ARMORED CORE LOST for Tomorrow Answer 作:ダルマ
「只今戻りました」
「お帰り、アスル君」
「あら、アスル君、お帰り」
事務所に足を踏み入れたアスルを、事務作業中の武蔵とシーラが出迎える。
「アスル、今回の依頼はよくやったな。依頼主からも、丁寧な仕事で好評を得ていたぞ」
そして、一足早く事務所に戻って入金の確認を行っていたセレンからも、お褒めの言葉を賜るのであった。
こうして事務所に設けられた自身の席に腰を下ろすアスル。
と言っても、アスルは事務作業等をこなさなくともよいので、自然と手持ち無沙汰となる。
なので、雑誌を手に取りそれを読み始めたのだが。
「だぁーっ! ちくしょう!!」
不意に、パソコンのモニターを眺めていたエドが声をあげ、アスルの意識はエドの方へと向けられる。
「あらエド、また負けたの?」
「この前も負けたのに、懲りない奴だな、お前も」
「まぁ、負けが込む事だってあるよ」
シーラ、セレン、武蔵の口から三者三葉の言葉が零れる中。
アスルも、エドに声をかける。
「エドさん、一体何に負けたんですか?」
「ん? あぁ、こいつだよ、こいつ」
手招きされ、エドのデスクに近づくと、アスルはエドのデスクに置かれたパソコンのモニターに目を向ける。
そこには、とあるスポーツリーグの試合結果が表示されていた。
「フォーミュラB・USサウスリーグ?」
「フォーミュラフロント、聞いた事あるだろ? その
開き直ったのか、分かり易い程肩を竦ませ、自身の負けを白状するエド。
因みに、コアシムとは、COmpany Assuranced CItizen Moneyの略称で、ハイエンドノーマルやネクストのパーツ等の取引で使用される通貨、COmpany Assuranced Mone、通称コームの下位通貨である。
コームが一コーム、旧日本国の通貨円にして一万円の価値があるのに対して、コアシムは、一コアシムが日本円にして百円の価値を有している。
高額製品等の取引で使用されるコームと異なり、コアシムは、
「全く、優秀なリサーチャーも、これでは形無しだな」
負けた金額を聞き、セレンの痛い一言がエドの胸を刺す。
「……いいかアスル、人生の先輩として、男としてアドバイスしてやる。いいか、付き合うならな、賭け事や"酒"なんかに金をつぎ込むような女と付き合うのだけは止めとけよ」
わざとらしく酒の部分を強調するエド。
刹那、何処からか、物凄い殺気が飛んでくる。
その殺気に、アスルの背筋が凍り付く。
「ほぉ……エド。そのアドバイスは、一体誰を指してのものだ?」
CDGの社員ならば、セレンの酒癖については周知の事実となっている。
故に、セレンが青筋を立てて背後から怒りの炎を纏っているようにアスルに見えているのは、決して目の錯覚ではなかった。
「い、いやだなぁ、俺は別に誰を指した訳でもねぇよ。ただ、一般論をだな」
「ほぉ、そうか。……覚悟は、出来ているのだろうな?」
「ちょ、だから!」
「でも僕は、セレンの豪快な飲みっぷりも好きだよ」
エド、あわや絶体絶命かと思われたその時。
武蔵の口から零れた言葉が、途端にセレンの顔を赤く染め、怒りのボルテージを沈めていく。
「ば、馬鹿な事を言ってないで、さっさと仕事の手を動かせ!」
「でも、本当の事だし。それに、セレンの酔った姿も僕は好きだよ」
「いい、今は就業中だ! 馬鹿! 減らず口を言ってないでさっさと仕事に戻れ! ……部屋に帰ったら覚えていろよ」
こうして、エドは危機を脱し、一連の騒動は幕を閉じる事となる。
そして、改めてアスルは思った、セレンは怒らせるべき人ではないと。
「ふぅ、助かったぜ。……っと、そういうや、何処まで話したっけか?」
「あ、えっと、USサウスリーグの試合に賭けて千コアシム負けた辺りです」
「そうだったな。お前さん、フォーミュラフロントは知ってるよな?」
「えぇ、一応情報としては知ってますけど」
フォーミュラフロント。
それは、企業間の争いに疲弊した人々の心を癒す、或いは日頃の鬱憤を晴らす、そんな娯楽の一つ。
企業連傘下、フォーミュラフロント運営局、通称FFAが主催する、無人制御型のハイエンドノーマルを使用したバトルの総称。
国家解体戦争以前、レイヴンズネストが主催していたアリーナと呼ばれる娯楽があった。
無人制御ではなく、有人、即ちレイヴンが実際に機体を操作し、戦って勝敗を競う内容だ。
しかし、国家解体戦争以降、レイヴンズネストの解体と共にアリーナも廃止され、同様の娯楽は失われたかに思えた。
