BLACKSOULSⅡ腹パンRTA 0:19:19:19   作:メアリィ・スーザン・ふ美子

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《i》
ガバの巧妙が光るRTA、はーじまーるよー
今回は公爵婦人の館突入からです。





実走者視点5

 キノコの胞子も恐れてしりぞく七罪の丘(仮名)を駆け上がれば、やがて公爵夫人の館にたどりつく。

 

 そこは暴食と云われる公爵夫人が住む館。

 足を踏み入れた者は彼女のテーブルマナーに付き合わなければならない。

 彼女の由来は何通りかあるから、なんと呼べばいいのか……モデルにしてもらったのは確か……マウルタッシュ。マルガレーテ・マウルタッシュ。

 ん? 間違ったかな? かわいそうに細部はみんな忘れてしまった。私の記憶は、虫食い状態にもほどがある。何を覚えていて何を忘れているのか、何を思い出して何を忘れていくのか、さっぱり読めない脈絡のなさは痴呆老人であるかのようだ。私の心が文章になったなら、さぞや支離滅裂に違いない。

 

 荒れ果てたその館の周囲には、不思議の国の野良犬どもが徘徊している。残飯なんぞ、この館から出てくるはずがなかろうに。あるいは匂いで誘い込まれた、非常食なのかもしれない。

 犬の事情などどうでもいい。

 重要なのは、いまアリスがどこにいるかを公爵婦人は知っているかどうかだ。

 

 把握している公算は、実際のところ、かなり可能性は大きい。

 

 私の行く先々にいるチェシャ猫娘の飼主であるはずだし、彼女はかつて、アリスに救われた筈である。ならばこの、危険はびこるビースト狩りの夜にさらわれたアリスを気にせぬはずがない。

 

 きっとチェシャ猫娘は公爵夫人の命を受け、アリスを探してうろついていたはずだ。

 そうはさせるかこの駄猫。先にアリスを見つけて助ける役目を負うのはこの俺だ。

 おまえの役目はあっちにこっちにちょろちょろ彷徨うストレイ・キャットがお似合いだ。

 

 なんだっていいさ。先を急ごう。

 

 私は比較的温厚でそれほど冒涜的ではない犬状の生物が視界に入ったあたりから、彼らに感知される前に見えざる胡椒を使って透明になると、館の玄関口に駆け込み万能鍵を使って開け中に入った。

 

 屋内に足を踏み入れたとたん【悪夢霊「怪物執事アーチボルド」に侵入されました】という幻聴とともに、ホール階段上に黒い禍渦が生まれる。悪夢霊、だと? 

 

 

『館の一番奥まで走ってっ!

 ボス霧の奥までは追ってこないよっ!』

 

 

 切羽詰ったアリスの導きに従い、その禍渦から出現する悪夢霊が確たる形を成す前に階段を駆け上がり通り過ぎた。脳内地図の道しるべに合わせて、現実の視界に進むべき道が示される。素晴らしい幻覚だ。二階廊下奥を右か!

 

「はっはっはっはっはっはっは。

 お帰りなさいませお嬢様。ご支度は出来ておりますよ」

 

 館内によく響く声で、悪夢侵入を完了したアーチボルドが語りかけてくる。

 だれがお嬢様だ。

 私は男だ。

 

 怪物執事、アーチボルド。

 

 その名を聞いても、私に思い出せることはない。

 だが悪夢霊がどのようなものなのかは分かる。

 現実世界からやってきた、悪夢のような連中だ。

 

 不思議の国とはどこかしら法則が異なる、一定の法則にばかり則る世界において、穢れた黒のソウルの如くドス黒い魂を研ぎ澄ませた常軌を逸した犯罪者の残滓が、この狂気に満ちた不思議の国の夜の夢に喜び勇んで侵入している。

 

 つまりは飛びっきりの気違いソウルだ。闇霊、悪霊、黒霊、などなど、類似した呼び名はいくつもある。

 

 それぞれがそれぞれ、自分の犯罪歴や異常性癖などを元にして感覚的に馴染む場所に網を張り、そうとは知らず足を踏み入れた者を容赦なく殺すのだ。私もかつて、よく殺されたものだ。

 

 常軌を逸しているが故に不思議を受け入れる心(センスオブワンダー)の素養がある彼らは必ずしも人間の姿を維持しておらず、このたいていの出来事がまかり通る不思議の国の悪夢では心赴くままに魔獣のような異形の姿に変わっているのである。

 

 果たして怪物執事は山羊頭を持つ執事服を着た男であった。

 

 何故逃げているのに容姿がわかるか?

