ARMORED CORE LOST for Tomorrow Answer 作:ダルマ
エド・ワイズだ、この間頼まれていた人物への調査が終了したので、その結果をまとめた調査報告書をここに記載する。
アスル・ゼルトナー。
出身はヨーロッパだが、この世に生まれて間もなく両親とは死別、親戚もいなかったらしく、程なくしてとある孤児院に引き取られる事となる。
その後、細かい経緯は省くが、レイレナード社によりAMS適性の高さを見出され、孤児院への資金援助を条件に、彼はレイレナード社に引き取られたようだ。
それが、奴が『九歳』の時の話だ。
で、それからネクストを操縦する為の技術や訓練をみっちり仕込まれ。
あの国家解体戦争で活躍した三十人の内の一人として、リンクスデビューを飾った。
驚く事に、それが僅か『十歳』の時の事だ。
ま、ただ、リンクスとしての腕前は、オリジナルのナンバーを見ればお察しだ。
訓練期間も短い事もあるが、なんせまだ十歳のガキだからな、万が一にも撃破され捕虜にでもなろうもんなら、大問題だ。
という訳で、国家解体戦争時は、殆ど簡単な任務しか与えられなかったそうだ。
にしても、情勢不安定の地域なんかで少年兵が駆り出されて問題となってた事もあったが、それを、企業側も、それも新たなる象徴のパイロット、リンクスとして駆り出しているとは。
そりゃ、企業側も、自分達の行動、国家転覆の正当性を主張するのにこの存在は明らかなマイナスでしかねぇよな。
て訳で、国家解体戦争後、程なくしてレイレナード社があの手この手を使い、彼の存在は闇に葬られ、オリジナルNo.23はめでたく欠番となった訳だ。
だが、歴史的に抹消されても、彼の存在が消えた訳じゃない。
戦後もレイレナード社の貴重なリンクスの一人として、あの英雄ベルリオーズからリンクスとしてご指導ご鞭撻を賜わっていたそうだ。
ガキだからか、物覚えも早く、レイレナード社側も存在を口外しても問題ない年齢になれば、大々的にベルリオーズの後釜として祭り上げるつもりだったらしい。勿論、期待の新人って事でな。
だが、それまで箱入り息子としておくのも惜しいと思ったんだろうな。
ベルリオーズの影武者として、国家解体戦争後も任務に就いていたそうだ。
ま、あのベルリオーズの弟子だからな、師匠と戦い方が似通っていて使いやすかったんだろう。
しかしだ、知っての通りあのリンクス戦争でレイレナード社は壊滅。
ベルリオーズも、アナトリアの傭兵の手によって戦場に没した。
そしてそんな中、彼はレイレナードの本社が崩壊後、アナトリアに、師匠の敵であるアナトリアの傭兵に襲撃を仕掛けたらしい。
が、あっけなく返り討ちにあい、そこで彼のリンクス戦争も幕を下ろしたって訳だ。
と、ここまで聞くと、アナトリアの襲撃を仕掛けた際に死亡したように思えるが、そうじゃない。
何とその後、彼は仇であった筈のアナトリアの傭兵に助けられ、剰え、彼と行動を共にしていたそうだ。
アスル本人にどういった心境の変化があったのかは本人にしか分かり得ないが、一時の間、行動を共にしていたのは間違いない。
また、その間に、アナトリアの傭兵からこの世界で生きていく知恵等を、具体的にはレイヴンとしてのいろはを教わった様だ。
アナトリアの傭兵は元レイヴンだからな、有意義な教えだったと思うぜ。
その後、アナトリアの傭兵と別れたアスルは、一介のレイヴンとして活動を始め。
現在は、東欧にあるコロニー・ウテナに用心棒として雇われている。
以上が、簡単なアスルの経歴だが。
それにしても、このアスルってやつは、相当な運の持ち主だな。
なにせ、二人の英雄から教えを乞うたんだから。
ま、リンクスとしては少しばかりブランクはあるが、レイヴンとして活動して得た経験も踏まえれば、その実力は、並のリンクス以上だろうな。
俺達の会社に引き入れれば、稼ぎ頭ナンバーワンは間違いなしだ。
さて、そんな調査報告書が書かれたアスル本人はと言えば。
CDGの一員として、ネクストを買う為の資金を貯めるべく、日々、レイヴンとしての活動に精を出していた。
そして、この日。
アスルは、今まで相手にした事がない難敵と対峙していた。
依頼の舞台は、コロニー・フロリダの一角。そこに、アスルと愛機レナトゥスの姿があった。
レナトゥスのコクピット内で、アスルは、神経を集中させ、メインモニターの映し出す映像に目を凝らす。
