BLACKSOULSⅡ腹パンRTA 0:19:19:19   作:メアリィ・スーザン・ふ美子

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混沌虚無配信3

 

 

 

 ――鐘の話は止めて頂戴。フェアリーゴッドマザーのことを思い出して気分が悪くなるわ

 ――おっと、お姫様も来たのか。もうだいぶ進んでるぜ。

 ――儂は鐘が音を聞くとな、いなくなった愛娘のことを思い出してのお……げろげろげろ、我が娘よ、どうして儂を残して行ってしまったんじゃ……

 

「きっとお嬢さんはラブ・ディスティニーに惹かれて

 井の中にいられないまま飛び出しちゃったんだよっ☆

 きゃーきゃーっ♡♡」

 

 

 プリケットはキラキラとした目で流れ行くコメント群の中から自身の気を惹いたものに対し返答していた。その様子を横目に黄金の蜂蜜酒を収めたビールケース(12本入り)をまとめて椅子の横に運んだメイベルは、大きなのっぽの古時計のオルゴール音を止めて二度目の再開を宣言する。メアリィ・アンは黙して語らず、顔芸表情のまま静止していた。

 

 

「みんなもお酒を呑みなさい。お酒は人間の全ての感情を知り得るのよっ♪」

 

 ――これは良いダイマ

 ――産地直送のお酒は美味しいデスヨ

 ――ようビヤーキー。ハスターの旦那は来てねえのか?

 

「えー続きは、と。そうそう。タァイム短縮できたと思ったら巡り巡ってガバになるところからね」

 

「それじゃあ再開っ☆

 めーるめーるごー♪(乳母)」

 

 

 セピア色と化した映像は彼女が指を鳴らす音とともに動き出し、おじさんは篝火の前に座りこむ。メアリィ・アンの得意げな饒舌な語り口も絶好調だ。

 

 

『――調査の結果、この篝火のすぐ近くに隠し部屋があることが判明していますが(特に意味は)ないです。ほんとアイツは性格悪いよねっ! 隠し部屋にくらいすっごいアイテム用意しとけよっバーカッ!』

 

 ――うそだ。絶対に誰にも開けられないようにしてるし。誰も入ってきてないし。

 ――ふっ。周回記憶を持たぬものには分かるまい……

 ――虚無生える

 

「中に誰もいないなんてミステリーメイズみたいだねっ☆

 思わせぷりけっとっ☆」

 

「クスクスッ……♪」

 

 ――何? 何なの? これは、何?

 ――混沌虚無配信だが?

 ――新参者か。ワコツ、あるいはオツというのだ。それが取り決めである。

 ――えーっと、オツ?

 ――※このコメントは規制されています※

 

 

 途中参加故においてけぼりにされる観測者が混ざる中、おじさんは篝火転移により図書室の夢へ至る。しかし動かない。映像の隅のほうで、おじさんに意識を向けている白兎っ娘の様子が窺える。

 

 

 ――ノーデンスお前さっきからおじさんのことチラチラ見てただろ

 ――そうだよ(便乗)

 ――ミームの拡大が深刻だな

 ――アナヤ! なんたる悪性感染言語たることか! 我々は感染拡大に屈しない! シマッテコーゼ!

 

『おーい。もう転移してるぞー? はよ立てコラ……おいゴルァ! RTA免許持ってんのか? ヤベエヨヤベエヨ……どうする……ヤベエヤベエ……でもこの後アレやるために声かけは最小限にしたいし……あーあーあーあーあー!! 動いて動いて動いてよぉ! 偶然溜まった貯金が溶けちゃうぅぅぅうううぅぅうううう!!』

 

 ――タイム貯金を溶かしていく緑髪のアンの顔

 ――母国語と現地語の区別つかなそう

 ――フー! 気持ちいいゼッ! むしろ借金シロッ!

 

「ふうん? ノーデちゃんの方から近づくみたいだね?」

 

「そりゃあ主人公である彼に座りこまれたら物語が進まないもの。

 進行役として当然の対処ね。ぐびっぐびっ。

 ぷはーっ……ちなみに篝火毎にいるチェシャ猫の役回りも似たようなものよ」

 

 ――昔のあいつのアバターひげもじゃのおっさんだったよな確か……

 ――ホモでは?

