BLACKSOULSⅡ腹パンRTA 0:19:19:19   作:メアリィ・スーザン・ふ美子

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 誰も彼を理解できず、彼自身も自身を理解できず、理解しようにも意思定まらず、植え込まれたたった1つの意志にソウルを掴まれるばかりの、ダークメルヘンR18RPG、BLACKSOULSⅡ -愛しき貴方へ贈る不思議の国- の分からせRTAです。
 





 
 はい。よーいスタート。
絶対メスガキなんかに負けたりしない!!チッRTA、はーじまーるよー。
『NEW GAME』を選択して計測開始です。




BLACKSOULSⅡ分からせRTA 0:19:07:21~実走者視点~
実走者視点1


 

 

「貴方の名前を教えてください」

 

 脳髄の奥底から響き渡るかのように聞こえてきたその声に起こされ、私は目を覚ます。

 ここはどこだ……? そして、私は一体……『おじさ~ん♪』お兄さんと呼べ。

『なーんで? どこからどう見てもおじさんじゃーんっ♪』

 だが魂の奥底から滲み出るような声は、私をおじさんだと呼び続ける。

 何故かわからないが、このやりとりをどこか懐かしく感じる。

 それを錯覚だと切り捨てるには余りにも……怒りが沸き上がってくるのだ。

『あったまわるわる雑魚おじさ~ん♪ ちゃんとの~みそ入ってるぅ?』ビキッ!

 お兄さんと呼べと言っているだろうこのメスガキ!

 

 

「お兄さんさん、おはようございます。

 ふふ。可愛らしい寝ぼけ眼ですね?

 状況を理解するのは難しいと思います。

 今はただ、私の言葉に従ってください。

 それがきっと、貴方の為になるのですから」

 

 

 混濁する意識。理解しがたい状況。

 私は肉体を失い、霊魂と化して故の知れぬ謎めいた空間に一人浮いていた。

 文字通り地に足のつかぬ心地でその声に導かれる。

 まるで私は優しく包み込み、淑やかに抱き締めているかのよう。

 もふもふとして実に心地よい、天にも昇るような爽快感。

 あたかも夢のような世界に旅立っていくかのようだ。

 先ほどの生意気な声とは大違いで、心底安らぐ。

 

 

「――――では次に、貴方の素性を選んでください」

『盗賊おじさーん。何ボケっとしてんのぉ~? 聞こえてるぅ?』

 

 

 私を誘導する声は二つあった。

 一つは脳髄の奥から響き渡る声。

 一つは魂の奥底から滲み出る声。

 もしや私は、死んでしまったとでもいうのか?

 

 うっ。頭が……何も思い出せない。

 

 だが、そうでもなければ霊魂となって漂うことになるなど……ならばきっと、私は本当にもう死んでいるのだろう。否というにはあまりにも非現実が過ぎる。

 

 

『おじさ~ん。盗賊だったこと覚えてないのぉ~?

 ……この健忘症』

 

 

 は? 忘れてないが?! 大人の男をからかうのもいい加減にしろよ!?

 振り返ればホラ簡単に思い出せる。

 

 そう……闇に潜み、絶影に優れ、欲しいと望めば奪えぬものなど何もない。

 私は長く明けぬ獣狩りの夜を……そう。そうだ。私は獣どものソウルを集めていたのだ。

 きっかけ一つで、私の記憶は蘇っていく。

 首狩り獣のソウルを。

 憂さ晴らしのソウルを。

 紆余曲折の末に三人の騎士のソウルを。

 霧の漂う公園を抜けた先にあるラドウィッジ市街市街上層において、大量の娼婦を殺害しつつもそれを正当化する狂人、切り裂きジャックのソウルを。

 いずれも名のある悪夢のような連中の殺し、そのソウルを強奪してきたではないか。

 

 そう、強きソウルを持つ連中の名は確か……

 狂鳥ジャブジャブ。

 屍竜ジャバウォック。

 燻り狂えるバンダースナッチ。

 そして、深海の騎士、ダイク。

 昏き底より出でる四大悪夢。

 

 ……ん? 間違ったかな?

