ARMORED CORE LOST for Tomorrow Answer 作:ダルマ
それから、歩哨と言ってもオートパイロットで自動でうろつく乗機のコクピットに缶詰でいる事、二時間。
特に不明機の接近や賊の襲撃などもなく、そろそろ臀部の痛みが限界を迎えそうと思った矢先の事であった。
不意に、基地司令部から緊急通信が入る。
「レイヴン! 野盗の部隊が接近中との報告が入った! 至急迎撃に向かってくれ!」
「分かりました!」
刹那、アスルはオートパイロットを切り、操縦を手動に切り替えると、操縦桿を握り、フットペダルを踏みこむ。
機体背部のメインブースターに火がともると、刹那、ブースターの噴射と共に、全高十メートルを誇る巨人が、滑る様に草原の中を進み始めた。
「レイヴン、報告では敵の野盗部隊はMTとノーマルの混成との事だ、気を付けてくれ」
基地司令部からの誘導に従い、レナトゥスが駆ける事数分。
地平線の向こうから、立ち上る黒煙と共に戦闘音も聞こえてくる。
どうやら、既にコロニーガードの部隊と野盗部隊との間で戦闘が始まっているようだ。
「急がないと」
一旦ブースターを切り着地すると、コンソールのとあるスイッチを押す。
「メインシステム、戦闘モード、起動します」
すると刹那、女性の機械音声が流れ、同時に、メインモニター上にレティクルなど、戦闘に必要な情報が表示される。
そして、それを確認すると、アスルは再びフットペダルを踏みこんだ。
「ははは! 奴ら腰が引けてるぞ! 押し込め!!」
鳥類の如く、二足ながら人間とは逆の関節構造、逆関節と呼ばれる関節構造を採用した兵器。
脚と胴体のみで構成された非人型のシルエットには、両サイドに機関砲とミサイルを装備したウェポンパックを備えている。
国家解体戦争以前、戦車の高機動化を目指し開発された軍事用MT、ビショップのコードネームが名付けられた同MTは、国家解体戦争以降、明確な主を失い、世界中の合法・非合法な組織で広く使用されている。
今回、コロニー・ウテナを襲った野盗部隊が使用するビショップもまた、そんな経緯で使用されているものであった。
「ははは! 貧弱な自警団連中など、さっさと殺してしまえ!」
「くそ! こいつら!」
軍事用MTとしては比較的初期に開発されただけはあり、その流通量はかなりのものを誇っている。
故に、中古として手に入れやすく、野盗のような非合法集団であっても、まとまった数を手に入れることが出来る。
更に、操作も簡単な為、まとまった戦力として用立てる事は容易であった。
その為、対峙しているコロニーガードの使用するMT、ビショップと同時期に開発され、現在では同様の経緯を持つ、逆関節型MT。
ガードウォーカーのコードネームを有するMTの数と比較すると、野盗部隊の使用するビショップの数は、倍以上もあった。
「た、隊長! 連中数が多い、このままでは抑えきれません!」
「踏ん張れ! もう少しだ、もう少しすれば、応援が来る筈だ!」
そんな数の暴力と言うべき野盗部隊と対峙しているコロニーガードの部隊は、数の不利を補うべく連携して確実に数を減らすものの。
一向に減っている気配は感じられず、それどころか、放たれる火線の多さに、一体また一体と、味方が減っていく。
絶望的、そんな空気が漂わずにはいられない状況ながらも、コロニーガードの部隊の隊長は、部下達が戦意を喪失せぬよう、鼓舞し続けるのであった。
「いいか、もう少しの……、うわ!!」
だが、そんな鼓舞を続けていた隊長を、突如、衝撃が襲った。
同時に、狭いコクピット内にけたたましい警報音が張り響き始める。
どうやら、致命傷ではなかったものの、直撃を受けたようだ。
「くっ! いかん!」
刹那、再び衝撃が襲い、乗機共々、体が傾く感覚に襲われる。
モニターを見れば、踏みしめていた大地がカメラの眼前まで迫っている。
片足を失い、バランスを崩して地面に倒れたようだ。
「隊長!?」
「ったくよ、たかだがMT如き相手に手こずり過ぎなんだよ」
