BLACKSOULSⅡ腹パンRTA 0:19:19:19 作:メアリィ・スーザン・ふ美子
霧を抜けたその先は、港になりきれないナンセンスな広場、船着場であった。別の船が海への道を塞ぎ、出航する余地のない巨大船が私の行く手に停泊し塞がる。その船首は骸。尋常の船ではあるまい。その他にも複数の小船が広場の隅に並んでいた。
足場は……ある。膝下の脛ほどまでつかる海水の底に、濁った魚が敷き詰められている。動き回っている最中に唐突に水没して死ぬ、というような危険はなさそうだ。
視線を巡らせていると船首の骸がおもむろに動き、二本指でつままれた呼鐘が鳴った。その鐘を鳴らすのは亡者。
「おお友人よ(ローマ人と同胞)、どうか聞いてほしい!(彼らはみな引用が大好きだった)」
船着場への侵入者に気付いたその亡者は、まるで私の来訪を待ち構えていたかのようにペチャクチャと喋り始めた。全く関心がありません。どうやら船乗りといったような格好だが、何者だろうと関係ない。そういう些末事は相手を殺してから考えればいいことだ。
戯言に耳を傾けず、先手必勝とばかりにメリケンで殴りかかろうとしたところ、それは先読みしていたかのようにふわりと浮き上がり、射程外に逃げ出した。
亡者は宙に浮き、船に乗りこむ。
否。船と同化する。
船首の骸のがらんどうな頭蓋骨に一瞬、光が灯った。
「――――我々はスナーク狩りへ向かう!
これは二度目だが、必ず成功させると証明させるっ!(そして戦いのための準備だっっ!)」
骸がそう叫びを終えるやいなや、船体は意思を持つようにその様相を変え、腐った魚が敷き詰められた地面へとオールと呼ぶにはあまりに無骨な無数の足を突き立てて立ち上がった。船体が変形して砲門が開き、無数の大砲が砲身を覗かせる。
帆船なのかガレオン船なのか、はたまた全く別種なのか……
実にナンセンスだ。
狂ってる。
船のビースト(仮称)は呼鐘の持ち方を変えて私を指差し唸り声をあげた。
それにしても、デカイ。
生身で、いや死んで亡者化してるんだけども、これとやりあえと?
無理だろ。
『なんのためにポジ昏睡拾わせたと思ってんの雑魚!
教えた倒し方も忘れちゃったのっ!』
っうるさい! 俺に指図するな!
分かっているから黙ってろ!
意識を余所に取られながらも、私は回避に専念し、大砲のうちの1つから撃ち込まれた人一人を呑み込んでなおあまりある水鉄砲をかわす。水の砲弾。不思議の国特有の摩訶不思議だ。
私は道具袋から糞団子を取り出した。
毒でも喰らってろ!
船首にいる骸目掛けて投擲。
巨体さ故にかわせる道理もなく直撃したそれは骸は大きく身悶えさせ、その人ならざる船体を蝕む。いや、その表現はあまり適切ではない。これはもう船であって船ではない。まるごと全部が魔獣なのだ。ならば殺せぬ道理などある筈がない。私は数多くのビーストをこうして毒殺してきた。スナーク狩りに登場するベルマンだったらこう言うだろう。私は一度そう見解を述べた。魔獣のビーストを毒殺してきた。頼むから数を覚えていてくれ。私は二度言ったな? ビーストを毒殺してきた! ここに証明は完璧になされた。三度繰り返した事で船のビースト(仮称)を毒殺できることが証明されたのである。
ッハ! ナンセンス!
