BLACKSOULSⅡ腹パンRTA 0:19:19:19   作:メアリィ・スーザン・ふ美子

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実走者視点3

 

 

 

 

 

 燻り狂えるバンダースナッチに近寄るべからず。

 私はそのとき、ジャバウォックの詩の一説を思い出していた。

 それは非常に素早く動き、長く伸ばせる頚部と、燻り狂った顎を持っている。

 もしもいまの私ごときがバンダースナッチの縄張りへと足を踏み入れれば、容易く殺されることだろう。

 

 

「貴様ぁッ! 我様を無視してどこへ往く心算なのだッ!

 我様の縄張りに侵入る者はどの者も食い殺してやるぞッ!」

 

 

 ――――だから見えざる胡椒を揶揄する助言があったんですね。

 

 

 マグマの川へ滑落したはずの何かが、その熱量をものともせず一息に飛び出して見得を切り、進路上に立ち塞がった瞬間、私の脳裏に浮かんだのはそういった益体の無い現実逃避であった。

 

 なんで?

 なんで?

 なんで?

 さっき【VICTORY ACHIEVED】って幻視したじゃん!

 

 それはまさしく燻り狂えるバンダースナッチだった。飛び掛かりに捕まった。

「ゲホッゲホッ!!(致命傷)」吐血をきめた。

 ガッシ! ボカッ! 私は死んだ。スイーツ(糞団子)

 

「我様は媚びぬッ! 引かぬッ! 恐れぬッ!

 貴様の生皮を剥ぎッ!

 アバラを砕きッ!

 臓物を引き摺り出してやるッ!!」

 

 遠のく意識の片隅で、燻り狂えるバンダースナッチは私の死後遺体をどう扱うかを声高らかに宣言していた。

 

 

 

 ……なんだよこれ……燻り狂えるバンダースナッチって燻り狂ってないバンダースナッチとぜんぜん見た目が違うじゃないか……こんなのってないぞ……不思議の国いい加減にしろよ……

 

 

 

 

 

 

 暗転した視界は、数度のまばたきという僅かな間であっさりと光を取り込み晴れていく。

 そこにあるのは篝火。

 燻りの森の、篝火だ。

 

『馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけどここまで馬鹿とは思わなかったよ。

 ねえ聞こえなかった?

 見えざる胡椒使えって言ったのに聞こえなかったの?

 なに? なんなの馬鹿なの? 死ぬの?

 っていうか死んだよ? ぶわぁ~~か♪

 くっすくすくすくすくすくすくす♡

 ねえねえねえ、言っていい? 言っていい? くふふ♪

 無能』

 

 

 …………ガキが…………舐めてると潰すぞ…………ッ!

 

 

『っぷぷ。ごめんごめん♪

 おじさんがここまで無能って分かってなくてホントごめん♪

 でも次のおじさんは上手くやってくれるよね? ね~っ♡

 それくらいはやれよグズ』

 

 

 ああーっ! あーっ! ムカツくぁぁぁぁあああ!!!

 ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!

 あーイライラする!!

 誰彼構わずファックしたい気分だ……っ!

 この苛立ちをどう処理すればいいッ!! ノーデかッ!?

 

 いや、ガキに舐められっぱなしでいられるか!

 

 アリスは不死者の私を本気で怒らせた。

 覚悟しろよ、この【妹】野郎……っ!

 図書室の夢に帰っていられるか! 私はこのまま進むぞ!

 

 すかさず私はチェシャ猫に貰った見えざる胡椒をとりだした。

 

 見えざる胡椒は身体に満遍なく振り撒くことでその姿を隠すという不思議な道具。

 くしゃみ地獄に陥らぬよう、目を閉じ手で鼻や口元を隠して使うのが肝要だ。

 使ってやる。構うものか。アリスに分からせるための必要経費だ。

 頭上から順に小瓶一つすべてを使いきった私は[ドードー走り]で死に至った道を走り出した。

 

 はたして、透明と化したまま霧の壁を突き抜ければ、燻り狂えるバンダースナッチが飛び出すことは無かった。

 

 馬鹿が。

 今の死で覚えた。

 後で覚えてろよ?

