BLACKSOULSⅡ腹パンRTA 0:19:19:19   作:メアリィ・スーザン・ふ美子

1 / 20
まともな登場人物なんて一人たりとも存在しない、全員総じて気が狂っていて、全員総じて壊れていて、全員総じて病んでいる、ダークメルヘンR18RPG、BLACKSOULSⅡ -愛しき貴方へ贈る不思議の国- の腹パンRTAです。

混沌虚無配信は第二部となっておりますので、目次から戻っていただき、16話目からご覧くださいませ。








 はい。よーいスタート。
愛しい彼女を愛する(重複表現)RTA、はーじまーるよー。
『NEW GAME』を選択して計測開始です。





BLACKSOULSⅡ腹パンRTA 0:19:19:19~実走者視点~
実走者視点1


「貴方の名前を教えてください」

 

 

 脳髄の奥底から響き渡るかのように聞こえてきたその声に起こされ、私は目を覚ます。

 ここはどこだ……? そして、私は一体……『ほもでは?』私は決して同性愛者ではない。

 魂の奥底から滲み出るような声はしかし、再び私の名をほもだと断じる。

 このやりとりを懐かしく思う気持ちがふつふつと湧きあがってきた。

 それを錯覚だと切り捨てるには余りにも……その、なんだ、困る。

 ほかに何も思い出せることがないからだ。

 であるならば、もしかして本当に私の名はほもなのでは?

 いや流石にそれは『そうだよ』ウソだろおい?

 ……ならば一時、仮に自らをほもだと名乗ろう。

 ほも以外に必ずあるハズの本当の名前を思い出すまでは。

 

 繰り返すが私は決して同性愛者ではない。

 

 

「ほもさん、おはようございます。

 ふふ。可愛らしい寝ぼけ眼ですね?

 状況を理解するのは難しいと思います。

 今はただ、私の言葉に従ってください。

 それがきっと、貴方の為になるのですから。

 ゆっくり息を吸って~……吐いて~……」

 

 

 混濁する意識。理解しがたい状況。

 私は肉体を失い、霊魂と化して故の知れぬ謎めいた空間に一人浮いていた。

 文字通り地に足のつかぬ、なんともふわふわとした心地で故も知れぬ声に導かれ、どこかへと漂っていく。

 その声は私は優しく包み込むようで、とてもとても気持ちがよい。ふわふわで、もふもふだ。

 言葉に従うと天にも昇る気持ちとなり、意識は夢のような世界に旅立っていく。

 

 

「――――では次に、貴方の素性を選んでください」

『きみは生前、狩人だった。覚えてるよね?』

 

 

 私を誘導する声は二つあった。

 一つは脳髄の奥から響き渡る声。

 一つは魂の奥底から滲み出る声。

 生前?

 私は、死んでしまったというのか?

 

 うっ。頭が……やはり何も思い出せない。

 

 だが、そうでもなければ霊魂となって漂うことになるなど……ならばきっと、私は本当にもう死んでいるのだろう。だってそれ以外考えられないじゃないですか。

 

 

『ほも。まずは狩人の基本を思い出して』

 

 

 狩人の基本……狩りに優れ、無慈悲で、血に酔っている。そんなイメージが魂の奥底から滲み出てくる。

 長く明けぬ獣狩りの夜……そう。そうだ。

 私は確かに、ビーストを狩っていた。

 きっかけ一つで、私の記憶は蘇っていく。

 首狩りのビーストを。

 憂さ晴らしのビーストを。

 獣被りブッチャーを。

 鈍色の大鷲イーディスを。

 キャロル川の対岸、月の獣を見る設備を作り上げた冒涜的なオックス・ウォード学院に入り込み、獣に墜ちた学寮長を。輝星のビーストを。そして狂鳥ジャブジャブを。いずれも名のある悪夢のような連中を何度も何度も狩ってきたではないか。

 

 そう、連中の名前は確か……

 狂鳥ジャブジャブ。

 屍竜ジャバウォック。

 燻り狂えるバンダースナッチ。

 そして、紅城の暴君、心臓の女王。

 昏き底より出でる四大悪夢。

 地の底の澱みのような連中をいくら倒しても夜が明けることはなく、ビースト狩りの夜明けは未だ遠い。

 