 いや、間違いない。ダイクだ。

 他に四大悪夢と呼ぶに相応しい強きソウルを持つ実力者の名が思い浮かばない。

 

 ともあれ、地の底の澱みのような連中からいくらソウルを奪えども夜が明けることはなく、更なるソウルに飢えた私は、遥か深き混沌のソウルを拝領すべく……

 

 

【フフフ……

 その扉を開けてしまうのね

 門の鍵を開く手はアナタが所持している。

 ドアノブに手を掛けてぐるりと捻れば

 簡単に音を上げるでしょう

 でも其処に愛しき少女アリスはいない。

 どこまで探しても無駄。どこまで潜っても無意味。

 道のりは混沌。底は空虚。無我夢中になれば

 アナタの帰る場所はどこにもないわ】

 

【鍵穴の無い扉を開けるには、レバーが有効よ。

 ……あら、お腹の中身を穿り出しても無駄よ。

 肝臓の事じゃないわ】

 

【■■、■■、きゅんっ♪

 元気にな~れ…………っ♪】

 

 

 朧気ながら、混沌の先達者であろう者の言葉が聞こえた。

 彼女のスカートの中には宇宙があったことを覚えている。

 いつの記憶だ? お前は誰なんだ?

 無限に広がる大宇宙を思い出すばかりで、顔が思い出せない。

 何故、はっきりと思い出せない?

 私は一体何を忘れた?

 なんかすごかった。それは間違いないのだ。

 だが分からない。分からない。それ以上は分からないのだ……一体何色なんだ。まさかノーパンだったのでは?

 

 ただ、付随して思い出せたこともある。

 愛しき少女アリス。

 私が生涯愛した唯一人の少女、アリス。

 そもそも私は彼女を探していたはずだ。

 

 アリスを探さなければ。

 

 私の最後の記憶は、愛しのアリスと仲睦まじくしていたところ、前触れもなく地震が起こり突然大地が崩落し、奈落に続くかのような穴に落ちたこと。細かなことは思い出せないが、きっと災害の最中にアリスと離ればなれになったのだ。

 

 ならばこの魂の奥底から滲み出る声の主はアリスなのか?

 いや、待てよ?

 少し落ち着け。

 その結論はいささか早計だ。

 果たしてアリスはこんなにも生意気だっただろうか?

 思わず懲らしめたくなるような言葉を吐く、悪い子ではなかったはずだ。

 私の知ってるアリスとは違う。

 アリスはこんなこと言わない。

 …………本当に、そうか?

 どういうことか類似した状況があったという記憶が蘇る。

 

 

【現実逃避お疲れ様ですお兄様♪

 夢なわけねぇだろ殺すぞ

 変態お兄様にはこうです♪ えいっえいっ♪

 どうしてあんたが兄なのか理解におよばねぇよ

 お兄様なんて足で十分なんだよオラッ!】

 

 

 ビッキィッ!

 そう、そうだ、私はアリスに急所率100%の会心踏み付け攻撃を連続して被ったことがあったじゃないか。

 むむむ。よくよく思い返してみればやはりアリスなのでは?

 

 ああ、そうだ、そうだとも。

 

 アリスにもちょっとくらい生意気盛りの時期だってあったはずだ。

 正直あまり自信がないが、記憶が混濁して虚ろなだけだろう。

 恥じらいから【兄】と呼びたくなくなって、今は血縁関係を隠すためにおじさんよばわりなんだね意地らしいなあ!

 

 

「…………お兄さんさんは新しい自分へと生まれ変わったようですね。

 大変似合っていますよ」

 

 

 気が付けば私は影の装衣を纏い、片手に短刀、片手にバックラーを持ち口元をマスクで覆う成人男性の姿へと変わっていた。

 その肉体が宿すソウルの恩恵によりいくらか思考が冴え渡る。

 

 ふむ。まあこんなものだろう。

 

 その後、ふわふわとした優しい導きの声から尋ねられる問いに対し正直に答えると、受肉したばかりの私は眠気に任せて眠りについた。

 ……それにしても妙な質問だった。

 性行為に興味がない男などいないだろう常識的に考えて。

 

 

 

 

 

 

 

 アリスよ。幼稚な御伽噺をとって

 やさしい手でもって少女時代の

 夢のつどう地に横たえておくれ 

 

 記憶のなぞめいた輪の中

 彼方の地でつみ取られた

 巡礼たちのしおれた花輪のように

 

 

 

 

 

 

 目覚めれば、そこは地の獄。

 死体積み重なる人間の廃棄場であった。

 