 悪夢は取り除かなければならない。

 

 確かな力を得たならば、一切二度と油断せず、再三再四に挑み続け、五臓六腑を七度引き裂き八分割にしてやろう。九腸寸断の思いをしたのだ。やりかえす権利も資格も私には十分過ぎるほどある。

 

 ソウル溜まりに残る自らの遺志を引き継ぎ、先を急ぐ。

 

 小汚い洞窟を無視して進んだ先にはちょっとした建屋。

 中に入る。

 どうやら昇降機のようだ。

 目に付いたアイテムを片っ端から拾い、乗り込む。

 昇降機は下へ下りていく。

 

 ……スー……っふう。

 目を閉じて深呼吸。

 落ち着け。

 はらわたが煮えくり返るほどの怒りでとても落ち着いていられないのは分かるが落ち着け。

 今の保有ソウルはいくらだ? 感じ取れ。

 そう、3000だな。

 大丈夫。

 まだソウル感覚が馬鹿になったわけでもないし

 算数ができるだけの脳髄はある。

 オーケー。

 最近の記憶はどうだ?

 私はアリスを追いかけ、なんとかの砂浜を目指している。その地にたどりつくため不死海だか魚市場だかを探している。

 ……ちょっと怪しいが、まあまあ、この程度のど忘れは誰にでもある。少なくとも考える頭は残ってるぞ。無脳じゃない。むしろ冴えてる。

 

 意識ヨシ!(現場猫)

 確認が終わる頃には昇降機が停止した。

 

 降りた先には死体が二つ。すかさず追いはぎを行う。

 妖精の燐粉に、メリケン、か。

 鍛え上げた肉体ならば、このメリケンで魔獣とも殴りあえるはずだ。つまり今の私には縁遠いものだという意味だが。メリケン装備などありえませんぞ。

 

『えーおじさんメリケン使えないのぉ~♪

 よっわよわ~♡ くすくすっ♪ ざぁこ♪』

 

 …………出来らあっ!

 私は盗賊の短刀を仕舞い、メリケンを装備した。

 少なくともアリスを分からせる際、短刀を使うよりは比較的健全な分からせになるはずだ。

 そう考えれば悪くない。

 

『メリケン使って霧の向こうにいるヤツ倒しなさいよね。

 そしたら浜辺だから』

 

 ええっ!? メリケンを装備して燻り狂えるバンダースナッチ討伐を!?

 なんてことを思いつきやがるんだこのアリスは……分からせてやる。

 

 さしあたってまずは、室内のアイテムを拾い集めつつ出口を目指す。

 外につながる出入り口の前には椅子に腰掛けた死体。

 追いはぎをすれば……魔書【見えない体】?

 ブレーメンの音楽隊の虎の子の魔書がどうしてここに?

 

 丁度良い。

 魔書とは、読みこめば書に秘められた魔道がソウルに染み込むもの。

 私は即座に目を通し[見えない体]の魔法を覚えた。

 同時に、魔書はぼろぼろになって崩れ去っていく。

 持ち主が読んでいなかったのは実に僥倖だ。

 

 [見えない体]さえあればもう怖いものはない。

 

 それは僅かな魔力消費で見えざる胡椒と同等の恩恵を得られるもの。

 有用性はロストエンパイアで認識済み。

 もはやあらゆる雑魚を相手取り、戦わずして勝ったといっても過言ではない。

 私は口早に[見えない体]を唱え、昇降機の建屋から出た。澱んだ空気がむわりと充満していた。

 

 そこは噎せ返る潮風と雨が降り続ける陰鬱な港町。

 腐り余る魚の海に半漁人達が我が物顔で蔓延っている。

 

 現地にたどり着いて分かった。

 そうか、ここがビリングズゲート魚市場か。

 かつて読んだ地図の記憶が蘇る。

 つまり、聞いた話が正しいのなら、ここからなんとかの浜辺に向かえるんだな?

