Let's Go! サイトウ   作:柴猫侍

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#4

 新たな仲間が加わった。

 

「全体、止まれ!」

 

 ピタッ!

 

「全体、進め! サーちゃんに突撃!」

 

 わぁー!

 

「私のタイレーツで遊ばないでください」

 

 と、このようにしてサイトウに向かっていく六体の小さな丸っこいポケモンの名は「タイレーツ」。タマタマと同様、複数体で一体と見なされる不思議なポケモンだ。

 一列に並んで行進する様は虫ポケモンの這いずりに見えなくもないが、正体を知ってしまえば何ら怖くない。寧ろ、その丸みを帯びたボディとつぶらな瞳に愛らしさを覚えるほどだ。

 

 と、こんな姿をしているタイレーツだが、タイプはれっきとした【かくとう】。

 力は案外強い。

 

 その為、

 

「こら、今料理してる途中ですから……!」」

 

 香しい匂いを漂わせるカレーの鍋を見ていたサイトウは、周りに群がるタイレーツを追いやることができない。

 そうなれば、捕まえたばかりにも拘わらず大層なついているタイレーツは、サイトウに対しおしくらまんじゅうでもするかのようにギュウギュウと体を押し付ける。

 

 美少女と愛らしいポケモンが触れ合う光景を見て、メープルは……。

 

「眼福眼福」

「けしかけておいて何を言ってるんですか、貴方は」

 

 うんうんと頷いているメープルに、サイトウはツッコまざるを得なかった。

 

 いつもの調子でキャンプしている彼女達が居るのは8番道路。

 アラベスクスタジアムにて「魔術師」と謳われるフェアリー使い・ポプラをも下したサイトウの次なる目的地が、この先にはある。

 その名もキルクスタウン。待ち構えているジムリーダーは、こおり使いのプロフェッショナルであるジムリーダー・メロンだ。

 タイレーツは、まさにメロンに挑戦する前の戦力増強の為に捕獲された1体(?)なのである。今のところマスコット要素が強い気がするのは否めないが―――。

 

「まったくもう……」

 

 最終的には、タイレーツが全身に纏わりついた状態でお玉を回すハメになったサイトウ。

 因みにタイレーツの体重は62キロである。62キロなのである。

 62キロの重りがついているに等しい状態で平然とお玉を回す―――そうした力があるのも、日々の鍛錬の成果だろうか。

 

 と、それはさておき。

 

「それにしても随分進んできたねー。もう6個目のジムかぁ~」

「ええ。ですが気は抜けません。有利なタイプで挑むからこそ、それに策を講じているであろうジムリーダーは強敵なはずですから」

「おぉ、言われてみれば! でも、こっちもこっちで良いところを発揮できれば負けないって!」

「……ふふっ、元からそのつもりです」

「でも、前のジムは面白かったなぁ~」

「言わないでください! あれはっ……」

 

 アラベスクスタジアムでのジム戦を思い出し、思わずニヤついてしまうメープル。

 

 何故なら、ジムリーダーのポプラが中々に曲者―――捻くれており、ジム戦の途中でクイズを出してくるのだが、

 

『あたしが好きな色はピンクとパープル……どっちかな?』

『たくさん聞かれましたから把握済みです! ピンク!』

『他人に求めちゃいるが、あたし自身は違うね』

『え』

 

『あたしの年齢……16歳と85歳、どっち?』

『これなら知っています! 85歳!』

『正解だが、対応として間違ってるね』

『え』

 

『あたしが好きなデザートを答えてみな』

『ケーキ!』

『そりゃあんたの好きなデザートじゃないのかい?』

『え』

 

 といった具合に散々弄ばれた挙句、辛勝したのだ。

 老練な戦士―――もとい、年寄りのユーモアを理解できなかったサイトウの敗北とも言える。

 

(こっちは面白くもなんともなかったのに……)

 

 今思い返しても青息吐息だ。何やら今後すっぱ抜かれそうな個人情報まで洗い出された気さえする。

 

(でも、あの時言われた言葉は……)

 

 不意に脳裏を過るやり取り。

 ポプラがわざわざクイズを出すのは、高齢な彼女が後継者を―――つまり新たなジムリーダーを探すのが目的だった。

 チャンピオン・ダンデがジムチャレンジャーの頃から行っているようであり、それを踏まえるとかなり長い期間後継者を探していたようだ。

 アラベスクスタジアムに挑んだサイトウもまた、そんなポプラの試験を受けた訳だが、

 

『残念ながらあたしのお眼鏡にゃ敵わなんだが……リーグやらスポンサー、それにサポーターの目にゃ留まるだろうね』

『え……?』

『まあ年寄りの戯言だよ。あんまり気にせずジムチャレンジ頑張りな。上り詰めたいんなら挑戦あるのみ。チャレンジャーも勿論だが、ジムリーダーもそうさね』

 

