‥‥‥なにもない。
一時間、慣れない片腕でひたすら走ったが発見できたモノはなにもなかった。通信も回復しない。
「令呪をもって命ずる、来て」
既に念話の通じる距離ではない為、アヴェンジャーに確認を取らず呼び出す。これでもしも、相手にとどめを刺すところだったら謝ろう。
十分ほど経った頃、戦闘音らしきモノが聞こえてきた。岩陰から音のする方を見ると、アヴェンジャーと褐色少女のサーヴァントが戦闘をしながら、こちらに向かって走っていた。
『マスター! 私に逃げろと命令しなさい!』
呆気に取られていると、突然、念話で命令される。その剣幕に逆らうことなどできる筈はなく、言われたとおり令呪を使う。
「令呪をもって命ずる、逃げろ」
一際大きく跳躍し、側に降りたアヴェンジャーが私を脇に抱え、再び走り出す。
「上出来です」
「状況がわからないッ!」
脇に抱えられながら全速力で走られる最低最悪な扱いに抗議する意味を込めて叫ぶ。
「聖杯持ちです。カルデアとの通信は回復しましたか?」
運の悪さここに極まれり。まさか、初戦闘の相手が聖杯持ちとは。見れば、アヴェンジャーの鎧はボロボロで、ところどころ血も出ている。
『してない』
「そうですか。ならもう一度、試してください。霊子が乱れに乱れている今なら繋がるかもしれません」
『‥‥‥私に舌を噛めと?』
「文句を言わない」
心なしか、私を抱く腕の締め付けがキツくなった気がする。
『わかりましたよ』
通信機を取り出し、電波を確認する。
‥‥‥一本、立ってる。
「掛けなさい」
『はい』
嬉しいような嬉しくないような気分って、こんな気分なんだろうな。
「もしもし」
『リッカ君!? 良かった、通信が繋がらなくて心配していたんだよ』
この声はロマニか。
「応援を」
『戦闘中なのかい!? わかった、すぐに藤丸君を通信機の座標に向かわせるよ。電源を入れたままにしといてくれ』
「わかりました。よろしくお願いしまッ」
舌、噛んだ。
「最後の最後で噛みましたね」
『うるさい』
マスターの不幸を笑うな。
◆◆◆
それから少しして、クソ兄貴と合流した私達は当初の予定どおり数の暴力で褐色少女のサーヴァント、アルテラを倒した。
正直、カルデアのバックアップを受けて複数のサーヴァントと契約できるクソ兄貴が羨ましい。私なんて、カルデアの割けるリソースが足りないとかいう理由で令呪の回復のバックアップしか受けられないのに。
◆◆◆
カルデアへ帰還すると、軽いお祭りムードで食堂では祝賀会が行われていた。
「参加しないのですか?」
マイルームでゴロゴロしていると、バスターと英語で書かれたシャツにホットパンツというラフな服装のアヴェンジャーから質問された。
「しないよ。私は今回、なにもしてないから。それより、その服どうしたの?」
「常に鎧姿では疲れるだろうと、ダ・ヴィンチが用意してくれました」
「‥‥‥鎧姿だと職員が怖がるから、って理由もありそう」
「貴女は一言余計です」
そう言うと、なぜかアヴェンジャーは、私が既に横になっているベッドの空きスペースへ入ってきた。
「狭い。霊体化して」
「服は霊体化できません」
「寝相悪かったら怒るから」
「むしろ悪かったのは貴女だったと記憶しています」
「‥‥‥あれはテントだったから」
「なら、問題ありませんね」
そういう問題じゃないし、狭いことは解決してないし、いろいろと言いたいことはあったけど、眠いからもういいや。