 ――なんでもホモにするのやめろ

 

『オッサン! 刺せ! そいつを殺せ! チャートによって命ずる! ノーデをSATUGAIせよ!』

 

 ――緑髪が必死すぎる

 ――殺せと言っても夢テレパシー系のなんかで指示は出さない不思議

 

「あっ刺した」

 

『よっし! これで女殺しを躊躇わないマーダータイプのおじさんの意識も表層に出て来ます! 勝ったな。風呂入ってくる』

 

 ――実況して。役目でしょ

 ――鎖に吊られた女が風呂とか言ってるけど

 ――その風呂はともすれば実在しない架空の風呂なのでは?

 ――つーかノーデンス無抵抗に刺されるのかよ

 ――ワンダーランドこっわ。やっぱ行くのやめとこ

 

「おっさけ♪ おっさけ♪ んふふふふ~♪」

 

「メイちゃん酔っちゃった?」

 

「ぜぇんぜん酔ってないわよぅ♪

 こんなの酔ったうちに入らないから♪」

 

『はぁ~生き返るわぁ~(愉悦顔)

 あっそうだ。このへんにぃ、美味いラーメン屋の屋台、あるらしいっすよ? って待てや。何してんの!? てめーは呆然としてるところに復活したノーデンスから優しく声かけられて申し訳なさその他からついつい絆されて売るモン売って誓約する流れだろうが!

 やめろぉ(本音)ナンセンスゥ(本音)ンアッー!』

 

 ――おじさん盛りすぎ

 ――三分に一回はエロガバする男

 ――やだ……なにこれ……

 ――ふしだらな股ガバ女が……ッ!

 

「歯車バグで想定とはズレた乱数を引き当てたから、その後にメアリィ・アンが夢想する展開とは似て異なるのは当然っ♪

 おっとっと、杯が動いておしゃけが注げないわ」

 

「銀の杯は動いてないよメイちゃん?

 だいじょーぶ?」

 

 

 酔いが回ってきたように見えるメイベルに声をかけるプリケット。変わりに注いであげようと彼女の手中で震える瓶を受け取ろうとしたところ「ワタシのおしゃけダメっ! あげないもんっ!」と拒絶されてしまった。

 【最古の神】歳児の駄々にプリケットもたじたじである。

 今夜のホストとはなんだったのか。

 

 

「っていうか良く考えたら杯に注ぐ必要ないじゃないっ♪

 らっぱっぱーらっぱっぱー♪ ぐびっぐびっぐびっ」

 

『すいませぇーん。ざこおじさぁ~ん。

 まぁ~だ時間かかりそうですかねぇ?

 いつまでヤッてんだお前ら。ボクも仲間にいれてくれよ~♥️

 ラブアンドピース! やっぱり平和が一番! はっきり和姦だねっ♪』

 

 ――この発言はウカツ!

 ――なんだこのおっさん!(驚愕)

 ――※このコメントは規制されています※

 

 

 ソウルの深遠から滲み出たであろう言葉に我を取り戻し、おじさんは周囲をキョロキョロと見回した。かの発言はオリチャー発動の序章であった。インガオホー! スペース・ラビットもメアリィ・アンのブザマを内心で嗤っていることだろう!

 

 

「なんかこれ、身バレしちゃってる、のかな?

 もーどうしようも無いんじゃないかなっ☆」

 

 ――もう。さっきから不潔ね。なんでこんなものを見せるの?

 ――今度は頭おさえた。

 ――闇の力に目覚めそう

 ――もう目覚めてる定期

 

「……ふぅ。満足満足。

 えっとねー。おっとっと。

 んんっ、ここはまだリカバリする場面わよ。反動でガバるけれど」

 

『ガバの巧妙キタこれ! オラッリカバリ!

 よく聞いてね、ちょっと複雑で、馬鹿にはわかんないと思うけど♪

 和姦はキャンセルだ。先に堪能したしいいだろ? ここで先行入力! 今この瞬間以降はほとんど言うこと聞かなくなるんで精神衰弱中に言いたいこと全部言いまっす! 刷り込み! 催眠! 夢テレパシー!

 ……はい! あとはラス前に微調整するだけでオッケー!

 ボクの完璧なチャート見とけよ見とけよ~』

 

 ――特大ガバの予感

 ――今からビルちゃんのところに行く可能性が微粒子レベルで存在している……?