 [ドードー走り]とほぼ同じ速度で、透明化した私を追いかけてくるからだ。不潔な内装やところかまわず網を広げた蜘蛛の巣を気にする余裕はない。

 ちらり振り返れば、アーチボルドは上半身をまったくぶらさず下半身を高速で動かし追ってきている。

 

「そろそろお勉強の時間ですよ、お嬢様。

 内容は上流家庭の流儀、バイ・セクシャルの受け入れ方です」

 

 結構だ!

 私は同姓愛者ではない!

 それに、私は男だと言っているだろう!

 

「お嬢様ではない? いいえ、それが間違いですよ。

 私から見れば男性も女性も麗しきお嬢様方です」

 

 変態だっ!

 よほどこの悪夢に馴染んでいるのか、怪物執事は私を追いながらより一層その身を魔獣のように変態させていく。

 ……追いつかれれば、ヤラれる!

 

「本日付で私は執事から伴侶となる準備がございます。

 お嬢様。私と共に愛を育み、蜜月の時を過ごしませんか?

 さあ、お嬢様。足を止めて私のこの手を取りなさい」

 

 絶対いやだアッー!

 私には心に決めたアリスがいるんだアッー!

 

「取れッ!! 取れと言っているんだッッ!!!」

 

 アーチボルドはもはや完全に人の姿を捨てさり、狙った獲物の命などを刈り取らんとする邪悪にして醜悪な魔獣と化している。迫る気配がほんのわずかずつ近づいてくる! まさか[ドードー走り]より、ほんのわずかに追い足が速いとでもいうのか!

 

 マズイマズイマズイ!

 このままでは追いつかれる!

 何とかして気を逸らさなければ!

 

「嫌がる相手にムリヤリ契りを迫るなんて最低の二乗だぞ!

 そんなことは許されるモノではない!

 恥を知れ俗物が!」

「はっはっはっはっはっはっはっはっ!

 ブーメランハンターお嬢様がいくら吠えてもナニしかでてきませんよ?」

「率直に言ってキモい! 死んでくれ!」

 

 ……ああっ! やった濃霧だ! ボス霧万歳! 間に合え! 間に合わない!? アリス助けてくれアリス! 変態する変態悪夢霊に襲われています!

 

『頑張れっ! 頑張れっ!』

 

 アリスの応援だ!

 身体に力がみなぎってくるかのようだ!

 私はまだ頑張れる! 頑張るぞー!

 

「ここで加速……ううむ……一歩間に合いませんか。

 釣れないお嬢様ですなぁ。

 逝けない人だ。

 私のヴァイオリンを聞きたくなったら、是非またいらしてくださいね」

 

 そんな言葉とともに背筋を掠める何か。なにが掠めたかなど考えたくもない。余裕を失い、ひたすら全力疾走した私は勢い良く濃霧を突き抜ける。

 濃霧に立ち入った途端、アーチボルドの気配はそれこそ夢や幻のように消えていった。彼の縄張りを抜けたらしい。

 

『でもそこでスタアアアァァァァップ!!』

 

 濃霧の先は……部屋を埋め尽くすほどに巨大なテーブル!? いや食卓か!?

 

 くっ! 止まれ!

 暴食婦人の前でテーブルマナーを乱せば……っ!

 

 私はなすすべもなくぶつか……る直前、急制動をかけていた前足で床を踏みぬくかのごとき勢いで蹴り飛ばし、ほんの半歩分だけバックステップできた。直後歩幅を最小限にし、地団駄を踏むようにして慣性を殺しきってテーブルに触れることなく立ち止まる。

 

 いまの動きは……そうだな、狩人ステップ……いや、ほもステップと名付けよう。今夜の私は冴えているぞ。敵避けの走法といいウィリアム老戦といい今といい、頭上に閃く電球は様々なアイディアで溢れている。

 

「おーほっほっほっほっほっほっほっほっほっほっ!

 可愛い坊やにゃ怒鳴りましょっ!

 くしゃみをしたら叩きましょっ!

 くしゃみをしたのはわざとですっ!