【今夜という今夜が繰り返され永遠に明日が来ないんだ。

 そうして獣は減りもせず増え続けるだけ。

 いずれこの国は過重で潰れてしまう。

 俺は■■■だ――――獣どもは残らず駆除し尽くす】

 

【――――や屠殺場だけでは足りない。

 これ以上不幸な赤ん坊を増やさない為にも

 俺が、俺が駆除しなければならないんだ……ッ!!】

 

 朧気ながら、狩人の先達者の嘆きが聞こえた。

 相手の顔はわからない。霧に霞んでいるかのようだ。

 いつの記憶だ? お前は誰なんだ?

 何故、はっきりと思い出せない?

 私は一体何を忘れた?

 分からない。分からない。何も分からない。

 

 

『かの上位者は無形の脳髄を弄ぶもの。

 優しげな声色に騙されないで。

 愛の概念でソウルを穢れから守って、道半ばに倒れた(ほも)の遺志を受け継ぎ、狩り(RTA)を全うするんだ』

 

 

 狩りを全う……遺志の引継ぎ……愛? 愛の概念だと?

 私が生涯愛した少女は唯一人、アリスだけ。

 あの黄金のような午後の一時こそ……ああ、あと少しでとてもとても大切な何かが思い出せそうだったのに。脳髄の奥が押しつぶされるような重圧の直後、記憶が砂嵐に晒されかき消されてしまう。

 

 アリス。

 そうだ、アリスだ。

 アリスを探さなければ。

 

 彼女のことだけは、思い出した。

 

 私の最後の記憶は、愛しのアリスと仲睦まじくしていたところ、前触れもなく地震が起こり突然大地が崩落し、奈落に続くかのような穴に落ちたこと。細かなことは思い出せないが、きっと災害の最中にアリスと離ればなれになったのだ。

 ならばこの魂の奥底から滲み出る声の主はアリスなのか?

 ああ、アリスよ。どうか私を導いてくれ。

 

 

「…………ほもさんは新しい自分へと生まれ変わったようですね。

 大変似合っていますよ」

 

 

 気が付けば私は狩人の装束を纏い、片手にノコギリ、片手に短銃を持つ成人男性の姿へと変わっていた。

 生まれ変わり?

 似合う?

 なにを馬鹿な。

 こんなもの、世の摂理に反している。

 そんな不条理がまかり通るのは、不思議の国以外にありえない。

 私は「かの上位者」なる者の言葉に心許さぬよう頑なに心を閉ざす。

 性行為に興味があるか?

 眠いか?

 そんな問いかけ、まさに「今から私があなたに何かをします」と言っているようなもの。

 今以上に、私に弄繰り回すつもりだろう。

 そうはさせるものか。

 たとえ私の身体は自由にできても(それこそ成人男性に転生させることができるほどに!)私の心まで自由にできると思ったら大間違いだ。

 だが、姿見せぬ上位者から与えられる眠気に抗う力を、私は持たない。

 眠い。

 眠ってたまるか。

 眠『寝てていいよ』はい寝ます。

 

 

 

 

 アリスよ。幼稚な御伽噺をとって

 やさしい手でもって少女時代の

 夢のつどう地に横たえておくれ

 

 記憶のなぞめいた輪の中

 彼方の地でつみ取られた

 巡礼たちのしおれた花輪のように

 

 

 

 

 目覚めれば、地の獄。死体積み重なる人間の廃棄場であった。

 

 ここは一体――そう、ここは墜落部屋。

 不思議の国に迷い込んだ者の僅かはこの部屋に墜ちる。

 運が無ければそのまま墜落死する。

 地図を読んだ記憶が魂の奥底から滲み出て蘇る。

 

【不思議の国へようこそ!】

【またここか……。】

【帰りたい……。】

 