 ここは一体――そう、ここは墜落部屋。

 不思議の国に迷い込んだ者の僅かはこの部屋に墜ちる。

 運が無ければそのまま墜落死する。

 

 地図を読んだ記憶が魂の奥底から滲み出て蘇る。

 

【不思議の国へようこそ!】

【またここか……。】

【帰りたい……。】

 

 血だまりのような陣から誰かが書き残したメッセージがじわりと浮かび上がるのを無視して、私は正面にある扉のドアノブを握る。ガチャリ。取っ手をひねるように動かせど返ってくる感触は拒絶。鍵がかかっており開けることができない。ガチャガチャと二度三度繰り返しつつ辺りを見回すが、他に進む道はなさそうだ。蹴破るか。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

 唐突に、空から悲鳴が降ってくる。

 見上げれば『ハイ勝ち~♪』落下してきた騎士がこの墜落部屋へと頭からぐしゃりと墜落してきた。

 常識に従えば、人は天から地に落ちるもの。

 摩訶不思議な出来事で満ち溢れた不思議の国に不思議を受け入れる心(センスオブワンダー)無き常識人が迷い込んだなら……出入り口の一つである縦穴に墜落しこうなるのも無理はない。

 

 しかし――――ハイ勝ち?

 勝ちとはどういうことだ?

 まさかアリスが蹴落としたのか?

 何故そんなことをと疑問に思って死体を見れば、その手には血に塗れた万能鍵がある。

 なるほど、分かりかけてきた。

 ありがたく使わせてもらおう。

 高所から頭部を床に強打したのだ。どう見ても生きてはいない。

 

 万能鍵はあらゆる鍵を開けるが、一度使えば壊れてしまう。

 閉まっていた扉の鍵を開ければ、手の中で鍵はボロボロと崩れた。

 お前は私とアリスがめぐり合うための礎になれたのだ。光栄だろう?

 

「なんだこの階段は!?」

 

 扉を開けて、思わず叫んでしまう。

 縦穴の外壁にそって粗末に作られた柵のない階段がつづいている。

 足を踏み外せば先ほどの騎士の二の舞だろう。

 それどころか扉の先から見下ろせば、先ほどの墜落騎士の姿が見えるじゃないか!?

 慌てて扉を戻り、外を見ればやはり墜落騎士の死体。

 こちらは堕落部屋の底。

 上を見上げれば階段がある。

 

 次元が歪んでいる? それにしたってまともじゃない。

 不思議の国にまともを求めるのもおかしいのだが……

 

 いや、今はそんなことはどうでもいい。重要なことじゃない。

 

 この階段の上にアリスがいるのだ!

 私は浮かんだあらゆる疑問を廃し、階段を駆け登る。

 ああ、アリス、アリス。

 一刻も早くアリスと出会わなければ。

 生意気盛りの彼女を懲らしめてあげて、一人前のレディーとして矯正してあげないと!

 本日の講義は【兄】の受け入れ方です。

 恥じらいと尊敬の心を持って股を開きなさい(((訳注・彼は狂っていた)))

 

 駆け上がった階段の先にある扉を開ければ、その先は冒涜的光景の広がるウサギ穴。

 アリスはいない。

 アリスはどこにいる?

 

 首の無い死体が敷き詰められた狭い空間。

 あちらこちらで人食いウサギが死肉をたかり、ひとりでに開閉を繰り返す色とりどりの扉はずいぶんと忙しない。

 

「ばったんばったん! がちゃっ! がちゃがちゃっ!」

「美味しいいぃぃぃいいいぃぃ~~~~~ぃ」

「くっちゃくっちゃっ。もっと新鮮な肉を食べたいなぁ」 

「俺の鍵がない!」「俺の鍵もない!」「でも別に鍵いらない!」

「イエーイ!」「みんなガチャれ~♪」「「「ガッチャ!!!」」」

「いやだ! 私はロックに反抗する! アンロックだ!」

「鍵をかけすぎるのは危険! 中にいる人を開放しろ!」

「てめぇそれパンクロックじゃねーか!」

「「「ぎゃははははははははっ!!!」」」

 