 希望とやる気がムンムンわいてくるじゃあないか。

 

 浜辺はどこにある?

 アリスはどこだ?

 この先、分からせが必要だ。

 

 市場はどこもかしこも浸水し、海水が膝下の脛ほどまでに浸かる。そのうえ、海面下にところどころ敷き詰められた腐った魚の死骸。時折、どこからか鐘の音が聞こえる。音の出所を探して視線を巡らせれば、昇降機の建屋からやや離れたところで、怯えきった猿が全方位を警戒していた。

 透明化した私に気付く様子はないが、私が足を踏み出して水しぶきをあげたとたん悲鳴をあげた。

 

「わひぃぃいいぃッ!?

 オイラは殺ってねぇっ!

 オイラは悪くねぇんだよぉ~~~っ!!」

 

 猿は恐怖に震えながらも、どこからか取り出した名状しがたい柿のようなものを手当たり次第に投げ始める。しかし狙いは見当外れの的外れ。距離を取れば当たることはない。猿に背を向け市場を進む。犬になりきれないものが不意の一撃を浴びたのか、鳴き声をあげて諍いが始まった。犬猿の仲。

 

 魔獣とは似て異なる、半漁人化した者どもの間を[ドードー走り]で駆けつつ、目に付いたアイテムを拾ってまわる。[見えない体]を切らさないように気をつけなければ。

 

 ふと見れば、サハギンがいない場所で、時折不自然な飛沫があがっていた。

 

 

 この海面下に、なにか、いる?

 

 

 目を凝らせば海面下を悠々に泳ぐ平たいマーメイドの影。

 

 

 ……それと気付かず無造作に進み触れられたなら[見えざる体]と言えども見破られよう。

 三叉路の先に陣取るマーメイドから距離を取るべく、進路を変えて走る。

 

『篝火は北の建物あるよぉ♡

 頑張れ♪ 頑張れ♪ おにいさ~ん♪』

 

 アリスの応援だ!

 くそう、喜べばいいのか苛立てばいいのか……メスガキアリスなのかツンデレアリスなのか分からない……ワカラナイ! アーッ! 言葉巧みに私を惑わす小悪魔! この小悪魔アリス! そのエプロンドレスの下は実は小悪魔下着だとぉ……なんてあざとい【妹】なんだ! 本当に着ているかどうか確かめてやる!

 

 現金なもので、私は脊髄反射的にその言葉に従った。

 あたかも心の中のオセロの駒がひっくり返るように反転。

 なんだかんだ言っても、アリスはアリスだもんなぁ……

 アリスを探さなければ。

 

 北を目指そう。北とは?

 ビリングズゲート魚市場は背の高い建物ばかりで方位が掴めない。

 夜空は……おっとその前に、密かにマーメイドが近づいてきている。

 意識して距離をとり、改めて[見えない体]を唱えた。

 この狭い路地では位置が悪い。

 機を伺っていては二体のマーメイドに挟まれ詰まされかねない。

 突っ切ろう。

 

 路地を突っ切った先には広場。

 広場中央にある街灯の下には、他とは一味違いそうな色違いのサハギンがいて、天に何かを祈っていた。神に祈りを捧げても無駄だ老人。神は我々を弄んでいるのだ。その生涯が永久の先の先まで記されることはない。哀れな老人サハギンから視線を外し、壁沿いに広場の外周を[ドードー走り]に駆ける。

 

 店員のいない露天へと無造作に置かれたアイテムを掠め取りつつ、視線を巡らせるが……出入り口のある建物が見つからない。いや、アレか? 私はチラリと見えた戸のない出入り口が見えた方向に駆けこむ。

 

 屋内市場。目の前に蟹。

 左に避けて進む。

 出入り口の段差故か、ここは浸水していないようだ。

 

