ARMORED CORE LOST for Tomorrow Answer 作:ダルマ
応接室を後にした後、アスルはリンスキー司令に呼び止められた。
その理由は、契約解除を通達する為であった。
突然であれ、アスルは一年という期間ながら雇っていただいた感謝の気持ちをリンスキー司令に述べると、受け取った解除通知書を手に、最後の挨拶回りを行う。
「お前さんなら、きっと新しい所でも立派にやっていけるさ!」
ユージェフ整備長から、最後の励ましの言葉と共に、餞別とばかりに徹夜でレナトゥスを最高の状態に直してやるとの言葉も賜り。
その後、馴染みとなった人々から暖かい声をかけてもらったアスルは。
日没後の薄明りの中、自宅へと帰宅した。
「はぁ……」
そしてため息を一つ付くと、いつものように、夕食の支度を始める。
その後、いつもと変わらぬ夕食や入浴、リラックスタイム等を経て、アスルはベッドに寝ころぶ。
そして、考え始める。
「信じていいのかな……」
守ってやる、頼ってこい。
あの時のアスルが目にした二人の目は、騙す気など毛頭ない、嘘偽りないものであった。
翼をたたみ再び地を駆ける。
忘れたい記憶の自分に今一度戻る、だがその先に、本当に求める答えはあるのか。
何度も何度も問いかけ、それでも、どちらとも決められず。
やがて、アスルの意識は、いつの間にか半ば夢の中へと引きずり込まれていた。
それは、ほんの数年前。
あの二人と、行動を共にしていた時の記憶。
ふと、男性に質問した時の事だ。
「何故、貴方はリンクスになったんですか?」
「月並みかも知れないけど、守りたい人の為、かな」
「守りたい人の為……」
「自由気ままに生きてきた俺でも必要としてくれる、そんな人たちの笑顔を守る為。……なんて、少しキザだったか?」
「いえ、凄く、いいと思います」
「君にも、いつか君を必要とする人が現れる筈さ。その時は、その人の為に、持てる力を尽くしてやればいいさ」
はっと、アスルは飛び起きると、窓からはもう既に、新たな一日の始まりを知らせる太陽が姿を現していた。
「……よし」
そして、答えを決めたアスルは、出掛ける準備を進めるのであった。
昨日手渡されたメモを頼りに、ウテナの市街地内を歩くアスル。
その最中、ふと、ヘリのローター音が耳に入る。
聞いた事のあるそのローター音の正体を確かめるべく、アスルは少し寄り道して、音の方へと足を運ぶと。
そこで目にしたのは、タンデムローター式の大型輸送ヘリにより空輸された複数のハイエンドノーマルが、基地に降り立つ姿であった。
どうやら、昨日セレンが口にしていた、アスルの後釜としてやって来たレイヴン達の愛機のようだ。
昨日まで居場所のあった場所に自身の居場所がなくなったのだと、改めて認識せずにはいられず、少し物寂しさを感じるアスル。
だが、何時までも引き摺っていては駄目と、気持ちを切り替えると。
アスルは、再び目的のホテルを目指し歩み始めた。
それから数十分。アスルは、メモに書かれたホテルに到着したのだが。
そこは、アスルは想像していたものとは違ったものであった。
事前に想像していたのは、社長と副社長と言う身分なのだから、さぞ高級なホテルにでも宿泊しているものと、勝手に想像していた。
だが実際には、アスルが辿り着いたのは、庶民的な価格設定で知られる、所謂安ホテルだった。