 ――諦めろ。トカゲのビルの出番は無い

 ――畜生! こんなのレギュレーション違反じゃないか!

 

「売るもの売ってノーデンスと限界まで誓約。

 これによっておじさんの体力はワンダーランド計算式で1.5倍に跳ね上がるわ。

 ソウルレベルが19でもベルマンの攻撃がかすめても耐えられるというわけ」

 

 ――ベルマンって誰だっけ?

 ――鐘を鳴らす女は殺せ!

 ――なんかだんだんごっちゃになってきてんな

 ――ワンダーランドドリームに呑まれたか。

 

「シロクマちゃんから買ったのは、輸血薬っ☆

 何に使うんだろーねーっ♪」

 

「ベルマン戦で運悪くガバりまくった時用の保険ね。

 火炎壷は……別に無くても倒せるけど、手癖かなにかじゃない?」

 

 ――チッキン! コケー!

 ――実に無味乾燥とした話ですな

 

『じゃあビリングズゲート魚市場に戻ってもらって、ベルマンの下へいざ鎌倉! の前に白鴉の指輪は拾って装備してもらいまっす! コレないと死ぬんで』

 

「さぁて、再びビリングズゲート魚市場に戻ったことだし。

 そろそろこのRTAのラスボス戦ねぇ。

 呼鐘のベルマン。いまのおじさんと比較してとても高い体力を持っていて、サイズも大きい。タイダルウェイブ(弱)と闇の群来を基本技に、長官(チーフ)モードでは足踏みによる踏み潰しや巨体を生かした体当たりも仕掛けて来るわ。船から樽を投下して油まみれにしたあと火をつけようともする。怒り状態になれば溜め行動の大砲に、三人の部下を呼ぶようになるわ」

 

 ――強そう

 ――強い

 ――三人に勝てるわけないだろ!

 ――あ~もう……もう抵抗しても無駄だぞ!

 ――何故ホモは湧くのか

 ――ここでガバ来いヨォ~!

 

「蟹さんこんにちわっ☆

 さよ~ならっ♪」

 

 ――深きものどももすっかりワンダーランドに馴染んでんな

 ――あの赤いやつはなんなわけ? 突然変異?

 ――さあ?

 

『素性盗賊は[見えない体]覚えたらずっと使ってくれるから道中は楽チンチンっ!

 この特性は精神的ジョブチェンジをしても引き継がれます!

 前の童話ではガバられたマーメイドも怖くないっ♪

 ……? だから前の童話ってなんだよ!』

 

 ――楽しい腹パンRTAでしたね……

 ――記憶を消された?

 ――そう考えるのが自然かと

 

「メアリィちゃんは神サマに都合よく改変されちゃってるんだねっ♪

 いろんなこと覚えてたり忘れてたりしてるよっ☆」

 

「そのあたりの事情を知ってるのは私とあなたとノーデンスと……フフッ。

 はやく彼女にこのプラカードを掲げたいわあ」

 

 

 メイベルは視線を自身が腰掛ける椅子の後ろに向け、それを一瞥する。ワンダーランドで良く見かける、木製の立て札があった。書きこまれた一文は暗黒室内であるからよく見えない。しかし、何らかの悪意ある文言が書かれているだろうことは容易に想像できる。

 

 

『白鴉の指輪ゲット! 装備! それでは、ベルマン戦です!

 イクゾー!(デッデッデデデデ!カーン!デデデデ!)』

 

 ――鐘鳴らしの……男? どっちでもいい! 殺せ!

 ――ベルマーン!

 ――ガバらせちマエッ!

 ――何これ怖い

 ――変形機構ヤッター!

 

「あっちょんプリケットっ☆

 おじさんの応援が少なすぎるよ~☆ミ

 私はおじさんの応援するねっ! 頑張れっ♪ 頑張れっ♪」

 

『戦法はこうです。

 開幕回避、オレンジママレード、回避、糞団子、回避、妖精の燐粉、待機、あとはメリケンで殴るだけっ!

 S200確保してるんで、先手は譲らず、以降は確定で二回行動できます。

 キノコの盾で毒を継続させて、リンゴの指輪で睡眠狙いだよっ!