【アリスの導きのあらんことを。】

 

 屋内市場には私は一人ではないと思わせてくれる心温かいメッセージがあった。

 そうとも。

 私にはアリスがいる。

 ファッションメスガキぶって、憤りの感情を誘いつつ私に声をかけてくれるアリスがいる。

 本気になった【兄】の偉大さを分からせるためにも、頑張ろう。

 

 アリスは私の【母】になってくれるかもしれなかった女性だ。

 ああ、アリス……私を導いてくれ。

 

 屋内市場の先には篝火。

 手を翳し、火をつける。

 ……ふぅ。

 一休み、一休み。

 喜怒哀楽に幾度も心乱れつつも、こうして篝火を見つめていると冷静になれる。

 座りながら視線を巡らせれば、進むべき道は2つ。

 一つは屋外。一つは室内。

 

【篝火! ああ、暖かい……。】

 

 すぐ傍らにはメッセージ。私もそう思う。評価方法とは?

 ど忘れが激しい。一度、図書室の夢に戻ろうか?

 

『その建物の奥にある、篝火の近くにある指輪持ってきて~♪』

 

 生意気で可愛いね。

 いまは一刻も早くアリスにあいたい。

 

 その顔にキノコの盾を押し付け、メリケンで腹を殴り、分からせ棒で分からせを断行したい。愛したい。愛している。だから愛してくれ。愛してくれなきゃ殺す。愛されるためならその胸の奥で鼓動する君の心臓すら盗み出して見せよう。性欲の詩的表現が脳髄から留めなく溢れてくる。怪盗はとんでもないものを盗んでいきました。あなた用の童話です。疾くその首を刎ねておしまい。

 

 

 

言いなさいよ■

アリスより■■■きだってZAP

アリスよりも■■■■様と■■■■■のが最■ってZAP

言わな■■ZAPZAPZAP

 

 

 

 ZAPZAPZAPん?

 ぼんやりとしていたらしい。

 

 篝火の向こう側に何かを見出し、何かを思い出しそうだったが……はて?

 

 なんだか妙に、頭の奥で鳴り響いてやまない歯車の音がハッキリと聞こえる。思考の梯子を掛け違えたかのような違和感。

 

 そんなことより、アリスを探さなければ。

 アリスは何処に?

 

 ――――アリスとは誰だ?

 

 立ち上がって[見えざる体]を唱え、篝火周辺のアイテム拾って施設の奥へ足を進める。

 

【この先、悪夢霊がいるぞ。】

 

 細い通路にはそんな助言があった。

 生者を思うがまま殺したいとソウルを黒く染めた連中が潜んでいるということか? だが奴らに亡者を襲う旨味はあるまい? つまり、何も問題はない。私はもう死んでいる。

 

 奥はどうやら冷凍室のようで、様々な魚のようなものが吊るされている。

 不気味だ。

 だが奥へ進む。

 

 

 

 それにしても、しかし……

 どうして私は階段を降りているのだろう?

 私は誰だ?

 名前は?

 何故こんなところに?

 ここはどこだ?

 

 

 

 長い階段を下りれば、そこは屠殺場だった。

 

 増加する住民を屠殺処分する工場。

 安楽にはほど遠く、激痛と苦痛の果てに血の涙に濡れる。

 

 あまりにも生々しい殺戮現場がそこにあった。

 いまの天啓めいたものはどこから来た?

 知らない。私は知らない。

 なんなんだ?

 正気の沙汰とは思えない。

 とても正視に耐えない現実。

 ――現実のこととは思えない。

 なんなんだここは!?

 

【笑っている貴方が好き。】

【怒っている貴方が好き。】

【泣いている貴方が好き。】

【死んでいる貴方が好き。】

 

「ひっ」

 

 幾重にも折り重なる、理解しがたい原理で浮き上がる血文字に悲鳴がこぼれ思わず後ずさってしまう。

 ああ、ああ! 赤ん坊の泣き声が! 赤ん坊の泣き声が!

