口では子ども扱いするなと言いながらも、その表情は何処か嬉しさに満ち溢れていた。

 

 それは、彼にとって男性が、自身の顔も知らない本当の両親に代わる、父親のような存在だったからだろう。

 

「よし、それじゃ。今回の特訓は、お前が一端に戦果を挙げた褒美に、みっちりとつけてやろう!」

 

「ぇぇぇっ!? そこは普通、今回は免除してやるって言うんじゃないの!?」

 

「馬鹿野郎! 勝って兜の緒を締めよ、と言うことわざを知らんのか!? 兎に角、体が悲鳴を上げる程訓練をつけてやるからな! さぁ、行くぞ!」

 

 撫でられて乱れた髪を直して間に、男性は前を進んでいく。

 

「あ、待ってよ! ベルリオーズ!」

 

 そして、急いで髪を直した彼は、男性の名を呼びながら、男性の後を追いかけていくのであった。

 

 

 

 

 再び暗転した世界。

 

 だが、次に現れたのは、漆黒の中に浮かび上がるテレビモニターの光。

 テレビモニターの中には、広く放送されているテレビのニュース番組が流れていた。

 

「次のニュースです。GAアメリカのメーフィン報道官は先ほど、旧ピースシティエリアにおいて、自社と契約を交わした傭兵が、レイレナード社の最精鋭ネクスト部隊を撃破したと発表しました。同部隊の隊長には、国家解体戦争において英雄的な戦果を挙げたリンクス、ベルリオーズ氏が就任しており……」

 

 不意に画面が切り替わり、別のニュース番組が流れ始める。

 

「次のニュースです。レイレナード社本社施設エグザウィルが、GAグループが雇う傭兵に攻撃を受け壊滅、これに伴い、GAグループから、今回の一連の企業間対立の終結宣言が発表され……」

 

 そして、不意に世界が変わり、再び、彼はあの狭いコクピット内にいた。

 網膜投影を介して彼が目にした光景は、トワイライトに彩られた、緑豊かなコロニーであった。

 

 しかし、そんなコロニーの一角、自身が操る機械の巨人よりも、更に巨大な禍々しい黒鉄の巨人が、火花と黒煙を上げ鎮座している。

 

「へぇ、存外、そんなものか。あるいは……」

 

 その傍で、火線が交錯する。

 

「全く、大袈裟なんだよ、みんな……。なぁ、そうだろう? 戦争屋?」

 

「……」

 

「だが、おそらくこれが最後だ。その評価が幻想か、或いは真実か、……興味あり、だな」

 

 コロニーに響き渡る銃声、QBの噴射音、爆発音、そして、立ち上る黒煙。

 そんな砲火の前奏曲を奏でる一人、彼は、味方と共に対峙する白い機械の巨人。

 自らの父親代わり、そして教官として鍛えてくれた恩師の仇である相手を倒すべく、操縦桿のトリガーを引くものの、放たれる弾丸は空しく空を切るばかり。

 

「っ! なんで!?」

 

 当たらない焦りから、堪らず声が漏れるも、次の瞬間。

 

「っぁぁぁっ!!!」

 

 それは、悲鳴に代わった。

 乗機の機体状況を示す表示を見れば、機体シルエットの右腕部分が赤く点滅している。

 彼が悲鳴を上げる寸前、懐に飛び込んだ相手の巨人の腕が振るわれ、そこから伸びる光が彼の操る巨人の右腕に届いたことを鑑みるに。

 

 どうやら、彼の乗る巨人の右腕は、相手の攻撃により切り落とされたようだ。

 

「くそ! まだ、まだぁぁっ!!」

 

 AMSから伝わる痛み、それを振り払うかのように吠えた彼は、右腕を失ってもなお、戦う姿勢を失いはしなかった。

 しかし、再びの一閃。

 

「っぁぁぁっぐ!!!」

 

 気づけば、巨人のメインカメラを通して目にする光景が、迫る緑と茶色の大地へと変わる。

 機体シルエットの赤い点滅が、両脚の膝下にまで点滅している。

 どうやら、脚を切られ、バランスを失って地面に倒れ込んだようだ。

 