 なんだよこの有様は――――どいつもこいつも狂っていやがる。

 まともなのは私だけか。

 ドアノブが鼻、鍵穴が口のようなこの扉どもから話など聞けそうもない。

 ましてや人食いウサギに話を聞くなど論外だ。

 私は人食いウサギに関わらぬようコソコソと影に潜む。

 消えかけのソウルを我先にと喰らうような下等な連中だ。

 その内面に上等なソウルが詰まっているはずがない。

 そんなことよりアリスに会いたい。

 

「にゃーはろー♪

 縦に細く、横に狭い。

 上も下も無く丸みを帯びている不思議の国。

 アリスを求めてこそこそ走っている君は、そんなに急いでどこへ行く?」

「誰だ?」

 

 気狂いのように騒ぎ続ける扉が並ぶ通路を駆けている最中、上から目線の声がする。

 意識して影に潜む私に気付くとは、かなりの実力者とお見受けする。

 うかつに無視して進むことはできない。

 足を止めて顔を上げれば、そこには壁掛け棚に寝そべるチェシャ猫娘の姿。

 耳から耳まで口の端が届くような独特のニヤニヤ笑いはチェシャ猫ぐらいしか浮かべまい。

 彼女に尋ねてみるか。

 

「アリスがどこにいるか、知っているか?」

「ドアどもがうっさくて聞こえにゃいにゃ。蟻の巣って言ったの?

 ま、好き勝手に歩いてみればいいにゃ。

 いつかはエンディングに着くだろうからにぇ」

「……」

「せっかくだからってそこの赤い扉を選べば、おっ死ぬかもにゃ?

 ご愁傷様。チェシャー猫は責任の取り方を知らないにゃ。

 でもそれじゃ君がまるで惨めだから贈り物でもやろうかにゃ。

 一つだけ欲しがれにゃ」

『見えざる胡椒ほしいなぁ~♪』

「見えざる胡椒をくれ」

 

 アリスが見えざる胡椒を欲しがっているのでそれをもらっておいた。

 これをアリスにいっぱい振りかけて隠してアリス当てゲームをするんだね。

 アリスのアリスはどこかな? ここかな? つんつん。

 そうしたくともアリスがいない。

 アリスを探さなければ。

 

「やれやれだにぇ。

 ほんともうキチガイの相手は疲れるにゃ。

 せいぜい足掻くといいにゃ」

 

 チェシャ猫娘はそう吐き捨てて霞のように掻き消えた。

 私はキチガイではない。名は思い出せないが、アリスの【お兄様】だ。

 アリスはおじさんなどとと呼んで恥ずかしがるが、そうなのだ。

 もしも私がキチガイという名なら、そう言われた瞬間、しっくりくるものがあった筈。

 

 チェシャ猫が口にしていた赤い扉を一瞥する。

 他の騒がしい扉どもと比べて、静謐を保って沈黙したまま。

 とにかく入ってみようぜぇ……と思えど、ドアノブからは鍵の感触。開かない。

 

 思わせぶりになにを口にするかと思えば、戯言に惑わされてしまったな。

 

 ならばこの先にアリスはいまい。

 アリスが鍵をかける理由はないからね。

 私は通路の角を曲がって先に進む。

 道の先には椅子に腰かける首なし人形がいる小部屋。

 近づけば立ち上がり、首を求めて彷徨い始めるが……そのうち人食いウサギどもが相手をするだろうと思い、関わらぬよう駆け足にすり抜けて進む。

 小部屋の先には本棚と数人の騎士の死体が並び、短い階段を登った先には切り落とされた首を両手に持つ冒涜的なワーウルフがじっと佇んでいた。

 アレが騎士どもを殺した魔物だろうか? 人食い兎よりは数段凶暴そうだ。

 

『右行ったほうがいいんじゃな~い?』

 

 生意気な。そんな口の利きかたをするアリスも可愛いね。別に戦っても負けないが? 

 だがアリスがそういうなら右へ進もう。

 助言してくれるということは、真直ぐ進んだ先にアリスはいないということだ。

 右手側を見れば細く長い通路が伸びていて、その先には首無し騎士が静かに待ち構えていた。

 

 ふん、見るからに鈍間そうな騎士だな。たいしたことなさそうだし丁度良い。

 ここらでひとつ、アリスにも【兄】の偉大さを分からせてあげよう。

 

 駆け寄ればこちらを感知し動き始めた首無し騎士。その脇を全力で駆け抜け逃走する。通路の先の扉に入れば、首無し騎士の感知外に逃れたようで、にぶそうな追い足を止めたようだと足音でわかる。

 どれだけの力があろうと、足が遅ければ意味があるまい?