彼らは指ぬきと注意で探した。
彼らはフォークと希望で追い立てた。
彼らは鉄道株で命を脅した。
彼らは笑顔と石けんで魅惑した。
言葉の連なりが私に天啓を与える。船のビースト(仮称)の正体が呼鐘のベルマンだと。
高速思考から現実に意識を戻せば、無数にあるムカデめいた足が地団駄を踏むかのように暴れていた。その余波により私の身長を超える荒波が引き起こされるものの、広場の隅にある小船に飛び乗り直撃を回避すれば、目算をあやまった波は何者も呑み込むことなく足場の小船を揺らすばかり。
次はこちらの番だとばかりに道具袋からオレンジママレードを取り出す。
ある程度駆け寄ってから、船首の骸に投擲。
6ペンスの唄は著名なミステリー作家(名前までは思い出せない)も見立て殺人に愛用したマザーグースの童謡だ。この悪意がたっぷりつまったオレンジママレードの正しい用途は朝食の席に用意しておき殺人事件を起こす事。しかしこうして投擲することも出来る。
ウサギ穴の赤い扉の先にある一室、キッチンで拝借しておいた虎の子だ。
呼鐘のベルマンは儚く割れた小瓶の中身を浴び、毒と猛毒の二重の苦しみに身をよじりながらもカタカタと髑髏を鳴らした。彼方への呼びかけに呼応した闇の群れが形をなしこちらに襲来する。回避に専念するものの、かわしきれず闇の塊に身を削られた。私はハーブ瓶を一気に飲み干し失った体力を即座に取り戻す。
不思議の国のハーブ瓶は中身を飲めばあら不思議。どれほどの重症を負おうが5割回復できる。更にノーデの加護の恩恵により身についた擬似スキル[薬の知識]の効果で薬効は倍になり、つまりハーブ瓶はどれほど手痛い一撃だろうとたちどころに治せる奇跡の一品と化していた。
我が身は既に無傷も同然。
一撃で死ねば話は別だがな。
先ほどの闇に呼びかける襲来魔法……ノーデとの誓約がなければ死んでいたかもしれないが、死ななければ物の数ではない。呼鐘のベルマンの動きは緩慢で、私は相手が何らかの行動にでる前に二手三手うつ余裕があった。
さあ、これでトドメだ! 死ね!
私は妖精の鱗粉を取り出し、呼鐘のベルマンに浴びせかけた。
暴れまわっていたムカデ足の動きは鳴りを潜め、やがて動かなくなる。今のアイテムは端的に言えば睡眠薬だ。それも即効性。ああ、後遺症など気にする必要はない。お前はここで死ぬのだから。
眠っていても毒と猛毒は呼鐘のベルマンを蝕み続ける。時折ビクリビクリと痙攣する様子が見られた。タイミングを見計らい、船のビースト(仮称)が痙攣するその時に一気に船底へと駆け寄り、手にしたキノコの盾とメリケンを打ち込んだ。
途端に呼鐘のベルマンは目を覚まし、真下に回りこんだ私をどうにかしようと足を暴れさせる。失敗。もう一度だ。殴り心地は木材に近いが、それそのものではない。次の一打でリンゴの指輪が光を放ち、船のビースト(仮称)を眠りにつかせた。
何が起きたかといえば、リンゴの指輪の権能を発揮したのだ。
リンゴの指輪は眠りの指輪。その権能を身に宿せば、自身は不眠となり、その力の篭った一撃を見舞えば、相手を毒リンゴを食べた白雪姫の……白雪姫の影武者のように、死んだように深い眠りへと誘う、こともある。
なに、確実では無いというだけで、眠るまで殴れば問題あるまい。
私はいま一度距離をとって船首を見に行き、血涙を流していないことを確認すると、再び頃合いをみて船底付近に駆け付け二撃必殺を見舞う。寝てろ!
幾度か同じ動きを繰り返せば、ついに船首の骸は血涙を流し始めた。
それどころか船体全体が内部から血を溢れさせている。
どうやらもう一つ確保していた妖精の鱗粉を使う必要などなかったようだ。
謎の声の主はここからはもう遠慮する必要はない、という話を事前に言い含めてきていた。
どこまで信用できるかあやしいものだ。
ええいままよ! 南無三! 私はタイミングを測ることなく、一気に呼鐘のベルマンの数ある足のひとつに駆け寄り殴り付ける。そこが一番近かったからだ。全力で殴りつけたはずだが、野太い足にはかすり傷一つつかない。ノーダメージだ。っは。ここまで計算のうちかよ!
更に殴る。殴る。殴る殴る殴る。
どれだけ殴っても傷一つつかない。
しかし打ち付けたキノコの盾から浸透する毒が、メリケンを通して伝わるリンゴの指輪の権能が、船のビーストを毒に浸し、眠りにつかせ続ける。
ふっ。毒リンゴの計に囚われたな。
謎の声の主は魔女なのか?
少なくとも善き魔女ではあるまい。
さあ呼鐘のベルマンよ! そのソウルの本領を発揮できぬまま死んでいけ!
