ハイスクールD×D 案①『遠坂凛に転生したら』 作:ら・ま・ミュウ
英雄派が手に取ったカードは詠唱と共に淡く光を放ち、脈動するカードから漏れだした魔力量に思わず舌を巻くゲオルグは『
この最後の言葉を持って手の内から弾けるように胸元に浮かんだカードに意識を集中させる。
ザァ……ザァ…
……ザァ…ザァ…
潮の香りと波のさざめき
「あら、こんな私を選ぼうなんて物好きな坊やだこと」
「………なっ!?」
ゲオルグは気付けば見ず知らずの孤島の上で、藤色の髪を風に揺らす妙齢の女性の目の前にいた。
彼は目を見開き、唖然として辺りを見渡す。
(馬鹿な……転移魔術の痕跡は欠片も感知出来なかった)
己はつい寸前まで冥界で泥の怪物達と死闘を繰り広げ、また遠坂凛が創造した礼装を用いて過去の英傑の力をその身に置き換える『自らの存在を一時的とはいえ全く別の何かにすげ替える』というある種、自我の崩壊すら招き兼ねない禁忌的なパワーアップを果たそうとしていた筈。
(無論、あの女の事だ。そうならないように対策はしているのだろうが、“普通”の魔術師では同じような事が出来ても廃人になるか暴走するかの二択だ)
その為、少し覚悟をもって術式を起動したゲオルグであったが、あれは間違いなく完成品であると、そう確証出来る実感があって間違いなく英傑の力がこの体に憑依した感覚があった。
――しかし、
「何をした」
状況を理解出来ないゲオルグは女に問う。
「……はぁ、全くこれだから尻の青いガキは嫌いなのよ」
女は嘆息してやれやれと首を振るう。その様はやけに道に入っていたが、今この時も彼の仲間達は戦っている筈だ。
女の言い回しは焦れったく、
故に、逸る気持ちを抑えきれない彼が転移魔術を行使して冥界へと赴こうと行動するのは無理もない話で――、
「ここは貴方の心象世界よ。転移魔術で現状を打開出来る訳ないわ」
冷たく言い放つ女に今度こそ面食らうゲオルグである。
「つまり……貴方が英傑なのか?」
「飲み込みは早いのね、そう言うの嫌いじゃないわよ」
女の言葉を完全に信じた訳ではないが、ここは己の心象“世界”だとすれば消去法から言って彼女はこの
「まさか、そんな事が…」
立場上、心象風景を現実世界に映し出す大魔術。そんな物があると小耳に挟んだ事があったが、実際に体感するのとは訳が違う。
「その顔を見ているのも退屈しのぎにはなるのだけれど……あまり時間は掛けない方がいいんじゃなくて?」
見たこともない風景でありながら何処か親しみを感じる奇妙な感覚に意識を飲まれそうになっていたゲオルグはその言葉にハッとする。
「そうだ!早くしなければ曹操達が!?」
途端に焦りの顔を見せるゲオルグは女にどうすれば元に戻れると詰め寄り、
「そうね、私の真名を当てられたら教えてあげようかしら?」
此方が切羽詰まっていると分かっていながら卑しく笑う魔女の笑みにカードを使用した本来の意味を思い出す。
「……成る程、それが英傑の力を借り受ける為の試練というヤツか」
彼は眼鏡をかけ直し額から汗を流した。
――曹操side
朱色の槍とロンギヌスがぶつかり合う。
「オレの力が欲しいなら力ずくで奪ってみろや!」
「クッ!そんな時間はないんだ!お願いだ、俺を元の世界に帰してくれ!」
槍兵の英傑のカードを使用した曹操は、ゲオルグと同じく見覚えがないながら何処か既視感を覚える暗い闇に閉ざされた大地の上で、青タイツの男と矛を交えていた。
交渉とか敗けを認めるだとか相手は話を聞かない。
焦る気持ちで鈍る棒術に明らかに格上の相手である青タイツの男からは容赦のない攻めの嵐で、曹操は決して浅くない切り傷を作り続けながらそれでも致命傷だけは避けて――下唇を噛み締める。
「(すまない皆、俺が戻るまで何とか持ってくれよ!)」
「――槍よ!神を射貫く真なる聖槍よ!我が内に眠る覇王の理想を吸い上げッ祝福と滅びの―――」
朱の槍が懐へ突き抜ける。
「
曹操の
「へぇ、少しはやるじゃねえか」
「貴方は強い人だ。人間は弱い…だから守る為には卑怯な手に染めるしかないと諦めかけていた俺とは違い、その力は己の身一つで手にいれたのだろう。だが、俺は仲間を守らなければならない!例え貴方ががどれだけ強くとも俺は倒しッ道を切り開く!!!」
獣のように獰猛な笑みを浮かべる青タイツの男。
起死回生の一手を賭けて全身全霊を闘志に燃やす曹操は光の速さで飛び出した。
ヘラクレス、ジーク、ジャンヌ、アーサー・ペンドラゴン、ペルセウス。
さて彼らのカードに宿った英雄は誰となるやら……。