だが、リンクス戦争以降。
再建を図る各企業が、再建を円滑に行うべく自社への批判の目を逸らす為、市民の熱狂する新たな娯楽の提供に尽力した結果。
カラード所属のリンクスによる対戦競技、通称カラードマッチと呼ばれる、かつてのアリーナを彷彿とさせる新たなる娯楽の提供に成功する。
ただし、同マッチは使用するネクストの特殊性故、試合は、アリーナのような実世界の会場ではなく、仮想空間上で行われ。
その模様を、環境の整ったモニターなどから観戦する仕組みとなっている。
所が、アリーナと異なり、競技者人口その数自体が希少で、更にはリンクスを抱える企業の思惑などもあり、試合は頻繁に行われるものではなかった。
その為、各企業は、カラードマッチより親しみやすく、更に敷居を低くして競技者人口を多く抱えられれる娯楽を再度探した。
そこで目を付けられたのが、企業の正規軍で使用していた自立兵器用のAIであった。
当時、民間でも作業用AIによる自立重機等は活躍しており、AI活用の敷居はそこまで高くはなかった。
そして、戦力価値の低下により生産数の減少していたハイエンドノーマル用のパーツを製造する、傘下の企業救済処置という一面も加味され。
こうして誕生したのが、専用に規格されたAIにより行動する、Unmanned type Armored Core、通称u-AC。
このu-ACを使用して試合を行う、フォーミュラフロントであった。
u-ACのベースとなるハイエンドノーマルの汎用性故、様々な外見や性能を持った機体が登場し。
更にはアーキテクトと呼ばれる、機体アセンブルやAIのロジックを組み上げる等、監督的存在の数だけ個性が生まれ。
また、ベースがハイエンドノーマルな事も相まって、扱いに慣れた元レイヴン等もアーキテクトとして多くが参加し、その競技者人口は当初の予想以上に増加。
その為、複数のリーグが組めるまでに急成長を遂げたフォーミュラフロントは。
有人ではない故の派手で奇抜なパフォーマンスに、無人故に全く血生臭さの無いクリーンさもあり、今や、市民に人気の娯楽の一つであった。
「USサウスリーグってのは、さっきも言ったがボトムリーグの一つで、俺はそこで活動するチームを応援してるんだがな、最近はなかなか白星に恵まれなくてな」
フォーミュラフロントは先の説明の通り、その競技者人口の多さから、等級が分けられており。
その中でも
その競技者人口の多さから、世界中でリーグが開催されており。
フォーミュラフロントを市民にとって身近な娯楽たらしめた存在でもある。
「どんなチームなんです?」
「"ここたま"っう名前なんだかな」
変わったチーム名だなとアスルは内心思いつつ、エドがパソコンのモニターに表示させた、彼が応援しているチームの紹介ページに目をやる。
そして、モニターに表示されたチームの代表とメンバーの名前を目にしたアスルは、それを目にした瞬間、声を漏らす。
「え? まさか……」
「ん? どうした?」
「いえ、その。昔、お世話になったレイヴンの方々と同じ名前だったもので」
「何? そりゃ、何時頃の事だ?」
「確か、お世話になったのは三年程前だったと」
「このチームがUSサウスリーグに登場したのは二年程前からだ。となると、案外他人の空似じゃねぇかもしれねぇな」
思いがけない所で懐かしい名前を目にしたアスル。
そんなアスルの様子を見て、エドは、いい事を思いついたようにアスルに提案を持ちかける。
「そうだアスル。お前さん、今度の土曜日休みだろ?」
「はい、そうですけど?」
「それじゃ、今度の土曜日、直接会いに行ってみるか、ここたまのメンバーの所に」
「え!?」
「丁度今度の土曜日、コロニー・フロリダの郊外にあるスタジアムで、USサウスリーグの試合が行われるんだよ。勿論、ここたまも出場するから、試合後に会いに行ってみようぜって事だ」
「いいんですか!?」
「そういや、フォーミュラフロントの試合を見た事はあるのか?」
「いえ、ないです」
「なら丁度いい、試合も見て、世話になったレイヴンかどうかも確かめられる、一石二鳥だ。……って事で副社長、アスルの奴、土曜日ちょっくら借りますよ」
「私はアスルの母親じゃないんだが……。まぁいい、時には別の世界を見て、知見を広めるのも大事だからな」
「それじゃアスル、土曜日、会社の前で待ち合わせだ」
「分かりました!」
こうして、ふとした切っ掛けから、土曜日にエドと共にUSサウスリーグの試合を現地に観戦しに行く事となったアスル。