◇
酷くゆっくりとした一般通常百烈拳を終えるころには、呼鐘のベルマンは亡者らしい怖気の走る断末魔をあげ、船体すべてが青白い粒子と化してソウルの怒涛が私の身体に雪崩れ込んだ。
アーイイ……遥かにいい……少なくとも三万ソウル以上はあるだろう充足感。
『ね? 簡単でしょ?』
うるさい黙れ。お前の助言などなくとも、きっと自力で倒していた。一気にソウル充足の快感が冷めた私は視線を巡らせ、晴れていく霧の先にある砂浜へと私は駆け出した。
さあ、ご対面だ。
お前は誰だ。
◇
っいねえじゃねーか!
ふざっけんなよお前!
誰だよこいつがっ
誰だよこいつは砂浜で待ってるっつったやつ!
出てこいよ!
ぶっ殺してやるよ俺が!
逃げてるだけじゃねーか!
そもそも誰だよお前いいかげん名を名乗れ。
『人に名前を尋ねるなら自分が名乗ったらぁ♪
くすくすっ♪ あなたの名前はなんてゆーのおじさん?』
もう喋るな話が噛み合わない。自分で考えることにした。私は幾つかの助言に囲まれる篝火に手をかざす。
ここは嘆きの浜辺。
どこか悲壮な雰囲気を持つ静かな浜辺。
ひとときの波のせせらぎが今までの悪夢を忘れさせてくれるだろう。
本当に?
だが篝火を眺めながら波の音を聞いてぼんやりとするのは悪くない。むしろ良い。老後はこんなところでのんびりと過ごしたいものだ。
【ぬくもり…。】
【浜辺に砂が多すぎる!】
【カキの匂いがする…。】
【ついてきな。その勇気があるならな】
篝火周辺には多数の助言があった。しかし一つだけ明らかに気配がおかしい。籠められた感情の重みが違うのか、一際強く自己主張している。私は波打ち際にあるその助言に近づき、意識して手に触れた。すると、その助言を遺したであろう者の残滓が海へと飛び込む
……飛び込めと?
おいおい、不死者が海を泳げるわけが無いだろう常識で考えてほしい。
だから気に入った。
三歩下がって、その
さしたる間もなく、悠々と海底に着地する。この程度の深さなら光は十分に届くようで、キラキラと輝く珊瑚に宝、沈んだ船の残骸やゴミがいくつも見える。落下死? する筈がない。ここは海だぞ?
巨大な軟体生物が遊泳する惨憺たる海底。
好奇心は身を滅ぼす、あのカキ達のように。
メスガキどものように?
脳裏に蘇った記憶が誤っているかのように思ってしまうが、はて、なにが正しいのやら。そもそも正しさを求めることが間違っているのかもしれないな。
「オーイオイオイオイ……
子供たちはセイウチと大工に喰われてしもうた……
ああ、恐ろしや……
何も出来なかった婆やを許しておくれ……
オーイオイオイオイ……」
近くでは、老いた年寄りカキが孤独に嘆いていた。哀れな。海に飛び込んだ私の存在にも気付かないありさまで、ロストエンパイアであれば魔獣化するのも時間の問題だといった様子であった。無視して先に進む。泣くだけで救われるならこの世界はいまごろ泣き声で溢れているだろうよ。
不思議の国だからか、海の中であるにも関わらず、私は呼吸できるし喋ることもできるようだった。水没都市の時と同じだ。忌むべき身の上であるためか、泳ぐことは出来そうにないが、地に足を着けて平地と変わらず動くことはできそうだ。不思議すぎて一般常識など通用しない。
進路には混沌のような穴の底から触手が這えていた。
獲物の来訪を待っているのか?
塵主クラーケンを思い出す。
たしか……塵海とその先は、彼女が作った箱庭にしては随分と毛色が違って……
そう、例えるならよりこの国に近い、混沌のような領域であった。
あるいはロストエンパイアは混沌の領域を隅に固め、主たる領域からは遠ざけていたのかも。
回顧の思考を過去にやりながらも、私は[見えざる体]を唱えて触手の間を駆け抜けていく。
ちょっとした好奇心だったのに、あれはいったいなに?
■■■■■が今、必死に戦ってくれてる。
わたしはとんでもないものを呼び寄せてしまった。
そらが赤くなっていく。世界がこわれていく。
こんなの望んでない。
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい
たすけて どろしー
無心で駆け抜ければ、そこは海底の篝火。
手をかざして点火する。
どうして海の底なのに燃えるのかなど、不思議の国だからに決まっているだろう? あるいは不死者のための篝火だから。むしろ篝火に火が灯ることに理由が要るのか?