 

 

 

 

 

 

 ――瞬間、正気が弾け飛ぶ。

 ――それは本能的な防衛反応。

 ――狂気に身を委ね同化することで

 ――激流のごとき現実から意識をそらす。

 

 ――歯車はぎちぎちと歪な音をたて始め

 ――あたかも鞍替えするような錯覚。

 ――ことばの梯子めいた様相。

 ――目に映るものが変わる。

 

 

 

 

 

 メッセージなど元よりなかったかのように虚空に溶け込むように消えていく。助言の痕跡は、もはやない。赤ん坊の鳴き声も掻き消えていく。浮かび上がる助言の奥に誰かいたような気がしたが、退くと同時に消えてしまった。

 

 

 耳を澄ませば、ぎちぎちと噛み合わせの悪い歯車の音は未だ聞こえる。

 

 

 ……ピンときた!

 そうか! 頭の中に歯車が!

 私は殺されたんだ。その際にソウルを弄くられて、今の私は人間歯車なんだ!

 だが、もう大丈夫だ……私はしょうきにもどった!(((訳注・彼は狂っていた)))

 アリスを探さなければ。

 

 今一度[見えざる体]を唱えると、付近に睨みを利かせる筋肉自慢の大男から離れ[ドードー走り]に屋内を探索する。豚が並ぶ柵の中に、どこもおかしいところはない。

 

 鈍重そうな巨漢どもがあてもなくうろつき、ムカデの体にキツネの頭を加えた、できそこないのキメラが闊歩する屠殺場。通路のそこかしこには血が飛び散り、二度と洗い落とせそうにない。時おりチェーンソーを唸らせる音がどこからか響きわたっている。

 

 とても正気ではいられない空間。

 だがそこには不釣合いな、か細い糸のように伸びるほのかな光の導線が見える。

 

 果たしてそれは、アリスの導きだろうか?

 私は[見えざる体]を切らさないように、その光を追って奥へ進む。

 階段を上がれば、天井から吊るされた豚が運ばれていく様子が見えた。あたかも近代的な工場の様相。見上げつづける暇などない。手すりにそって先を急ぐ。

 階下を左……ではなく光の導線を追って右へ。

 通路の奥には一目で危険と分かる巨体が壁を向いている。

 何か、している? 工作?

 

 

「エルマ?」

 

 

 意図せず口に出た言葉に、それはぐるん、と振りかえった。

 襤褸を身に纏い、手に持つは人斬り包丁。手にはランタン。足元には人一人は容易に入りそうな大袋。

 それはランタンを掲げて周囲を気にする様子を見せた。

 

 くんかくんか。腐女子特有の腐った少女の香りがするぞ。

 

 だが違う。エルマじゃない。童話【マッチ売りの少女】って感じの腐女子少女臭じゃない。

 [見えない体]によって私が見えなかったためか、それは足を動かすことなく、やがて気のせいだと判断したのか再びこちらに背を向けた。

 まったく。勘違いさせやがって。私はト字路の先にいる人攫いから目を背け右に曲がった。

 

【やった! やった! 篝火だ!】

【隠し部屋……?】

 

 導きの果てにあったのは広い部屋だった。まずはと篝火に手を翳す。

 それから手当たり次第に室内を物色し指輪を探していると、棚の上に寝そべるチェシャ猫は言った。

 

「子どもたちが屠殺ごっこをした話

 とある兄弟が屠畜業者の父親の真似をして

「屠殺ごっこ」を始めた。

 屠殺屋役の兄が豚役の弟の喉元を、

 ナイフで抉り刺し殺した

 赤子を風呂に入れていた母親は、

 弟の悲鳴を聞いて駆け付けると激情にかられ、

 弟の喉に刺さっていたナイフで兄の心臓を刺して殺した

 更に、そうして目を離した隙に赤子が浴槽で

 溺れ死んでしまったのに気付き、

 母親は悲しみのあまり首を吊って死んだ

 しばらくして畑仕事から戻って来た父親は

 これらの惨劇を目の当たりにし、

 あまりの衝撃に気が狂って間もなく死んでしまった。

 ………結局、その家族は誰一人生き残らなかったとさ

 こんな残酷でトチ狂ったお話、誰が考えたんだろうにゃ?