とはいえ、身分に異なるランクのホテルに泊まる事もあるだろうと、ホテルに足を踏み入れ。
程なくして、メモに書かれた部屋の前まで足を運んだ。
「……よし」
一旦深呼吸し、気持ちを整えると、アスルはドアをノックする。
すると、ドアの向こうから、昨日聞いたセレンの声が聞こえてくる。
「あぁ、よく来たな……」
そして、鍵を解除する音と共にドアが開かれ、セレンが姿を現した。
が、その姿は、昨日の理知的でクールな印象とはかけ離れた、同一人物なのかと疑ってしまいそうな程、酷いものであった。
寝ぼけ眼で髪は乱れ、着ていたガウンははだけ、下着を着用してない為、女性として魅力的な豊満な部位が露わになりかけている。
まさに、目のやり場に困るとはこの事だろう。
(お酒臭いな……)
しかも、ドアが開かれた瞬間から、部屋の中から漂ってきたのは、鼻を突く酒の臭い。
だが、アスルは何とかポーカーフェイスを貫き通し、表情を崩すことはなかった。
「悪いが、少し待っていてくれるか」
「あ、はい」
「おい武蔵、彼が来たぞ、おい起きろ……。ば、馬鹿か! そっちを起こしてどうする!!」
閉じられていくドアの隙間から、何やら意味深な言葉が漏れ聞こえてくる。
ドアの前でそんな声に耳を傾けながら、アスルは、二人が私的にはどのような関係なのか、想像に難しくないと感じるのであった。
十数分後。
再びドアが開かれ、姿を表したのは、昨日と同じく黒のスーツを着こなした理知的でクールなセレンであった。
「さ、どうぞ」
「失礼します」
部屋に足を踏み入れると、先ほど漂っていた酒の臭いは消えていた。おそらく、慌てて換気や消臭を行ったのだろう。
「さ、かけて」
武蔵が用意してくれた椅子に腰を下ろした時、ふと、ベッドの下に片付け忘れた潰れた缶ビールが見えたが。
アスルは、いちいち指摘する程空気が読めない訳ではないので、見なかった事にした。
「さてと、では、君の答えを聞かせてもらおうか?」
「あの、最後にもう一度聞いてもよろしいでしょうか。本当にお二人は、俺の事を必要としているんですか?」
「当たり前だ。でなければ、私達が直接足を運ばんさ」
「君の前にも色々と候補の子は見てきたけど、やっぱり僕としては君がいいかな。あ、無理なら無理で言ってくれてもいいんだよ」
二人の目を見据えて、やがてアスルは、自身の導き出した答えを口にする。
「こんな俺でよければ、よろしくお願いします!」
この瞬間、一羽の鴉は、地上に降りる事となったのであった。
その後はとんとん拍子に進んだ。
アスルが一年間お世話になったアパートの自宅から、荷物と共に別れを告げ。
基地の滑走路に停まった、セレンが手配した輸送機に、ユージェフ整備長が新品同様に仕上げてくれたレナトゥス共々乗り込み。
程なくして、アスル達を乗せた輸送機は、コロニー・ウテナを離れ、一路目的地を目指す。
輸送機の為、旅客機と異なり快適とは言い難い空の旅を続ける事十数時間。
輸送機は、十数時間ぶりに陸地に着陸を果たした。
輸送機が降り立ったのは、何処かの空港であった。
廃棄された空港ではなく、今現在でも稼働している。
輸送機を降りてアスルが感じたのは、コロニー・ウテナとは異なる温暖な気候であった。
(赤道に近いのだろうか?)
