BLACKSOULSⅡ腹パンRTA 0:19:19:19   作:メアリィ・スーザン・ふ美子

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アリスより先に指輪を探すRTA、はーじまーるよー。
今回は図書室の夢で目覚めるところから






実走者視点2

 

 

 

 暗転した視界は、数度のまばたきという僅かな間であっさりと光を取り込み晴れていく。

 ここは……?

 さっきまでの、森の中とは違う。

 

 斬り殺されたと思ったが、なんだただの夢か。いや悪夢か。

 

 図書室。周囲を見回して、すぐにそう思った。

 室内には本棚が並び、雑多なものがテーブルの上に溢れかえっている。

 

 そうだ、私はここを知っている。

 

 懐かしき図書室を模した夢の世界。

 世界の全てと繋がっているが場所がどこにあるか分からない。

 

 そう、ここは図書室の夢。

 

 ふと体に引き攣りを感じ、手元に視線を落とす。

 狩人の装束の下の素肌は、生気を失ったかのように乾いていた。

 なんだ、これは。

 これではまるで、まるで亡者ではないか。

 私は……狩人で、獣狩りの夜に……いや、違う。そもそも、私はロストエンパイア解放のために立ち上がった騎士の一人……四方の魔姫を統べる者シンデレラへの革命は叶わず……紆余曲折の末、アイバーン砦の牢に繋がれて……それから、それから、それから……

 

 あ、れ?

 私は、狩人じゃ、ない?

 だって、アリスは、狩人だって言ってたのに。

 

 ううう。

 うううううううう。

 うううううううううううううううううう。

 

 頭が、割れ、る、記憶が、逆流、する。

 

 ジャンヌ。ヘルカイザー。五魔姫。聖域。祈り主。心折れた勇者。聖域の森の、北には、緑の、妖精。

 

「うーうーうるせえな。

 図書室ではお静かに、って言葉を知らんのか」

「!?」

 

 私の思考を遮る声。

 堰を切ったかのように記憶が溢れだしたというのに、たったそれだけの刺激で記憶の氾濫が止まってしまった。

 とっさに本棚に身を隠す。勢い本棚の前に何故か平積みされた本にぶつかり、崩れた本のどれかに挟まっていたのだろう二つの指輪が私の足元に転がり込んできた。さっと懐にしまう。声の出所へと短銃を向けて覗いて見れば、机を挟んだ向こう側には薄汚れた白熊のぬいぐるみが置いてあるだけだった。

 ぬいぐるみの目がこちらを見て、口を開いた。

 

「よぉ、あんた……災難だな。

 こんな所に落とされるだなんて同情するぜ。

 俺も同業者だよ、あんたと同じさ。

 ……まずはその物騒なモンを仕舞ってくれ。敵じゃない」

 

 そんな風に言葉を続けた白熊のぬいぐるみへと構えていた短銃を下ろし歩み寄『走って♡』駆け寄る。

 同業者……狩人の装束を見てそう言うなら、彼は元・狩人だろうか?

 

「俺は今シロクマって呼ばれてる。

 奴らに良いように使われてるただのしがないぬいぐるみさ」

 

 シロクマは自力ではほとんど動けないらしく、座った姿勢のままこちらを見上げようとすると姿勢を崩し、体を起こすことができないようだった。

 

 私は狩人の身に生まれ変わったが、シロクマはぬいぐるみに生まれ変わったということだろうか? 「かの上位者」の手によって。

 どういう挙句の果てに至れば、そんな姿になるのやら。

 

「奴らにとっちゃ俺たちは玩具みたいなもんだ。

 ……あんたの目的はアリスを探す事だろう?

 大丈夫。きっと見つかるさ。

 俺でよければ力を貸すぜ。

 熊の手でも良ければな。うくくっ……」

 

 アリスを探す。

 そうだ。私にとってこのシロクマが一体何者かなどと、そんなことはどうでもいい。重要なことじゃない。

 

 アリスだ。

 アリス以外のことを考えている場合ではない。

 私はアリスを探さなければならない。

 どいつもこいつもおかしな連中ばかりだから、こっちの頭もおかしくなったのかと思いかけていたが、存外話の通じる相手はいるらしい。

 アリスはどこだ?

