ARMORED CORE LOST for Tomorrow Answer 作:ダルマ
コロニーガードに雇われている傭兵である自分に、一体どんな客が尋ねてきたのだろうか。
内心身構えながら隣の応接室へと足を踏み入れたアスルを待っていたのは、一組の男女であった。
「やぁ、待ってたよ」
アスルにとって面識のない男女。
共に三十代前後であろうお互い黒のスーツに身を包んだ男女、一方は、にこやかな表情を浮かべアスルを迎えた、黒髪黒目のアジア系の優しそうな男性。
もう一方は、まるで見定めるかのような視線でアスルを迎えた、桜色の髪にブラウンの瞳をしたヨーロッパ系の女性。
一見すると、優しいが何処か頼りなさそうな同僚或いは後輩と、それを引っ張るキャリアウーマン、と言えなくもないが。
アスルは、二人がただの会社員ではない事を、大雑把にではあるが感じ取っていた。
「どうぞ、かけて」
「失礼します」
しかし、何者であれ、お客として来ている者に対してぞんざいな扱いをする程、アスルは傲慢な人間ではなかった。
「先ずは初めまして、僕は
「CDGの副社長を務めるセレン・ヘイズだ、よろしく」
丁寧に名刺を手渡す武蔵に対して、セレンは少々高圧的に名刺を手渡す。
二人の名刺を受け取ったアスルは、肩書が逆の方がしっくりくるなと内心思ったが、それは口に出さず。
名刺はないが自己紹介を行う。
「アスル・ゼルトナーです。それで、PMSCの社長と副社長が、俺にどんな用件で?」
自身が傭兵の身であると理解していれば、PMSCの社長と副社長が訪ねてきた理由など、自ずと理解できる。
ヘッドハンティングだ。
だが、分かっていても、アスルは本人たちの口から理由を聞くべく、用件を尋ねるのであった。
「端的に言うと、君をヘッドハンティングしにきた」
アスルの問いに、セレンが凛とした声で答える。
「やっぱり……。あの、申し出はありがたいのですが、今の俺は……」
「あぁ、そうだ。近々、このコロニーに私達が紹介した複数のレイヴンが"長期契約"を結んだのでやって来るそうだ。君ほどの腕前はないが、それでも、数は多い」
淡々とした様子で答えるセレンに、アスルは、一瞬呆然とする。
そして、状況を飲み込み始めると、成程と呟き始めた。
「あぁ、そっか、それでリンスキー司令はあんな言葉を」
どれ程腕が立っても、組織の後ろ盾のない個人傭兵など、相手の都合で簡単に切り捨てられる運命なのだ。
改めて、己の立場の弱さを痛感しながら、アスルは自分から職を奪った二人に言葉を投げかける。
「それで、無理やりフリーになった俺に、勧誘ですか……。本当に、大人は汚いな」
「えっと、こんなやり方で君を誘うのは、僕としても心苦しいけど。でも、僕達には、どうしても君が必要なんだ」
「俺でなくても、腕の立つレイヴンなら他にもいるでしょう?」
「確かにそうだけど、僕達が欲しいのは"レイヴン"じゃないんだ。僕達が欲しいのは、"リンクス"だからさ」
「何を、言ってるんですか? 俺はただのレイヴンですよ、リンクスなんかじゃ、ない」
「嘘をつくのはよせ、君は間違いなくリンクス、それも、あの国家解体戦争で活躍した
「っ!」
セレンの言葉を聞いた刹那、アスルは瞬時に立ち上がり、腰のホルスターに差し込んだ護身用の拳銃に手をかける。
だが、手をかけたままで、ホルスターから引き抜くことはない。
それは、視界の端、武蔵が同じく腰に手を回しているのを確認したからだ。
「何の調べもなく会には来ないさ。幸いなことに、当社には優秀なリサーチャーがいるのでな。……それより、話を聞くのなら、座った方が楽だと思うが?」
「……」
二人の話を聞いてから判断を下しても遅くはないのではないか。
腰の拳銃から手を離したアスルは、ゆっくりとした動作で、再びソファーに腰を下ろす。
「では、話の続きといこうか。さっき社長が言った通り、私達はリンクスを欲している。そして君は、私達が欲する最高の逸材だ」
「俺はもう、リンクスじゃありません」
「戦うのが怖くなった、という訳でもあるまい。もしそうなら、レイヴンなどしている筈がないからな」
「それは……」
「ふむ、では質問を変えよう。君は何故、レイヴンをしている? 生活の為か?」
「生活の為でもありますけど……。答えが、見つかるかと、思ったからで」
「答え?」
「俺が、生きている意味。その答えです」
「なかなか難しい問題だね」
武蔵が感想を漏らすのを他所に、セレンは顎に手を当て暫し考えると。
程なくして、再び口を開き始める。
「それで、その答えとやらは、見つかったのか?」
「いえ、まだです」
「では、今後、現状のまま一人で探して見つかる可能性はどれ程あると思う?」
「それは……」
「私が思うに、このまま一人で飛び続けていても、君の探している答えは見つからないと思うが。何れは理不尽な暴力に、その翼を手折られるだろうな」
アスルの答えを聞き終わるまでもなく、言い切ったセレンに対し、アスルは反論するどころか押し黙ってしまう。
