どうやら前回、レイシフトが成功したことは偶然だったらしい。
「まーた、失敗か」
思わず愚痴が出てしまう。
私と邪ンヌは、西部劇に出てくるような街へ転送されていた。
「通信はどうですか?」
邪ンヌに問われ、通信機を確認する。珍しいことに電波が立っている。取り敢えず、現状無事であることを連絡する。
『無事にレイシフトできたようで良かったよ』
ダ・ヴィンチの安堵した声が聞こえてくる。
「まあ、クソ兄貴とは別ですけど」
『それは予定どおりだよ。今回から同じ座標に跳ばす条件を外して、そのリソースを安全面に割いたからね。以前のような空から落ちることは、もう起きないと思うよ』
「流石ですね」
『それほどでもあるさ。取り敢えずリッカちゃん達は、現状の把握と拠点の確保に専念してもらって良いかな』
「わかりました。失礼します」
通信を終了する。
現状の把握と拠点確保。拠点に関しては、通信ができるこの街で良いだろう。
「邪ンヌ、人の気配は?」
「ありません。ゴーストタウンですね」
現地人が居ないとなると、現状の把握は厳しいか。
「下手に動いて状況が悪化しても嫌だし、次の連絡が来るまでは、この街で待機。人が居ないなら建物は使いたい放題だし」
「わかりました」
◆◆◆
数日後、クソ兄貴達と合流した私達は今後の行動方針を話していた。
「戦力を分けてまで、暗殺に挑戦する必要はないと思います」
ジェロニモ発案の暗殺計画は悪くはないが、サーヴァントの人数でアドバンテージを取っている状況でやるべきことではない。
クソ兄貴は二つ返事で了承し、そのサーヴァント達はマスターの指示に従うと言って考えを放棄。こいつらは使えねえ。
「賛成できないか」
「ジェロニモの言うことはわかるけど、サーヴァントの人数有利を捨ててまでやる必要はないと思います。それとも他になにか理由が?」
私が問うとジェロニモはラーマを見て、少し逡巡してから口を開く。
「ラーマの治療中に邪魔が入らないようにする為だ。私がメイヴの立場なら、アルカトラズ島を攻略中のキミらを背後から襲う」
確かに、いくらサーヴァントの人数で有利を取っていても挟み撃ちをされればキツい。ジェロニモの意見は一理あった。
「ふざけるな!」
私とジェロニモの話を聞いていたラーマが怒声を上げる。
「余は他者を犠牲にしてまで自分が助かりたいなどと思っていない!」
ナイチンゲールが傷に響きます落ち着いてくださいと言って、ラーマを宥める。
「落ち着いていられるか! 余は他者の命を踏み台にしてまで、生き長らえたくなどない!」
「わかっています! 私も反対です! ですが、ここまで貴方を救おうとしてきた想いを無駄にするような、身体に負担を掛ける行動はやめてください!」
ナイチンゲールの言葉にラーマが押し黙る。
「……アルカトラズ島攻略組とその後方を守る組に分けませんか。アルカトラズ島攻略組はラーマの治療が終わり次第、後方を守る組と即時合流。最悪の場合はアルカトラズ島で籠城戦」
今まで、黙って話を聞いていた邪ンヌがおもむろに口を開き、作戦を言う。
「籠城まで追い詰められた場合の勝機はどこにある?」
ジェロニモの当然の疑問に対し、邪ンヌは迷いなく返答する。
「西部アメリカ軍です。敵の敵は味方。東部アメリカ軍の主力が背後を見せれば、当然全力で攻撃するでしょう」
「……それはわからない」
ジェロニモが異を唱える。
「何故ですか?」
「エジソンは今、目が眩んでいる。正しい判断ができるか微妙なところだ。最悪の場合、機械化兵を送り込んで終わりかもしれん」
なんとも言えない残念な空気が場を支配する。頭がライオンと聞いたときは、アホかと思ったが、外見だけでなく中身までとは。
「エジソンは熱病に侵されています。それを治療できれば、正しい判断ができるようになるでしょう。私に彼と話をさせてください」
ナイチンゲールが唐突に言う。
「どうやって?」
私が問うとナイチンゲールが、カルデアとの通信立体映像を指差す。
「それを繋ぐことはできませんか」
『残念ながら媒体のない場所に通信を繋ぐことはできないよ』
ダ・ヴィンチが悔しそうに言う。
「……通信機。私の持っている通信機を届けることができたら可能?」
『……リッカちゃんの持っている通信機を届けることができれば、確かに可能だが危険過ぎる。許可できない』
「それしか方法がないなら、やるしかないでしょ」
「私も許可できません。貴女にはまだ生きてもらわないと困ります」
邪ンヌからも反対されてしまう。少しはマスターの意見に従ってくれませんかね。
「その通信機って、お嬢ちゃん以外は使えないの?」
話を聞いていたロビンがダ・ヴィンチに質問する。
『いや、指紋認証のロックを解除すれば誰でも使えるよ』
「なら、届ける役はオレがやろう。幸いなことに宝具のおかげで、気配を消しながら移動することに苦労はしねーしな」
そう言うと、ロビンはこちらに向かって手を差し出してくる。私は、通信機を取り出し渡す。
「先達からのアドバイスだ、お嬢ちゃん。自分を大事にしな」
「……善処はする」
私の返事に苦笑いすると、ロビンは早々に発とうとする。
「失敗するでないぞ」
「ヘマするんじゃないわよ」
その背中にネロとエリザベートが激励の言葉を掛ける。
「はいよ。そっちもな」
手を軽く振り、ロビンはエジソンが居る城へ向かって駆けて行った。
「方針は決まったな。部隊の編成については、戦争の経験がある者で決める。明日以降、気の休まるときは来ないだろう。今日が最後の休息日になる。各々、英気を養ってくれ」
ジェロニモが話を纏める。
『邪ンヌ』
『なんですか、マスター?』
『部隊編成、私とクソ兄貴は別にしてもらって』
『わかりました。ただ、そうなるとおそらく後方を守る組になりますよ』
『それでいいよ』
邪ンヌとの念話を終え、一息つく。
疲れた。