 怒り状態になる前は起きちゃうけど、怒った後はダメが通らなくなるから眠らせ放題ポジらせ放題なんだよねっ♪』

 

 ――卑劣な戦法だ……

 ――鬼が言うと言葉の重みが違うな

 

「あら、解説することが無くなったわ。

 そうねえ。あえて付け足すなら同じソウルレベルで武器を盗賊の短刀にしておけば怒る前からむにゃむにゃ」

 

 ――よぐっ!?(一般的なヨグ=ソトースの鳴き声)

 ――メイベルちゃんがおねむの件

 ――運ゲーなのに何故か危うげないな。被弾は一発だけか。

 

『怒り状態入った! 工事完了です……(フライング)

 死ぬまで殴るの止めるんじゃねーぞ。最後の一発くれてやるよオラァン。最後の一発……最後の一発くれてやるよオラァン。まだ? 最後の、最期の、さ、さ、さ、最後の一発くれてや…………あくしろよ』

 

 ――メリケンが全く効かぬ相手だからといって、一発の力に頼ってはならぬ。死ぬまでポジ昏睡メリケンで叩くのだ!

 ――まったく死期読めて無くて虚無

 ――チッ

 ――毒! 猛毒! 睡眠! 侍として恥ずかしくないのか!

 ――侍ではないのでセーフ

 

「すごーい! 勝っちゃった!

 おじさんカッコ良いよっ!」

 

『オラッ! 恍惚に耽ってる場合か! 走るんだよっ!

 もう例のアレの補正が切れてるのでこちらの言うことはほぼ聞きませんが、助言で騙すことはできます。じゃけん嘆きの浜辺で真っ赤の嘘を用意しておきましょ~ね~』

 

 ――真っ赤な嘘とは?

 ――悪しき助言は全く無いわけではないが

 

「真っ赤な嘘は、夢テレパシーの類のちょっとした応用ね。

 SEN変動回数が一定数超えると、メアリィ・アンはおじさんにありもしない幻を見せられるようになるの。回数を重ねれば重ねるほど色々、ね。

 当然制限もあるのだけれど、割愛するわ。

 序盤に誘導しまくっていたのはこの浜辺で真っ赤な嘘をつくための布石ね」

 

 ――それにしても汚い砂浜だな

 

「クイーン・ランドにキレイなレジャープール用意できたら

 私もかわゆ~い水着、用意してたけどなっ♪」

 

『こっちにおいで……おいで……来い来い来いハイ釣れた~♪

 あったまわるわるざっこおっじさ~ん♡好きだよ♡

 そいじゃ、あとはウィニングランなんで、一足お先に完走した感想でも。

 ぬわああああん疲れたもおおおおん(チカレタ)

 やめたくなりますよ~RTA

 タイム、どう? ……いま14分!? ええやん!

 このままいけば15分台かな?

 世界一位、ですかねぇ……

 まあね、おじさんの性の裏技とかね、試走を重ねてるときに色々分かって良かったんですけど――』

 

 ――残心が足りぬ

 ――19:07:21……あっ(察し)

 

「ガバ。それも特大の」

 

 ――わくわく

 ――どきどき

 ――もう待ちきれねェヨ! 早く出してクレ!

 

『はい海中ぼんふぁいあっ。

 あとはメスガキ殺そうとして返り討ちにあって、分からせのためにBF挑んで勝利して地下牢にブチ込む! 最後に探偵ムーブでインタビューすれば終わり! 閉廷! 以上! 皆解散!』

 

「……って、言ってるケド。

 座りこんじゃってるねっ☆ミ」

 

『……ん? おーい。まだ終わってないぞー?』

 

 ――虚無

 ――なんで彼は海の中で平然と行動してるの?

 

「不死者は泳げないから」

 

 

 おじさんは篝火をじっと見つめながら動かない。熟考。という単語がもっともふさわしいだろう。メアリィ・アンの声かけも全く通じていないようだ。さっきまで余裕ぶっていた彼女の表情は徐々に崩れていき、観測者達はその表情の推移を嘲笑う。プリケットは二杯目のツドクミルクを飲み干し、メイベルは黄金の蜂蜜酒をラッパ呑み。

 

 

 

 

 

 

 …………そんな室内の様子を、プリケットが入室した鏡の向こうから、顔を押し付けて中を覗きこむ者がいる。

 

 

