ソードアート・オンライン ある鍛冶屋の物語   作:DNA

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オイレは追撃してきた謎の人物と相対する。
自身よりも能力が高そうな相手に、一体どう立ち向かうのか。

オリジナルのソードスキルが出てきますのでご注意を。


第三話 それが通用する世界でない

 雑木林に飛び込み追跡者との接触に備える。

 視界の開けた街路で騒ぎを起こして人を集めたくないと考え、視界を遮る配置物が多いこの場に踏み込んだが吉と出るか凶と出るか。

 通常アンチクリミナルコード有効圏内ではPKこそ出来ないが、攻撃によって相手に衝撃を与え吹き飛ばすことは出来る。その際回廊結晶を使用し、強力なモンスターが蔓延るエリアや襲撃者の仲間が待ち構えているPK可能エリアへ移動する場所へ叩きこむ事が出来る。

 通称<ポータルPK>と呼ばれる手口だ。

 現在の追跡者は一人だが、街中で俺に怨恨がある人間に発見されたら加勢されかねない。一対一ならば防ぎようがあるが、多対一をこなせるほど俺は強くない為、増援が呼びにくく、包囲され難いこの場を選んだのだが...。

 

 数瞬の後、黒い影が飛び込んできた。そして悠然と、しかし一分の隙も無く俺に相対する。

そこにいるのは全身を黒衣に包んだ剣士だ。

 まだあどけなさが残り、濡羽色の美しい黒髪が中性的な顔立ちをより引きたてる。

なんだ餓鬼じゃないかという思考を彼の物腰や目つき、発する殺気によって即座に否定した。

 これではまるで紛争地帯の少年兵だ。俺が同じ年齢のときはもっと年相応に能天気だったと思うと少し悲しくなる。

 15歳以上推奨という年齢制限があるSAOはプレイヤーの平均年齢が比較的高い。俺が過去に接してきた連中は自分と同じぐらいか、自分よりも年上と思われる人間しかいなかった。しかしながら今相対している少年は、その誰よりも強く危険だと俺の脳味噌は判断を下す。

 今日出会ったリズベットといい外見や年齢など当てにできんなと自嘲する。

 

「俺に何か用か?」

 

 臨戦状態のまま問う。問答でこの場が収められるならそれに越したことはない。

 

「知り合いの店から不審人物が飛び出してきたんだ、問い質したくもなるさ」

「確かにそうだが、ただ話をしていただけだ」

 

 少年に気圧されて、じりじりと後退する。俺を追跡してきた速度を考えれば、この距離は未だ少年の間合いだ。

 嫌な汗が噴き出しているような不快感が全身を伝う、衝動的に逃げ出したい欲求に駆られるが、これはナーヴギアが俺の脳味噌に与えている欺瞞情報だ、落ち着けと自分に言い聞かせなんとかこの場に止まる。

 

「だから見逃せと?」

「疑わしきは罰せずは刑事裁判の原則だろう?」

「それが通用する世界でないことはお前だって分かってるだろうに」

 

 距離を取る俺に対し、少年はその場から動かずにこちらを見据える。

 

「あまり表に出たく無い身だ。近寄るなと言われれば二度とあの店には近付かない。それじゃ駄目か?」

 

 現状で時間は俺にとっての敵でしかない。目標を果たせなかったことは口惜しいが、早めに譲歩する。俺にはまだやりたい事がある、ここで目立つ訳にも、死ぬ訳にはいかない。

 

「それをお前が守るという根拠は?」

「無いな、だが俺も信用できない人間に自分を明かすことはしたくない」

 

 これ以上の譲歩は無いことを告げる。右手に<イミテイトソード>を構え、左手には転移結晶を握っていることを再度確認する。

 最悪の場合、一戦交えて、隙を見て五十層辺りに転移、再度別階層を経由して二十二層に戻るか...と思案しているとプレイヤーが二人こちらに接近してくることを感知する。

 

「...リト...く...」

 

 という声に少年の耳が反応した。感情表現がオーバーに行われるSAOでは些細な反応も隠す事は出来ない。関係者でない事を祈ったが残念ながら外れたようだ。

 