 大人をおちょくるしわざですっ!」

 

(わーっ!わーっ!わーっ!わーっ!わーっ)

 

 停止に間に合った私が改めて室内を見回すと、テーブルの向かい側には悲鳴をあげる名状しがたい豚の丸焼きのようなものがある。

 丁度食事時であったらしい。

 実に危ないところであった。

 勢いのままテーブルを揺らしていれば、暴食の逆鱗は有頂天を貫き、血の詰まった皮袋の如き扱いで五臓六腑を喰い千切られ、そのソウルは永遠の胃袋にとらわれていただろう。

 

 テーブルの背後にはキッチン設備。

 調理役であろう料理人は、悲鳴をあげる名状しがたい豚の丸焼きのようなものの影に隠れる者に揉み手をしていた。

 

「坊やは厳しくしつけましょっ!

 くしゃみをしたなら殴りましょっ!

 だって嬉しいはずでしょっ!

 いっぱい吸えるこの胡椒っ!」

 

(わーっ!わーっ!わーっ!わーっ!わーっ)

 

 悲鳴をあげる名状しがたい豚の丸焼きのようなものの影に隠れているものは、泣き叫ぶそれを天井高く放り投げ、そして常人では決して出来ない、異形の大口を開けてそれにガブリと喰らいついた。うーん。デカい。

 

「むしっ

 むしっ

 むしっ

 ばりっ ぼりっ がりっ ごりっ

 …………胡椒の味付けが足りないッ!!

 お前、何度言えば分かるのっ!

 ペッパーミルを振る回数は5たす5ひく5たす5にしろと!」

「ああ、お許しを奥様っ!

 なにぶん我が家の胡椒は粗方使い切ってしまったもので……」

「なら取ってこいッ!

 無限食物の腸内にへばり付いているものを!

 一粒残さず回収してこいッ!」

「ひゃー! た、ただいまっ!」

 

 はたして料理人は壁をすり抜けてこの部屋から出て行ってしまった。

 名状しがたい豚の丸焼きのようなものを一口に喰らった者は果たして絶世の美女であった。

 

 公爵夫人マルガレーテ・フォン・ティロル。

 そう、確かそんな名前だ。今度は正しい名前のはずだ。彼女は不思議の国のアリスの逸話では非常に醜い容貌の夫人とされているが、こうして直に会って見てみれば全くそんなことはない。

 世の中、美醜の判断は時の流れに移ろうもの。当時はきっと、彼女は醜いとされていたのだろう。彼女の旦那だというパンプキン・オー氏は先見の明を持つ肥えた目をしていたに違いない。美醜逆転大勝利と言ってもよい。私にはカボチャ頭の目元がくりぬかれているようにしか見えなかったが……いや、ああ、あの目はつまりそういう……

 

 ともあれ、とてつもなく美しいマダムだ。人妻であることがもったいないほどに。

 

「まったく……ところで貴方はどなたです?

 わたくし、女王陛下とのクロッケーに敗れて胃がイラついておりますのよッ!」

『宥めて!』「ア……っと。

 まあまあご婦人落ち着いて。

 一体何があったのです?

 私が悩みを聞きましょう」

「皆が余計なお世話を焼かなければ、世界はもっと早く回る事ができますわ。

 貴方、わたくしに胡椒を捧げなさい。

 でなければわたくしの胃の中で消化を待ち続ける余生を過ごす事になりますわッ!」

 

 うまく口の回りそうにない私はそそくさと手持ちにある見えざる胡椒を捧げる。

 

「まあっ! 代用品の効かない良い胡椒ですことっ!

 でも困りました……

 調味料があっても喰する物がなければ意味がありませんわ。

 貴方、肉は持っておりまして?」

 

 私はクリプトで拾った山羊の肉を捧げる。だから山羊肉が必要だったんですね(ドヤ(パイ))

 

「美味しそうな山羊肉ですことっ!

 くちゃっ! ぐちゃっ! ぶちゃっ!」

 

 公爵夫人は山羊肉に見えざる胡椒を振りかけ、人ならざる大口を開けると、あっというまにぺろりと平らげてしまった。

 

「ああ、美味しいっ……!

 この世の美食はまさに胡椒付きに限りますわっ!

 おーっほっほっほっほっ!」

 

一見だけすればただの貴婦人に見えるが、ご覧の通りその本質はやはり異形。この不思議の国に呑まれず飲み込み適応した、暴飲暴食の化物だ。

 

「それで、貴方はアリスを探しているのですね」

 

 何故知っている?

 

「わたくし、耳が早いのです。

 その教訓は『虫のぼやきは風の噂となって知らせになる』」

 

 この口ぶり。

 彼女は間違いなくアリスの居場所を知っている。

 是非教えてほしい。

 アリスはどこだ?