「なんで邪魔するのなんで邪魔するのなんで邪魔するのなんで邪魔するのなんで邪魔するのなんで邪魔するのなんで邪魔するのなんで邪魔するのなんで邪魔するのなんで邪魔するのなんで邪魔するのなんで邪魔するのなんで邪魔するのなんで邪魔するのなんで邪魔するのなんで邪魔するのなんで邪魔するのなんで邪魔するのなんで邪魔するのなんで邪魔するのなんで邪魔するの」

 

 

 それはエプロンドレスで着飾っていた。青白の。

 金髪をまとめるヘアバンドは、彼女の名前を冠している。

 一見、普通のロリータコーカソイドのように見えるが……しかしその顔は……オボボーッ!

 

 神話【未知なるカダスを夢に求めて】にも書いてある。

 

 偉大で、曖昧模糊とした、形容できない、通り一遍の無表情をぶっちぎりで超越した無貌。一目見ることを恐れながら熱望してしまう神性はきっと、見るものの理性を溶かし狂わせるのだろう。

 

 端的に語ろう。

 彼女はアリスの化身(アバター)を纏ったニャルラトホテプだ。

 略してニャリス、と以降は呼称する。

 

 ニャリスは自らの恋人(と思い込んでいるだけ)でありワンダーランド本来の創造主、旧支配者であるルイス・キャロルに懸想し、知性をもたない(ように定期的にブレインウォッシュさせる)主人の理想(に決まっている)と自分の夢想をブレンドして再現するべく、密やかに暗躍する邪悪なる恋心に狂った黒幕である。ヤック・デカルチャー!(ゼントラーディ語)

 

 彼女はいましがた混沌の彼方より飛来した伝播情報を受診し、愛しい彼が遠隔操作され、その上見世物のような扱いを受けていることを知り、取る物も取り敢えず発信源を覗くべく、とある特別な鏡の元へすっとんできたのだ。

 

 

 恋に障害はつきもの。

 けれど、これはいけない。

 彼の自由意志が穢されている……冒涜的!

 あの人にはアリスを追いかけるという崇高な使命があるのに。

 永遠に恋する相手を捜し求め続ける運命なのに。

 その強い意思を……狡猾に愚弄!

 絶対に許されない!

 

 

 多くを語る必要はあるまい。

 恐るべきダブルスタンダードである、とだけ申し上げておこう。

 

 ニャリスのどこのあるかも定かではない瞳の奥の脳髄に、白兎のノーデと彼が愛し合う姿が映しだされている。

 視界の右上隅に、ガバはやめろとひたすら喧しい、あらゆる権力を封じたはずの二次創作者がいる。

 複数の赤い文言が右から左に流れ……無数の多様性が法則に囚われぬ千変万化によってさまざまな情景が混沌といり乱れ、騒然といたるところから観測者があらわれていることが察せられる。

 

〈窮極の門〉の彼方で顕在化している局所的な概念の片鱗がそこにあった。

 なんと悪趣味なパパラッチ行為だろう!

 

 

――縺雁燕驕斐∩縺溘>縺ェ(お前達みたいな)騾」荳ュ縺後>繧九°繧�(連中がいるから)雋エ譁ケ縺ッ諱倶ココ縺ョ縺ィ縺薙m(貴方は恋人のところ)縺セ縺ァ霎ソ繧顔捩縺代↑縺�s縺�(まで辿り着けないんだ)

 

 

 這い寄る無貌の少女は鏡を通り抜けようとするが、うまくいかない。彼女が覗きこむ鏡は、本来その領域を見る鏡ではないからだ。鏡よ鏡、鏡さん、などと呼びかけて、往来できるよう改変するには時間がかかる。

 

 しかし良く見れば、ズブズブと掌や顔面が鏡を越えつつあるではないか! コワイ! ある一定の領域を越えれば一息にすり抜けてしまうだろう。ジャパニーズ・ホラーを想起させる、心胆を寒からしめる光景だ。

 

 

 

 さて、ニャリスが次元の壁を越えるまでのしばらくの間、二次創作用語的な意味でのメアリー・スーについて語らせて欲しい。配信映像も放送事故並みに動きがなくて語ることがないのだ。

 

 

 