右腕のリニアライフルと左腕のレーザーブレードは、依頼条件として武器の使用が厳禁の為、装備してきていない。
「っ! 今!!」
四本の足で歩行し、ピンク色の肌に丸々とした体格に特徴的な鼻、そして尖った耳を持ち、独特の声で鳴く難敵。
そんな難敵と向き合っていた刹那、アスルが操縦桿を動かすと、レナトゥスの両手が、道路上を動いていた難敵を捉え、そして。
「ブヒィィィィッ!!」
「……ふぅ」
巨大なレナトゥスの両手で優しく捕らえられたのは一匹の豚。
そう、今回アスルが受けた依頼とは、トラックの荷台から逃げた豚を捕獲する、という内容のもの。
「アスル、残り三匹だ。素早く片付けろ」
「はい」
オペレーターを務めるセレンの声に耳を傾けながら、アスルは、慎重な操作で捕まえた豚をトラックの荷台へ優しく入れると、残りの豚の捕獲に向かう。
こうして、豚という難敵と格闘する事数十分。
遂に、全てのターゲットを捕獲し、トラックの荷台へ戻す事に成功する。
「ミッション完了だ。よくやった」
セレンからの労いの言葉を聞きつつ、終わってみればいつもの任務より圧倒的な精神的負荷を感じたアスルは、ふと、任務内容を確認した時と疑問を湧き起こした。
これは、レイヴンが行うべき任務なのか、と。
しかし、依頼を受諾したのなら一切の疑問を捨て任務の成功に邁進する、それがレイヴンだ。
と下らない疑問を振り払うと、アスルは、帰還すべくレナトゥスを輸送用トレーラーに載せるのであった。
「よぉ、お帰りか」
「只今戻りました」
「今回は見事に出て行った時のままだな」
「まぁ、相手が相手でしたから……」
CDGの倉庫へと戻り、輸送用トレーラーから降ろされ、ハンガーへと愛機を固定し、コクピットから降りたアスルを迎えたのは、一人の整備士であった。
顔に刻まれたしわが歩んできた人生の長さを物語り、帽子からはみ出た白髪交じりの髪も、無言の内のそれを物語る。
しかし、その道一筋に歩んできた故、その知識と経験は、CDGの整備班を束ねるに相応しい。
日系アメリカ人の中老男性、ケント・フジタ。通称"親父さん"。
元ムラクモ社の整備士にして、ムラクモ社在籍時代は整備の神様の異名を誇った凄腕整備士である。
現在は、社長の武蔵の誘いを受けて、CDGの整備班長として、レナトゥスの整備を担当している。
「しかしまぁ、毎回損害が軽微じゃ、整備する側も張り合いがなくて怠けっちまうな」
ハンガーから降りてきたアスルに投げかけられた言葉に、当の本人は苦笑いで返す。
「でも、あまり被弾が過ぎると、修理費がかさんで、セレンさんやシーラさんから凄い目で見られるんですよ……」
以前一度、任務の内容としてはそこまで難しくない任務中、油断してレナトゥスの右腕が吹き飛んでしまった程の損傷を負った事があった。
その後任務を終えて帰還し、アスルは事務所でセレンとシーラと出会ったのだが、その時の二人の目つきは、今でもアスルの脳裏に焼き付いて離れない。
「それに、昔の癖が抜けないと言いますか……」
加えて、レイヴンとして一人で活動してた時期に、レナトゥスの整備に苦慮していた時の癖で、整備の苦労を減らすべくなるべく被弾を抑えようと考える傾向が残っており。
そうした事なども相まって、整備する側としては張り合いを感じられない状況が生まれていた。
「ま、毎度毎度派手にぶっ壊してこられても、それはそれで迷惑だが。今はもう昔とは違うんだ、お前には俺達が付いてる、しっかりバックアップはしてやるから、もう少しぐらい無茶してもいんだぞ」
「ありがとうございます、親父さん」
「あぁ、そうだ、参考までに社長が現役だった頃の話をしてやろう」
元ムラクモ社という好で、武蔵の現役時代も知っているフジタは、参考までにとアスルに彼の現役時代の話を聞かせる。
曰く、武蔵も被弾率はそこまで高くはなかったそうだが、何故か、金曜日の出撃に限っては、異常な被弾率で機体をボロボロにしていたそうな。
この事から、当時の社内の整備士達の間では、"魔の金曜日"として恐れられていたとか。
「ま、人間ってのは、一つぐらい欠点があった方が愛嬌があっていいって事さ!」
「あはは……」
「っと、足止めして悪かったな」
「いえ、大変為になるお話でした」
「ははは、嬉しいね」
こうしてフジタと別れ、倉庫の一角に設けられたロッカールームで着替えを済ませたアスルは、事務所へと向かうのであった。