オルタなジャンヌ   作:月ノ城

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九話

 激しい戦闘音で目が覚める。

 船室の窓から甲板を見ると、黒髭一味とカルデア一行が戦っていた。

 

 「アヴェンジャー」

 

 名前を呼ぶと、霊体化していたアヴェンジャーが実体化して現れる。

 

 「この勝負、どっちが勝つと思う?」

 

 「カルデアでしょう。戦力差が圧倒的です」

 

 「まあ、そうだよね」

 

 クソ兄貴に味方するサーヴァントの人数は十人。レイシフトで跳ぶときは六人だったから、残りの四人は現地の協力者か。

 

 「数の暴力って凄いね」

 

 アンとメアリーが力尽き、消滅して逝く。

 残りは黒髭とヘクトール。

 

 「ヘクトールのクラスって、アヴェンジャーではなく、ランサーで間違いないよね?」

 

 「はい」

 

 黒髭が女海賊を含めた六人のサーヴァント達と戦闘を始める。圧倒的不利にもかかわらず、不敵な笑みを浮かべながら戦う様子は流石と言うべきか。

 対してヘクトールは、のらりくらりと残りのサーヴァント達の相手をしていた。

 

◆◆◆

 

 銃声が二発、戦場に響いた。

 一発は黒髭。もう一発は私。

 黒髭の銃弾はヘクトールの槍によって防がれたが、私の銃弾は防がれることなく命中した。

 

 「お嬢ちゃん、残念ながらサーヴァントに現代兵器は大して効果ないよ」

 

 こちらを振り向いたヘクトールが小馬鹿にしたように言ってくる。

 

 「それ、特別性」

 

 私が言い終わるや否や、ヘクトールが吐血する。

 

 「令呪をもって命ずる、アヴェンジャー全力で宝具を放て」

 

 「これは憎悪によって磨かれた我が魂の慟哭『悲嘆せよ、我が憎悪』!」

 

 赤黒い血のような炎が走る。ヘクトールはそれを打ち消そうとするが、クソ兄貴のサーヴァント達がその行為を許さない。

 

 「ぐぁあああ!」

 

 ヘクトールを赤黒い血のような炎が包み込み、天へ向かって突き出した漆黒の槍が彼の身体を貫いた。

 その後、アルゴノーツとか言う集団に襲われたりしたが、数の暴力でクソ兄貴のサーヴァント達が勝った。仮病を使い、船室でゴロゴロしている間に事態が収束したときは馬鹿らしくて思わず笑った。私がレイシフトする必要ないじゃん。

 

◆◆◆

 

 「ヘクトールが裏切ると何故わかったんだい?」

 

 特異点修復が終わり、カルデアへ帰還した私はダ・ヴィンチの健康診断を受けていた。

 

 「一人だけ悪党じゃなかったからです。生粋の悪党の集団に生粋の善人が居たから、違和感凄かったですよ」

 

 「なるほど、ではもう一つ質問。あの銃弾はなんだい? 私がキミに持たせた銃弾に、英霊を吐血させるほどの威力は無かった筈だが」

 

 「あー、アレはバレンタインのときにアヴェンジャーが血を染み込ませた弾です」

 

 「そうか、それなら納得だ。……よし、健康診断はこれで終わりだよ。お疲れ様」

 

 「ありがとうございました。一つ、お願いしても良いですか」

 

 「なんだい?」

 

 「次のレイシフト、私は不参加でお願いします」

 

 部屋の空気が、固まる。

 

 「理由を、教えてくれるかな」

 

 「今回のレイシフトで思ったんです。クソ兄貴は何人もサーヴァントを引き連れて敵を倒して、私は従来通り一人のサーヴァントと敵を倒す。余りにも馬鹿馬鹿しいです、腹が立ちます」

 

 「それは申し訳ないと思っている。ただ前にも説明したが、今のカルデアのリソースでは複数サーヴァントとの契約を複数のマスターに施すことはできない」

 

 「わかっています。でも、我慢できません。何故、クソ兄貴の方が評価されているんですか。複数サーヴァントとの円滑なコミュニケーションを取っていて凄いと、職員の人から聞きましたが、ただのごますりでしょう。本人はなにもしてないのに!」

 

 「……」

 

 「怒鳴ってすみません。健康診断ありがとうございました。失礼します」

 

 ダ・ヴィンチの研究室から出て、自室へ向かい廊下を歩いていると、霊体化しているアヴェンジャーから念話で話しかけられる。

 

 『マスター』

 

 『なに?』

 

 『良かったのですか』

 

 『ダ・ヴィンチは自分の頭で考えられるサーヴァントだから問題ないよ。それに私は貴女以外のサーヴァントと契約する気はない』

 

 『……何故ですか?』

 

 『気持ち悪いから。自分の言って欲しいこと、やって欲しいことをしてもらってデレデレする英霊は嫌い』

 

 『英霊と言えど、人です。それで好感を持つことは当然かと』

 

 『八方美人でも? 私は嫌だね。ダ・ヴィンチには大したことないみたいに言ったけど、クソ兄貴のごますり能力の高さは確かに凄いよ。ただ、それを四方八方に振り撒いて、そのことを知っているくせに許容しているサーヴァントが本当に気持ち悪い』

 

 『……マスター』

 

 『なに?』

 

 『私のことはこれからアヴェンジャーではなく邪ンヌと呼んでください』

 

 『はい?』

 

 『貴女を私のマスターとして認めます』

 

 そう言うと邪ンヌは人目も憚らず、実体化し、その場で跪く。

 

 「……愚痴を聞いてマスターとして認めるとか変わってるね」

 

 「変わり者のマスターのサーヴァントが変わり者であることは普通だと思いますよ」

 

 「私は普通よ。改めてよろしく、邪ンヌ」

 

 「はい、マスター」

 




やっと名前呼びができます。長かった。

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