 きっと悪魔に違いないね、それは」

「…………」

 

 なんだその正体をなくしたような物語は。

 作者の顔が見てみたい。

 およそ正気とは言いがたい、狂気に満ち溢れた顔をしているのだろうな。

 そんな感想を抱きつつも物色はやめない。

 

 ……あった。リンゴの造形が見事な指輪だ。

 これがアリスご所望の品だろう。

 指にはめて無くさないようにする。

 

 そうそう、思い出した。私はこれを手に入れるために屠殺場くんだりまできていたのだった。危ない。記憶が怪しくなってきた。もう交代の時間か?

 

 気になる助言である隠し部屋を探しておきたいところだが……万能鍵がない。せっかく見つけても鍵がなく開けられず、そのうえ隠し部屋を見つけたと言う事を忘却するなどということになったら目も当てられない。

 

 今はここを離れたい。

 篝火の前に座りこむ。

 二度前言を撤回したが、今度こそ図書室の夢に帰ろう。

 

 頭の中身が回転しすぎて、なんだかとっても、疲れたよ……近くにパトラッシュはいないよな? ネロのように心力尽きたところを食い殺されるのはゴメンだぞ。

 

 

 

 

 

ふふんっ♪

果たして私を打ち負かせるかしらっ?

さあ、■■ゲームの始まりよ!

 

 

この程度、痛くも痒くもないわっ

 

 

まだ負けてないもん……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ねぇ……もういいでしょ?

早く■■ZAPZAPZAPZAPZ

 

 

 

 

 

 

 

「お兄さん様、いかがなされましたか?」

 

 はっと我に返る。

 気付けばそこは図書室の夢。

 ノーデは唖然とする私のすぐ傍にいた。

 

 それにしても、いまの夢想は一体……

 幻視したその少女は赤かった。

 脱ぎ散らかした衣類が赤く。

 その頬が赤く。

 燃え盛るような情念が赤かった。

 

 赤、赤、赤。

 ああ、ああ、それなのに。

 

 

 

 どうして思い出の中の君の顔は黒く塗り潰しされているのだ!

 

 

 

 本当に。

 本当に。

 ほんとうにもう。

 

 この世はなんてクソッタレな世界なんだろう。

 

 パッチワークキメラ、とでも呼んでやろうか。

 雑なコラージュしやがって。

 キャラ愛ってもんがねえのかよ。殺してえ。

 

「なあノーデ」

「何でしょうか」

「教えてくれ」

「何なりと」

「俺はあと、何人殺せばいい?」

 

 私は彼女の瞳を覗きこんだ。

 赤い瞳だった。

 問いかけに対し、動揺に揺れる様子はない。

 ノーデは何も答えなかった。

 

 だがお前は何か知っているはずだ。

 あるいは何もかも知っているはずだ。

 

 今の思考が廻り廻り、歯車に呑み込まれ磨り潰されてしまう前に、私は今夜も問いかけなければならない。

 

「俺はあと何回、あの娘とあの子猫を殺せばいい?

 何度時を遡っても、何も解決しやしない……

 教えてくれ、ノーデ!」

「…………」

 

 果たしてノーデは、私の問いに何も言ってくれない。クソが。ここは静かすぎてうるさすぎる。【お兄さんにはアリスしかいない。】黙れ! 呪縛の様なメッセージがふとした拍子に呼び起こされ、ソウルにこびりついて離れないのだ。

 

 釈明があるなら言ってみろ! そんな思いを瞳に籠めても、彼女は口を開かない。私は衝動的にノーデの胸へ盗賊の短刀を差し込んだ。

 

 サクリ。

 

 ノーデは小さな悲鳴を上げ、あまりにも呆気なく死んだ。

 なんで刺しただけで死ぬ?