部下達の悲鳴にも似た声が届く中、隊長機の片足を吹き飛ばした下手人。
赤い塗装に尾には尻尾のようなスタビライザーを装備した、有機的外見の軽装高機動型のノーマル。
旧イクバール、現アルゼブラ社が開発・運用しているノーマル、
鹵獲、或いは中古品だろうか、所々塗装が剥げ、肩などには、汚い言葉のスローガンが書かれている。
そんな同機は、散弾式の火器を手に、動けない隊長機の前までやって来ると、散弾銃の銃口を、隊長機に向ける。
「く!」
モニターに映し出された銃口を目にし、急いで脱出しようと試みるも、脱出装置は作動する気配はない。
ここまでか、そう思った矢先。
「何だ? ぬぉっ!!」
突如、銃口を向けた相手が何かに気が付いたかと思えば。
次の瞬間、目の前のSELJQの上半身が爆炎の中に消え、散弾銃を構えた腕部が、空しく宙を舞った。
しかも、それだけはない。
周囲に展開していた野盗のビショップ達も、次々と爆破し、物言わぬ鉄くずと化していく。
「ご無事ですか!?」
そして、突如聞こえてくる若い男性の声と共に、奇跡的に機能しているレーダーが、乗機の方へと高速で接近する機影を捉えた。
そこから導き出された可能性、その答え合わせをするかのように、モニター内に、黒いハイエンドノーマルが姿を現した。
「レイヴン、君か」
「ご無事ですか、隊長さん?」
「あぁ、何とかな」
それは、レナトゥスであった。
動けぬ隊長機を庇うかのように、隊長機の前に立ったレナトゥスは、手にしたリニアライフルを発砲しビショップを撃破しながら、隊長の無事を確かめる。
「脱出して後退してください。後は俺が片付けます」
「すまない、レイヴン」
残った隊員の手を借り、乗機から脱出した隊長は、部下の隊員達と共に、戦場となったエリアから撤退していく。
その間にも、レナトゥスはリニアライフルで確実に、グレネードランチャーでまとめてビショップを片付けていく。
更にはSELJQに対しても、巧みな動きで懐に飛び込むと、左腕のレーザーブレードの一閃で葬り去る。
その光景は、国家解体戦争以前、ネクストが登場する以前の、圧倒的な兵器の代名詞たる
「たかがハイエンドノーマル一機だろうが!」
SELJQに乗る野盗部隊の隊長は、部下から次々に送られてくる悲鳴にも似た報告に、苛立ちながら返答する。
相手はたかがハイエンドノーマル一機、それは自身でも確認している。
数は圧倒的に自分達が有利だった。
しかし、次々に悲鳴と爆炎の中に消えていく部下達、レーダー画面から次々と消えていく味方機の反応。
例え相手がハイエンドノーマルとはいえ、MTとノーマルの混成、そして数があれば勝利できる。
そんな安直で楽観的な希望は、もろくも崩れ去っていく。部下の悲鳴と爆音と共に。
「何で、何でこんなちんけなコロニーに、あんな凄腕レイヴンがいるんだよ」
戦略的に無価値な地域のコロニーには、腕のいいレイヴンはいない。
その様なコロニーは、大抵経済規模が小さく、レイヴンを雇い入れる為の契約金も少なくなるので、腕利きのレイヴンにとっては、割の合わない契約となるからだ。
その見解は正しいとは断言できないまでも、彼らの経験からすれば、概ね正解と思っていた。
だが、今対峙しているレイヴンことアスル。
そして、彼の操るレナトゥスは、放たれる弾丸やミサイルを巧みな動きで避け、被弾を最小限に抑えながら、的確に自分達の戦力を減少させていく。
その動きは、技術と経験を持った腕利きのレイヴンそのもの。
この様な地域のコロニーに与するには、あまりに不釣り合いなほどの実力者であった。
「くそ! お前ら! ちゃんと当てろよ!!」
「無理ですアニキ! こいつすばしっこくてとても狙いが……ぎゃ!!」
「おい、どうした、おい!?」
部下からの通信が途絶し、ふと恐ろしい考えが野盗部隊の隊長の脳裏を過る。
刹那、慌ててレーダー画面に目を向けると、そこにはつい数十分前まで画面を埋め尽くすほどにいた味方の反応が、ほぼ消えていた。
「やべぇ、やべぇよ……。くそ! ボス! ボス! やべよ! このコロニー、相当腕の立つレイヴンを雇っていやがった!」