 

「悪いが、今は知らねェな。

 昔はここにいたらしいが、俺がここに置いてかれた時にはもう居なかったよ。

 だが不思議の国のどこかにはいるはずだ。

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 かくれんぼは、鬼が探してくれなきゃ遊びにならんからな」

「……」

「って、おいおいその顔、あんた死に戻りしてんのか?

 力を貸そうにもソウルが0じゃ買えるもんも買えないじゃないか。

 ……仕方ねェ。一回限りだぞ?

 ほら、これで好きなもん買うといい。俺がいろいろ売ってやる」

 

 シロクマはそう言って、干からびたミイラのようなありさまとなった私に向かって確たる形を持たぬソウルを流し込んでくれる。

 体感にしておよそ500ソウル。

 早々に人間性をなくさぬ程度の量はありそうだ。

 

『兎の鍵売って投げナイフ買って』

 

 アリスの声。私は導きに従い、道中で拾った鍵をシロクマに売り払う。

 25000ソウル相当という想像を大幅に上回るソウル量に面食らった。

 これだけあれば足りるだろう。投げナイフをくれ。

 それも一本や二本じゃない。

 私が持てるだけ持てる、全部だ。

 

「あんた……いや、いい。毎度」

 

 ……?

 今さらだが、何故私は、このソウルの奥底から滲み出る声をアリスだと感じているのだろう?

 そもそもアリスとは、こんな声色だっただろうか?

 そもそもアリスとは、こんな喋り方をしていただろうか?

 このアリスは、あのアリスなのか?

 

 否。アリスを試みることなかれ。聖書にも書いてある。

 

 ――――ああ、それでも尋ねたい。アリス、アリスはいまどこにいるんだ?

 

『分からない……どこかに閉じ込められてるの。

 だからほもっ。私を助けに速く来てっ!』

 

 囚われのお姫様。

 それを救う騎士という図式。

 王道の中の王道を行く、童話のような物語。

 ならばもう、それでいい。

 何故アリスが私の素性を狩人だと伝えてくれたのか?

 そんなことはどうでもいい。

 私は、アリスを助ける。

 そして守る。

 もうそれだけでいい。もうそれだけでいい……継ぎ接ぎだらけの記憶に振り回されるのはもうたくさんだ。

 私は図書室の夢にあった篝火に手をかざして火を灯し、座りこんで行き先を思い浮かべる。

 篝火は不死者の寄る辺。

 故郷を離れた人間がふとカントリーロードを思い浮かべるように、不死者が篝火に座りこみ過去に手をかざした篝火を思い浮かべれば、篝火間を行き来できる。

 なにせここは不思議の国。

 不死者の中でも選ばれた者にしか使えないだろうその現能は、この国でならきっと誰でも使えるのだ。

 私があちこちで篝火に手をかざしていたのは、不死者の本能が篝火を求めていたからやもしれぬ。

 

 不死者?

 そう不死者だ。

 不死者である私が、何故死んだ?

 そもそも、不死者が死ぬはずがないではないか。

 瞬間、思考に、ノイズ。

 

 

 

今日もおはようございます。

どこか心臓疾患か統合失調の場合、手を尽くしましたが甲斐なく診断しますか?

あなたはきっと具合の悪い前頭葉がやたらとでっぱったりしていますね?

人生に不具合が無いことを証明する必要があります。

 

 

 

 

チョッキを着たウサギ? 喋る花?

そんなもの現実には存在しない。

お前は病気だよ。

■■■■■■■■?

