「良かったのですか」
「べつに良いよ。今回もレイシフトをミスったカルデアが悪い」
アン女王の復讐号、アンとメアリーが使っている船室の隅の床に私達は座っていた。
ダメ元でパーレイをした結果、クソ兄貴とサーヴァント達の情報、そして黒髭を裏切らないという条件で身の安全を保障してもらえた。
「その度胸は海賊に向いてるよ」
ベッドの上でゴロゴロしながらこちらを見ていた少女達の片割れ、メアリーが話に入ってきた。
「そうかな。私、戦闘できないよ」
「戦闘なんて二の次ですわ。一番大事なことは、大事な場面で逃げずに戦う度胸があるかどうかですわ」
もう一人の片割れ、アンがメアリーの代わりに答える。聞いた話によると、この二人は二人で一人のサーヴァントらしい。
「ところで、さっきから部屋を覗いている変質者はどうすれば良いですか」
アヴェンジャーに言われ船室の窓を見ると、ニヨニヨと気持ち悪い笑みを浮かべた黒髭がそこに居た。
「アレは気にしなくていいよ」
「気にするだけ時間の無駄ですわ」
気にするな、と言われても見られていることを知ってしまうと気になるモノである。
「べつに裏切りやしないのにね」
私がそう言うと、黒髭が一瞬だけ驚いた表情を浮かべる。
「あの男は意外と臆病なんだよ」
「見た目には似合いませんけどね」
辛辣な物言いだが、信頼が窺える。
「ギアスまで使って契約したけど、信用できないモノなの?」
「僕達には知識しかないからね」
「知識だけで完全に信用はできませんわ」
「そっか、なら実際に見せるよ。令呪をもって命ずるアヴェンジャー動くな」
「マスター!」
拳銃を取り出し照準を黒髭に合わせようとする。瞬間、激痛が走り、吐血する。
やばい、想像以上に辛い。意識を保っていられない。
◆◆◆
アヴェンジャーの怒りは凄まじく、目が覚めると、いきなり殴られた。途中でメアリーとアンが止めに入ってくれなければ死んでいただろう。
「酷い目に遭った」
「自業自得です」
私が独り言を呟くと、近くに居たアヴェンジャーから言い返される。
ちなみに今、私はメアリーとアンの船室のベッドで寝ている。申し訳ない。
「まあ、殴られても仕方ないね」
「そうですわね」
「バカでおじゃるなー」
メアリー、アン、黒髭がポーカーをやりながら言ってくる。怪我人の横でポーカーをやるとか酷いな。私もまぜろ。
「私もやる」
「ダメです」
アヴェンジャーから待ったが掛かってしまう。
「なんで」
「安静にしていてください」
安静にしないといけない怪我を負わせた張本人に安静にしろと言われるとは。
「じゃあ念話で指示を出すから私の代わりにやって」
「……はあ。わかりました」
よし、これで暇を潰せる。
◆◆◆
「眠りましたね」
アヴェンジャーが、私が寝ていることを確認する。
「疲れていただろうに、長い間よく続けられたね」
「ふふ、それだけ楽しかったのでしょう」
「絶望的に弱かったでおじゃるがな」
メアリー、アン、黒髭が笑い合う。
そのとき、部屋の扉が開かれ一人の船員が入ってきた。
「船長! 敵船です!」
私が熟睡している間に事態は進み始める。