 血だまりのような陣から誰かが書き残したメッセージがじわりと浮かび上がるのを無視して、私は正面にある扉のドアノブを握る。ガチャリ。取っ手をひねるように動かせど返ってくる感触は拒絶。鍵がかかっており開けることができない。ガチャガチャと二度三度繰り返しつつ辺りを見回すが、他に進む道はなさそうだ。蹴破るか。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

 唐突に、空から悲鳴が降ってくる。

 見上げれば『メガトンコイン!』落下してきた騎士がこの墜落部屋へと頭からぐしゃりと墜落してきた。

 常識に従えば、人は天から地に落ちるもの。

 摩訶不思議な出来事で満ち溢れた不思議の国に不思議を受け入れる心(センスオブワンダー)無き常識人が迷い込んだなら……出入り口の一つである縦穴でこうなるのも無理はない。

 

 しかし――――メガトンコイン?

 なんだその単語は。

 全くもって馴染みのない、けれども不思議と心惹かれる単語である。

 残念ながらその創作語が比喩するものまでは分からないが……そのように呼ばれた死体が持つ血に塗れた万能鍵は使わせてもらう。

 頭部を床に強打したのだ。どう見ても生きてはいない。

 

 万能鍵はあらゆる鍵を開けるが、一度使えば壊れてしまう。

 閉まっていた扉の鍵を開ければ、手の中で鍵はボロボロと崩れた。

 何故か私は、落下してきた死体が血に染まる万能鍵を持っていると確信していた。

 

 そうだ! きっとアリスが導いてくれているのだ!

 

 たったそれだけの理由さえあれば、私はあらゆる疑問を排しこの常識はずれな設計の堕落部屋を駆けあがることができた。

 ああ、アリス、アリス。

 一分一秒でも速くアリスを探さなければ。

 階段を登った先にある扉を開ければ、その先には冒涜的光景の広がるウサギ穴。

 

 首の無い死体が敷き詰められた狭い空間。

 あちらこちらで人食いウサギが死肉をたかり、ひとりでに開閉を繰り返す色とりどりの扉はずいぶんと忙しない。

 

「ばったんばったん! がちゃっ! がちゃがちゃっ!」

「美味しいいぃぃぃいいいぃぃ~~~~~ぃ」

「くっちゃくっちゃっ。もっと新鮮な肉を食べたいなぁ」

「アイアムアロック! アイラバロックンロール! ロッキンロッキンナウ!」

「イエーイ!」「みんなガチャれ~♪」「「「ガッチャ!!!」」」

「いやだ! 私はロックに反抗する! アンロックだ!」

「鍵をかけすぎるな! 鍵をかけすぎるな!」

「てめぇそれパンクロックじゃねーか!」

「「「ぎゃははははははははっ!!!」」」

 

 なんだよこの有様は――――どいつもこいつも狂っていやがる。

 まともなのは私だけか。

 ドアノブが鼻、鍵穴が口のようなこの扉どもからは、まともな話など聞けそうもない。人食いウサギに話を聞くなど論外だ。

 

 ……飢餓にまみれた獣どもよ、覚悟するがいい。狩りのじか『ロスしないで』私は心優しいアリスの導きに従い、死肉漁りに熱心であるが故に今は無害で大人しい人食いウサギどもを見逃してやることにした。私は狩人である前にアリスなのだ。俺がアリスだ!(((訳注・彼は狂っていた)))

 

「にゃーはろー♪

 縦に細く、横に狭い。

 上も下も無く丸みを帯びている不思議の国。

 アリスを求めて全力疾走している君は、そんなに急いでどこへ行く?」

「誰だ? アリスはどこにいる」

 

 気狂いのように騒ぎ続ける扉が並ぶ通路を駆けている最中、上から目線の声がする。

 普通なら無視するところだがアリスの名を出されれば足を止めざるを得ない。

 顔を上げれば、そこには壁掛け棚に寝そべるチェシャ猫娘の姿。

 耳から耳まで口の端が届くような独特のニヤニヤ笑いはチェシャ猫ぐらいしか浮かべまい。

 

「ドアどもがうっさくて聞こえにゃいにゃ。蟻の巣って言ったの?