 二次創作用語的な意味でのメアリー・スーとは、あるひとつの物語において異常なまでに優遇され、その結果物語から浮いている存在を指す。時には原作主人公を騙りながらも原作主人公より格段に優れていることもあり、もはや作者の……創造主の分身であるオリジナルキャラクターのようなありさまなのだ。

 

 作者の分身。つまりは化身(アバター)だ。

 

 そう、ニャリスはメアリィ・スー(((訳注・中黒の前が『ィ』のほうはBLACKSOULSの黒幕)))なんかとは違う優れた存在である自己を投影した「わたしがかんがえたさいきょうのありす」のアバターを被っているのだ。まさかアリス・リデル本人がこのような醜悪なワンダーランドを夢想するはずがない。

 

 世に【ふしぎの国のアリス】の物語が世に広まった際、かの童話に憧れてアリス・リデルと言う名の少女に自己投影した幼子がどれほどいたことだろう……きっとニャリスもまたそのうちの一人であり、そのモデルとなる少女と原作者の恋物語を延々とウォッチングし続けたウォッチャーでもあった。

 

 

 そこから何をどう拗らせてこうなったのか。

 我々は、誰も知らない。

 

 

 ずるり。

 

 

 ニャリスは人知れず鏡を通り抜け、頭から暗黒の室内に入り込んだ。

 そのまま這い寄る混沌のポーズを維持してメイベルの元へ文字通り這い寄る。

 理不尽なる映写機状の意味不明の光を遮らないように。

 

 酒臭い吐息を漏らしフンフンと鼻歌をうたうばかりの彼女は、まるで気付いた様子がない。

 無力な少女の化身を纏うメイベルを、ニャリスは秒と経たずに絶命させることができるだろう。

 どれだけ多く見積もっても2秒はかかるまい。

 

 だが簡単に殺してしまってはダメだ、とニャリスは考える。

 

 

 徹底的に反省させて、アリスの引き立て役以上の余分を削ぎ落とさなければならない。

 端役としての身分を分からせるのだ。

 外宇宙にワンダーランドのすばらしさを布教する広告塔としての役目や、思い通りの姿をとれる魔術的要素を除いた権能を没収し……みすぼらしいメイベルもまたメアリィ・アンのように閉じ込めてしまおう。もう二度と、彼を惑わせるあらゆる余計なことをしないように。

 

 

 決意を固めるニャリスの目がターゲットである彼女の首元から滑り、腰掛ける椅子の背後にあるプラカードに吸い寄せられる。

 

 

 暗黒を見通すニャリスの瞳は、そこに書き込まれた一文を看破した。

 

 

【m9(^Д^)こいつ最高にアホ】

 

 

「はあ?」

 

 

 思わずニャリスが言葉を漏らした瞬間。

 天井から檻が降って来た。

 耳に障る轟音とともに、呆然としてしまったニャリスはあっけなく囚われる。

 

 

「はい釣れたクマーっ♪

 おめでとうプリケット。時は満ちたわ。

 さあ、行ってらっしゃい。

 ここからが本番よ。

 躊躇わずに、言ってきなさい。

 その結果、たとえどのような結末になったとしても、アナタの魂に祝福を捧げるわ」

 

「メイちゃんありがとっ!

 持つべき者は友だちだねっ!

 私、頑張るっ!」

 

 

 言うが早いかプリケットは立ち上がって駆けだし、鏡の中へ飛び込んだ。その躊躇いの無い動きだしの速さは、何かしらの計画に沿っていたかのよう。ニャリスはメイベルを睨みつけ――その背後に、そして瞳の奥に生意気なカキを分からせている愛しい彼の姿を見た。急転直下の状況とともに投影される光景に、頭が沸騰した彼女は強く思った。

 

 

 ――うわきしないで

 ――おっと、ついに来たか……歓迎しよう! 盛大にな!

 

 

 ニャリスの思いが伝播しコメントとして右から左へ流れはじめた途端。

 メイベルは指を鳴らし、それに呼応して映像が静止する、のではなく、あたかもドリフ・コントの倒壊オチが如く室内の壁が外開きに倒れた。

 

 

 倒壊した一室の外はメイベルの夜空の瞳に留まった、建造物を無造作に散らかしたかのような領域が広がっている。

 

 盤上世界、シャトランジ。

 

 その真名をあえて使わず、メイベルは件のプラカードを掲げて演ずるように声を挙げた。

 

 

「挨拶が遅れたわね。

 はあいアリス。いらっしゃ~いっ♪

 アナタが来る日を、ずぅ~と待ってたわ♡

 クイーン・ランド、幻のアトラクション、混沌ダンジョンへようこそ!