 言われた当初はピンと来ていなかったが、時間を置いてから理解に至った。

 ジムチャレンジャーが勝ち進んだ先に待ち受けているものは、チャンピオンへの挑戦をかけてジムリーダーも交えたファイナルトーナメントである。

 そこで優勝してこそ、やっと最強の前に立てるという訳だが、下剋上を狙うのは何もジムチャレンジャーだけではない。

 ジムリーダーもまた、この時だけは一人の挑戦者となり新たな王者に輝かんことを夢見るのだ。

 

(ジムリーダーも……)

 

 チャンピオンの座につくのは容易ではない。

 そもそもジムチャレンジャーがチャンピオンになってしまうのが異常なのだ。

 その常識を覆したトレーナーこそ、現チャンピオン。

 彼に勝てる確率は万に一つか、それ以下か。

 もしかすると、ファイナルトーナメントで勝ち進めるかどうかも、ファイナルトーナメントに上り詰められるかさえ、今は決まっていない。

 となれば、ジムリーダーになることもまたチャンピオンへの道筋が一つ。

 

(私も……ジムリーダーに……)

 

 ある意味現実的な道のりだ。

 それでも険しいことに変わりはないが、楽観視しているよりは性に合う。

 努力すればするだけ結果が出る夢想はとうの昔に見終わった。地道に、それでいて堅実に進まなければならないことは嫌というほど味わったのだから。

 だからこそ、現状の順風満帆具合を恐ろしく感じてしまう。

 

―――一層気を引き締めてかからなければ。

 

 纏わりつくタイレーツの重さも忘れて思案していたサイトウ。

 そんな彼女であるが、さらなる重さが体に圧し掛かったことで、ようやく自分の世界から戻ってきた。

 

「!」

「サーちゃん、考え事?」

「ええ、まあ」

「ふ~ん……考え事はいいけど、ボーっとしてたらカレーが焦げちゃうよ?」

「え? あっ!」

 

 熟考していたせいか手が止まっていたようだ。

 鍋の縁にこびりついているルーがほんの少し焦げている。このままずっとかき混ぜずにいれば、恐らく底の方からどんどんと焦げ付いていき、食べれたものではない味になってしまうことだろう。

 

「迎え入れられて初めての晩餐が焦げ焦げカレーになっちゃうかも」

『!?』

 

 メープルの言葉に目を見開くタイレーツはイヤイヤと頭を振る。どうやら苦口は好みでないらしい。

 

「だ、大丈夫ですから。ちょっとくらい焦げてる方が大人の味がします」

「ところでサーちゃん。ここにすでに完成された味わいのレトルトカレーがあります」

「……投入しましょう」

「あいあいさー!」

 

 予め完成されているほど素晴らしいものはない。

 味を調える為にレトルトカレーを投入し、焦げつきが気にならなくなったカレーをよそった一同は、そのまま夕食へと突入する。

 

 いざ、楽しい夕食タイム。

 

 実質5体増えた食卓は大層賑やかなものだ。

 ワイワイ楽しそうにカレーを頬張るタイレーツ。そんな彼等をサイトウは微笑ましそうに見守る。

 

「美味しくできたようで一先ず安心です」

「だねぇ~。お店で食べるカレーもいいけど、やっぱりキャンプで作るカレーってのがオツって言うか……」

「その通りです」

 

 皿によそわれたカレーを一口一口噛みしめて味わう。

 こうして外で―――いや、メープルと一緒にカレーを食べられるのはあとどれくらいだろうか。

 そう思うだけで、カレーがほんの少し塩辛く感じられた。

 短い旅路であるが、彼女との思い出は人生の中で一際燦然と光り輝いている。

 

 ターフタウンでカチューシャを貸してもらったことも。

 バウタウンで初めて友人だけとレストランに赴いたことも。

 エンジンシティまでの電車で風景を眺めて談笑したことも。

 ワイルドエリアでキテルグマに追いかけ回されたことも。

 ナックルシティで伸びてきた髪を切り揃えてお揃いにしたことも。

 ラテラルタウンでスイーツ巡りをしたことも。

 アラベスクタウンでメープル共々ポプラにフェアリーとは何たるか指導されたことも。

 

 全てが新鮮だった。

 何度()()()を彼女と共有しただろうか。

 まさか自分の思い出が、隣に居る彼女をなくして語れなくなるとは思わなんだ。

 

(悪い気はしませんが)

 

 クスリと微笑みを湛えたサイトウは、次なる目的地であるキルクスタウンがどういった場所であるかを口にする。

 

「メープル」

「あいよ」

「キルクスタウンは温泉で有名なんですよ」

「温泉!? 温泉あるの!?」

「ええ。そんなに驚くことですか?」

「驚くもなにも! 旅先で温泉なんてテンションブチ上がりに決まってるでしょ!」

「はぁ……」

「あ、温泉あるならサーちゃんと一緒に入りたい!」

「温泉にですか? 構いませんよ」

「ホントっ!? フゥ~!! テンション上がってきたぁ~!!」

 