自身でも、薄々そう感じていたからだ。
「探すのなら、地に足をつけて探した方が見つけやす筈だ、違うか? 私達は、地上に生きているのだから」
「……」
「ま、地上を離れて久しいんだ。一人で降りるのが怖いのは分からんでもない。だから、私達が手助けしてやろう」
「でも、お二人は……」
「大丈夫だよ。僕達も、君と同じだからね」
「え? それはどういうことですか?」
「おい、武蔵」
「いいじゃないか、セレン。こうなったらさ、腹を割って話そうよ。その方が、彼も承諾し易くなるかもしれないしさ」
「はぁ……、まったく」
困ったように額に手を当てるセレンを他所に、武蔵は自分達の隠れた素性を暴露し始めた。
「国家解体戦争で活躍した、三十人のオリジナルの名前は知ってる?」
「えぇ、一応」
「その中に、"ヤマトタケル"と"霞スミカ"っていたでしょ。あれ、僕達」
「……、え?」
衝撃的な事実をさらりと言ってしまう武蔵に対し。
アスルは、呆然とせずにはいられなかった。
ヤマトタケルと霞スミカ。
国家解体戦争で活躍した三十人のオリジナルの内の二人。
霞スミカは旧レオーネメカニカ社に所属していたリンクスの一人で、オリジナルのナンバーはNo.19。
同社の標準機体であった
もう一方のヤマトタケルは、傘下に有澤重工等の有力企業を有する独立企業グループの盟主ながら、提携の関係からGAグループの一員として認識されているムラクモ・ミレニアム社に所属していたリンクスの一人。
同社は高い技術力を有し、高品質なネクスト用パーツなどを開発・販売している事でも知られる。
また同社は、国家解体戦争において当時の政府との事前の極秘交渉などが上手くまとまった為、同戦争においては世界的にも珍しい無血開城を成功した稀有な企業である。
その為、同社所属でオリジナルのナンバーのNo.9であった彼の功績の殆どは、提携関係にあったGAアメリカ等の企業への支援の為の派遣先であげたものだ。
同社の旧標準機、中量二脚型の
そんな二人は、リンクス戦争を生き延び、互いに所属する企業の貴重なリンクスとして活躍していた。
しかし、カラードの設立から程なくして、二人は示し合わせたように現役を引退し、所属していた企業も退社した。
その後の二人の動向については、世間一般には知られていなかったが。
まさか、PMSCの社長と副社長となり、自身を起業した会社に引き入れるべく直接スカウトに来るなど、アスルは想像も出来なかった。
「同じオリジナルと言っても面識はなかったけど、同じく元リンクスだからね。君の苦労とか、他の人よりは理解できるつもりだよ」
武蔵の穏やかな笑顔を見せられた後、セレンの凛とした声が聞こえてくる。
「これで分かっただろ、私達は十二分に君の手助けを出来る資格があると。それとも、これでもまだ不安か?」
「……」
「安心しろ。もう君を、大人の都合で歴史から消す事はしない、いや、そんな事は私達がさせないさ。私達が、全力で守ってやる。あぁ、武蔵も、こう見えても頼りになる時はなる男だ」
「せ、セレン……、それ酷くない?」
「本当の事だろうが」
暫し考え込んだアスルは、やがて、ゆっくりと語り始める。
「本当に、答えは見つかりますか?」
「確約はできんが。少なくとも、一人で探すより、複数数人で探したほうが見つかりやすくなるのは確かだ」
「……一晩、考える時間を貰ってもよろしいですか?」
「そうか、分かった。では、私達はここに泊っている、一晩考えて、考えが決まったら尋ねてきてくれ」
セレンは、スーツのポケットからペンとメモ帳を取り出すと、自分達が滞在しているホテルの場所と部屋番号を書き込み、破ったそれをアスルに手渡した。
「では、失礼します」
立ち上がり、一礼して執務室を後にしようとするアスル。
だがその時、不意にセレンが彼を呼び止める。
「あぁ、そうだ。君が今まで大人の中で生きてきて、背伸びしながら頑張ってきたのはよく分かる。だが、今からでも遅くはない、見返してやろうと思った私達大人を、少しは頼ってもいいんじゃないか?」
セレンの言葉に、アスルは、ふとあの時の事を思い出した。
あの男女と行動を共にし、もっと年相応に甘えたり頼ってもいいのだと言われた、あの時の事を。
「失礼します」
ドアの前で足を止めていたアスルは、そのままドアを開け執務室を後にする。
彼の後ろ姿を見送った武蔵とセレンは、彼が導き出す答えについて、話し始める。
「彼、いい返事をくれるかな?」
「感触としては、悪くないと思うが?」
「あぁ、何だか心配になってきた……」
「ま、最終的には彼の判断だ。悪い結果となっても、それはそれと割り切って次を探すさ」
「そうだね」
「さて、それじゃ。今日はこれから美味い地酒探しといくか!」
何故か、セレンはアスルを見た時よりも生き生きとした表情を浮かべ、武蔵は苦笑いを浮かべながら、二人も応接室を後にするのであった。