そんな事を考えながら、アスルは、輸送機から降ろされたレナトゥスの積み替え作業の風景を眺めるのであった。
やがて、レナトゥスを輸送用のトレーラーに積み込み終えると、アスルは武蔵とセレン共々、輸送用トレーラーに乗り込む。
武蔵の運転で発進した輸送用トレーラーは、空港を後に、道路を走る。
その道中、アスルはここが何処なのかを、隣に座るセレンに尋ねた。
「ここは旧アメリカ東海岸、コロニー・フロリダだ。同コロニーはGA社の管理下にあるコロニーだから、外敵からの安全は保障されている」
場所を聞き、アスルは納得する。
旧アメリカ合衆国時代、国内で最も赤道に近い地域と呼ばれていた場所なら、熱帯なのも当然だ。
「このコロニーに、CDGの事務所が?」
「あぁ、そうだ。中心地からは少し離れているが、利便性は悪くない場所にある」
「アスル君もきっと、気に入ると思うよ」
それから走る事数十分。
三人の乗せた輸送用トレーラーは、とある敷地内に進入し、やがて停車した。
「さ、着いたよ! ここが、CDGの事務所で、アスル君の新しい職場さ!」
「……」
輸送用トレーラーから降りて、アスルが目にした風景は。
機動兵器用の倉庫に、工場の事務所のような建物が建っている、そんな風景であった。
「……え?」
アスルは思った。ここが本当にCDGの事務所なのだろうかと。
空港からの移動の最中、流れる風景の中には見上げる程の立派なビル群があった。おそらく、企業が使用しているビルだろう。
これから一員となるCDGの事務所も、そんな立派な建物かと、そんな想像を膨らませていた。
だが、現実は、非情であった。
「どうした、早くついてこい」
「あ、はい」
武蔵が輸送用トレーラーを倉庫に入れているのを他所に。
セレンに促され、二階建ての事務所に足を踏み入れるアスル。
足を踏み入れると、外と異なり、心地の良い空調の風が汗ばんだ肌を冷ましていく中、彼が目にしたのは。
外観同様、中小企業の事務所のような内装であった。
「あら、貴方がセレンが言っていたリンクス君?」
ふと、事務所に足を踏み入れたアスルを迎えたのは、セレンと同年代と思しき、金髪に眼鏡をかけた事務服姿の女性であった。
「あ、は、初めまして、今後お世話になります、アスル・ゼルトナーです」
「あら、ご丁寧にどうも。私はシーラ・コードウェル。CDGの事務作業全般を受け持っているわ、よろしくね」
シーラと名乗った彼女と握手を交わすと、不意にセレンから補足的な言葉が飛んでくる。
「シーラは私の元オペレーターで、優秀な奴だ。今は事務を任せているが、時にはアスル、お前のオペレーターを務める事もあり得るから、仲良くしておけよ」
「あらセレン、彼に貴女の経歴、話したの?」
「武蔵が、その方がいい答えを貰いやすいと言ったからな。私達二人の経歴は既に知っている」
「でも、その話し振りからすると、肝心なあの事は話していないようね」
「聞かれはしなかったからな」
「あらあら、悪い大人ね」
「ふ、大人とは、そういうものだろ?」
セレンとシーラが何やら小声で話し始めたのを他所に、アスルは、少しばかり事務所内を見て回る。
すると、奥のトイレから、用を足した何者かが事務所内にやって来た。
「おぉ、セレン、帰ってきてたのか」
「あぁ、今帰った所だ」
「で? 例の坊主は何処……っと、お前さんだな」
よれたスーツに身を包んだセレンらと同年代、或いは少し年上と思しき、ダークブラウンの短髪にサングラスを乗せた男性は、アスルを見つけるなり彼の下へと近づく。
そして、手を差し出しながら自己紹介を始めた。
「アスル・ゼルトナーだろ。俺はエド・ワイズ、CDGのリサーチャーだ、よろしくな」
「リサーチャー、という事は、セレンさんが言っていた優秀なリサーチャーって、エドさんの事だったんですね」
握手を交わし、アスルが、以前セレンが口にしてた事を思い出すと、エドは胸を張り始める。
「ははは、おうよ! 世界一優秀なリサーチャーと言えば、誰であろう、この俺、エド・ワイズ様よ!」
「自分で世界一とか言っちゃうと、胡散臭いわね」