 どうだアリス、すごいだろう? 偉大な【兄】を褒め称えなさい。

 

『くふふ。お兄さんすごーい♪

 上手に逃げれてえらいぞ~♡』

 

 思い出の中にあるとおりお兄様とは呼んでくれない、か。

 悲しいかな、まだまだデレ期再来の時は遠いようだ。

 しかし呼び方はおじさんから【お兄さん】にランクアップした。

 であるならば、いずれ惚れ直す未来は確定している。だって、兄が嫌いな妹などいないのだから。そうとも。いるはずかない。

 

 アリスが私を嫌うわけがないのだ。いたら殺す。

 そんなやつはアリスじゃない(((訳注・彼は狂っていた)))

 

 逃げ込んだ部屋の中は行き止まりのようだが……なるほど?

 僅かに思案したところ、私はふと思い出すことがあり、室内中央に鎮座する台座に近づいた。

 台座の上には小瓶がひとつ。

 添えられたタグにはdrink me(私を飲んで)という付箋。

 ここまでお膳立てされたなら私にも分かる。

 不思議の国のアリスの一説だ。

 私が彼女に語ったのだ。

 記憶をさかのぼれば思い出せるとも。

 

 黄金の午後の船旅よ

 進む小船のオールを漕いで……はて、なんだったか。

 そう、思い出すのはまた今度と言えば「いまが今度」と

 はしゃがれたならきっとこんがらがった頭の中身は……

 

 ……それが今思い出すほど重要なことか?

 それにどこかおかしい。

 どうやら今はまだその時ではないようだ。

 まずはアリスを探さなければ。

 

 不思議の国のアリスという童話の存在を思えば室内に小さな扉があるはずだが……

 室内を探索したところ、一部の壁が抉り取られた痕跡。

 よく調べようと近づけば【小さくなれば……。】という助言のメッセージが浮かび上がってきた。

 小さな扉はいない。

 アリスがやったのだろうか? いやそんなまさか……

 

 どちらにせよ、アリスはここから先に進んだものと考えられる。

 

 言うまでもなくこの穴は、私にもアリスでも通ることができない小ささだ。

 しかしdrink me(私を飲んで)を飲めば解決できる。

 助言などなくともそれくらい分かる。

 

 私はアリスとの間接キスを味わうかのようにぺろぺろと小瓶を飲んだ。

 

 サクランボ入りのパイと、プリンとパイナップルと、七面鳥の丸焼きと、ミルクキャンデーと、バターをぬったトーストパンの味を混ぜ合わせ、隠し味にアリス成分がブレンドされたそれは非常に美味である。

 

『うわキモっ』

 

 キモくはないだろうぺろぺろこれは必要な探索行為だからぺろぺろ。あ~アリス美味しいよアリス!

 果たして私の体はみるみる縮み、室内に開けられた穴を通れるサイズになった。

 

『あっそだ。箪笥の下にある兎の鍵は忘れず拾っといてね~♡』

 

 箪笥の下?

 小さくなった身で部屋の隅を見やれば、そこには確かにアイテムが放つ仄かな光が見える。

 元の姿では認識すらできなかったほど小さなそれを拾った私は、しかるのちに大口をあける穴へと飛び込んだ。

 

 

 

 

 

 

ここだけの話、聞いていく?

 

黒幕はメアリィ・スーさ。

彼女が全て仕組んだのさ。

アリスが■■■■■■■■■■全部あいつのせいさ

メアリィ・スーは■■な■だよ。

気をつけろ■■■■■は見下ろしているんだ。

今■■ぼくたちを■■■■

 

 

 

 

 

 

 ここはただの不思議の国なんかじゃない。ここは――地獄だ。

 限りなく直角に近い滑り台から流れ着いた血涙の池を見た私はそのことを改めて確信した。

 イカれていたのは、ウサギ穴一帯だけではなかったのだ。

 

 辺り一面、血液で広がっている大きな湖。

 流血なんてこの国じゃ日常茶飯事だ。この血涙が誰のものかは知らないが。

 

 ロクでもない世界だ。

 こんなところをアリスが彷徨っているかと思うと怖気が走る。

 しかし思い返していれば、声の様子からなにから、結構余裕そうだったな……

 さすが私のアリスだ。

 きっと頭のおかしなやつが考えたようなワンダーランドでも興味しんしんだし怖くもないんだね。すごい!

