転生したら、レイヴン、リンクスだらけの街に住むことになった… 作:とある組織の生体兵器
…………
「そろそろお花見の時期ですね〜。」
「そうだな。」
「鮮やかな青空…桜舞い散る春の丘…暖かなそよ風が優しく吹き、美味しい食べ物を食べて楽しく親睦会を開く…はずなのに何の飾りっけもないオフィスで過ごすなんて…。」
「喋ってないで手を動かしてねぇ〜じゃないと仕事終わらずに今日“も”会社で泊まることになるからさぁ。」
「「了解。」」
久々に仕事をしている。結局、会議は何とかなったらしい。
「はぁ…。若い者は良いですよね〜。」
「「?」」
「レジーナさん、今日は休みって…絶対に遊びに行くんですよ。お花見ですよ。お花見。」
「まぁ、貴重な20代前半の春だ。別に何をしようが、我々は口出すべきではない。仕事を終わらせていれば、文句などない。」
「まぁ、そうなんですけど…。…でも、今やっている仕事ってどこかの部署の後始末ですよね。これ…。あ、また開発部のD・Gさんがミスしています…。総務部は一体何をしているんでしょうかね…。」
「……。」
ソルディオスが言い、ジャック・Oが何も言わなくなる。何故なら…。
「……。仕事は捗っているようだな。」
「ええ、そうでしょうね。どこかの馬鹿がミスして、こんなところに押し付けるから…採用担当の人事部とかどうなってるんでしょうかね。明らかに人選ミスですよ。」
「…そうか。」
「本当ですよ!前もキャロル・ドーリーさんから無茶な…。……。」
ソルディオスがパソコンを見ていた人を見た。
「…人事部のハスラー・ワンだ。」
「まことに申し訳ございませんでしたぁぁぁ!」
ソルディオスが瞬時に土下座した。
「ど、どうか島流しにあったトリエンデ先輩と同じ目だけは…!流石にアイスランド(グリーンランド近くの島)は勘弁です…!どうか…どうかお慈悲をください〜!」
「島流しにした覚えはない。それにここの所属に所属しているはずだ。しかもここの部署はキャロル・ドーリーが管理している。私は手を出せない。」
「良かった…。」
ソルディオスが心底安堵する。
「で、本人のキャロル・ドーリーも共にいるが…。」
「ソルディオスさん。先ほどの発言についてはこの後しっかりと話し合いましょう。飛ばされたい場所などがあれば、少しは考慮にいれますが。丁度アイスランドで人員が足りない申請が…。」
「のわーー!まぁぁことにすみませんでしたぁぁぁぁ!!」
ソルディオスが土下座する。下っ端は辛いよ…。
「…皆さん、お集まりですね、」
「「……。」」
「はい…お集まりでございます…。」
ジャック・Oと主任は知らん顔だ。まぁ、実際自業自得なのだが…。
「明日から配属される新人がおります。」
「最近、やっとレジーナさんが仕事を覚えてきたのに…。」
「ソルディオスさん。何かおっしゃいましましたか?」
「い、いえ!何でもありません!」
ソルディオスは本気で飛ばされそうに感じたので、これからは文句を言わない。
「自己紹介をどうぞ。」
「『エマ』です。なんでもします。」
「以上だ。我々は失礼する。」
新人を置いて行って、人事部の2人が行こうとしたが…。
「残念だが、未成年が来るところではないな。」
ジャック・Oが鋭く言った。エネがビクッとした。
「経歴詐称…それは罪に問われる。」
「え?この子、未成年なんですか?何歳くらいでしょうか…?」
「…17です。」
キャロル・ドーリーが諦めたように、平常の声で答える。キャロル・ドーリーは知っていて、黙っていたのだ。
「ふむ…。17歳をこの会社に置いておく訳にもいかない。罪には問わない。その代わり、すぐに解雇するがな。」
ビクッ
「お、お願いです!ここで働かせてください!」
ハスラー・ワンが言うと、エネが必死に雇ってもらおうと言う。
「しかし、会社に置いておけない。未成年を働かせたと報道されれば会社が罪に問われる。」
「そ、そんな…。」
「仕方ないけどね〜。ここは子供が来るような場所じゃないよ〜。」
「人事部の言うことが最もだ。大人になってから、また来ると良い。その時は歓迎する。」
