昔から、私は運がなかった。
クソ兄貴は自らのことを何処にでもいる一般人だと言うが、私から見れば幸運に恵まれた異常者だ。
「割の良いバイトがある」
そうクソ兄貴に言われてノコノコと付いて行ったが運の尽き。爆発に巻き込まれ、片腕を失った私はクソ兄貴達が第一特異点なるモノを修復した頃、目が覚めた。地獄かよ。
「申し訳ないが、君にもマスターになってほしい」
万能の天才レオナルド・ダ・ヴィンチに懇願され、断れる胆力など持っていない。なにより、これを断ればカルデアに私の居場所はない。
「サーヴァント・アヴェンジャー。召喚に応じ参上しました。……気にくわない顔ですね」
禍々しい少女。誰もがそう表現するであろう彼女を私は綺麗だと思った。救いだと思った。
「ぐっ……、あっ、」
気づけば漆黒の籠手を付けた彼女の右手に首を締められていた。両足が地面から離れ、視界がチカチカする。あと少しでーー。
「なにをしてるんだ!」
ダ・ヴィンチの怒声と同時に、私の首を掴んでいた手は弾かれた。
嗚呼、意識が暗転する。
◆◆◆
目が覚めると私はベッドの上にいた。
朦朧とする意識でスリッパを履き、患者服のまま廊下へ出る。左手にある令呪から感じる薄っすらとした繋がりを頼りに歩く。着いた場所は召喚室だった。
部屋の中は戦場と化していた。クソ兄貴の召喚したサーヴァント達とダ・ヴィンチは血だらけになり、私が召喚したアヴェンジャーは片目が潰れ、剣を持つ手は焼け爛れていた。
「令呪を持って命ずる、カルデアに対して害を与えることを禁ずる」
咄嗟の判断だった。このままではアヴェンジャーが倒されてしまう。それだけはなんとしても避けなければいけなかった。
◆◆◆
「なにかあったら、すぐに令呪を使うんだよ。いいね?」
「わかりました」
心配するダ・ヴィンチに礼を言い、私はアヴェンジャーのいる自室へ戻る。召喚室の一件からは三日が経った。彼女を危険視し、座に戻すべきだという意見はあとを絶たないが、令呪があるから大丈夫だと言って封殺した。
私には彼女がどうしても必要なのだ。
「戻った」
一応、声をかけるが返事はない。
部屋の隅に立つ彼女はこちらをジッと見ているだけだ。
ベッドへ倒れ込む。いろいろあり過ぎて疲れた。
『マスター』
突然の念話に驚くが、ベッドに倒れ込んだ状態を維持する。この部屋は安全上の理由で監視されている。
『なに?』
『良かったのですか?』
主語のない質問。だけど、その意味は十分過ぎるほどわかる。
『人理修復が終われば私はカルデアの一員じゃなくなる。例え失敗したとしても結果的に私の望みは叶う』
『そうですか』
聞きたいことはそれだけなのか、彼女はもうなにも言ってこない。なら、ずっと気になっていたことを聞こう。答えてくれるかはわからないけど。
『一つ、聞きたいんだけど。なんであのとき私の望みがわかったの?』
『……顔ですよ』
一言、そう答えると彼女は黙り、霊体化してしまった。話は終わりということだろう。なら睡魔に身を任せ、眠ってしまおう。