 

 ……アリスはどこにいった?

 アリスを探さなければ。

 

『あっちに見える森で待ってるからね~♡』

 

 ほう、森か……あっちとは?

 篝火に手をかざし点火していた私が周囲に目をやると、血涙の池に作られた橋の先に森がある様子が見えた。

 あっちとはあそこだろう、とあたりをつけたところで橋の柵の上で横になり、意味深にこちらを見つめてくるふざけた態度のチェシャ猫娘が口を開いた。

 

「ドヤパイ鳥の無味乾燥な話に付き合う必要はないにゃ。

 それよりチェシャ猫は走り回っている肉を

 捕食したくてうずうずだにゃ」

「何の用だ」

「べっつにゃぃ~。あたしはどこにでもいるし、どこにもいない

 フライングにゃけどこの台詞、何度目なのかも分からないけれど。

 次の周ではチェシャ猫は上手くやってくれるでしょう」

 

 戯言だ。チェシャ猫は戯言を好むことは分かっている。付き合う必要はない。

 私は立ち上がって血の池に足を踏み入れた。

 

 橋の構造はいかにもでたらめで、篝火とあっちの森とを隔てるように柵が作られている。あえて理由付けをするなら、どちらかからどちらかへの行き来を制限するためだろう。

 しかしこうして血の池に足を踏み入れ経由すれば、簡単に行き来できるようだ。骨になった死者は無数。点在する屍に興味を示さず、こちらを捕食せんと動いている名状しがたい海月のようなものどもに捕まればそれらの一員となることだろう。幸い動きは遅く、恐れるに値しない。

 私は彼らに一度も捕まることなく橋のすぐそばを駆け、柵のないところから再び橋の内へと踏み入り、真っ直ぐ進んで胞子飛び交う森にたどり着いた。

 

 大量の茸が群生している森。

 茸が巨大だと知覚してしまうのは胞子による幻覚だろうか?

 

 軽い立ちくらみを覚えながら道なりに進めば……

 果たして見覚えのあるエプロンドレスを着た少女が篝火の前で一休みしていた。

 おお! アリスよ!

 会いたかったよ私の可愛いアリス!

 

「『おじさぁん♡』……ふふ、どうしたんですか?『正気が狂気でどうかしてるんじゃないの?』

 くすくす。相変わらず間抜けで腑抜けで盆暗な顔でございますね『ざぁ~こ♡』

 言語理解できています?『あったまよわよわおじさ~ん♡』」

 

 ビキビキッ!

 あの可憐で瀟洒なアリスがこんなクソ生意気な台詞を言うなんて……

 しかも目の前にいるのに直接脳内にも!

 脳内音声は声がくぐもっちゃうんだね? どっちも可愛いよ?

 それにしても参ったなあ、マゾっ気が刺激されちゃうなあ。

 私をこうも興奮させるなんてとてもいけないいやらしい【妹】だなあアリスちゃん!

 

 

 

 

 

 

~終わったお茶会~

 

■■■■。

この間の誕生日パーティのティーカップが割れてしまったんだ。

なのに■■■帽子屋は自分の頭を自分で食べてしまって。

三日月■■■は隙間の中に消えていくんだ。

■■■は未だに惰眠を貪る毎日のようだよ。

 

ラーラララ。

ラールラララ。

ランララララ。

 

アリス、ぼくたちのアリスの姿が見当たらないんだ。

誰もいないんだ。みんな消えていくんだ。

初めから何もなかったようなワンダーランドドリームのようで。

消えていくんだ。

 

ぼくたちが消えていくんだ。消えていくんだ。消えていくんだ。

消えていくんだ。消えていくんだ。消えていくんだ。消えていくんだ。

消えていくんだ。消えていくんだ。消えていくんだ。消えていくんだ。

消えて消え消え消え消え消え消え消え消え消え消えんだんだんだ。

 

 

 

 

いく。

 

 

 

 

 

 

『ほ~んとおじさんってクソザコだよね~♪

 もう人として完全に終わってるんじゃない?

 プッ、くふふふ♪』

 

 このメスガキ……ッ!

 ハっと意識を取り戻した私は、火のない篝火の前で一人、呆然と横になっていた。

 

 アリスはいない。

 …………どこに行きやがった?