 

「ええ、貴方になら教えて差し上げますわ。

 胃袋の礼は倍以上にして返しますわ」

 

 情けは人の為ならずとは言うが。

 例え巡り巡らずとも、直接恩は返ってくる。

 

「金髪の彼女は鏡の国に迷い込んだそうですわ。

 好奇心溢れる彼女ですもの。

 目的は赤の女王が支配する遊園地、クイーンランドでしょう」

 

 遊園地?

 この不思議の国で夢の国を経営?

 なんとも浪漫の溢れる話だ。いや悪夢か。鏡の国ではそんな事業が始まっていたのか。

 行き方は?

 

「お待ちになって……っと、どこにあったかしら」

 

 彼女はキッチンの棚の一つから、列車の切符を取り出した。一瞬、つんと突き出していたヒップから腰にいたるラインが実に艶めかしかった。あんな腰を鷲掴みにしてバックからガンガン突いて旦那のモノと味比べさせたい……彼女は列車の切符をテーブル上にピッと滑らせするりとこちらに渡してくれる。

 

「遠慮なさらず受け取って?

 血涙の池の最下層……篝火から木の橋を道なりに進めばそこにある古ぼけた鏡が、唯一つ、この近辺から鏡の国へ行ける手段となっておりますわ」

「なるほど」

「無事に鏡の国に辿り着いたら、廃駅を探してください。

 クイーン・ランド行きの列車が来ているはずですわ。

 車掌さんにその切符を見せるのを忘れずに」

「わかった」

「赤の女王はハートの女王陛下に引けを取らない程恐ろしい。

 それでも貴方はアリスを助けに向かうのでしょう?」

「当たり前だ」

「なんと素晴らしいっ!

 その教訓は『ああ、愛、愛こそが世界を動かす!』

 どうか心に教訓の意味を込めて忘れずに」

「ありがとう。本当に助かる」

 

 私は列車の切符を大事にしまいこみ、深く頭を下げた。私は礼儀知らずではないし、恩知らずでもない男だ。ビースト狩りのこの夜に、こんな一夜があってもいい。それが自由と言うものだ。

 アリス。

 ついにお前の居場所が分かったぞ。

 絶対に助ける。

 待っていてくれ。

 

「ところで貴方……その道具袋にある指輪……。

 その匂いは知っておりますわ。

 わたくしの愛猫の匂いが染みついています。

 なんて、懐かしい……。

 あのニヤニヤ笑いが思い起こされますわ。

 いえ、けど少し違う……もしかして猫違い?

 ……それもそうですわね。

 あの猫はもうとっくに亡くなっているのですから」

 

 その言葉に驚き、私は道具袋からチェシャ猫の指輪を取り出した。

 ……あのチェシャ猫は、マルガレーテ公爵婦人の猫ではない?

 私の記憶では、他にチェシャ猫娘の役柄にあてはまりそうな不思議の国の住人はいないのだが。まぁいい。あの猫が何者であろうと私には関係ないことだ。

 

「ですが、懐かしい気持ちに浸れましたわ。

 貴方にはお礼をしなければ。

 そしてその教訓は、『思い出は頭の中にあるもの。つまり消化される事はない』」

「裏を返せば『夢だけで飯が食えるか』ということか?」

「んーまっ! そんな愛の無い言葉を口にするものではありませんっ!

 アリスに嫌われてしまいましてよ!」

「うっ。それはいやだ。

 気を付ける」

「ではこちらをお受け取りください」

 

 マルガレーテは無造作に強化石の原盤を取り出すと、卓上を滑らせ……っておい! 壊れたらどうする!

 

 っと。なんとかテーブルから落とさぬよう受け止めると、マルガレーテはホホホと笑った。私は苦笑いを返し、そして帰還の骨粉を吸引。もはやここには用はないだろう。ありし日の思い出に浸った。

 アリスを迎えに行かなければ。

 

 

 

 ……何かが、おかしい。どこかがおかしい。

 今の会話は矛盾している。

 なにかただならぬ行き違いが、いままさにあった気がする。

 

 なんだか、私が正気であればあるほど、頭がおかしくなっているような。このおかしさはどこから生まれる? そんなもの、狂鳥ジャブジャブからに決まっている。世界が狂死する前に、まずはジャブジャブを狩らなければ。でもアリスは助けたい。アリスを助けて、図書室の夢の地下牢に保護しなければ。我が手元に確保しておくのが最も安全だ。

 

 仮に私が正気として。

 私がずっと正気だったと、誰が保証してくれるんだ?