 咄嗟に地面を蹴って後ろへ跳ぶ。黒衣の剣士がそれを見逃すはずもなく、投擲剣を放ち牽制してきた。正確無比な軌道で俺の身体に投擲剣が吸い込まれる。だが、その程度の攻撃では動きを止めるだけの衝撃にはならないと判断する。

 迫りくる投擲剣を無視して、構えていた右手のイミテイトソードを横なぎに払えるよう自分の後ろへと振るう。その行動を阻害することも出来ず、青白いエフェクトに阻まれ投擲剣は地面に落ちていく。

 それを見越して彼は俺の着地点へ爆ぜるように地を蹴る。牽制だけして終わりならばそれは牽制ではない。次にとる行動を成功させる為に相手の注意を逸らす攻撃を牽制と言うのだ。

 そう、彼は自身の俊敏性を最大に利用し一気に彼我の距離を詰める為に地面を“蹴った”。俺はそれを確認すると彼が自分の間合いにも入っていないにも関わらずイミテイトソードを左になぎ払う。そして人差し指にかけていたトリガーを引く。

 刀身と柄を固定していた留め金が外れ、振るった方向へ慣性の法則に従い刀身が飛び出していく。

 地面を蹴って跳んでしまったが故に急激な方向転換も、衝撃を受け止めて踏ん張る事も出来ない彼へ向かって刀身が迫る。咄嗟に反応した彼は、黒い片手剣でそれを受け、襲いかかった刀身を叩き落とす。

 恐るべきはそれだけで終わらず、彼はその衝撃を利用し更にこちらに向けて跳躍してみせた。何という豪胆さだろうか。

 

 だが、イミテイトソードは“剣”ではなく“鞭”だ。

 

 既に地面に着地している俺は、踏ん張りを利かせ右上方へと振り、人差し指で引いていたトリガーを離し、刀身に繋がれたワイヤーを巻き取ることで刀身の直撃ポイントを操作する。。

地に落ちた刀身は柄に繋がれた金属製のワイヤーに操られ再び空中にいる黒衣の剣士に襲いかかる。

 しかし彼は振り返る事をせず、身を捩り再び黒剣で刀身を受け止めた。流石にこれ以上滞空することは不利と悟ったか、受けた衝撃を極力逃しつつ着地すると息を切らした様子もなく再び黒剣を構える。

 俺は巻き上げを完了したイミテイトソードを再度構え対峙した。

 

 一対一ならば防ぎようがあるだって?思い違いも甚だしい。こちらは既に手の内を晒してしまったが、彼は何一つ見せていない。初撃のアドバンテージを失った俺に、あれほどの技量を持つ男と対峙し続けることは不可能だ。

 今の剣戟の音を聞きつけて増援がここへ来る前に、一刻も早く目の前の剣士を吹き飛ばした隙に転移で逃げる。その為に次の一撃で勝負を決めるしかない。

 最後の一撃、俺はこの<剣を模造している物(イミテイトソード)>に相応しいソードスキルを発動する予備動作に入った。

 

 鞭のソードスキル<シャープ・シザーズ>。

 

 戦闘機が空中で行う機動(マニューバ)から名付けられたこのスキルはその名の通り鞭が鋭い蛇行を行い、残像と本体の軌跡が交差しながら相手に4連続攻撃を行うというものだ。

発動後の隙は少なく、攻撃回数も片手剣の同クラススキルと比較すると多い。

 一見優秀そうに見えるが、元々攻撃力が少ない鞭ではダメージの伸びは悪い。だが鞭としては攻撃力が高いイミテイトソードならばその道理は覆る。

 そしてこのスキルの予備動作は片手剣のソードスキル<サベージ・フルクラム>と同一モーションとなっている。

 

 恐らく、俺の持つ武器が特殊な機能を持ったものであることは相手も気がついているだろう。しかし、この武器の本質までは理解してはいないはずだ。射出機能がある片手剣程度に思っていれば勝機はある。

 何せ目の前にある武器は片手剣の姿をしているのだから。同一動作から放たれる全く別種の技、対応を誤れば直撃し、吹き飛ばされる。

 俺の構えを察し、ならばと黒衣の剣士が持つ黒剣にも光が燈る。

 今この瞬間だ、反射にも似た一閃の思考、俺の腕が撓る。茜色に輝く鞭がシステムの力を借りて瞬間的に加速。それに呼応し黒剣も動く。

 

 予備動作は終わり、ソードスキルが発動する瞬間、意志とは無関係に指はトリガーを引き、刀身に込められた殺意が相手に向かう。

 もう遅い、黒剣がイミテイトソードをいなす動作を行うが放たれた刀身の動きを止めること叶わず。

 

 サベージ・フルクラムと読んで対応したのが仇となったな!

