クソ兄貴達がアルカトラズ島を攻略開始してから一時間ほど経った頃、白く細い煙が天へ向かって伸びていた。
「邪ンヌ、アレ」
「おそらく敵側の狼煙ですね」
カルデアから連絡用の照明弾を送ってもらったクソ兄貴が、わざわざ狼煙を上げるとは考え辛い。邪ンヌの敵側という推測は正解だろう。
「……ここから東部アメリカ軍までかなり距離があるけど、狼煙って見えるの?」
「アーチャークラスや特殊な目を持ったサーヴァントなら可能でしょう」
「それってーー」
「はい。私達の把握していないサーヴァントが敵にいることがほぼ確定しました」
◆◆◆
アルカトラズ島から狼煙が上がってから一時間ほど経った頃、攻略完了を知らせる黄色の照明弾が上がった。
「遅い!」
「それだけアルカトラズ島を守っていた敵のサーヴァントが優秀だったということでしょう」
怒る私を邪ンヌが嗜める。
東部アメリカ軍の軍勢と接敵はまだしていないが、行軍中の軍勢は遠くに見える。相手に私達の知らない目の効くサーヴァントがいる推測は、この迅速な行動から考えて間違いない。つまり、このタイミングで敵に背を向けて撤退することは不可能。幸い、私達が潜伏している場所はまだバレていないが、それもいつまでもつか、わからない。
「マスター、撤退します」
「はい?」
唐突な邪ンヌの言葉に思わず間抜けな声が出てしまう。
「この状況で撤退できるわけないでしょ。黄色の照明弾はアルカトラズ島攻略完了の合図。青が治療完了。緑が西部アメリカ軍と交渉完了。忘れたの?」
「覚えています」
「だったらーー」
「だからこそです。西部アメリカ軍と交渉が完了していない現状で、戦闘を開始すれば撤退は不可能になります」
邪ンヌの言葉は意味不明だ。そもそも現状が撤退不可能。……いや、違う。
「私達だけ撤退するってこと?」
「はい。ジェロニモ達に話は通してあります」
「聞いてない」
「はい、言ってません」
「……これは私が立てた作戦。都合が悪くなったら逃げる、なんてことはできない」
「意外ですね。貴女なら率先して逃げると思っていました」
「それ、本気で言ってる?」
「いいえ。最悪の状況になっても貴女は逃げないだろうと思っていました。だから、私の独断で決めました」
「余計なお世話。うざい」
「貴女は謂わば将です。死んではいけません」
「……将は兄貴よ。私は違う」
「私にとって、将は貴女だけです」
「……」
「……」
重苦しい沈黙が場を支配する。
このまま言い合いを続けても平行線は変わらないだろう。それなら、最終手段を取るだけだ。
「令呪をもってーー」
絶対命令権を行使しようとした瞬間、強い衝撃が私に走った。邪ンヌが私の鳩尾へ拳を叩き込んでいた。意識が暗転する。
◆◆◆
目が覚めると私は、カルデアのマイルームのベッドの上で寝ていた。
「邪ンヌ」
「はい」
ベッドの横に置かれた椅子に腰掛けている邪ンヌが返事をする。
「あれから、どうなった?」
「人理修復は無事に終わりました。カルデアの被害はありません」
「そう。……結局、変わらなかったわね」
「なにがですか」
「ジェロニモの作戦と私の作戦、過程は違えど、結果は大差なかったわ」
「運が悪かっただけです」
「……そう、ね。アルカトラズ島の攻略がもっと早く完了していれば、把握していない敵のサーヴァントが目の効く者でなければ、結果は違っていたかもしれない」
「はい」
「でもね、私は知らず知らずのうちに調子に乗っていたわ。銃を使えるようになって、その銃で敵サーヴァントへ一矢報いることができたときから。運の悪い私が立てた作戦が上手くいくわけないのに、上手くいくだろうと勝手に思った。本当、馬鹿」
「……運が悪いことも一概に悪いとは言えません。普通の者なら良い結果と悪い結果、両方を想定して行動しなければいけません。ですが、私達のような運の悪い者は悪い結果だけを考えて行動すれば問題ありません。簡単でしょう」
「……可笑しな話。後ろ向きだけど凄い前向き。嫌いじゃないわ」