じゃあ■■■■■■■■■■■■■■■だろうな。

 

 

 

 

今すぐ精密検査しますので手術台に寝てください。

投薬治療は痛痒感などを患者に与える事無く、ロボトミー手術を効率的に処理します。

まずはドリルで穴をあけるところから始めます。

 

 

 

 ……なんだか突然、脳髄の余分な過重が消え去った。

 ような気がする。

 むしろ爽快感さえある。

 はて、何を考えていたのだったか。

 そうだ、アリスだ。

 アリスを探さなければ。

 

 アリスの声は、あのカボチャ頭の男の姿に反応した。

 奴ならば何か知っているはずだ。

 私はあの森の……リデル墓地の篝火を思い浮かべる。

 記憶にはなくとも、私の魂……ソウルがその本能を覚えている。

 ならばやはり私は不死者なのだ。

 狩人ではないのだ。

 自分が狩人だと思い込んでいた不死者という、ただそれだけのことだった。

 どこで知ったか覚えたか、獣狩りの作法は心得ているようだが。

 しかし一体どういうことか、体の機能がついてこない。

 自身の動きが明らかにノロい。

 あの剣閃、目で追うこと自体は可能だった。

 しかし意識に肉体がついてこず、不覚を取ることとなってしまった。

 やはり「かの上位者」は敵だ。

 どのような手練手管かは知らないが未成熟な肉体に私の意識を移し、弱体化を図ったに違いない。

 今の私では奴に勝てるかどうか……

 

『ほも、パンプキン・オー氏は敵じゃないよっ。

 マルガレーテ公爵夫人の旦那さんだったなー、って思っただけ。

 ねえほも。愚鳥ドドと誓約して、もう一度話を聞いてみて。

 きっと知ってる筈だから』

 

 よかった。カボチャ頭に殺されるアリスはいなかったんだ。

 戦わなくても良いんだな。

 誤解とはいえ、悪いことをしてしまった。

 反省しなければ。

 転移が終わり、私の血痕がすぐそこに残る場の傍らには二度寝したパンプキン・オー氏の姿。

 

「ぐごー……」

 

 どれだけ時間がたったか、あるいは全くたっていないかは知らないが、よくもまあ人一人を斬り殺した現場で再び寝ていられるものだ。

 紳士ぶっているようだが、こいつもまた気が狂っているに違いない。

 目覚められては釈明が面倒だ。

 起こさぬよう、そーっと『走って♡』全速力で駆け抜けた。

 

 再び辿り着いた血涙の池。

 いま思えば、このような場所を駆け、血に酔わないなど狩人としてどうかしている。

 そういう意味では生粋の狩人でなくて助かったのではなかろうか?

 愚鳥ドドの周囲にもう獣はおらず、コーサス・レースが終わっている。

 しょんぼりと佇む彼女に駆け寄った。

 

「ん? ああ……君か……

 コーカス・レースは無事に終わりを迎えたが、

 賞品が無かったのでみんな怒って帰っちゃった……

 しょぼん……」

 

 貴女の身の上事情には全く関心がありません。

 私は特に慰めもせず誓約を結びたい旨を伝える。

 

 誓約。

 人ならざるものとの間に結ぶそれは、人間が異形種にソウルを捧げる……口約束ではない魂からの誓いだということを示す……ことで、対価として人ならざる者の持つ異能を引き出せるようになるもの。より多くのソウルを捧げ、より絆を深めればより強く力を引き出せるようになる。

 その誘いは、果たして愚鳥ドドの慰めになったらしい。

 女々しく泣いていたドードー鳥娘は歓喜の笑顔を浮かべた。

 

「我が輩と誓約を結びたいと……!?

 ふ、ふふーんっ! もろちんいいぞぉっ!

 お前は中々賢いな! INT300くらいあるぞっ!

 INT500は超えているだろう聡明な我が輩の元で多くを学ぶがいいっ!

 しかしさて、まずは何から教えるべきか……。

 モーリシャス島の木の実の食べ方でも?」

 

 ぜんぜんいらない。

 私はアリスの導きに従い、即座に誓約レベルを高めんと2000ソウル捧げた。

 

「わははーっ! 偉大な我が輩を称えよーっ!」

 

 はいはいすごいですね。

 

「それほどでもないっ!

 あっそうだ! 良いこと思いついたっ!

 この国は人口100億6564万人と国土7000平方キロメートル!

 とにかく広いっ! とにかくでかーいっ!

 これでは歩き回るのも一苦労だろう?

 我が輩が効率の良い走り方を教えてあげようっ!」

 

 足腰、ふともも、ふくらはぎ。

 下半身を中心に異形の力が巡る。

 

「……どうだい?

