色々と至らぬところもございますが、楽しんでいって頂ければ幸いです。
第一話 それしか能が無い
ゲームが“遊び”から“サバイバル”に変わった日から二ヶ月が経過したある日。
一緒にログインし、ここまでなんとか生き残ってきた友人はこの世界からの脱出を願い、ゲームクリアを目的とした集団である<攻略組>への参加を決意した。
一緒に行こうと言ったアイツの誘いを断って、俺は現実への帰還よりも武器製作への探究心が勝っている旨を伝える。現実ではありえない事が起こりうるこの世界ならば、“あの剣”の製造や使用が可能なのではないかと...。
もし完成したらお前に一番に譲るという約束を交わし、「期待せずに待ってる」と言ったアイツに手を振って別れた。
それからしばらくして、俺は他店では扱わない特殊効果付きの武器専門鍛冶屋としてそこそこ名が売れ、ぽつりぽつりと固定客もついた頃に事件が起こった。
<ラフィン・コフィン>と呼ばれる殺人ギルドの討伐。
その際討伐隊にかなりの犠牲者が出たと聞く。
正義感の強いアイツも勿論参加していた。そして俺が作った<傷枝剣・残針(しょうしけん・ざんしん)>という武器により殺されてしまった。
この剣は斬りつけた標的に対し、刃に取り付けられた枝のような針が突き刺さることで残り、継続ダメージを与える武器である。設計思想はフランベルジェに近い。
本来の用途は前衛が効率よく敵モンスターのヘイトを稼ぐ為のギミックだが、対人戦での使用した場合、解毒等で解除できない継続ダメージによる残虐な攻撃が出来る。
痛覚が現実とは比べ物にならないほど鈍いこの世界でも、解除不能の持続的なダメージによって自分のヒットポイントゲージが削れていく様がプレイヤーに与える恐怖は想像を絶する。
他にも類似したギミックを持った俺の製作した武器は残虐性を好むラフコフの連中に愛用されていたようで、アイツ以外にも俺の製作した武器により殺された討伐隊メンバーは多かったようだ。
謝罪や弁明をするよりも早く、この事実は商売敵により広く流布され、俺に対する誹謗中傷が殺到し、謝罪後も犠牲者の友人達の怨恨は晴れる事はなかった。
街中で見知らぬ連中に囲まれそうになった時、俺は考えるよりも先に店に戻らず、人気の少ない第二十二層へ逃げ込んだ。そしてフィールド上にある森の中に隠れ住んで幾月か経つ。
名が売れて、得意げになり、碌に客を視て売らなかった俺のせいで被害者達は要らぬ苦痛や恐怖に塗れ命を散らしてしまった。この事に対し森の中で一人、罪悪感から何を為すべきかを考えていた。
しかしいくら考えても死んだ彼らへ何か償いが出来るとは思わないし、遺族の怨恨を一身に受け止めて命を散らそうというヒロイックな精神も持ち合わせていない。
ならばせめて、アイツとの約束ぐらいは守ろうと、再び“あの剣”を製作するという結論に至ったのはこの世界に捕らわれて二年がたったときだ。
アイツの墓前に供える為に...。
現実では存在せず、だが物語には良く登場する誰にも作れなかった架空の武器“蛇腹剣”。
カッターナイフのように複数に分断した刀身をワイヤーによって繋ぐことで剣としての切れ味と鞭としての中距離攻撃性能を兼ね備えた剣。
鞭使いだったアイツの為の武器だ。
まず取りかかったのは店に置いてきた資材や資料の回収だった。相当の時間放置していた為、どうなっているかは分からないが、少しでも何か残っていることを期待してプレイヤーが寝静まる深夜に忍び込んだ。
所有権が切れて他者の侵入を許した店内、全ての物は奪われたのか、それとも壊されたのか、何も残っていないように見えた。
そんな中ただひと振りの剣が地面に倒れているのを見つける。ぱっと見の外見は何の変哲もないバスタードソード。だが、この剣は蛇腹剣製作の為に、ただひたすらに耐久力の高さだけを求めて実験的に製作したひと振りだ。