しかし、いまのフラッシュバックは……
私は篝火の前に座りこんで考える。
諸悪の根源、か。
あの節だけを思い出すなら、私は事を起こした戦犯の記憶に目覚めたといえるが。
しかし師匠の友人がどうのこうのという話だったはずだ。
詳細はいつものようにうろ覚え。
ただ、なんらかのなんらかによって利用されただけだと感じる。
悪人ではあるまい。
名前は……だめだ、思い出せない。
ここいらでひとつ、熟考してみようか。
不思議の国をメチャクチャにした主は、一体何者なのだろう?
ああ、ああ、黒幕は言うまでもなく彼女だろう。
だが属性が違う。方向性が違う。毛色が違うし毛並みが違う。
あまりにも違いすぎる。なにもかもが。
だから彼女じゃない。
むしろ彼女の力が使われているのでは?
……許せない! 彼女を
そう、愛だ。なんというか――――愛がないのだ。あるいはロマンがない。どれだけ歪んでいようと、アレには愛があった。愛を感じた。縊り殺したいくらい愛で溢れていた。ここは違う。愛を感じない。あるいは愛の定義、愛の概念が違いすぎる。箱庭をキチンと作るには、愛が必要だ。ロマンが必要だ。
そのときである。
頭の中で理解しがたい灰色の脳細胞のようなものが蠢き、声無き囁きを告げたのだ。
アクロイド殺し。
複数の時計。
死者のあやまち。
ビッグ4。
黄色いアイリス。
ABC殺人事件。
第三の女。
死との約束。
ひらいたトランプ。
……ああ、どれも噛み合わない!
近くて遠い不揃いのピースだ!
ひとつの真相がパズルとして完成しそうな気がするのに!
アイデアの塊だった全盛期であったらばこんな謎!
しかし思い描いていた本筋とはズレた発想をひとつ閃いた。呼鐘のベルマンは、童話を落とさなかった。ロストエンパイアでは、霧の向こう側に待ち構える者の多くは童話を保持していた。確かにスナーク狩りは童話ではないが……いま思いかえせば、胞子の森に浮かんでいたあの本は童話だったのではないか? 回収すれば良かった。ああ、思考が脇にそれる。ここが正念場だぞ? 考察しろ。記憶に留まらずとも……ダイイング・メッセージだけは残さなければ。私は探偵では無い。薄汚い盗賊に落ちぶれさせられた、むしろ被害者だ。被害者は被害者なりに、後に続く者へとヒントを残す義務がある。童話のない強き魔獣。何者だ? そういえば、四大悪夢に童話を保持しているのだろうか? それは思い出せない。だが無いような気がする。愛を欲している? 分からない。だいたい、何が表現したいんだこの箱庭は。ロストエンパイアはとにかくドス黒く後味の悪いバッドエンドを表現したがっていたのが体感して分からされた。ソウルが黒く染まるほどに悲劇が渦巻いていて、実に様々な形で表現していた。底意地の悪い構築であった。ああ殺したい。はやく彼女を愛さなければ。ここはどうだ? 誰に何をどう示したい? 不思議の国という土台を何染めにしているのか、理解しなければ。ごぽごぽと湧き立つ泡の音がうるさい。海草だったものが触手に見えはじめた。どちらかが幻覚だろう。あるいは両方が。どっちでも同じようなものだ。絡まる女もいないしね。どんな箱庭を作ろうと、そこに留まりたいと願う者がなければ無為。こんな狂った土地に引き寄せられる者はなんだ?
この箱庭の土台は、不思議の国――――アリス?
なにか。
もう少しでなにか閃きそうなのだが。
理解しがたい灰色の脳細胞のようなものに閃光は走らない。
アリスが、なんだというのだ?