 ドードーめぐりで鍛えた足腰がきみのここらへんにパワーを溜めてくれただろう。

 だから君、思う存分走りたまえよっ!

 この国の先の先。ずっと先まで!」

 

 誓約の対価として得られたのは[ドードー走り]なる走法。

 それはあつらえたかのように私の体によく馴染み、より効率的にアリスを探せるようになれたと感じた。

 アリスが俊足を求めている。

 ということは、アリスは足の速い何かに拉致され、連れ去られているのかもしれない。

 急がなくては。急がなくては。

 だが誓約が先だ。

 誓約レベルを最大にしてどこかに閉じ込められているらしいアリスの居場所を聞かなければ。

 

「ところで君は健康に気を使っているかい?

 ストレッチ・ランニングは基礎第謝を上げるのに最適だっ!

 太ももがパンパンに腫れるまで走れば十分っ!」

 

 第の発音がおかしい。

 いや、それどころか……ああ、言葉を正す時間も惜しい。

 さっさと絆を深めにかかる。

 私の愚鳥ドドに6000ソウルを捧げた。

 

「んんっ///

 ん気持ちいぃぃぃ~~~♪

 ……………あっ。

 …うぉっほお゛ん!

 我が輩をもっと敬いなさ……いっ…♪」

 

 淫らな。

 雄を誘う雌の匂いが漂う。

 淫獣め。たかがソウルを流し込んだくらいでよがりやがって。

 もっとだ。もっと人ならざる身のこなし、俊敏さを私に寄越せ。

 

「んんっ……実は最近肩こりに悩んでいてな……。

 君、ちょっと揉んでくれないか?」

 

 なんだと?

 私は反射的に彼女の胸元に意識を向けた。

 向けて、しまった。

 

 ……なんだこの乳袋は。

 犯罪的だ。

 でかすぎる。

 これはもうパイオツ物チン劣罪ですね。

 我々は巨乳警察だ! 逮捕する! ホシ確保!

 胸を揉む。

 

「ええっ?

 ち、違うっ、胸じゃなくて肩……

 んんっ……」

 

 ……はっ! 私はいま何を!?

 これは、ちがっ。間違えっ……

 い、今のは、手が勝手に!『ガバァッ! 抵抗しろっ!』くっ!

 

 【絶滅危惧種を食べよう!】【絶滅危惧種を食べよう!】【絶滅危惧種を食べよう!】鐘の音のように甲高い誘惑が脳髄の奥底からあふれてくる! なんだこれは! 頭が!

 

「……ふふん。

 全く、そんなに夢中になって……。

 だが君のそんな顔を見るのは大好きだよっ」

 

 だ、駄目だ。負けては駄目だ……私は欲望には屈しない……もにゅもにゅ

 でも脳髄が……性欲が……アリスよ、助けてくれ……もにゅもにゅ

 ……はっ。そうだ。アリス、アリスだ!

 

 どうせ食べるなら私はアリスを食べたい!

 

 その妄想を抱いたとたん、目の前の乳袋がくだらない贅肉、ただの絶滅危惧種の鳥の胸筋に見えた。

 ばっと底知れない柔らかさを持つ乳を堪能していた両手を引き剥がす。

 呼吸が乱れていた。

 性的興奮によるものではなく、得体の知れないところから生まれた欲望に心身ともにを乗っ取られかけたという恐怖からだった。

 

 だが助かったのだ。

 危うく淫獣と化すところだった。

 

 ありがとうアリス。

 それしか言う言葉が見つからない。

 やはり君は女神だった。

 もはや崇拝しかない。

 ここに神殿を建てよう。

 

 ……実際、際どいところであった。

 この私が、アリスというものがありながら、この雌の匂いに刹那誘惑されていた。

 愚鳥ドドの魔乳は化物か。

 いや、もう乳のことは考えるな。アリスのことだけを考えろ。

 アリスの魅力に比べれば、この絶滅危惧種の鳥など蚤かダニに等しい(当者比100000000%)

 それでもアリスを探すべく、私は誓約レベルをあげるためドドに10000ソウルを流し込む。

 嬌声を右から左に聞き流し、残るソウルを最後までしこたま叩きこんでやろうとしたところで「もうむりぃ」という懇願の声。これ以上捧げられません。堪忍してぇ。あなたはよくやりました。しゅごいよぉ。そんな幻聴が聞こえてきた。

 私は誓約の力として確かな実感を得られるほど軽やかになった身のこなしを試しつつアリスの居場所を聞いた。

 

「……ふぇ? ありす?