 お前はそんなキャラじゃないだろう?

 呆気なさすぎる。

 

 わたしはなんなんだ?

 なんなんだあんたら。

 

 

 

 ……アリスはどこにいる?

 

 

 

 ――――っ! あああァァァアアア!! もうたくさんだ! 何故私がこんな目に! 何故だ何故だ何故なのだ! 私はただ! このソウルがいかほど黒く染まろうと、せめて無垢なる少女アリスだけは助けてやりたいと思っていただけなのに! どうせあれもこれも全部! 全部全部何もかも彼女の仕業なんだろう!

 

 

 ――はやく彼女を愛さなければ。

 

 

 だがもう彼女はいない。私が殺したからだ。徹頭徹尾殺し尽くした。本当に? それは何周目の時点の話ですかな? 意識が混濁する。ああ、なんてこった。誰か助けてくれ。ジャンヌ、リィフ、師匠、ヴィクトリア、グース、エリザベート、カタリナ、ミランダ、紅ずきん……誰でもいい、誰か来てくれ!

 

 

「お兄さん様」

 

 

 まるで先ほどのことが悪い夢だったかのように、ノーデは平然とそこにいた。ああ、そうだとも、そうだろうとも。こんなもの、全部、悪い夢だ……悪夢だ。頼む。夢なら覚めてくれ。

 

 

「私の魂はここに縛られているので、

 お兄さん様になら何をされても構いませんが……

 気が障るのでしたら、どうかこのノーデを罰してください。

 私はいかなる処分も、甘んじてお受けします……」

 

 

 畜生!

 私は出口無き箱庭密室に閉じ込められた恨み辛みを彼女へとぶつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ざこおじさぁ~ん。聞こてるぅ?

 まぁ~だ時間かかりそうですかねぇ?

 いつまでヤッてんだお前ら。ボクも仲間にいれてくれよ~♥️』

 

 アリスだ!

 ……本当にアリスか?

 どのへんがアリスなんだ?

 アリスはボクなんていわない。

 誰だお前!

 

えぇ~(やっべ)? の~みそよわよわおじさん何言ってんのぉ?

 あたしの声も忘れちゃうくらい頭がパーになっちゃったんだ♪

 ざ~~~~~こざこざこざこ!』

 

 生意気なメスガキだ。分からせ希望の神待ち少女かな?

 挑発が雑なんだよ。そんなんじゃ甘いよ。

 どうやら分からせが必要なようだ。

 

 このメリケンで腹も顔もボコボコにしてやるから、ちょっとここまで寄って来い。

 

 そう思った私は、ますます散らかったテーブルに上体を突っ伏し、かすかな痙攣を繰り返すノーデから離れ、声の主を呼び出そうとするも上手く行かない。ソウルの繋がりは感じるというのに、何故? どうやらこちらから出向く必要があるらしい。

 

 思い出せ。

 私は何をしていた?

 

 そう。

 そうだ。

 私は無垢なるアリスを救うために頑張ってきたんだった。

 少なくともその認識に間違いはないはず。

 

 その際に私は、うう、ぐっ……

 私は、何か……されたようだ……

 ……人間でなくなってしまった……

 

 ああ、頭が……思考が回転しすぎて止まらない。

 

 アリスは……無垢なるアリスはどこにいる?

 彼女は何も悪くない。

 悪いのは俺なんだ。

 

 ……おまえがどこの誰だか知らないが、

 彼女を、解放……してやりたい……

 どうか協力してくれ……

 

じゃあ今からあたしが言う事を良く聞いてね(ガバの巧妙キタコレ! オラッリカバリ!)