 ま、好き勝手に歩いてみればいいにゃ。

 いつかはエンディングに着くだろうからにぇ」

「……」

「せっかくだからってそこの赤い扉を選べば、おっ死ぬかもにゃ?

 ご愁傷様。チェシャー猫は責任の取り方を知らないにゃ。

 でもそれじゃ君がまるで惨めだから贈り物でもやろうかにゃ。

 一つだけ欲しがれにゃ」

『キャンディー欲しい!』

「キャンディーをくれ」

 

 アリスがキャンディーを欲しがっているのでそれをもらっておいた。

 彼女には私のミルクがでるアイスキャンディーを咥えさせてやりたいが、あいにく手元にアリスがない。

 アリスを探さなければ。

 

「にぇっへっへ。

 アリスの導きだなんてその気になってる君の姿はお笑いなんだにゃ。

 せいぜい足掻くといいにゃキチガイ」

 

 チェシャ猫娘はそう吐き捨てて霞のように掻き消えた。

 私はキチガイではない。ほもだ。

 アリスがそういったのだから、そうなのだ。

 もしも私がキチガイという名なら、言われた瞬間、しっくりくるものがあった筈だろう?

 

 チェシャ猫が口にしていた赤い扉を一瞥する。

 他の騒がしい扉どもと比べて、静謐を保って沈黙したまま。

 故に危うい。このどこか螺子の外れたかの様相を見せるイカれた不思議の国においては。

 誰がこの扉の中になど入ってやるものか。

 私は扉を無視して通路の先へと駆け出した。

 アリスはどこだ?

 

 通路の角を曲がった小部屋には椅子に腰かける首なし人形。

 

『右端の棚』

 

 導かれるまま小部屋右端の棚に駆け寄ると、炭松脂が置いてあった。

 塗りつけた右手の武器に炎をまとわせる、生身の不死人や獣など炎を恐れる生物に特に有効となるアイテムである。

 ぜひ貰っておこう。きっと何かの役に立つ。

 振り向けば立ち上がり、首を求めて彷徨い始めた首なし人形の姿。

 そのうち人食いウサギどもが相手をするだろう。

 じゃ、私は炭松脂を貰って進むから。

 口には出さずに心中にとどめた言葉を置き去りに、私は更に駆けだした。

 

 

 

 

 

 ―ウィンザー王国 第三騎士団 壊滅寸前。救援を求む――

               記・オーリック

 

王子の消息が途絶えて七日が過ぎようとしていた。

このまま手掛かりも無しに帰る訳にはいかないと隊長も必死だ。

陽が落ちる頃、我々は本隊と共に野営の準備をしていた。

すると突然私の視界がかすみ、立ちくらみが起きたかと思えば、

可笑しな世界に迷い込んでいた。

狼狽える我々の前に現れたのは首の無い化物と人喰い兎だ。

生半可な剣では歯が立たず、

次々と仲間が血を流し倒れていった。

隊長ともはぐれてしまった。……一体此処はどこだ?

仲間の悲鳴と化物の唸り声が聞こえる。

頭の中が何かに押し潰される痛みを感じる。

此処はそうだ、地獄に違いない。

出口が見つからなければ狼煙も上げられず、救援は絶望的。

我々はここで全滅するだろう。

 

 

 

 

 

 いつか読んだ何らかの記録が蘇る。

 ここはもう、ただの不思議の国なんかじゃない。ここは――地獄だ。

 辿り着いた血涙の池を見た私はそのことを改めて確信した。

 イカれていたのは、ウサギ穴一帯だけではなかったのだ。

 

 辺り一面、血液で広がっている大きな湖。

 流血なんてこの国じゃ日常茶飯事だ。この血涙が誰のものかは知らないが。

 

 かつてアリスは不思議の国で「私をお飲み」と主張するテーブルの上の小さなビンを飲むと、体がみるみる縮んで小人のようになり、紆余曲折の末、涙の池を作った。私が彼女に語り聞かせたのだ。間違いない。

 その逸話とは似て異なる道を歩み、私はここに辿り着いた。

 

 私は血涙など流していない。

 ならばこの地獄で血涙を流したのは、アリス?