 温泉と聞いて浮足立つどころか小躍りするメープル。

 何故ここまで喜ぶのだろう―――そんなサイトウの疑問が解決するのは、いざキルクスタウンにたどり着いてからだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「思ってたのと違う」

「と、言われましても……」

「アタシはサーちゃんと湯煙の中で裸の付き合いができると思ってたのに!」

 

 熱い水面をピッシャァン! と叩くメープル。

 ここはキルクスタウンに存在する施設の一つ。言ってしまえば、温泉プールで遊べる施設だった。貸し出されている水着を着用し、老若男女問わず温泉を利用したプールを愉しむ場だ。

 けれども、メープルの期待にはそぐわなかった。

 彼女が求めていたのは、口述した通り全裸で温泉浴するというもの。

 しかしながら、いざ赴いてみれば温泉にはほど遠い公衆プールがあるだけ。

 残念なことに、ガラル地方はメープルの故郷のように裸で公衆浴場に入る文化がなかったようだ。

 

「くぅっ……! アタシの期待を返して!」

「一体何を期待していたんですか。破廉恥です」

「破廉恥じゃなーいっ!」

「っ!?」

「いい!? 裸の付き合いってのは体じゃなくて精神的な意味でなの! 互いに本音を言い合えるような友情を交わそうっていう、そういう崇高な付き合いなんだってば!」

「……じゃあ、物理的に裸になる必要はないのでは?」

「そこはあれ! 形から入っていこう! みたいな意味で!」

「本音は?」

「えぇ~? それは……えへへっ、言えないよぉ~」

 

 何とも裸の付き合いをしたくなくなるような言いぶりである。

 昨日のしんみりとした思い出の振り返りをした時間を返してほしい。心の底から思う。

 と、あれこれ文句を言っていたメープルであったが、叶わないことをいつまでも嘆いている性格でもない為、すぐさま気分を入れ替えて遊ぶ態勢に入った。

 

「サーちゃん! バレーボールしよー!」

 

 ボールは借りて来た! と、最早有無も言わせぬ準備ぶりのメープルには、サイトウもやれやれと呆れたため息を吐きながらも付き合う。

 

「えーいっ!」

「たあっ!」

「ホイっ!」

「はい!」

 

 タマザラシ模様のボールを交互にパスする二人。

 最初こそ緩く繋げるだけの遊びであったが、次第にどちらかが落としたら負けといった雰囲気が漂い始める。

 凄まじい集中力。パスの回数はおおよそ50回を超えたところだろうか。

 サイトウも気が付けば目からハイライトが消えている。これはポケモンバトルに臨む際―――いわば戦場に挑む顔つきだ。

 

 と、突然メープルがサイトウに返したボールが明後日の方向へ跳ぶ。

 これには返した当人も「あっ!」と声を上げたが、サイトウは全力でボールの方へ駆けていくや否や、水中に上半身が浸かるほど屈伸した後、でんこうせっかのような勢いで飛び跳ねたではないか。

 

「ふっ!」

 

 そして、スマッシュ。

 メープルの位置まで返すにはスマッシュくらいでなければダメだと考えたのだろう。

 ボールは一直線にメープルの下へと向かい、まん丸と目を見開いていた彼女の眼前に着水する。

 上がる水飛沫。

 勝負ありか―――内心ほくそ笑んだサイトウであったが、水飛沫を掻き分けて突進してくるメープルに瞠目する。

 

 何のつもりかと勘繰っていれば、突然メープルが腕を突き出してきた。

 そのまま手は吸い込まれるようにサイトウの胸元へ―――。

 

―――むにゅ。

 

「ん?」

 

 やけに感触が生々しい。

 

「動かないで」

「は、はぁ……」

 

 言われるがまま微動だにしないサイトウ。

 すると途中、やけに上半身が涼しい気がしてきた。

 ゆっくりと視線を胸元へ下ろす。

 

 無い。

 何が?

 水着が。

 

「―――っ!!?」

 

 自問自答をし、本来あるべき衣がないことに気がついたサイトウは、褐色肌でも分かるほど赤面し狼狽えながら辺りを見渡す。

 幸い水着はすぐ傍で見つかった為、手を伸ばして掴もうとするサイトウ。

 

「あ、ありがとうございます……」

 

 しっかりと今尚隠してくれているメープルに感謝を告げながら、水着を掴み取ったサイトウ。

 すると、何やらボソボソと呟いているのが聞こえてくる。

 

「―――ィ」

「はい?」

「……B!」

 

 

 

▼サイトウの からてチョップ!

 

▼効果は バツグンだ!

 

▼メープルは サイトウを

 悲しませまいと 持ちこたえた!

 

 

 

 ちゃっかりしているメープルに制裁を下すサイトウ。

 これも忘れられぬ―――というより忘れられない―――思い出の1ページに刻まれたのは言うまでもないだろう。

 

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