 んーんー。ドドしらないよぉ?」

「なに? そんなはずはない。

 では誰かを閉じ込められるような場所はどうだ」

「……上層にある洞窟に、青ひげが篭ってるっていう扉ならあったよう」

 

 アホウドリよりもよほど呆けた顔……惚けた顔ともいう……でドドは言う。

 やっと欲しい情報が手に入った。

 しかし青ひげだと?

 まさかの大物だ。

 青ひげが篭る部屋と言えば、思い出せるものは一つしかない。

 

 グリム童話初版にだけ登場する作品の登場人物であり、その残虐性は第二版以降には残せなかったほどの傑物。青ひげはこれまで何度も結婚しながら、妻はことごとく行方不明になっていた。その理由は妻が「絶対に開けるな」と言い含めたにもかかわらず、禁断の小さな鍵の小部屋の中を覗きこんだからだ。青ひげは約束を守れず禁忌を破る妻たちをその小部屋の密室に閉じ込め、次々と殺していったのである……そんな物語の登場人物だ。アリスに迫る身の危険を察するには十分すぎる。

 

 仮に童話の内容が状況再現されていたとするなら、どのような経緯かアリスが青ひげの新妻に選ばれ、アリスが好奇心に任せて小さな鍵の小部屋を覗いてしまい、その室内で監禁調教されて……そうなっていてもおかしくない。

 

 なんてことだ。

 許せん。

 エロ過ぎる。

 誘惑されている場合ではなかった。

 早く助けなければ。

 

 アリスを監禁調教するのはこの俺だ!

 

 愚鳥ドドに礼のひとつも残さず私は駆け出した。

 目指すは最寄の篝火。

 直接血涙の池の上層を目指したいが、先ほど降りてきた場所は一方通行。

 遡る事はできそうになく、他にあるだろう上層に登る手段を探す暇などない。

 ならば確実に上流に戻れる篝火間の転移で向かうほうが賢明だ。

 

 再び森を目指して走る……その速度は段違いだ。

 二倍の脚力になったかと錯覚してしまうほどに私は俊敏なっていた。

 これが[ドードー走り]の走法か。素晴らしい。

 なんというべきか、そう、本来あるべき速度で走っているという安心感のようなものさえ覚える。

 

 だがそんな感動よりも疑問が勝っている。

 青ひげという童話の登場人物は、不思議の国の住民ではない。

 この国に存在するはずがないのだ。

 

 とはいってもそこは不思議の国。

 常識をたやすく覆す場所であることは改めて言うまでもない。

 

 それになにも、グリム童話に出てくる青ひげそのものが本当に居るとは限らない。

 名も満足に覚えられぬ愚鳥ドドが全く無関係の者の身体的特徴を挙げただけなのやもしれぬ。

 

 しかし不思議の国にグリム童話という世界観が混ざる、という発想は、今この国が帯びている猟奇性がどこの由来のものかという根拠足りえると感じる。

 あたかもそうであるように、すとんと腑に落ちてくるのだ。

 仮説に仮説を重ねた不恰好な根拠ではあるが、不思議と納得がいく。なおことの真偽については考えないものとする。

 

 森の中の篝火につく。

 カボチャ頭のパンプキン・オーはまだ眠っていた。

 敵対されぬよう静かに篝火に座りこみ、目をつぶって血涙の池の篝火を思い浮かべる。

 再び目を開ければ、篝火。

 血涙の池の篝火に転移した。

 

 洞窟、洞窟。洞窟はどこだ。

 ……あそこかっ!