 ああ心配だ心配だ。

 より一層速くアリスを探さなければ。

 アリスがチョッキを着た遅刻間近のウサギを追いかけたように、私も行方の知れぬアリスを追いかけよう。

 私がこの世界のあらゆる残酷な事から彼女を守護らねばるまい。

 アリスはどこだ?

 

『ドードー鳥に聞いてみて。池の下層でコーサス・レースをやってるよ』

 

 篝火に手をかざして点火した私は、意味深にこちらを見つめてくるふざけた態度のチェシャ猫娘に何故このような場所にいるのかと尋ねようとしたのだが、魂の奥底から滲み出るような声に従い取りやめた。

 

 アリスの導きならば疑う理由はない!

 だってアリスなのだから!

 アリス優先だ!

 

 私は周囲を見渡し、ゆっくりと浮遊しこちらを捕食せんと動いている名状しがたい海月のようなものどもに触れられぬよう下流を目指して走る。幸い動きそのものは鈍く、私は一度も捕まることなく道中で幾つかの役立ちそうなアイテムを拾いつつ進むことができた。段差を挟んで二重の構造となっている血涙の池は、上層から下層への落下防止のために柵が設けられていた。が、どうにも作りがでたらめである。上層から下層へと放流する血の流れに乗って落ちれば、その先では確かにコーサス・レースは行われていた、だが……

 

 なんだあれは。

 何かの間違いではないのか。

 おっぱいばるんばるんしよる。

 身長二メートルは優に超える女巨人……もとい、ドードー鳥娘が「頑張れ♪ 頑張れ♪」とくるくるぴょんぴょんと跳ね回り、それに合わせて暴れおっぱいが縦横無尽に駆け巡っていた。

 

 その周囲では様々な獣たちが獲物を狙う淫獣のようにぐるぐるぐるぐる走り回る。

 なんなのだこれは。

 どうすればいいのだ。

 

「ぜいぜい。何時まで走り続ければいいのじゃ?」

「コーンなんじゃいつまで経っても乾かないよ」

「走らないと! 乾かないんだ! 血が !血が !血が落ちない!」

「優勝のご褒美まだかなー」

「優勝商品ってなんだっけ?」

「そりゃぱふぱふでしょ」

「ドヤパイダブルピースさせてぇなぁ」

 

 ……整理しよう。

 コーサス・レースとは、まず適当に円を描いてその周りの適当な位置につき、ヨーイドンの合図もなく適当に走り出し、そして適当に終わるというもの。ともすれば明日に始まり昨日に終わるようなレースであってもおかしくはない。不思議の国なのだから、何でもありだ。

 私の知る逸話ではアリスが涙の池に濡れたが故に行っていたそれを、血に濡れて行うというだけでどうしてこんな邪教の儀式めいた冒涜的な光景に変わるのか。

 

 なんだ。

 整理してみれば話は実に簡単じゃないか。

 血に濡れた汚らわしい獣どもめ。

 私とアリスの美しい思い出を穢す獣は皆殺し『絶対に殺しちゃだめ!』はい殺しません。

 

 コーサス・レース走行中の獣どもを殺さぬように輪に割って入るべく私はエア連続チョップを繰り出す。

 ちょっと通りますよっと。

 そして中央で踊るドードー鳥娘に声をかけた。

 

「さあ走れ! 地平線をぐるりと廻り!

 さあ飛べ! 宇宙は空に在る!」

「そこのドードー鳥。少しいいか?」

「おや? 見ない顔だがどうしたんだい?

 いやいやみなまで言う必要はない。賢い我が輩はちゃーんと分かっちゃったぞ!

 君もコーサス・レースに参加したいのだろう? そうであろう?」

 

 当然違う。

 私はアリスの導きに従い、彼女にアリスの居場所を尋ねる。

 

「ありすだってっ!?

 ふふーんっ! 我が輩を誰だと思っているのだ!

 ド、ド、ドドド、ドッ、ドッカーン!