 このままワタシの宝石箱の中で眠らせてあげましょう。

 その方が永遠に夢見る事が出来てきっと幸せよ?

 ずっとずっと、いっしょに遊びましょ?

 だってワタシたち、オトモダチじゃないっ♪

 ……あら、間違ったかしら? ごめんなさい?

 始まりも終わりもないコーサス・レースのような身の上と言えども、何を識るかはワタシ次第だもの。ウフフフ……」

 

 

 チェシャ猫めいたメイベルの戯言など意に介さず、恋に狂いはすれど計算高いニャリスの脳裏はプリケットの迅速なる離脱と囚われた自身という二点から、敬愛する原典に記されているさりげない一節を連想していた。

 

 "昨日になんて戻れない。だって昨日の私は別人だもの"

 

 その一節は時間逆行クリスタルなる概念とは相容れず……同時に、狂いに狂ったワンダーランドの真実の一端をつく魔法の真言でもあった。同時に、ニャリスにとって最悪の発想が浮かぶ。

 

 

「――まさかっ!」

 

「そのまさかよ。フフフッ……♪

 自ら動こうとするから無様にも玉座から転げ落ちるのよ。

 万物の王たる者と自負するなら働かずにふんぞり返ってればいいのに」

 

 

 怒り心頭のニャリスは檻の外へ右手を突き出した。勢いのままその肉体は変異し、右腕の内側からぶちゅぶちゅと盛り上がりに盛り上がり、異形の肉壁と化して濁流の如くメイベルを圧殺せんと迫った。が「きゃ~殺される~っ……♪」と彼女は道化のように叫んで、空虚なる混沌に紛れるかのように姿を消した。

 

 あとには【m9(^Д^)こいつ最高にアホ】という看板だけが残った。

 理不尽なる映写機状の意味不明も、黄金の蜂蜜酒が詰まったビールケースも消えている。

 

 ニャリスは変異した右腕を振り払って檻や看板を破壊し……幼女のそれへと戻す。

 帰らなければ。

 帰らなければ。

 帰らなければ。

 一分一秒でも早く帰らなければ。

 彼がいるワンダーランドに帰らなければ。

 

 

 

 

 アリスの役割を盗られてしまう(アリスサイド・キャスリング)

 

 

 

 

 ……こうして古王RTA、あるいは混沌ダンジョン全ボス撃破RTAの序章は始まるのだが、そこから先は分からせRTAとは意の異なる次元に向かう、まったく別の話。

 

 

 

 

 閑話休題にして序破急。

 過熱した欲望は過程を省略し、遂に危険な領域(少女の悪夢)へと突入する。

 メアリィ・アンの夢想するRTAリレーの最終局面。

 FエンドRTAは……もう始まっとる!(周回プレイが

 

 ここから先はもはや後付け視点ではなく、実況もなく、真のリアルタイム配信となる。

 

 今回覚めかけた夢の世界を走る少女の名はプリケット。

 筆舌尽くしがたい美貌と、均整のとれた体……

 果たしてこの少女は、胸に秘めた想いを成就することができるのでしょうか?

 それでは、ご覧ください

 

 

 




 





補足
さまざまな考察の結果、BLACKSOULSにはメアリー・スーが二人居たという結論に達しました(DLC2第二弾【OLD KING OF THE CHESS 盤上の古王】時点での感想です。実際の設定とは異なる場合がございます)

メアリィ・スーは一次創作を冒涜的に蹂躙する、概念的な意味でのメアリー・スー
ニャリスは主人公の皮を被って中身を隠しきれてない最強オリキャラ化してるところがメアリー・スー

そのようなレッテル貼りをし始めたらキリがないのは分かっていますが、二人とも邪悪な黒幕ポジションだし良いでしょ?(偏見)

しかしそのようなレッテル貼りを許容できない方もいるだろう。
邪悪なるレッテル貼り二次創作者を論破するためにも紅ずきんの森、BLACKSOULS、BLACKSOULSⅡを決断的に購入だ!(ダイマ)







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