「……。」
周りの先輩や人事部が言う。キャロル・ドーリーは何も言わなかった。エネはどうしようもないことで泣きそうになっていた。
「……。」
…………。
すると、ソルディオスがエネの前に出る。
「どうして、この会社に入りたいと思ったの?」
ソルディオスは大体の予想がついていた。人事部の2人からしてみれば、面接と同じことだと思っていたが…。
「家族が…病気で…。…お金がなくて…。手術費が必要で…。」
ゆっくり、ポツリポツリいう言葉を全員が待ってあげる。面接の時に言っていた内容とは全く違った。
「どうしても…お金が必要で…。」
「やっぱり…。」
ソルディオスが哀れな気持ちになる。
「ソルディオス、何故分かった?」
ジャック・Oが聞いてきた。
「わざわざブラックで有名なこの会社に…。しかも未成年で働きたいって言うような子ですよ?17と言えば、青春を満喫出来る歳じゃないですか。そんな子が働こうとするってことは結構なお金が必要としている合図ですし。恐らく、そんなに貧乏なら保険に入っているお金もないでしょうから、薬もばかになりませんと思いますし。私たちの治療費は保険から引かれていますからね…。この子にとっては桁が違うんですよ…。」
ソルディオスは人事部の2人やジャック・O、主任の目を見て言う。
「それにスーツを見てください。目立たないようにしていますけど、所々に汚れがついています。一着しかないスーツ。色々な、様々な会社へ行ったけど雇ってもらえず、頼みの綱がもうここしかない…最後の希望をかけた場所なんですよ。ここ。」
「…そうか。」
ハスラー・ワンが呟く。
「…仕方ない。“20歳の新人”…この部署は大変だ。覚悟をしたほうが良い。」
ハスラー・ワンが一言言った後、人事部へ戻って行った。
「…私から言えることは一つ。もし年齢経歴共に詐称とわかっても私たちは一切の責任は取りません。明日からは20歳と同じように接します。ここに働く者として接します。以上です。」
キャロル・ドーリーも人事部へ戻って行く。
「…まぁ、そんな事情もある。選別だ。取っておけ。」
「あ、ありがとうございます…。」
エネが缶コーヒーを渡された。
「ま、仕事が出来れば文句ないしね〜。」
「…まぁ、最初はお茶汲み係だと思うけど、頑張って。ここにはいないけど、少し年上の先輩お姉さんに色々教わってね。」
ソルディオスが言った後、ジャック・Oと主任がパソコンに張り付いて仕事をする。
「新人の君は明日からでしょ?今日はもう帰って、沢山休んで。明日からはハードな仕事だから…。…二十歳の新人さん。」
「はい!」
エマは目一杯瞳を輝かせて頷いた後、嬉しそうに帰って行った。
「…はぁ〜…。どうしましょうかね…。」
「とても17にやらせるような仕事ではないが…。…無理をしそうだな…。」
「ま!そこは先輩である俺たちがカバーするしかないでしょ〜。ギャハハハハハ!」
「では、無理してそうな顔だったり、少しでも変化があった場合は気をつけましょう。明日はレジーナさんも出社しますし。」
ソルディオスたちは各々頷くのであった。
…………
おまけ レジーナ
「お父さん、美味しい?」
「あぁ…。とてもおいしい…。あんなに可愛かったお前がもう正社員なんてな…。」
桜の木の下で、レジーナとトルーパーがお花見をしている。家族水入らずだ。
「泣かないでよ。お父さん。…お父さんが帰って来なかった理由、先輩たちを見て分かったから…。お仕事って、あんなに大変なんだって。」
「すまんな…。中々帰れなくて、心配をかけたろう…。それに、家事も任せっきりで…。」
「ううん!お父さんも大変だったって分かったから!」
レジーナは太陽のような笑顔になる。わだかまりが解けたようだ。
「ほう…。ところで、彼氏は出来たか?孫の顔が見たいな…。」
「早い早い…。」
レジーナは手を横に振った。
「なら、先輩たちはどんな奴だ?」
「んーっと…。変人だけど、優秀で優しい人たち!」
「ほう…。」
レジーナとトルーパーは桜の舞い踊る丘で、楽しそうに話していた。
花見…残業…。