 

 どうやら正真正銘、一からの躾が必要なようだ。

 よりにもよって人として完全に終わっているだと?

 あまり不死者を舐めるなよ。

 

『次はねぇ、きっと砂浜で待ってるよ♡

 早く来ないと追いてっちゃうんだから♪』

 

 アリスはどうやら追いかけっこをお望みのようだ。

 さっきのはハンデを譲ってやったんだ不死者の余裕だよ次は負けないが?

 攻守逆転は分からせの妙。盗賊テクで心を盗んでメロメロにしてやる。

 

 なにはともあれ、私はひとまず篝火に手をかざし火をつけた。

 そんな私に向かって、巨大キノコの上に寝そべるチェシャ猫は嘲り混じりに声をかけてくる。

 

「生まれた時から腹ペコ芋虫。

 水煙草、ハッパ、アイスをもぐもぐ。

 もうサナギにはなれない、意味の無い余生だにゃ」

「何が言いたい、何が」

「べっつにゃぃ~。っていうか意味あることしか喋っちゃいけにゃいの?

 っは! どの口がいうのかにゃ~んっつって。

 にゃあにゃあ! 今どんな気持ち? 今どんな気持ち?」

 

 ぴょんぴょんと反復横跳びを繰り返しまとわりついてくる堕猫に付き合う必要はない。

 立ち上がった私が羽虫を払うかのように腕を振れば、人を模した姿をした猫は霧に紛れるようにしてその姿を消した。それはチェシャ猫の異能。自分の身体を自由に消したり出現させたりできる不思議な性質、体質だ。

 

 羽虫、か。

 何故だろうふと浮かんだ言葉に心がざわつく。

 我がソウルの深奥に潜む憎悪炉が羽虫の血反吐を求めているかのような。

 

 ……しかし確かなことは思い出せそうにない。

 

 だが、もしも羽虫という言葉が誂えたようによく似合う者に出会ったなら。

 私はきっと、慈悲など欠片もなく惨たらしく殺す。

 

 さて、どうでもいいことに頭を悩ませるのもここまでだ。

 砂浜はどこにある? 砂浜といえば海だろう。

 ここまで墜落部屋、ウサギ穴、血涙の池、胞子の森と進んできた道だが、道中に海が見えるようなところはなかった。

 あえて想像するならば血涙の池を下れば血の海に出られるかもしれないが……

 まずはこのあたりを探索するべきだろう。

 悪い子アリスを懲らしめるために使えるものが手に入るかもしれない。

 

 篝火付近に落ちているアイテムを拾い、まずはと北西に向かう。

 北西には大きな沼があり、自然のそれに擬態する化物茸が混じっていた。ある程度の感知範囲内まで近づかなければ動き出さず、また距離を取れば追うことをやめる性質があるようなので、私は化物茸どもに注意を向けつつ、追い詰められない程度に沼地を巡り、落ちているいくつかのアイテムを拝借していく。

 

 走っていればなんて事ないな。

 見えざる胡椒を使うまでもない。

 

 沼を南に抜けた先のちょっとした広場には、背の高いキノコの傘の下で死んでいる者がいた。そしてこちらから逃れようと愚鈍に転がる暗黒物質の姿。おぼろげな記憶は、彼らが強化石の欠片を持っている事を教えてくれる。やけに強かった記憶があるが何故逃げるのか?

 逃げてくれるなら都合が良い。あえて挑む理由はない。

 無視して視線を巡らせ、罠のように待ち構える化物茸がいないことを確認してから死体の持つ盾を剥ぎとる。それはバックラーと大差ない大きさのようだが、表面に毒茸が密集していて、装備すれば防毒と与毒の恩恵を受けられることだろう。

 

『ちょっとーなんてモノ拾ってるのよー

 そんなの押し付けられたら、あたし負けちゃうかもー』

 

 っ!?

 使う! 絶対使う! キノコの盾で懲らしめてやる!