――――アリスを探さなければ。違う。それは私の疑問に何も答えていない。あなたのアリスはどんな顔ですか? 邪魔だ。顔はどうでもいい。もう気持ちよければみんなアリスで良いじゃないか! 色欲に溺れるな。意思を強く保て。総やかに在る魂達が主導権を奪い合い、抑えきれぬ欲求を満たそうとしている……頼む皆。今は譲ってくれ。ああ、クソが、あと少しなんだ、待ってくれ。ああ、ああ――――アリスを探さなければ。
……どうやら呆けていたようだ。
儂ももう良い歳だからな。
篝火の前で休んでいても疲れがとれそうにない。
アリスを探す前に、人肌のぬくもりを感じるべきだろう。
探索の疲れを発散しに図書室の夢に戻る必要を感じ、儂はすぐさま夢想はかの地へと飛んでいった。
図書室の夢。
探索の疲れをノーデとの和姦で癒し、彼女の耳元でいつでも愛してやるとピロートークを繰り広げたあと、ようやく私は私であることができた。失礼失礼。ちょっとお先に失礼します。内心に連続チョップすることで先を譲ってもらった私はまず、それまでの行為とはかけ離れたことをノーデに問う。
「童話、ですか?」
「ああ、お前は童話を持っているか?
胸を突いて殺しても何も残らなかったが」
「…………」
「言い方を変えようか。
お前の存在の核はどこにある?
篝火が不死者の寄る辺とするなら、童話はキャラクターの寄る辺。
彼女の創造体系を使いまわしているなら、確かな意思を持つ者はみな、童話を仮装し纏っているはずだ」
ノーデは何も言わない。
戯言さえも囀らない。
言葉でも縛られているのか?
沈黙は金。
逆説的に何らかの核心を突いていると分かる。
だが私の発想が核心のビーストの胸を刺したか喉を刺したか、それとも目ン玉を貫いたか、どの急所を刺したかまでは分からない。急所だと思い込んでいるだけで、実はなんら痛痒のない言語化しえない未知の部位Xである可能性もあるだろう。
あるいは彼女のまんまるもちもちお尻の餅に対して私の股間の杵で餅つきしつつ聞いても良いのだが、それでは信憑性が乏しくなる。
あとひとつ、なにかあれば。
そう、あと一人誰かの内臓を掻っ捌き、
とても重要な発想に至りそうだと言うのに。
……探偵自身が犯人であってはならない? 誰だお前はうるせぇな!
こっちは被害者だ! 人の皮を被ったバケモノどもを殺して何が悪い!(((訳注・彼は狂っていた)))
ノーデ以外の誰かのハラワタを引きずり出すしかない。
チェシャ猫? 論外だ。霧になって逃げられるだけ。
ドド? あの魔乳を捨てるだなんてとんでもない!
良識のある白熊や眠り病めいたカボチャ頭を開きにするのは憚られる。私は善人を自ら進んで殺したいとは思わない。それはほかに選択肢がなくなってからにしておきたいところ。
だがほかに宛てなど……【カキの匂いがする…。】オイスターの腐死海だ。あの年寄りカキは元より端役としか思えないが、彼女とは別に童話級の重要参考カキがどこかにいるかもしれない。探してみよう。
◇
「海には……塩が多すぎますの
コックを七人雇って、
半年塩の調味料を使ったおかず作りでどうでしょう。
そしたら塩は消えますの」
海底神殿。オイスターの腐死海を直感で進みたどり着いた先には人ならざる女がぼんやりとしていた。姿を現し問いを投げかけてもこの返事。
もう噛み合わない会話はうんざりだ。
ごきげんよう。標準語はわかるか?
「あら、ズドらーストヴィチェ、ですの~っ
わたくしの一人会話に混ざりたいんですの?
可哀想なお人……ぐすんぐすん
きっと過酷な境遇を経験してきたから、
魂も黒く歪んでしまったんですの」
余計なお世話だ。その乳も尻も肥えた女は栄養を胴体に奪われたためか、頭が足りないようだった。セイウチ女などという捕食者の元にカキはいまい。いてもきっと胃袋の中。
ああ、もう誰でもいい。
ただの端役ではなさそうな、キャラクターが立っていそうな女なら誰でも構わない。
そうとも。
お前が悪いんだ。
私は英語で喋れと言った。
さもなくば死ねとも言った。
お前はロシア語で挨拶を返した。
だから私は悪くない。
私は無罪だ。
理論武装を終えた私は、おもむろに盗賊の短刀を取り出してその女の腹を刺し、ぐりぐりと捻る。
「あ、ぃ……った………??」
女はあっさりと死んだ。
形成されたヒトモドキの身がソウルと化して儚く消え、私に取り込まれる。
後には何も残らない。
犯せそうな女の体に童話がない。
おかしい。絶対におかしい。
さあ、なにがおかしいんだ? 閃け我が脳髄!