 なんとびっくり超賢者! スーパー超賢者のドドであるぞっ!

 もちろん知っているともさ!

 なにせ我が輩に知らない事はなーんにもないのだからなっ!

 あらゆる疑問に答え、総ての真実を教えてやる事ができる!

 わはははーっすごいだろうっ! 憧れが止まらないだろうっ!

 我が輩は謙虚だから皆から尊敬されて「凄いですね」と褒められても「それほどでもない」と言うようにしているがなっ!」

「早く教えろ」

「そう急かすな君っ!

 勿体ぶる気はないよっ! 本当に知っているからなっ!

 ホントホント! ホントだから!

 スーパー超賢者2のドドに任せなさい!

 わはわはーっ…………」

「……」

「あの~…………

 え、えーとっ…………」

 

 何を言いよどむことがあるのかとイライラしていると、唐突にドドはその場を三度回った。ボタンが弾け飛びそうな彼女の胸元から目が離せない。視姦だけなら大丈夫。視姦だけなら浮気じゃない。

 

 ……なんだ?

 なぜ突然、こんな下種な考えが脳裏に浮かぶのだ?

 脳髄が性欲をもてあましている。

 おかしい。まるで私が正気ではないかのようではないか。

 私は正気で、人間で、狩人だ。穢れた欲に溺れる淫獣ではない。

 本能的な欲望にまかせた性欲など抱いたことはない。ないはずだ。全く記憶に御座いません。

 

「おお、なんということだっ!

 鳥は三度回ると忘れてしまうという格言をご存知かい?

 たったいま忘れちゃった☆彡

 そういう訳だから君、ありすの事は諦めたまえっ!

 わははは~」

 

 クソが。貴重な時間を無駄にしてしまったと感じながら私はレース会場を後にし、こっちにおいでと言わんばかりにぽっかりと入り口を開く森へと足を踏み入れる。

 

 こんなの絶対におかしいよ。

 私のアリスが無意味な導きをするはずがない。

 逆説的に、あのドードー鳥娘はアリスにして見誤るほど底抜けの愚鳥なのやもしれぬ。

 しかしあの愚鳥をわざわざ話題にあげたということはこの付近を通ったのは間違いないはず。

 

 森を駆けていると篝火があった。

 一も二も無く手をかざし、点火して周囲を見回した。

 不思議の国の逸話を思えば、この森にも何かがいるはずだ。

 実際、すぐ近くから寝息が届くことに気付く。

 篝火に暴かれる夜闇の空間には、紳士然とした衣類を着たカボチャ頭の男が倒木に腰掛け、いびきをあげて眠っていた。

 この男に話を聞いてみるか。

 

「ぐおー………」

「おい起きろ」

「……はっ!

 すまないっ! 少しうたた寝を……」

「私はほも。アリスという少女を探しているのだが」

「ほも? アリス……?」

『そのカボチャ頭は……ああっ!』

 

 魂の奥底から滲み出るは焦りと驚愕のイメージ。

 まさかこいつ! アリスの敵か! 死ねっ!

 

「どうした卿よっ! 急にどうしたというのだっ!

 まさか……突然狂人になってしまったというのかっ!?」

 

 衝動的にカボチャ頭をノコギリで削りかかろうとした私は、しかし騎士剣を逆袈裟に振るったカボチャ男の凶刃の前に虚しく返り討ちにあってしまった。視界が闇に染まるさなか、私が最後に見たのは、篝火近辺の掘っ立て小屋の屋根に寝そべり、嘲りの視線を投げかけてくるチェシャ猫娘の姿だった。

 

「ここじゃあみんな気が狂っている。

 チェシャ猫も狂っているし、君も狂っている。

 おみゃーも色んな連中に弄られて大変だにゃー。

 いとあわれにゃりーん♪」

 

 うるさい黙れ。アリスはどこにいる?

 その言葉は口から漏れず、吐血ばかりが溢れる。

 もはや意識は保てず、視界は黒く塗りつぶされた。

 

 

 

 




 今回はここまでです。
ご閲覧、ありがとうございました。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。