「ふん、こちらは幻想か……」

 

 その情けない姿を目にした味方の、吐き捨てるような言葉に言い返す程の余裕は、今の彼にはなかった。

 言い様に弄ばれた悔しさ、それでも仇を討ちたい焦り、いつ訪れるとも知れぬ死への恐怖。

 様々な感情が入り混じり、冷静な反応を示せる様子にはなかった。

 

「くそ! 何だこれは……、化け物め!!」

 

 その間も、味方は白い敵と対峙するものの、その状況は、芳しくない。

 

「へ、へへへ、へへ……。なにが天才だ。笑わせる……。その称号は、結局……、こいつじゃねぇか」

 

 そして、彼は視界の隅に、味方の巨人が地面に倒れるのを目撃する。

 カメラがズームし、捉えた味方機は、自らの機を半ば戦闘不能した光の剣の傷を、胸元辺りに大きく付けられていた。

 

 それから、どれ程時間が経過したか。

 実際には数分程度、しかし彼の体感では数時間もの長い時間に感じられた。

 そんな時間が経過した時、不意に、未だ機能していた乗機のレーダーが近づいてくる機影を示す。

 

 その機影の正体など、考えるまでもなかった。

 

「動け! 動けよ!!」

 

 白い悪魔がトドメを刺しに来た。

 

 大きな涙をボロボロと流しながら、彼は必死に操縦桿を動かす。

 だが、右腕と両脚を失い、倒れた衝撃で不具合が生じたのか、メインブースターも作動しない。

 

「っ!?」

 

 やがて、倒れた乗機を起こすかのように、白い機体が彼の乗機を両腕で掴み起こす。

 

 そして、彼は悟った。

 これで、自身の人生は終わりだ、と。

 

 静かに瞳を閉じ、覚悟を決めて、その時を待つ。

 

 だが、何時まで立っても、地獄へと迎えは訪れはしなかった。

 

 やがて、乗機が再び地面に、仰向けに置かれる感覚と共に、彼はうっすらと瞳を開く。

 いつの間にかAMS接続も切れたのか、目にした光景は、見慣れた窮屈なコクピット内の光景であった。

 

 しかし、次の瞬間、不意にコクピットハッチが開かれると、コクピット内に眩いばかりの光りが差し込んだ。

 

 

 

 世界が、光で包まれる。

 

 そして、疑問が生まれる。

 

 何故、自分は生かされたのか、何故、目の前の人物は、自分を殺さず生かしたのか。

 

 

 光りが収まり、病室を思わせる空間に生まれ変わる。

 病衣を着用し、ベッドに横たわった彼は、見舞いに来た一組の男女に、そんな疑問をぶつけた。

 

「では、貴方は死にたいの?」

 

「そんな、訳、ない……」

 

「なら、考えてみて、貴方が、生きている意味を」

 

「生きている、意味……」

 

「君、ベルリオーズの敵討ちの為に戦ったんだろ?」

 

「な!? 何でそれを!?」

 

「俺は彼と君の間柄を詳しくは知らない。それに、俺は君にとって憎い相手だ、だから、諦めろとは言わない。ただ、これだけは聞いて欲しい。復讐の為に生きているというのなら、それは、空しいだけだ」

 

 男性の言葉に、彼は、言葉を返す事が出来なかった。

 それから暫くして、彼は病室生活から、日常生活を送れるようになった。

 

 そして、何故か成り行きで、あの男女と行動を共にする事に。

 

 最初の頃はぎこちない、敵と共に行動を共にすることに違和感しか覚えず、いつ隙を見て寝首を掻いてやろうかとも考えながら距離を置いていた彼だが。

 いつの間にか、その距離は、徐々に狭まっていた。

 それは、憎き敵であった筈の男性の本当の姿、白い巨人を操る姿からは想像もできない、そんな姿を目にしたからか。

 そんな男性を懸命に支える、女性のひたむきさに心を動かされたからか。

 

 気が付けば、彼の中から復讐心は、何処かへと消え去っていた。

 

 

 そして、彼は、探し始めた。

 

 自身が生きている、その問いの答えを。

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