 それはいつの時点での話なのだ?

 私の頭は、どうなっているのだ?

 私は今夜で何日目なのだ?

 ああ、無性に、アリスに逢いたい。

 

 

 

 胞子の森の篝火が揺れる。

 

 私はそのまま図書室の夢に向かった。

 この強化石の原盤で武器を強化すれば、天地に無双の韋駄天となる、まさに絶技が身に付くのだ。

 

「シロクマ。盗賊の短刀+10に強化してくれ」

「んなもんねーよ。盗賊の短刀+9の次は大盗賊の短刀だ」

「そうなのか。じゃあそれで」

「あいよー」

 

 ことここにいたって、もはや一から十までアリスの導きを必要としない。

 情報は出揃っている。

 ゆえにアリスが導くより速く動けば、アリスの指示を待って動くより秒単位で速くなろう。私は指示がなければ動けないような愚鈍な人間ではないのだ。

 次いで投げナイフを限界まで補充し、見えざる胡椒を少々買い足す。そして老兵ウィリアムから得たソウルその他を白の兎ノーデ 経由で自らの血肉とする。もう服は要らない。敏捷性を阻害する。今夜の私は裸族だ(((訳注:肌着は身につけています)))

 

「ほも様の身にソウルの力が宿りました。ソウルレベルに換算すると30レベルほどでしょうか?」

 

 ……準備は整ったようだな。

 もはや憂いはない。

 アリスのところに行こう。

 クイーンランドに行こう。

 準備はいいか?

 いや、いいんだった。

 痴呆老人か私は。

 ともあれ私は篝火の前に座り、目を閉じる。思い浮かべるは血涙の池。

 目を開ければ、そこには篝火。

 血涙の池の篝火だ。

 

 立ち上がり、駆け出した。

 木の橋沿いに緩やかな下り坂を走れば、血涙の池の血溜まりの池にたどり着く。

【駆け抜けろ!】浮かび上がるメッセージ。もちろんそうする。推して参る!

 

『胡椒!』

 

 ……前に、見えざる胡椒を使う。

 安全第一。アリスは心配性だなあ。

 改めて周囲を見れば、自律行動する鉄の処女の魔物が閉じたり開いたりして入居者絶賛大募集し、自律行動するギロチン台の魔物がお次の方どうぞとばかりにその刃をあげたりおろしたりしていた。絞首台はイキのいい首が欲しいとばかりに事切れた人間をぶんぶん振り回して遊んでいる。

 

 なるほど。こんなところを元気に走っていては処刑魔物たちに取り囲まれて引っ張りだこになってしまう。

 透明になった私は、処刑魔物の誰にも相手にされずに血涙の池の下層に降りた。

 

 世界の雰囲気が変わる。

 

 不思議の国のようで不思議の国でない……そう、例えるなら悪夢霊が自らの領域を作り根を張ったかのような陰鬱な世界。なるほど、世界のありかたがほころび、不思議の国とは地続きのようで異世界でもある、鏡の世界に繋がる鏡はここならばしっかりと機能しよう。

 

 処刑室めいた扉を万能鍵で押し開けば、その部屋の先には霧がある。

 

 拷問具の女王(エリザベート)

 お前のことはよく覚えているが……わざわざ回想する必要はあるまい?

 我俺の仲ではないか。

 だがいまは、アリスが私を待っているのだ。

 とても急ぐんだ。

 エンディングまで、尺を巻かせてもらおうか!

 

 見せてやろう。ほもの狩りの真髄を。

 敏捷特化流奥義! 木目絶影! 

 

 

 

拷問具の女王に投げナイフを投げ続けるだけの

単調な戦闘シーンが続くためn倍速でお送りします

 

 

 

 バァーz_ン!!

 (((ほもの格好いいポーズ)))

 

 さようなら。

 

 お前との戦闘シーンはオールカットだよ。

 

 

 

 血涙を流して怒らなくてもいいだろう? それに慣れているはずじゃないか。この手の雑な扱いは。

 だって、何度もお前の手を取って、その逃れられぬ悲劇を回避しようとあがき、そしてどう頑張っても避けきれなかったのだから。

 ああ、我がソウルの深奥にある、永劫に火の消えぬ憎悪炉に、今夜もまた薪がくべられる。

 彼女を愛さなければ。

 

 私は目ざとく部屋の隅にあったラドウィッジ市街で見かけたものと似通った鏡に歩み寄ると『あっ。もう銀貪はいらないからチェチャ猫の指輪に替えといて』指輪をつけなおし、その鏡面に触れ……そのまま鏡の中へと入った。

 

 

 

 鏡を通り過ぎれば、森。

 森の木に飾られた鏡から、私はその身を現した。

     はどこにいる?     はどこだ?