 私は即座にバックラーからキノコの盾に持ちかえ、更に探索を進めていく。

 

 毒は強力だ。

 非常に強力だ

 バンダースナッチを狩る時に役にたった覚えがある。

 いま思い出した。

 

 そう、あれは終わったお茶会の席のことだ。

 私とアリスとの再会をバンダースナッチに邪魔されたのだ。

 貴方はいずれかどれを選ぶ? という問いに正しく答えなければ良いものを、私はつい盗人精神が逸り挑んでしまったのだ。

 今考えると、無謀な試みだった。

 あの戦いに勝つには骨が折れたし、何度も死んだ……毒を食らわせてやった後、必死に逃げ回ってばかりで、結局どうやってとどめを刺したのか、よく覚えていないのだ。

 しかしあの戦いにおいて、バンダースナッチを瀕死にまで至らしめたのは毒であったのは間違いない。死して消えていく奴の死骸から100万ソウルの怒涛が噴出し奪い取ったときの達成感ときたら絶頂にも似た悦楽があった!

 

 私はフラッシュバックした記憶に頼もしさを感じつつも、警戒をおろそかにせず沼地の西に向かう。そちらには化物茸の群れが待ち構えており、探索を後回しにしてした場所であった。群生地の先には更なる道が続いている。一足に駆け抜ける事を無謀と感じ、数体をあえておびき寄せてから沼地の終わりへ駆けこんだ。

 

 沼地から陸地に変わった道の先は濃霧に遮られている。

 だがそれよりも気になるのは濃霧のすぐ傍らに浮かぶ本。

 なんだこれは?

 

「にゃんにゃん、ぼくらは騎士だぞ。仲間はみんないなくなったにゃん。

 でも寂しくないにゃん。ぼくには鎧がいるから、にゃん」

 

 慎重に近づけば本が開き、飛び出す絵本のように中から全身鎧の上半身部分が現れた。

 そして見た目に似合わぬ可愛らしい声で喋りだす。

 勢いそのままに襲い掛かってくることは無かった。

 少なくとも、敵ではないようだ。

 ただし味方とも断言できない。

 おぼろげな記憶のなかで、この鳴き声の主に殺された記憶がある。

 

 怪しきには近寄らずが盗賊の鉄則。私はできるかぎりの警戒を解かず本の脇を抜け、姿を隠せる霧の中へと身を紛れ込ませた。そこでようやく思い出す。霧の先には強敵が待ち構えているというのはある意味鉄則ではないか。

 

 しまった、不気味な本に気を取られすぎてより危険なものへの注意を怠ってしまった。

 

 濃霧はすぐに晴れ、先には不自然なほどぽっかりと開いた広場。

 ヤバイ。とたんに本能が告げる。

 

 直後に右手側にある大木を内面から破壊し飛び出す者がいた。

 グレートソードを担ぐ大柄な騎士の姿だ。

 本能的に勝てないと感じ、即座に反転して逃げようとしたが、濃霧は硬く道を閉ざし、人を生きて通さぬ壁と化していた。通れない。

 ……やはりこれは罠だ!

 霧が濃くて逃げられないなんておかしいじゃないかそれが罠だという証拠!

 

『がんばれがんばれ~♪

 さっさと負けろ雑魚♡』

 

 ぐ、ぐ、ぐううう! なんだよそれ応援のつもりかよ!

 ふざけるのもいい加減にしろよ!

 そもそも俊敏な盗賊が鈍重の騎士なんかに負けないが?!

 こっちには先ほど手に入れたばかりの毒の力だってあるのだ!

 

 私は憤りを通して出る力に身を任せ、名も知らぬ大柄な騎士にまずは毒を……名も知らぬ?

 本当にそうか?

 私はこの騎士と、何度も殺しあってきたのでは……?

 

「あっ」

 

 戦場では迷った者から死んでいく。逃走の失敗に加え、敵の目の前で呆けるなどという無意味な無駄の積み重ねは、大柄な騎士がグレートソードを振り上げこちらを叩き斬り潰すには十分すぎる猶予であった。こんな精神状態でまともなパリィなどできるはずもない。容易く肉片にされ視界が闇に染まるさなか、私が最後に見たのは、グチャグチャに散らばった私の身をよりいっそう耕さんとグレートソードを振りかぶる大柄な騎士の姿だった。

 

『ざぁ~こざこざこざっこおっじさ~ん♪

 白い兎さんにでも鍛えてもらったほうがいいんじゃな~い♡』

 

 ……こいつ絶対に許せねぇ……絶対に*ぶちゅっ*

 




 今回はここまでです。
ご閲覧、ありがとうございました。




2020/10/18追記
連載再開直後にしか通じないあとがきネタを削除
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