「アスル、エドは確かにリサーチャーとしての腕はいいが、それ以外はただのエロ親父だ、あまりおだてるなよ」
「ちょ、おいそこの二人! 余計な事言うなよな!!」
新人のアスルに先輩として格好をつけたかったエドだが、女性陣二人からの言葉で、そんな野望はもろくも崩れ去るのだった。
「あぁそうだ、アスル、ここの社員の先輩としてアドバイスしておいてやる、ちょっと耳を貸せ。いいか、この会社の金は経理も担当してるシーラが握ってるからな。おだてるなら、シーラをおだてとけ。もし彼女を怒らせでもしたら、給料天引きされるぞ。それから、セレンにはおべっかなんて意味はないからな、彼女は逆にそう言うのが嫌いなタイプだ」
「あらエド、早速新人のアスル君に何を吹き込んでいるのかしら?」
「ほぉ、私達のリンクスを早速誑かすか……」
エドはお返しとばかりに、アスルに耳を近づけさせ、小声で余計な事を吹き込もうとしたのだが。
どうやら、女性陣二人は大層な地獄耳の持ち主だったらしい。
「……、っははは! なんて、ジョークだよ、ジョーク! ほら、長旅で疲れたから疲れをほぐしてやろうと思ってな!」
焦り気味に弁解を述べるエド。
もはや絶体絶命かと思われた、その時。
輸送用トレーラーを倉庫に入れ終えた武蔵が、事務所に入ってきた。
「? どうしたんだい、エド。そんなに汗をかいて?」
「いや、あはは」
「ふ、まぁいい。それよりも武蔵、揃った事だし、アスルを改めて歓迎してはどうだ?」
「あ、そうだね」
何とか危機を回避でき安堵するエドを他所に、武蔵は、アスルに改めてCDGへの入社を歓迎し始める。
「改めてアスル君、ようこそ、
「は、はぁ……」
両手を広げて歓迎する武蔵だが、何故か、最後の言葉に不安を覚えずにはいられないアスル。
その不安が、直後に的中する事になるとは、この時は思ってもいなかった。
「それで、もう一つ、重大発表があるんだけど……」
「それは私の方から言おう。アスル、お前に搭乗してもらうネクストの事だが」
「あ、はい」
「承知の通り、企業に属さない独立傭兵として活動していく訳だから、ベースを含め、使用するパーツに制約などはない。故に、可能な限り、お前の意見を取り入れて用意するつもりだ」
「ありがとうございます」
「でだ、ここからが本題だが。……生憎と、今当社は、ネクストを一機も保有していない。それどころか、ネクストを購入する為の資金も足りない。なので、アスルには、暫くレイヴンとして活動し、購入費用の為の資金集めに協力してもらう」
「……え?」
セレンから発表された衝撃の事実に、アスルは、呆然とせずにはいられなかった。
「いやぁ、僕達も色々と奔走したんだけどね。やっぱり支援してくれるところがなかなか見つからなくて」
「言っておくが、元オリジナルと言っても、私達の退職金など、起業した際に殆ど使ってしまったからな。ネクストまで揃える分は残ってない」
「あ、あの、セレンさん。話が……、違います……、よね。俺は……、リンクスが必要だって……」
「確かにそう言ったが、私は直ぐにカラードに登録して活動してもらうとも言っていない。それはお前が勝手にそう思い込んでいただけだ、違うか?」
「そ、そんなぁ……」
アスルは、やっぱり大人は汚いと思いつつ。
十数時間前にホテルで契約書にサインした事をちょっぴり後悔しつつ。
しかし、セレン達を憎む気持ちはなかった。あの時の言葉は、嘘偽りないものだと感じ取っていたから。
思えば、騙し騙され騙し返すのは、この世の理だ。
ならば、騙した相手を打ち負かす程、頑張ってやればいい。
「まぁ奥さん聞いた、あそこの副社長さん、無垢な男の子を誑かして、馬車馬のように働かせるんですって」
「まぁ、酷いわね」
「シーラ、エド、お前らは……」
「まぁまぁ、落ち着いてセレン」
それに、彼らは決して悪い人たちではない。
四人のやり取りを見て、そう感じ取ったアスル。
そして、文字通りアットホームな雰囲気のあるこの場所なら、自身が探していた答えが見つかるかもしれない。
そんな期待を、胸に抱くのであった。