 篝火から、柵を挟んだ向こう側。

 とても破れるような柵ではないため、私はぐるりと柵を回りこみ、洞窟の中へと駆け込んだ。

 やたらと血に塗れた洞窟であった。

 もはや洞窟と呼ぶより拷問室と呼んだほうがふさわしいほどに。

 だが血涙の池にある洞窟ならばそんなものかもしれない。

 洞窟内を駆けていると、さして奥に入ることもなくいかにも「ワテクシ、小さな鍵の小部屋の扉ですわよ?」と言わんばかりの扉がある。

 当然鍵がかかっている。

 血涙の池で見かけた万能鍵を拾っておいてよかった。

 私は万能鍵を使って「あひぃっ! そんなイキナリ突っ込むなんてぇ!」錠を開け中に入る。

 

「アリス!」

「毎晩キミの背中を思い出すんだ……。

 信託を信じ、果敢にも旗を掲げて戦場を駆けていった……

 嗚呼、ジャンヌ・ダルク……!

 私を置いていかないでくれッ!

 キミが魔女だなんて私は絶対に信じないぞッッ!!」

 

 部屋の正面には、血の溜まった小池。

 半開きの冷蔵庫には棄てられた遺体の大きなソウルが複数まとめて片付けてある。

 これは貰っておこう。

 そして……冒涜的な邪教の祭壇。

 名状しがたいソファのようなものに頭をたれ、ぶつぶつと祈りを捧げる者が一人。

 ここにアリスはいない。

 よかった。青ひげに監禁調教されるアリスはいなかったんだ。

 ではアリスはどこに?

 アリスはどこだ。

 

 叫び声に反応したのだろう。祈る男が立ち上がり、振り返っていた。

 男の口元は青ひげだった。

 

「……いつも寄ってくる……こんな阿呆が……この世は阿呆だらけなのか?

 何故『絶対に開けてはいけない』と言い含めたのに寄ってくるんだ……?

 何故禁断の小部屋の鍵を開けて中を覗くのだ?

 過ちを犯さぬように、あらかじめ禁意を破るなと伝えているのに何故学ばないのだっ!?

 ……愚かさ極まりない無能な阿呆のお前にも分かるように教えてやる。

 見なくてもいいものを見た者は、この世に存在してはならないのだ。わかったか。

 ではこの教訓の授業料をその命で払ってもらおう。

 お前が悪いのだ。馬鹿が。悪いのはお前なのだ。馬鹿め。

 好奇心に殺されて死んでいけ」

 

 青ひげは狂人めいた戯言を口にしながら真直ぐとこちらへと歩み寄ってくる。

 今の発言を真に受けるなら、この男は本当に青ひげの登場人物そのものということになるが。

 まずい。

 今の私では絶対に勝てない。

 それほどの力の差を感じる。

 

『青ひげの間合いの中に絶対入らないように祭壇にある指輪を回収して逃げてね?

 間合いに入ったらもう逃げられないし、リセよ』

 

 アリスだ!

 任せろ!

 [ドードー走り]の走法で青ひげの接近から距離を取り、二十歩の広さもない小部屋を回りこむようにして駆けると、祭壇に置いてあるという指輪をさっと回収して入った扉から逃げ去った。

 

「貴様! 返せ!」

 

 指輪を手に取ったとたん、青ひげはもはや悠長に歩くことなく、走って追いかけてきた。

 だが私とヤツとではもはや脚力が違う。

 [ドードー走り]の全力疾走に青ひげの走りは遠く及ばず、拷問室のような洞窟から出る頃には遠く離れていた。「返せ! 返せ!」という鬼気迫る叫びからどんどん遠ざかる。私は洞窟を出て木造の橋を道なりに駆けて行くと、やがて胞子飛び交う森にたどり着いた。

 

 しかし先ほどの青ひげの呟き……ジャンヌ・ダルク?

 何故その名が出てくるのだ?

 青ひげの物語に、ジャンヌ・ダルクに関するような一文など存在しないのに。

 

 




今回はここまでです。
ご閲覧、ありがとうございました。



追記・2019/11/28 童話『青ひげ』のあらすじ内容が破綻していたので修正。
追記・2019/12/17 童話『青ひげ』のあらすじ内容がまだ破綻していたので再度修正。
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