……残念。アイディアロールは失敗だ。世界から音が消えただけに終わった。
所詮私は、探偵ではなかったということか。
いや、まだ諦めるな。
そういった事例がないでもなかったはずだ。もっと検証しなければ。
私は再び[見えない体]を唱えて道を引き返し『帰還の骨粉』俺に喋りかけるな。それは非常時に使う。自らの足で来た道を戻る。蟹にニンゲンモドキがうろつくオイスターの腐死海は、海の美しさと残酷さが入り混じる社会の縮図であった。
舗装された階段を駆け下りて海底の砂を踏みしめ駆ける。ふと思い浮かんだ
「ねぇ、そこのおじさーんっ♡
ちょーっといいかな~?」
この声色は……近い。
同じではないが、謎の声の主に近い。
私は声のでどころへと近づく。
そこにいたのは貝柱めいた人ならざる全裸の妖女(((訳注・妖魔と幼女をかけたカバン語)))であった。
お兄さんと呼べ。
「なーんで?
どこからどう見てもおじさんじゃーんっ♪」
デジャブ、ジャブジャブ、出ジャブジャブ。いや、イカレ鳥など出てきてはいない。
私はその台詞をどこかで何度も聞いたはず。
使いまわしているのは、こいつか、あいつか。
「ちょっとお。あたしの前でボケボケしないでよね。ムカツクなぁ!
で、いい?
ちょっとおつかい頼みたいのっ♪
あたしここから動けないから代わりにお願いしたいな~♪
ちゃんと成し遂げたらご褒美もあげるよ♡」
「ご褒美はいらない。
代わりに質問に答えてくれ」
「あれあれ~?
ご褒美いらないのぉ~?
他の人にあげちゃおっかな~~~???
……ま、いいよ。あたしのお願い聞いてくれたら、なんでも教えてあげる」
今度の相手は会話ができる。
しかも良心が痛みそうにないメスガキ。
なんて都合のいい女なんだ。
地下牢に監禁して事情聴取しなければ。
そのためにもまずは信用だ。私は彼女のおつかいとやらを受けてやった。
どうやら濁った魚を海の上の住人に売りさばきたいらしいので、図書室の夢は海の上だろうと判断した私は白熊に売りに行く。帰還の骨粉を使って篝火へ転移し、篝火から図書室の夢へ。大漁の濁った魚を仕入れて来た私に対し、白熊が差し出してきたのは200ソウル未満であった。いくらでも構わない。処分できればいい。生意気なカキの元へ戻る。
「ん? おじさんもう魚を配り終わったの?
くすくす、そっかそっか。ご苦労さま~♪」
カキ妖女はその後、喋りたくてうずうずしていたのか愉悦げに何らかの犯罪を自白した。そうか、そうか、つまりきみはそんなやつなんだな。お前が人間をどんな風に取りあつかっているか、ということを知ることができた。遠慮は無用と言う意味だが。
「あ、そうそう!
頑張って働いたおじさんにご褒美あげないとね~♪
あたしちゃんと忘れてなかったよ? くすくすっ
で? なにを聞きたいのかなっ♪」
「童話について聞きたいんだが、何か知らないか?」
「えぇ~童話ぁ~? くふふっ♪
ごっめ~んおじさんっ♪
おじさんがオコサマすぎてなに言ってるのかわっかんないな~♪」
「ありがとう。
その台詞が聞きたかった」
大人を舐めた態度をとるメスカキに対し、私はすぐさま閨勝負を挑み内部から腹をボコボコにして立場を分からせてやった。
馬鹿なメスガキだな。
大人の不死者にメスガキが敵うわけないだろう。
お前への強姦描写なんぞオールカットだよ。
ぐったりとしたそれを小脇に抱え、図書室の夢に連れ帰る。
ああ、ひとつ警句を残しておこう。
この物語の登場人物は全て本体年齢18歳以上でしょう。
外見年齢と異なる場合等がございますが何も問題はありません。
仮に卵から生まれたばかりに見えても本体年齢は別だから合法。いいね?
あれれ~? おかしいぞ~?
生意気なカキを分からせたのにタイマーストップしてないなぁ?
一体「だれに」「なにを」分からせるRTAなんだろうね~? きゃひひっ♪
追記・2020/10/12 誤字報告を適応