「なんですか、その見すぼらしい格好は」
翌朝、慣れない片腕でシャワーを浴び、朝食を食べに食堂へ向かおうとすると、腕を組んだ不機嫌そうなアヴェンジャーに呼び止められた。
「べつに普通でしょ」
「髪は湿気って、服も若干ズレている格好が普通ですか?」
「片腕だけの生活に慣れてないんだよ」
「なら慣れる努力をしなさい」
うるさいなあ。
私がどんな格好をしようが私の勝手だろ。
無視して部屋を出ようとするが、腕を掴まれ引き戻される。直すまでは行かせないということか。
サーヴァントに腕力勝負で勝てる見込みなんてないし、令呪を使って退かせるのも馬鹿馬鹿しい。大人しく言われたとおり格好を整えよう。
「ねえ、ダメ元で聞くけど手伝ってくれたりはーー」
「するわけないでしょう」
だと思ったよ、コンチクショウ。
◆◆◆
三十分後、アヴェンジャーから漸く許しを得た私は食堂に来ていた。到着が遅れた所為で目ぼしいメニューは殆ど売り切れ、あるのは麻婆豆腐ぐらいだった。
「本当にいいのかね?」
サーヴァントでありながら、何故か厨房で働いている紅い外套の男。確かエミヤと言ったか。再三確認してきて鬱陶しい。
「大丈夫、私、麻婆豆腐好きだから」
「了解した。何度も確認して悪かったな。麻婆豆腐、二人前お待たせした」
トレイの上に置かれた二皿の麻婆豆腐は毒々しい紅色を放っている。とても美味しそうだ。
「ん、ありがと」
アヴェンジャーの待つ席へ行き、彼女の分の麻婆豆腐を差し出す。
「なんですか、これは?」
「麻婆豆腐。美味しいよ」
私の言葉が信じられないのか、疑わしそうな目で麻婆豆腐を見ている。
疑り深いなあ。仕方ない、ここは私が美味しそうに食べる様子を見せて安心させてあげよう。
レンゲに麻婆豆腐を掬い、食べる。口の中に辛さという名の暴力が荒れ狂う。最高だ。
「……大丈夫そうですね」
私が美味しそうに食べる様子を見て、漸くアヴェンジャーも麻婆豆腐を食べ始める。売れ残りだが、こんな美味しいメニューをチョイスした私に感謝するが良い。
「カハッ」
「え?」
アヴェンジャーが悶えていた。
「み、水!」
「あ、はい」
テーブルに置かれたグラスに水を入れ手渡す。一気に飲み干すが、それだけでは足りないらしく、ピッチャーを手に取り、グラスに水を入れては飲むを繰り返す。
「それ、少し食べさせて」
アヴェンジャーに差し出した方の麻婆豆腐を口に運ぶ。味付けミスならエミヤに文句を言ってやろう。
「? 美味しいじゃん」
私の麻婆豆腐と比べて、なにも変わったところはなかった。
「マスター、貴女、頭もイカれてますが舌もイカれてますね」
「失礼な」
私は至極真っ当だ。