慌てて自らの上司と言うべき野盗の頭領に通信を入れると。
同時に、彼は乗機のSELJQを後方に跳躍させた。
軽装高機動型であるSELJQの機動性をもってすれば、一気に戦場から離脱できる。
まだ残った数少ない見方を囮にし、レナトゥスが射程外の内に一気に戦線離脱で逃げ延びる。そんな魂胆からの行動であった。
だが、そんな浅はかな魂胆は、突如コクピット内に鳴り響いた警報音に吹き飛ばされる。
「ひ!」
それは、ミサイル接近を告げる警報音であった。
モニターを見れば、乗機に迫る多数のマイクロミサイルの姿が見える。
「うわぁぁぁ!!」
乗機が手にしていた散弾銃でマイクロミサイルの迎撃を試みるも、何発かを迎撃はしたものの、撃ち漏らしたマイクロミサイルが乗機を襲った。
マイクロミサイルの着弾の衝撃と共に激しく揺れるコクピット内で、野盗部隊の隊長は、わが身を庇うかのように手で頭を庇った。
やがて、ひと際大きな衝撃が襲い、それが収まると、野盗部隊の隊長は、閉じていた瞳を恐る恐る開いてみた。
「あ……」
そして、彼が目にしたのは、モニター越しに、自らを見下ろす、レナトゥスの姿であった。
刹那、レナトゥスの左腕から光の刃が現れ。
野盗部隊の隊長の意識は、その光の刃が自らに迫った光景を目にすると同時に、永遠の闇の中へと没した。
「こちらアスル、野盗部隊は全て片付けました」
最後のSELJQに引導を渡したアスルは、レーダー画面上に敵反応がない事を確認すると、基地司令部に状況終了の報告を入れる。
「ご苦労だった、レイヴン。君のお陰でコロニーに被害はなく、コロニーガードの被害も最小限に……」
基地司令部から感謝の言葉が述べられている、その最中の事であった。
突如、レナトゥスの立つ位置から少し離れた場所が、耳をつんざく爆音と共に、土煙を巻き上げる。
その威力は相当なもののようで、その衝撃はレナトゥスを振動させ、それは、コクピット内のアスルも感じるところであった。
「攻撃!? 何処から!?」
「レイヴン、大変だ! 偵察監視用の無人航空機が、コロニーに接近する大型の物体を捉えた!」
基地司令部からの慌てた様子の通信と共に、送信されたデータを目にし、アスルの表情が険しくなる。
無人航空機が捉えたもの、それは、箱状の本体に近接防御用のガトリング砲や三連装の砲塔を一基備え、四本の脚で支えた、まさに移動要塞と呼べる巨大兵器。
旧GAグループの欧州法人、GAEが開発製造した大型機動兵器、GAEM-
まさにAFの祖先ともいうべき同兵器は、AF登場により、企業等からは以前程の脅威の対象とはならないまでも。
その火力は今でも一線で通用する程だ。
先ほどの爆破、着弾した主砲の威力からも、それは裏付けられる。
そんなGAEM-QUASARだが、送られた映像に映る同機は、企業の正規軍で使用されているものとは、雰囲気や外見が異なっていた。
自らの手で増築したのか、各所に鉄板などが増築され、その様子は手作り感が溢れ出ている。
また、本体各所に有人の機関砲も増築され、近接防御力が高められている。
そして、所々塗装が剥げた本体の側面には、それが企業の所有ではないと一目で判断できる、汚い言葉のスローガンが、大きく書かれていた。
「野盗の連中、とんでもない切り札を出してきやがった! レイヴン、すまないが、今頼れるのは……」
「分かってます」
申し訳なさそうな声色の通信相手に、アスルは言わずもがなと、短く返信すると、武装の残弾と機体状況の確認を行う。
残弾は少し心配ながら、幸い、機体の方は、被弾も少なく、まだ大丈夫であった。
「その代わり、臨時報酬、よろしくお願いしますね」
「も、勿論だ!」
そして、再びGAEM-QUASARの主砲が着弾し、地響きや土煙と共に、大地を抉った。
「これ以上は撃たせない……」
地平線の彼方から撃ち続ける下手人に対し、目を細めると。
アスルは、操縦桿を握り直し、フットペダルを踏みこんで、レナトゥスを再び走らせ始めた。