名を<インドミタブルソード>という。
意味は折れぬ剣、不屈の剣といったところか。
性能的には要求筋力の割に攻撃力が低く使いにくい代物で、武器としては失敗作である。しかしその耐久力が幸いしてか、これだけは破壊することが出来なかったらしい。
俺はそれを回収すると、足早に店を出た。
次に向かった先は第五十層アルゲードにあるエギルの雑貨屋だ。
上層での掘り出し物が多い彼の店にはよく素材の購入に訪れたものだ。彼からの依頼で何本か武器も納品した事もあった。
そしてあの事件以後も俺の身を案じてくれた数少ない人間でもある。
一階にある店の明りは落ちているが、二階の居住スペースの明かりが付いていたので店の扉をノックする。
すぐに一階の明かりが灯り、懐かしい強面が姿を現す。その顔が驚きに染まりつつも即座にエギルは俺を店内に招き入れてくれた。
「あれからぱったり連絡が途絶えたもんだから心配したぞ」
そう言って店の奥から銅で出来たカップを2つ、コーヒーを入れて持ってきてくれた。
「こんな時間に突然訪ねてきて悪かった、だが昼間に出歩ける身じゃなくなっちまったんでね」
遠慮なく木製の椅子に腰かけると顔を隠していたフードを脱ぎ、熱いブラックに口をつける。鼻孔に広がる香ばしい豆の香りとえぐみの少ない爽やかな酸味が緊張した意識を解してくれる。
「生存報告に来たって訳じゃないんだろう?」
「嗚呼、少々入用になってね、お前ぐらいしか頼れる奴がいなかった」
そう言って必要な物資をまとめたメモをエギルに渡す。それは俺が再び剣を鍛える為に必要な物である。
「あんな事があって、まだ剣を作るか...」
「それしか能が無い。それに作るのは友人に供えるひと振りさ」
「...そうか」
「済まんが代金はこれで頼む」
そう言ってアイテムストレージからある鉱石をとり出す。逃げ出した際に肌身離さず持ち運んでいたS級素材の一つだ。
「S級の上物じゃねーか。いいのか、また作るんだろう?」
「なに、それはレイピア用でもう不要な代物だ。俺が今作ろうとしているやつには関係ない」
「お前の店にはもう行ったのか?」
「嗚呼、コイツを残して綺麗さっぱり無くなってた。今さら俺の銘が入った武器を使おうなんて奴はいないだろうから壊されたんだろうがな」
自嘲気味に笑いながら背負っていたインドミタブルソードを差し出す。
「すまんな、お前の私物を回収してやりたかったんだが...」
「エギル、お前だって客商売してるんだ。態々店の看板に傷つける必要は無いよ」
外見とは裏腹にこの男の性根は酷く優しい。利益の殆どを中層ゾーンのプレイヤーの育成支援に注ぎ込み、本人も一流の斧使いとして前線攻略に何度も赴いている。
そんな男だからこそ、今こうして俺の急な訪問に対し嫌な顔一つせず迎え入れてくれたのだ。
「不屈の剣か...お前らしいな」
エギルは俺の差し出した剣を鑑定し終えると改めてメモを見る。
「六日、いや四日で揃える、それまでどうする、俺のところにいるか?」
「いや、そこまで迷惑はかけられないよ。それまで今の武器製造情報がどうなっているか調べたいしな、少々見て回るさ。素材に関して追加発注するかもしれない、その時は頼む」
「分かった、ちょっと待ってろ...」
そういってエギルはウィンドウを操作すると最新の素材リストを俺に転送してくれた。更にメモに何やら書き記して俺に差し出す。
「俺の知り合いの鍛冶屋だ、信用出来ると思うから覗いてみるといい」
そこにはこう書かれていた。
“第四十八層主街区リンダース<リズベット武具店>”と。
この駄文に最後まで目を通して頂き感謝感激、恐悦至極。