 ちょっと複雑で、馬鹿にはわかんないと思うけど♪』

 

 いい加減にしろよてめー

 マジでぶっ殺すぞ

 

 私はその腹立たしい声の傀儡であるかのごとく動かざるを得ない状況をひどく疎ましく思いながらも、一定の理がある声に従って事を成す。

 

 だが、私のことなどどうでも良い。

 アリスだ。

 無垢なるアリスを救わなければ。

 

 私は荒い呼吸を繰り返すノーデを抱え起こして色のソウルを売り払い、誓約を最大限までかわして加護を得る。その後、図書室の隅で横になっている意思ある熊の人形(その存在に気付かなかった)が取り扱うアイテムを幾つか買い込んだ。

 

 残る保有ソウルは意識を持続させるため、そしてなにより、遺志を遺すためにとっておく。まとまったソウル量を確保していれば、きっと何か残せる筈だ。この国のあちこちに無数に残っている助言と同じように。

 

 篝火の前に座りこみ、向かうはビリングズゲート魚市場。

 身勝手な願いかもしれないが。

 本当のアリスよ。私に発破をかけてくれ。

 

 

 

 

……そろそろ■■のようです。

何がって……■■■■■■んですよ

 

■■■さん。貴方は■■■■の主人公ですから。

……最後まで挫けないでくださいね

 

それでは私はここまでです。

また会いましょう

 

 

 

 

 幻想のアリスは自らに発破をかけたかのように弾け飛び散った。

 

 ああ、すべてはそこから、始まったんだよな……

 積み重ねてきた思い出は、いまも我が心に受け継がれているぞ。歯抜けの虫食い状態であろうともな。

 

 刹那の幻視を振り払った私は、ビリングズゲート魚市場の篝火から立ち上がりすぐさま[見えない体]を唱えると[ドードー走り]で駆けていく。何度こうして走ったのだろう。いつになったら走り終えるのだろう。まるでコーサス・レースのように、同じところを回っているような感覚。無味乾燥とした話は何の慰めにもならない。

 

 何者かを探すかのように巡回する蟹を横目に外へ出る。

 

 海中に泳ぐマーメイドに注意を払いながらも街灯のある広場を駆け抜ける。建造物の影を泳いでいたマーメイドに触れられぬよう注意を怠らず、その先を道なりに走った。

 

 鐘が鳴っている。カエルのために鳴っているのか? 老王のためか、それとも姫のためか、どちらでもない誰かのために鳴っているのか? 分からない。何故鐘は鳴るのだろう?

 

 サハギン通りの少ない路地を、突き当りまで直進。

 

 袋小路の手前では、じっと死体を見つめるサハギンがいた。アレがなんたらの指輪を持っているとかいう死体だろうか? 謎の声の主の長話は、あまりにも未来を見据えていた。きっと繰り返している。俺と同じように。学習の痕跡があるのだ。そいつは誰だ?

 [見えない体]を唱えなおして背後をすり抜ける。死体の指から置き土産を拝借し、己の指へ差し込む。サハギンは動かない。その腐ったマグロのような瞳には何が映っているのだろうか? 読み取れるはずもない。

 

 カランカラン。鐘の音はすぐ近くで鳴っているように聞こえる。ソウルを引き寄せるかのような鐘の音に、釣られる者もいるのだろうか? 路地から抜け出して音の出所を見上げれば、建物の向こうに船のマストが見えた。

 

 まさかあの船に乗って大海原に漕ぎ出せというのではあるまいな?

 

 音源の元へとつづく路地の先には霧の壁。

 この先には強敵が控えていよう。

 果たして今の俺の実力で勝てるかどうか……

 

 不安が消える事はないが、左手に持った盾と、屠殺場で探し当てた指輪を思えば、何故だろう不思議と負ける気がしなかった。

 

 こんなところで負けていられるか。

 無垢なるアリスを救わなければ。

 

 

 




 

ビルくんのお尻なしでベルマン戦入ってるやん! なんやこのチャート!
メスガキが……ブラソRTAにどれだけビルくんのお尻が貢献したか分からせる必要がありそうだな……


 
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