 

 俺は準備していた転移結晶を起動させるべく目的地の詠唱を行おうと左手を口に近付けようとした。だが、転移することは出来なかった。

 俺の身体は凄まじい衝撃を受けて吹き飛び、背後の大木に激突することで止まる。

 何が起きた!?痛覚こそ無いが思考は止まる。そして突きつけられた黒剣によって語られるのは俺が負けたという事実。

 敗北を受け入れたお陰で冷静になったのか、右手の違和感に気付いた。右手に握られているはずのイミテイトソードがない。

 

「<武器破壊(アームブラスト)>...か」

 

 俺を見下ろす剣士に問う。

 

「そうだ」

 

 そっけない返答だが、こんな芸当が出来るプレイヤーが果たして何人いるのやら。

 確かに下手な二択をするよりも、端から武器破壊一択に狙いを絞る事は正しい。付け加えるならば、イミテイトソードの耐久値は低く、この戦闘を長引かせることを躊躇った要因の一つでもあった。

 

「キリト!」「キリトくん!」

 

 駆け寄ってきた二人の人影に眼をやる。一人はつい先ほど俺が飛び出してきた店の女主人であるリズベット。

 もう一人は、流石の俺でも知っている。攻略組トップクランの<血盟騎士団>副団長、“閃光”のアスナだった。

 

「なるほど、俺は人を見る目が無かったようだ...そういうことか...」

 

 殺人ギルド<ラフィン・コフィン>討伐を主導したクランの副団長自らお出ましとは俺も大きく見られたもんだと自嘲的に笑いながら呟く。

 しかし帰ってきた返答は俺の予想とは別の答えだった。

 

「へ?私あなたなんか追ってないけど?」

「...は?」

 

 俺は盛大に間抜け面を晒し、全てを理解したリズベットはため息を吐く。俺に剣を突き付けていたキリトと呼ばれた男は既に剣士の顔では無く、年齢相応の少年の顔に戻っていた。

 

 

 あれから、すぐにリズベット武具店に戻り、工房内で4人コーヒーを啜る。

 

「つまり、アスナさんとキリト君が結婚するに当たって報告に来たと...そしたら突然工房から怪しい人影が飛び出した」

「何かあったと思ってアスナにリズベットを任せて追っただけで、貴方を捕まえるつもりなんて端っからありませんよ、オイレさん」

「結局過敏に反応したあんたが事態を複雑にしちゃったわけ、いきなり工房に飛び込もうとしたアスナもアスナなんだけどねぇ」

「う~、悪かったと思ってるわよ~」

 

 うな垂れる“閃光”、あっけらかんと笑う“黒ずくめ”、呆れ果てた“童顔少女”という三者三様の反応にすっかり毒気を抜かれてしまった俺。

 既に俺の過去の事は彼らに話した。納得したかどうかは分からないが、理解はしてくれたようだ。

 そしてまさかキリトも過去に、ラフコフ討伐で俺の剣に相対していたとは、世間は狭いもんだ。

 

「逃げ隠れに慣れちまってな。まぁうん、すまんかった。あ、今さらながらご結婚おめでとうございます」

「あ、どうも...いや、不用意に追い掛け回した俺も悪いです。それと、剣壊しちゃってすいません...」

 

 こうやって照れる様を見ている分には先ほどまでの凄まじい殺気を放っていた人間とはまるで別人としか思えない。

 しかし彼、キリトが噂で聞いていたトッププレイヤー“黒ずくめ(ブラッキー)先生”だったとは、つまるところ戦闘という手段を選択した時点で俺の敗北は決定していたと言える。

 まったく、外見じゃ人間分からないもんだ。

 