 

 ここは    。

 

 どこまでも鬱蒼と茂る不気味な森。

 この森は迷い込んだ者の名前を餌とし、喰らうという。

 

「こんばんわ! ねえ君、    に遊びに行くのかい?

 だったらこの    を抜ければ    があるんだ。

     があれば乗れるみたいだけど、ぼくは持っていないんだ」

「すまないが先を急ぐんだ」

「あっ! ごめんね!     で楽しんできてね! バイバイ!」

 

 鏡の傍にたむろしていた気安い態度の    に別れを告げ、私は    を使いなおし透明化を維持すると[    ]に駆け抜ける。

 ここでは私が    と想像を絶するド下品な言葉を叫んでも誰にも聞かれることはない。固有名詞が喰われているのだから。

 

【この先、強敵ばかりだ……。】

 

 浮かび上がるメッセージはこの先の驚異を端的に表していた。

     や    がいるのだろうか? なんて恐ろしい場所なんだ。

 

『    。そこは迷いやすいところだから私がナビしてあげるねっ』

 

     だ!

     が私の魂の奥底に地図をにじみこませてくれる。

 そうだ。私と    は言葉にしなくても心が繋がりあっているのだ! やったぁ!

 私は透明を維持したまま時に森を駆け抜け、時に飛びおり、    や    といった危険な相手に関わらぬよう回避した。

 

     は……と、脳を活性化させるべくうんちくをきかせても意味はあるまい。

 やがて    の群れを    の導きのままにやりすごすと、あとは道なりに進むだけとったところまで来た。

 墜落死しそうな高さの場所と比べればなんてことない段差を飛び降り、しかし私は    を装着しているにも関わらず、なぜか着地際に足を滑らせて     のある方向とは逆に足を進めてしまう。

 バランスを保つために足を進め、そのたびにずるずると何かに引き込まれるように足が滑る。    特有の、不思議な不思議な出来事だ。あるいは強制参加のイベントというべきかもしれない。喜劇でも凍った足場でもあるまいに、なんだなんだと思っていると、そこには    の死骸が静かな眠りについていた。

 

 永眠している。

 きっともう、彼が目覚めること、二度とない。

 

 宿敵(とも)よ、おまえは、ここにいたのか……。

 お前が私を、ここまで導いたというのか?

 

     は私の前に三度立ちはだかり、殺し殺された仲である。宿命のライバルと言っても良い。

 当時私は不死者。対して    は命あるもので、その決着は私が諦めない限り、必ず私が勝つべくして勝った。しかし我が宿敵(とも)は不死者ならずとも二度蘇り、そのたびに私の度肝を抜いてきたのだ。物理的に。

 

 かつてのライバルもこの有様か。不死者とはなんとも孤独なものだ。

 

     の死骸の尻尾の先端には    があった。

 懐かしい。 思わずその    に歩みよる。

 

 それは右も左もわからないとまでは言わないが、どのように強くなれば良いかわからない私にひとつの道を示してくれた。    を求めるより先に、ひとまず強い武器を求めよと教えてくれたよな。

 

 宿敵(とも)よ。今一度私に力を貸してくれ。

 

 私は    を抜き放った。

 これほど保存状態が良ければ    は    で買ってくれるだろう。であれば、それで    が一つ買える。

 すまんな。宿敵(とも)よ。本当にすまん。    を救うためには積極的ショッピングが必要なのだ。

 

 何故だろう。私にはわかる。

 きっと次が最後の戦いだ。

 今は守銭奴のように    が欲しい!

 じゃ、そういうことだから。

 私は    を道具袋にしまって再び    目指して走った。

 

 

 

 そして私は    で、懐かしさのあまり死んでしまいそうな死と出会う。

 不死者にとって死は隣人のようなものとはいえ、その出会いは流石に予想してなどいなかった。

 

 

 

 





2019/12/18改訂内容
マルガレーテの台詞の句読点を添削。
盗賊の短刀+9の次は大盗賊の短刀なので武器強化前後の描写を加筆。
あとがきが連載時にしか通じないネタだったので削除。
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