「何、あれは本来作るべき物の過程で出来た代物だ。作り方は覚えているし、元より壊れやすい欠陥品だよ、気にする事は無い」

「あたしには到底作れない物を欠陥品呼ばわりとは梟さんも中々御人が悪い」

 

 リズベットに睨まれて言葉に詰まる。キリトへの慰めなんだ、揚げ足を取らないで頂きたい。

 

「そ、それにしても面白い仕掛けの剣...いや鞭でしたね!俺も闘っててツイ熱くなっちゃいましたよ、ははははは」

「私も見てみたかったなぁ~聞いた事無いよ、剣みたいな鞭なんて」

「本当は私が先に見るつもりだったのに、こいつはまた他人の武器を叩き壊すんだから。ちょっとは鍛冶屋(つくりて)の気持ちを考えなさいよ」

 

 自然と頬が緩むのを感じる、久々に流れる穏やかで平和な空気と自分の作った物への評価。どちらもここ最近は縁の無かった物だ。

 

「...それじゃあ、もう一度お見せしようかね。リズベットに見せると約束したのだし」

「リズでいいわよ、それにあんたもう手持ちの武器無いんでしょ?素材から作るもんだったの?」

「片手剣と鞭、一本づつ貰ってもよろしいか?何、高価なものじゃなくて大丈夫だ」

 

 一瞬渋るも、了承を出すリズベットに感謝した。そうして俺とリズベットは店内に行き、中級品が置いてある棚から片手剣と鞭を吟味する。どれもこれも中級品とは思えない高い品質を誇るそれらの中から一本づつ、適した物を手に取ると工房へ戻った。

 アイテムストレージから大判の紙と製図用の木炭を取りだすと作業机の一角を借りて図面を起こしていく。概算が出来たところでリズベットの製作した武器を再度鑑定する。

 この武器の設計理念、用途、特性、そして製作時の作り手の心理。それを読み解きながら自分の頭の中に入っている設計図に修正したものを紙へ再び描いていく。

 カリカリと小気味良い音が工房に木霊する。リズベットもキリトもアスナも一言も発する事無く俺の作業を見ている。最初は慣れない環境で緊張したが、製図に取りかかれば周囲の事など気にならなくなり、30分程で図面自体は完成した。

 後は二つの武器を組み合わせるだけだが、こちらはシステムがオートマチックに実行するので即座に終わる。

 リズベットの作った二つの武器を金床に乗せ、アイテムストレージから二つの武器を融和させる触媒素材を取りだす。この3つの組み合わせが正しければ、出来あがる武器は図面通りの性能を発揮するはずだ。

 

 リズベットからハンマーを借り受け、素材を武器で挟んだ物を叩く。彼女の理念を捻じ曲げないように、その一心で叩く。

 探究心で作るのではなく、人の為に作る。

 俺の脳味噌はこんなことを思ってハンマー叩いても、システムがそれに答えると考えてはいない。だが、俺の心は自己満足でいいじゃないかと一心不乱にハンマーを叩かせた。

 

 10回目、形が崩れた武具同士が光り輝き融合エフェクトがかかる。

 エフェクトが収束すると皆が見守る中、そこには再び<イミテイトソード>が現れる。

 外見こそキリトに折られた物と全く同一だが、ステータスは比べ物にならないほど上昇している。なんと全てのステータスが計算した理論値以上の数値を叩きだしていた。

 単なる製作時のランダム要素で当たりを引いただけと言われればそれまでだが、彼女の理念が宿ったからこそ“本物”の<イミテイトソード>が産まれたのだと思いたい。

 

「これが、あんたの最高傑作?」

 

 後ろからリズベットに声を掛けられる。

 

「現状...での...だ...」

 

 俺は精神的な疲労から近くの壁に寄りかかり、たどたどしくそれに答える。ふぅーんと素っ気なく答え、リズベットはイミテイトソードを弄り回す。

 それを今度はアスナに渡すと、壁にへたり込んでいる俺に近づき彼女は笑顔で言い放つ。

 

「いいわ、あんたに見せてあげる!私の最高傑作を!」




この駄文に最後まで目を通して頂き感謝感激、恐悦至極。

自身の及ぶ範囲で原作破壊にならない様に極力努力はしたつもりですが、果たして成果は表れたのだろうか?

また次話にて御目にかかれれば幸い。
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